【第3弾】押さえておきたい、生成AI時代のスタートアップ系企業のAI関連事業創出事例──FastGrow厳選急成長企業5社

ChatGPTがリリースされた2022年末より、急に現実のものとして社会に根付き始めたAI。ただ、随分前からAIを“SFの世界のもの”としては、認識していたはずだ。

実は人工知能という言葉は、1950年代から存在している。以来、新しい技術が生まれるたびにブームが起き、現在は2000年頃から始まった第三次AIブームが続いている(とされている)。

今回も、このブームに遅れることなくAIを効果的にビジネスに活かしている企業の事例を紹介していく。ぜひ読者それぞれのビジネスにおける、AI活用のヒントにしていただきたい。

  • TEXT BY REI ICHINOSE
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「事業成長へ転換してこそ真のテクノロジー活用」と掲げ、課題解決に挑む──ソルブレイン

データドリブンで事業成長にコミットする「グロースマーケティング」事業を展開するソルブレインは、業界の多くのベンチャー企業やスタートアップが提供する「パッケージ化されたAIプロダクト」とは一線を画する存在である。多くの企業が既存のAIプロダクトをパッケージとして顧客に提供する一方で、同社は各顧客の固有の課題に対応するためにAIを活用したシステム開発を行う独自性を有している。

あくまでテクノロジーは「目的」ではなく「手段」であると考え、顧客の事業成長という最終目的を達成するために、最適なテクノロジーを機動的に活用する方針を採っている。さらに、同社では開発において技術的制約は一切設けず、ソフトウェアからハードウェアに至るまで一貫して開発できる体制を敷いている。長年複雑な事業課題を解決してきた経験に裏打ちされる、ビジネスインパクトに直結する課題解決力と、高い技術力が同社の強みであると言えよう。(以下はその一例)

(1)商品の画像認識

顧客のニーズ / 課題

  • 人の手で調査していたため、手間や時間がかかっていた
  • 情報にノイズが多く、精度面でも伸び代があった

AI技術の活用

  • 商品画像認識AIや商品属性解析AIを活用し、ノイズを除去して高度なデータ抽出を実現

結果

  • 調査や分析にかける時間を削減し、効率的な業務推進の体制を構築

(2)業務マニュアルの整備

顧客のニーズ / 課題

  • 事業が成長するにつれ、組織も拡大。業務マニュアルを整備する必要があった

AI技術の活用

  • マニュアル解説の録音音声を自動でテキスト化し、生成AIで要約

結果

  • マニュアルの作成にかかるリソースを大幅に削減

(3)商品の需要予測

顧客のニーズ / 課題

  • デッドストックを無くしたい

AI技術の活用

  • 過去の販売量や売上を教師データ*にしてモデルを構築し、そのモデルを使った機械学習による需要予測システムを構築

*機械学習モデルの訓練に用いられるデータの一種。AIが学ぶための「問題と答え」のセット

結果
  • 仕入れの判断がしやすくなり、デッドストックの減少に繋がった

ビジネスとして取り組む以上、技術によって顧客の課題を解決し、事業成長へ転換してこそ真のテクノロジー活用だと考えるソルブレイン。今後もAIに限らず、多様な先端技術を用いて顧客の事業成長という価値を生み出していくことだろう。

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キュレーションアプリでもLLMを利用。生成AI事業をスタート──Gunosy(グノシー)

ChatGPTの活用事例は相次いで発表されているが、特にGunosyは活用が早かった。

まず2023年2月には、GPT-3を使用した動画AI要約記事(ベータ版)の提供を開始(リリース)。次いで2023年6月には、GPT-4を活用した新システム『Gunosy AI(仮称)』の開発を発表(リリース)。これは導入企業が保有するデータを基に質問に回答するシステムだが、入力した情報がGPT-4に学習されることがなく、LINEやSlack等APIに対応したツールに連携させて使用できるという。

そして2023年8月には、Gunosyへ広告出稿する際に、Gunosy内に発生する広告審査業務をDX化、その一部にLLMを活用すると発表(リリース)。

すでにDX化は進んでおり、人為的ミスを防ぎ、属人化していた審査基準を標準化することで時間短縮を実現できている。また、法改正やガイドラインの変更によって、刻々と複雑化する広告出稿基準への対応もスムーズになった。

また同年同月、Gunosy内に新規事業開発室を新設。先述の『Gunosy AI(仮称)』を用い、BtoB向け生成AIプロダクトの開発を加速させるとした。室長にはGunosy取締役、兼、子会社のゲームエイト代表取締役会長の西尾健太郎氏が就任している。

実は2023年4月、FastGrowを運営するスローガンの代表取締役社長・仁平理斗は、サクセッションに関して西尾氏と対談を行っている。ちょうどゲームエイトの代表取締役社長だった西尾氏が、その座を当時のCOOに明け渡したタイミングだ。対談の一部を紹介しよう。

西尾
2022年に出てきたChatGPTで、「メディアのあり方が変わって、世界が変わる!」と思ったんです。これこそまさに、私のやりたかったことなんですね。

もともとGunosyの中に、自然言語解析をやっていたチームはありました。そのチームの事業を強化して、ゲームエイトも含めたグループ全体のバリューアップを実現しよう、そんな構想でのチャレンジを始めたところです。

(中略)

一つは、社内のDX加速です。LLMを本格的に活用すれば、一人ひとりができる仕事が増えますよね。これ、国内の新興上場企業のほうが相性が良いと感じています。(中略)

そしてもう一つ、「メディアにおけるコンテンツの創り方」が変わりますよね。特に「一次情報の編集」は、もっともっと効率化しないと、勝負にならない時代です。使える技術は徹底的に活用して、LLMに負けない人間独自のコンテンツづくりができるようになっていく必要性が大きい。

──FastGrow<サクセッションに向け、経営者は“メタ認知”を進めよ──「人の可能性を引き出す」が共通点のGunosy・ゲームエイト西尾・スローガン仁平による経営承継論議>から引用

ゲームエイトを創業後、M&AでGunosyに合流した西尾氏は、自然言語処理の研究室出身。対談内で熱く語った内容からも、勢いあるキュレーションメディアとLLMとの相性の良さを確信している様子が伝わるだろう。

キュレーションメディアというビジネスの特性上、広告料での売上が大部分を締めていたが、近年SNSの隆盛や法改正・ガイドラインの変更などの影響で、広告料のみで売上を担保しづらいシビアな状況が続く。そしてそれはGunosyも例外ではない。2023年5月期通期決算説明資料2018年5月通期決算説明資料を比較すると、2018年時点よりGunosyの広告売上高(Gunosy Ads・ADNW合算)は約54%減となっている。

Gunosyの収益の柱は広告料によるものだけではなく、インド国内向けの決済サービス事業や投資事業など複数存在するが、LLMや生成AIを活用した新規事業もメインの柱となるか、注目したい。

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独自LLM『LHTM-2』を開発し、“個性化”を達成──オルツ

P.A.I.®️(Personal Artificial Intelligence・パーソナル人工知能)と、AIクローンにより、「人の非生産的労働からの解放を目指す」オルツ。2014年の創業以来、様々なテクノロジー分野のトップと手を組み、研究開発に従事する。

2023年2月には『LHTM-2』という自社LLMの開発、その“個性化”に成功したと発表した(プレスリリースはこちら)。リアルタイムで個人や企業の情報を保持し、ChatGPTとは異なる「事実性が担保されうるモデル」となっている。

このLHTM-2は、30か国語にリアルタイムで翻訳できる議事録ツール『AI GIJIROKU』や、AIが電話応対を代行する『AIコールセンター』など、同社のAI SaaSにおいてすでに活用されている。一層高い精度とパーソナライズ化されたプロダクトとなった。

ちなみにこの『AI GIJIROKU』、2021年のリリース後1年でARR20億円、導入社数3,000社を達成。異例のスピードで成長したSaaSとして注目を集めたことも記憶に新しい(なお2023年には導入社数が6,000社を超えていると発表済み)。

さらに2023年9月、描く理想にまた一歩近づくべく、資金調達を発表。SMBC日興証券、近鉄ベンチャーパートナーズ、UB Venturesなどから19億円の資金調達を実施した(プレスリリースはこちら)。

かつてなく生成AIへの興味関心が高まる今、緻密な社会実装・ビジネス実装を加速させていく予定だ。そのため、AI技術基盤への投資・事業会社との提携・優秀な人材の確保・セールス&マーケティングの強化などに、調達した資金を充てていく。

‟アジアにおけるOpenAI” というポジショニング確立と、‟「パーソナライゼーション」と「カスタマイゼーション」のノウハウにおける優位性” をより強固にするべく、突き進む考えだ。

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教育業界で積極的なAI活用を。資本提携に余念のない──ベネッセホールディングス

ベネッセが手掛けた『自由研究お助けAI β版』をご存知だろうか。2023年7月25日から9月11日までの提供で現在はクローズされているが、この夏話題を集めた。

画面上のキャラクターに「自由研究のテーマが決まらない」などと入力すると、テーマに関してアドバイスをくれたり、特定のテーマが決まっていたらその調べ方を教えてくれたりする。

ChatGPTに「読書感想文を書いて」と入力すればもちろん、感想文が出力される。だが、この『自由研究お助けAI β版』は違う。読書感想文を示すのではなく、「読んでから書こう」と促すのだ。

また、保護者のメールアドレスによる認証が必須だったり、使用限度が1日10回のみに設定されていたりと、あくまでもAI活用のルールやリテラシーまで学ぶことができるように作られている。こうした「ChatGPTとは異なる仕様」に同社の思想がよく見えてくる。 そもそも同社はスタートアップに負けず劣らず、早くからAI活用に積極的だった。

2018年時点で、進研ゼミ中学生講座で提供するタブレット端末内に他社開発のAIを搭載。AIと受講者との対話内容に合わせて、学習を続けるべき理由や問題点・改善点を受講者に説明し、納得・理解させたうえで学習促進を図るなどしてきた(プレスリリースはこちら)。

また、2020年3月に進研ゼミ高校生講座で提供がスタートした学習アプリ『AI StLike』は「進研ゼミが 50 年以上かけて培った指導ノウハウをAIが毎秒アップデートする」というコンセプトのもと、個人に合わせた学習プラン・内容を提供している。

そのほか、AI活用を視野に入れた投資にも余念がない。

2021年にベンチャー投資ファンド「Benesse Digital Innovation Fund(DIF)」を設立した際、エンジニア養成スクールを運営するCode Chrysalis Japan(コードクリサリスジャパン)社、そして、AIで音を可視化する技術を研究開発するHmcomm(エイチエムコム)社への出資を実施(プレスリリースはこちら)。さらに2023年4月、欧米諸国・日本の労働市場情報のデータベースとAI技術を持つSkyHive社に13億円出資(プレスリリースはこちら)し、ベネッセが資本提携するオンライン学習サービスUdemyへの活用をはじめ、リスキリング市場の開拓を後押しする。

日本の教育業界を牽引するベネッセの、積極的なAI活用動向、今後も追っていきたい。

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医薬製薬業界を支えるAIテックを推進する──dbE(ディビイ)

ここまで見てきたように、AIが有効活用され得る産業・業界はさまざまある。最後に、接点がなければなかなか知ることがないであろう医薬品業界における活用も見てみたい。この業界では、「GMP(Good Manufacturing Practice)」と呼ばれる重要な基準がある。3原則として以下が示されている。

  1. 人為的誤りを最小限にすること
  2. 医薬品の汚染、品質低下を防止すること
  3. 高い品質を保証するシステムを設計すること

この原則を守るため、薬機法に基づいた厚生労働省令が出されている。医薬品の製造業務は、作業内容が書かれた基準書及び手順書を作成し、それに則って製造され、完全で一貫した記録がなされる(データインテグリティ)必要がある。

このように複雑なルールや業界慣習が存在する医薬品業界を、AIの力で支えるスタートアップがある。2015年に設立されたdbE(ディビイ)だ。

dbEが生んだ『rodanius for pharma』は、以下2点をAIがサポートするツールだ。

  • 何を参照して書かれたか、異なる内容が書かれていないかなど、基準書・手順書のQC(品質保証)チェック
  • 新薬の承認に係る書面の作成や文書自体のデータインテグリティ(完全性)の担保

こうまとめるとシンプルな機能のようにみえるが、その裏は非常に複雑だ。なぜなら、一つの研究において製薬会社が扱わなくてはならない文書の種類が、多い場合には数十種類も存在しているため、そう簡単に型化できないのだ。

たとえば、あるテーマAについて書こうと思った場合、テーマAに関するすべての文書ドキュメントの記載に誤りや表記ゆれがあってはならない。さらに、書かれている情報の引用元を明らかにし、内容の変更があれば、テーマAについてどのドキュメントのどこに記載があるのかをすべて探し当て、変更しなくてはならない。

これらは「できて当たり前」のように思えるが、どこかで人為的ミスが起きかねないということも容易に想像がつく。万が一、「製造原文書」と呼ばれるドキュメントにおいて記載漏れが発覚し、製品を自主回収することになれば、数億円規模の損害が生じるのだ。すでに法令遵守に対する監視強化を目的に抜き打ち査察も行われており、大手〜中小まで様々な製薬会社で導入が進んでいるという。このようなヒューマンエラーが起き得る事柄こそ、AIの出番だろう。

現在の『rodanius for pharma』はオンプレミス型のサービス。だがすでに、同機能を有するクラウド型の『QCDox』もローンチされている。また、これらは日本唯一の文章突合・齟齬判定ソフトウェア(プレスリリースより)とあって、医療業界のみならず様々な業界向けにサービス展開されている。

また、今後は生成AIの活用により、品質保証や完全性だけでなく、よりクリエイティブな文脈での価値発揮も進むかもしれない。

創業者のひとり、有田 一樹氏は2006年にシリコンバレーでAIを使って解析フレームワークを開発する会社を興した経験を持つ。長年AIの世界に居続ける有田氏率いるdbEの続報が楽しみだ。

こちらの記事は2023年10月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

いちのせ れい

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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