探していた「事業を作れる人事」──Hajimariは人事キャリア創造支援で企業経営を強くする
エウレカ、Kaizen Platform、グロービス、カオナビ….。
これら成長企業を支えてきたサービスのひとつに『ITプロパートナーズ』がある。フリーランスや起業家などのIT人材を企業とマッチングする同サービスは、急成長を志すスタートアップの「即戦力をすぐに集めたい」ニーズに応え、後押ししてきた。
運営元のHajimari(旧・ITプロパートナーズ)は、この経験をもとに2019年8月、新サービスの『人事プロパートナーズ』をリリース。人事領域に特化し、実務を支援するアシスタント人材から戦略を担うCxOクラスまでの案件を揃える。
「人事は、経営上重要な役割にもかかわらず、今の環境では成長機会を得づらい」
この課題をもとに事業を立ち上げたのが、Hajimari執行役員の山中諭氏。人事畑でキャリアを重ね、ウィルゲートでは人事担当執行役員も務めた同氏がこの事業にかける想いとは。代表の木村直人氏とともに、まずは会社の出自から紐解いていく。
- TEXT BY RIKA FUJIWARA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
「働く」のミスマッチを改善し、IT人材の“自立”を支援したい
Hajimariは『ITプロパートナーズ』『人事プロパートナーズ』をはじめ、新卒向けの教育型就活支援サービスの『intee』や、社会人向けの基礎知識などが学べるキャリア形成サービス『Graspy』などを手掛けている。
ビジョンに「自立した人材を増やし、人生の幸福度を高める」と掲げるように、一貫してビジネスパーソンの“自立”につながる事業を展開する。その背景には、木村氏の強い想いがある。
木村氏は、新卒で大手の損害保険会社に入社。知名度も給料も高く、ワークライフバランスの取れる、“いい会社”だ。しかし、木村氏はその環境での仕事を楽しめず、将来が見えない時期を経験。脱したきっかけは、「このまま40年後にワープしたい」という同期の言葉だった。
木村「会社員として働き続ける40年間がなくなればいい。退職後にようやく自分の人生が始まるんだ」と言ったんです。つまり、人生が充実すべきはずの20代から50代を、「早く仕事終わらないかな」と思いながら過ごすという意味でもある。
ただ、その会社で働く先輩たちや社内の雰囲気を知っている僕は、この言葉を否定できなかった。それに気づいたとき、このままではマズいと思い、“一般的な正解”ではなく自分の道を探そうと決めました。
そもそも一般的な正解に合わせて就職を決めてしまった木村氏は「当時の自分は、就職先を自分で選んだとは言えなかった」と振り返る。それと同時に「世間の正解と、自分が選ぶべき正解は必ずしも一致しない」と考えたという。
自分なりの道を見つけるには、世間の正解にとらわれず、自らの価値観にもとづいて判断しなければいけない。そのためには、選択肢を能動的に選べる“自立”した人材になることが必要だ。
そう考えた木村氏は、大企業とは真逆の、個々の裁量と責任が大きく、短期間で会社が急成長し、必然的に社員も成長が求められる環境を求めてアトラエ(旧・I&Gパートナーズ)へ入社した。
当時は、主力事業の転職サイト『Green』を立ち上げるタイミング。これまでの環境からは一変したが、木村氏にとっては「正解」だった。
木村当時のアトラエには、新卒で入った会社のような年収の高さや働きやすさ、企業ブランドはありませんでした。それでも、みなとても楽しそうで、「俺たちが世界を変えるんだ!」とビジョンに向かって全力で働いていた。
外からは大変そうに見えるような状況でも、僕たちは心から楽しんでいました。
この経験から、各々が自分にとっての正解を見つけられるよう“自立”を支援する役割を担いたいと考え、『Green』が軌道に乗ったタイミングでアトラエを退職。そのタイミングで出会った、共感する理念を掲げる人材系スタートアップに迷わず飛び込む。そこで立ち上げたのが、『ITプロパートナーズ』の前身となる事業だ。
当初すでに優秀なIT人材は起業や独立を選択していた。ただ話を聞いてみると、起業のタイミングでは収入確保のため、知り合いベースの仕事を低単価で受けているような状況だった。
彼らとともに、まだメンバーが10人ほどだった頃のエウレカを支援したのが最初の案件だったという。幸い、エウレカはマッチングサービスの中でも群を抜く成長を遂げる。そこでの成功体験が、ITプロパートナーズが躍進する土台にもなった。
事業は順調に成長。基幹事業となったタイミングで、「自分で責任を持って拡大したい」と考え、独立を選ぶ。ビジョンを体現するべく、新卒や在宅ワーカーなど領域を広げつつ、事業の幅を広げて支援する相手を増やしていった。
2020年4月現在では、サービス利用者数70,000人、利用企業数3,000社、社員数48名の規模まで拡大している。その中で事業も多角化。現在は6つの事業を擁する。
実務に忙殺されず、戦略に携わる人事担当者をいかに増やせるか
その6つ目が、2019年12月にローンチした『人事プロパートナーズ』だ。
これまでIT人材を中心におこなってきた支援を、人事領域に特化し取り組んでいく。専属のエージェントが面談を直接おこない厳選した、フリーランスや起業家など転職市場には出てこない人事経験者のプロフェッショナル人材を月2日から紹介する。
リソースの補完はもちろん、変化の激しいスタートアップに最適化した制度設計や採用/組織戦略など専門性が高い業務範囲やスキルも支援し、理想の人事組織構築をスピード感をもって実現する。
このサービスを牽引するのが、2020年4月に執行役員として参画した、15年の人事領域キャリアを持つ山中氏だ。新卒入社した大手企業で人事を担当。採用や研修設計や労務、評価制度の刷新などを経験した。
その後、ウィルゲートに転職。持ち前の積極的な姿勢を活かし、人事部の立ち上げから、組織が20人から150人に拡大する中での採用や制度設計を経験。人事や事業の執行役員も歴任した。
2019年3月に退職した後は、個人で人事領域の支援に特化した会社を創業。Hajimariも支援先の一社として、採用戦略や評価制度策定などを顧問としてサポートしていた。
『人事プロパートナーズ』は、山中氏が人事としてキャリアを重ね、様々な企業の現状を見る中で生まれた課題意識が原点にある。
山中人事の魅力は、全社の方向性に関わったり、社員個々のwillに寄り添えることです。しかし、今の環境では人事が人事らしい成長はできない、と強く感じていました。
本来、人事は経営者と同じ目線で会社を俯瞰し、“人”という企業にとって重要なリソースに関して、採用から適材配置、モチベーション向上や評価など多様な切り口から戦略を立案し実行するまでを担わなければいけません。
しかし、多くの人事担当者は日々の実務に忙殺され、そこまで手が及んでいないのが現実です。その状況はあらゆる会社で起こっており、実務以外の上流業務を経験する機会も少なく、人材も育ちにくい。この現状を打破しないと、日本の人事は前に進まないと考えていました。
ITプロパートナーズのモデルを人事に応用すれば、この課題が解けるのではないか──顧問として多様な企業を支援する中で仮説を見いだした山中氏は、構想を木村氏に持ちかけた。
木村氏はこの提案を快諾する。人事領域に特化したサービスは、ぜひとも取り組みたい事業のひとつだったからだ。
木村創業期から、人事は専門性を持って取り組みたい領域のひとつでした。自分も経営者として人事の重要性は感じていましたし、他の経営者に話を聞いても人事で悩んでいる方は少なくありません。
事業の調子はよくても、組織がうまくいかず成長が止まる例も珍しくない。人事を後押しする事業が必要なのは明らかです。
ただ、人事領域は専門性が高く、事業として取り組むには、その専門性と牽引できるだけの推進力がある人材がいなければ成立しないと考えていました。山中の話は、僕にとってもそのピースがぴたりとはまる提案だったんです。
取り掛かりから2ヶ月ほどを経て、『人事プロパートナーズ』はリリースにこぎつける。登録者は、実務を支援するアシスタント人材から、戦略設計や育成までを担えるCxOクラスまでカバー。登録者数は2020年4月時点で約1,000人にのぼる。
山中人事経験者人材で実務を巻き取れば、人事担当者の業務に余裕が生まれます。逆に戦略設計や育成を担える人材が加入すれば、担当者のスキルアップや教育、戦略立案を通じた組織の推進までカバーしてくれる。
こうした支援が入ることで、人事担当者が育ち、成果を上げられる人事組織へと変化していけると考えています。
上流業務支援の取り組みのひとつとして、山中氏はBPO事業などを展開するうるるの例を教えてくれた。
同社では、組織制度のリニューアルに際し、スタートアップや上場会社で人事制度の立ち上げを経験した人材を『人事プロパートナーズ』で紹介。社内の人事担当者の“壁打ち相手”として、一緒に制度設計をおこなっていった。「ビジョンやバリューを汲み取った上で、同じ目線で考えてくれる」と高評価を得ているという。
山中実際の提案も、テンプレート的なものではなく、経営陣がうまく言語化できていないような想いをくみ取り、運用可能レベルの制度にまで落とし込んだものになったそうです。
「経営陣もうまく言語化できていないような社員に対する思いをくみ取り、運用可能な制度レベルにまで落とし込んでくれた」と感謝してもらえました。「もう、この方がいないなんてありえない」といった声もいただけており、人事領域で即戦力の“仲間”が入ることによる好影響を、強く感じられていますね。
人事課題の解決は、経営課題の解決にも直結する
事業を率いる山中氏は2020年4月に執行役員として参画。事業だけでなく、Hajimariという組織にもコミットする意思を固めた。
山中正直、「独立してこれからやっていくぞ」というタイミングだったこともあり、関わり方はしばらく悩んでいました。ただ、一緒にプロジェクトを進めていく中で、Hajimariであれば日本の人事領域を大きく変革できるんじゃないかと感じたんです。
Hajimariのメンバーは、会議などの場はもちろん、チャットでも口頭でも常にアイデアや議論を重ねるなど事業に対する当事者意識がとても高い。かつ、自己主張の強い私の主張や意見にも屈さず、おかしいことはおかしいと言うし、意見もぶつけてきてくれる。
この事業家気質の強いメンバーとであれば立ち上げ困難な事業アイデアも形にしていけそう、と思えたからこそ、コミットする決断をしました。
山中氏の参画を経て、人事プロパートナーズは、単なる企業と人材のマッチングではなく、人事がより成長できる環境の構築を目指す。そのために、人事がお互いに学び合い、成長できる“場づくり”にも力を入れていく。
現在の登録者には、「自らのノウハウを共有したい」と考える人もいるという。そうした人たちの力を借りながら、研修やイベント、サロンなどの構想を進めている。
山中人事担当者が自立できるような実力を身に付けられれば、より上流から組織のあるべき人材配置や採用、評価を設計でき、現場で働く従業員のモチベーションや満足度も高まっていくはず。
そうすれば、伸びるべき事業はより成長しますし、働く人もより自立した人材に最短距離で近づけるようになる。人事プロパートナーズを通して、その好循環を生み出していきたいですね。
木村氏も、その言葉にうなずく。
木村人事の方々が集まるコミュニティや互いに学びあう姿は、まさに“自立”そのもの。人事プロパートナーズが目指す先は、会社のビジョンのど真ん中なんです。
経営者の悩みの半分は、人事といっても過言ではありません。どのような人を、どれだけ採用するか。適切に配置し、評価して、モチベーション高く働いてもらうか。誰もが頭を悩ませる大きな課題です。
これはITプロパートナーズも同様ですが、我々は単なる人や案件の紹介を越え、ユーザー・企業ともに自立につながる価値を提供していければと考えています。
時を同じくして、同社は2020年4月1日より社名を旧・ITプロパートナーズからHajimariに変更。事業の多角化を踏まえて新たな門出に立った。
事業において“人”の影響は大きい。もちろん、それは人事やIT人材にはとどまらない。今後はさらにあらゆる領域で、支援を提供していかねばならないと木村氏は捉えているという。
木村こうした課題は、人事に限らず、財務や広報などさまざまな職種で起こっています。専門性が高いほどどうしても採用や育成は難しくなる。あらゆる領域に向け、今後も“自立”を促せるよう事業を生み出していきたいですね。
人の力や価値は定量的には表しづらい。だからこそ、採用や采配は難しさを伴う。しかし、その力を最大化できれば、企業も事業も何倍もの成長を遂げられる可能性もある。労働人口が減少する中だからこそ、人と向き合えるプレイヤーはより重視される存在になっていくはずだ。
【気になりませんか?】木村氏と山中氏の思いが詰まった『人事プロパートナーズ』
こちらの記事は2020年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
藤原 梨香
ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。
写真
藤田 慎一郎
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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