【トレンド研究】このHR Techが凄い!──FastGrowが選ぶ、2023年注目必至のHR Techカンパニー4選
今更だが、HR Tech市場が盛り上がっていることは言うまでもない。
しかし、プロダクト / 企業が無数に乱立する中、そもそもこの領域にはどんな課題があり、それぞれの課題に対してどんなプロダクト / 企業がリードしているのかまでは理解が曖昧な読者も多いことだろう。
そこで、今回はトレンド研究と題し、HR Tech市場で急成長を遂げているプロダクト / 企業を、それらが解決する課題と共に紹介していく。
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
入社〜退社までの人事労務を全体最適する“万能”プロダクト──Works Human Intelligence
普段、ベンチャー / スタートアップばかりを追いかけているといった読者の場合、この企業については「社名は見聞きしたことがあるが、詳細までは知らない」という状態かもしれない。
であるならば、今回ここで大きくその印象を変えていただこう。
多くのベンチャー / スタートアップにおけるプロダクト展開は、「ワンプロダクトで業界内のある特定課題にコミットして突き抜ける」といったスタイルが王道だろう。しかし、Works Human Intelligence(以下、WHI)が展開するHRテック・プロダクト『COMPANY』の場合は、少し毛色が異なる。
同社は、プロダクト提供開始時から『COMPANY』シリーズというブランドのもと、人事管理・給与計算・勤怠管理・雇用手続管理・タレントマネジメントなど、「入社〜退職までの人事労務課題」を“すべて”網羅したソリューションを展開してきた。言わば、世の大半のベンチャー / スタートアップとは真逆の、企業に必要不可欠な「ヒト」に関する課題を包括的に解決していくといった唯一無二のポジションを取っているのだ。
具体的にアプローチする課題としては、人事情報の収集から履歴管理、可視化までを実現する「人事管理」。次に、各顧客企業で必要とされるバラエティ豊かな勤怠管理に対応する「労務管理」。そして、蓄積された人事データの分析により、明日の事業経営に役立つ組織戦略の構築を後押しする「人材戦略」などが挙げられる。
ここで、「WHIはプロダクトのラインナップが多いことが強みなのね」と感じた諸君。早とちりは禁物だ。同社のプロダクトの真の強みとは、そのビジネスモデルにある。
WHIが提供する『COMPANY』のビジネスモデル上の強み
- ノーカスタマイズ
- 無償バージョンアップ
あらゆる業種業態に対応した機能を標準装備しており、顧客を選ばず広く活用してもらうことができる。また、標準機能が豊富であることから顧客社内の制度変更や運用変更にもノーコードでスピーディ・フレキシブルに対応可能。追加のシステム開発によって顧客企業内の変化を足止めすることがない。
『COMPANY』は未完成の製品。時代とともに顧客や市場に求められる機能は変化していく。その変化に併せて標準機能を無償でアップデート。常に最新機能を顧客が使えるため、使い続けられる製品に。
『COMPANY』シリーズの対応範囲の広さだけでなく、こうしたビジネスモデルこそが競合優位性となっているのだ。
「なるほどね。でも昨今では労務管理やタレントマネジメントなど個々の領域で著名なプロダクト・スタートアップが出てきている印象があるけれど、WHIのプロダクトはどれだけ普及しているんだ?」
そう感じる読者のために、定量的な情報もお持ちした。下記の図をご覧あれ。
ご覧の通り、同社のプロダクト『COMPANY』は数千名~数万名の従業員を抱える大手法人グループを中心に導入されており、「日本の大手企業*の3社に1社が導入(WHI調べ)」している計算となる。しかも、その50%以上の顧客が“10年以上”に渡り活用し続けているという、モンスター級の実績だ。日本のリーディングカンパニーが利用しているからこそ、社会的な影響力も非常に大きい。
他にも、WHIはこうした顧客に対し、定額課金モデルでソリューションを提供しているといった点も強調しておきたい。
昨今のSaaS系スタートアップの勃興により、こうした定額課金モデルは、テック・プロダクトを展開する企業であれば王道のビジネスモデルとなっている。繰り返すが、WHIのプロダクトは、日本の大手法人グループたちから長年に渡り使い続けられている。そこから生み出される収益は、WHI事業基盤を確固たるものにしていることは、想像に難くないだろう。
そんなWHIのプロダクトが持つ魅力や、今後のプロダクト展開については下記の記事に詳しく書かれている。興味がある読者はぜひ目を通してもらいたい。
テックジャイアントが放つグローバル規模のHCMプロダクトが、AIソリューションを搭載──オラクル
「オラクル」と聞いて知らない人はいないはず。しかし、同社がHRTechプロダクトを展開していることまでは押さえていなかった人も多いのでは?
FastGrowのようなベンチャー / スタートアップに焦点を当てたメディアで取り上げるにはいささか巨大すぎると思うかもしれないが、グローバルなテックジャイアントが当領域においてどのようなプロダクト展開をしているのか知っておくことはトレンドを押さえる上でも重要だろう。
オラクルでは「Human Capital Management(以下、HCM)」をテーマに、『Oracle Fusion Cloud HCM』なるプロダクトを展開している。
Oracle Fusion Cloud HCM
Oracle Fusion Cloud HCMは、企業内のあらゆる人事プロセス、そしてすべての人をつなぐ完全なクラウド・ソリューションです。私たちは、人々が大切にされ、意見を聞いてもらえ、自分の居場所があると感じられるようなコミュニティ作りを支援します。
世界各地で⼈事制度の異なる組織を統合的・横断的に管理する「グローバル⼈事」を始め、国内⼈事発令・台帳管理、タレントマネジメント(スキル管理、キャリア開発、後任管理、研修等)などの従来型の⼈材管理領域に加え、社員エンゲージメントや、機械学習によるキャリア推奨など、次世代に向けた多彩な機能を統合した、まさにグローバルテックカンパニーたるクラウドサービスだ。
そして、このプロダクトの最近の進化に、今回は注目したい。その名も『Oracle Grow』。FastGrowと名前が似ているから取り上げた、のではない。これは最先端の技術と知見、そしてオラクルの蓄積が融合して生まれたAIソリューションなのだ。
オラクルのクラウド #HCM の最新アップデートでは、学習、リスキリング、キャリア移動性を1つのパーソナライズされた体験として提供します。自己管理型の学習、キャリア成長機会の可視化、ビジネス目標に沿ったスキル開発を支援します。 #SaaShttps://t.co/GjxxBk979J
— Oracle Japan/日本オラクル (@Oracle_Japan) April 27, 2023
同社の説明はこうだ。「学習、スキル成長、キャリア移動性を1つのパーソナライズされたエクスペリエンスとしてつなぎ合わせ、自己管理型の学習、キャリア成長機会の可視化、ビジネス目標に沿ったスキル開発を実現する」。日本国内でも“リスキリング”といったワードでさまざまなサービスが新たに展開される中、その本質を見抜いたサービスとして、注目せずにはいられない。
このプロダクト全体を視覚的に説明する分かりやすいイメージ動画もあるので、気になる人はチェックしてみてほしい。
HR Techに、AIを国内でいちはやく標準搭載へ──Thinkings
HR Techスタートアップ・Thinkingsが提供する、企業における「採用」の支援を担う採用管理システム『sonar ATS』。
このプロダクト一つあれば、これまで人事・採用担当者にとって負荷が大きかった業務を「見える化」「自動化」でき、より注力すべき「候補者との密な連携」にリソースを注ぐことが可能となる。
Thinkingsは、FastGrowでもお馴染みのVC、XTech Venturesやインキュベイトファンドからの出資を受け、創業3年目にしてプロダクト導入社数は1,400社を突破するといった急成長ぶりを見せている。
そんな同社のプロダクト、いったい何がすごいのか?
『sonar ATS』は、新卒/中途を問わず、各就職ナビやイベントなど、全ての応募経路からのデータを一元管理し、直感的なユーザーインターフェースにより、応募者へのLINE連絡や状況の分析、さらに応募者への効果的な動機形成を図ることができる。また、通年採用化に伴う、年度に縛られない採用管理にも活用可能と、採用の現場に立つ人事・採用担当者にとって無くてはならないプロダクトとなっているのだ。
そして『sonar ATS』のユニークさはそれだけではない。同社特有のマーケットプレイス『sonar store』では、求人媒体、適性検査、オンライン面接など、『sonar ATS』と連携できる他社のHRツールの購入ができるといったサービスも展開している。
まさに、採用領域におけるプラットフォームと言えるであろう。
そして極め付けはこれだ。
採用DXソリューション「sonar AI(ソナーエーアイ)」
「 sonar AI(ソナーエーアイ)」は、AI(人工知能)を活用して候補者とのマッチング精度向上と選考業務の効率化を支援する「採用管理システムsonar ATS」のソリューションです。本機能は、「採用管理システムsonar ATS」と株式会社エクサウィザーズのAI予測分析ツール「exaBase 予測・分析」とのデータ連携により実現しました。新たに選考が必要な候補者の中から、合格の可能性が高い候補者を、「採用管理システムsonar ATS」に蓄積された自社採用の過去データをもとに、自動的に予測します。
なんと、かのエクサウィザーズとの連携によって生まれたという、これまたユニークと以下言いようのない、興味深いプロダクト展開だ。
『sonar AI』は、『sonar ATS』に蓄積された採用候補者のデータを用いて自社独自のモデル(基準)を構築することができる。そこには、エントリーシート・適性検査・学業で取得した履修履歴情報など、多面的な情報が反映されているのだという。
本機能は「採用管理システムsonar ATS」とエクサウィザーズのAI予測分析ツール「exaBase 予測・分析」とのデータ連携により実現。
— 吉田崇採用管理システムsonar ATSの社長 (@tksyoshida) April 5, 2023
合格可能性が高い候補者を「採用管理システムsonar ATS」に蓄積された自社採用の過去データをもとに、自動的に予測します。https://t.co/RN51aXOxwC
これまでは、抽象的ではあるものの一定言語化されてきた自社の採用ターゲット像を基に、採用活動に従事してきた企業が多いだろう。しかし、このプロダクトを用いることによって、自社の採用基準を明確に可視化することができるようになるのだ。
FastGrowとしても今後が楽しみなプロダクトの一つである。
世界に通用するSaaS企業へ、
非連続成長に貪欲すぎる「永遠のスタートアップ」──SmartHR
2022年には代表取締役の交代を、2023年にはARR110億円突破を発表し、ことあるごとに注目をさらっていくSmartHR。最後に同社の動きをまとめずには、終われない。
創業期にジョインした一人のエンジニアであった芹澤雅人氏が代表を務めるに至ったというストーリーだけでも、企業成長を象徴する出来事であるし、日本国内でテックカンパニーが育っていく兆しであると見ることができる。そしてARRの成長が「いわゆるT2D3を超えるスピード」で実際に100億円を超えたのが明示されたのは、国内初だ。こうした事実からだけでも、日本を代表するSaaSスタートアップだと表現することをためらう必要は一切ないと言えるだろう。
社長交代に限らず難しい経営判断ができる、取締役会や経営チームをもっと日本に増やしたい。それがサステナブルな社会、新産業創出、ワクワクにつながるはず
— TAKA Murakami I 村上誠典 I スタートアップ・グロースパートナー (@Murakami_Japan) December 12, 2021
なぜSmartHRは社長交代を決断できたのか|村上誠典 @Murakami_Japan #note https://t.co/jz7vU2iw7V
SmartHRのARR100億円達成については到達時点の「成長率」に凄みがあります。
— 早船 明夫 | 企業データが使えるノート 運営 (@CraftData2) March 16, 2023
過去データを元にまとめてみました。
これまでにARR100億円を突破した上場SaaS企業と比較するとそのスピードが抜きん出ていることが分かります。
COO倉橋氏へのインタビューはこちらhttps://t.co/BQMcdFa4r9 pic.twitter.com/L7oXNO5lGB
さてそんな同社がこの2023年に打ち出したのが、“労務管理市場でのシェアNo.1を保ちながら、「マルチプロダクト戦略」で多角的に事業を拡大させる方針”だ。
労務管理市場での圧倒的な強さは言わずもがな、だろう。事実、5年連続でシェアNo.1のクラウド人事労務ソフトとなっている*。
そしてここから本題、マルチプロダクト戦略について読み解いていこう。
2023年3月の事業戦略発表会で、取締役COOの倉橋隆文氏は「労務業務を効率化するSaaSだというイメージが強いが、昨今はタレントマネジメントシステムとして進化している」と明確なメッセージを打ち出した。
ITmediaの記事がわかりやすくまとめている通り、SmartHRはタレントマネジメント機能を2019年からじわじわと積み上げてきた。
もちろん機能追加だけでなく、事業としての成長もすさまじい。先行してプロダクトを展開している上場企業らが、多くても3,000社ほどの導入社数となる中、すでに1,000社導入に近く、急激な追い上げも見せているのだ。
SmartHRの顧客企業のうち21.7%がすでにタレントマネジメント機能を利用している。同社の「労務管理をすでに行っていれば、タレマネの導入コストをかなり低減できる」という主張通りなら、この割合も大きく伸び続けるはず。成長が鈍化する要因がなかなか見当たらないというのが、正直なところだ。
このように、タレントマネジメント機能をいわば「第二の事業」あるいは「第二のプロダクト」として展開し、SaaS企業として非連続的な成長を続けるのがSmartHRが既に保持しているすごみである。
だがもちろん、その次もあるという抜け目なさにも触れておきたい。既存プロダクトのさらなる活用のため、IDや権限といった基盤の強化に取り組みつつ、スマホアプリの開発も進める。加えて、新規プロダクトのような扱いで顧客の課題を解決し続けるためのアプリストアの展開も始めた。さらなる成長を生み出すための種まき・水やりには余念がない。
2~3年前と比べると、大きなうねりが見えにくくなり、市場が成熟してきたかにも見える国内HR Tech領域。だがその内実は、地道に次の成長の種を探し育ててきた取り組みが、まさにいくつも花開こうとしているところなのだろう。そんなタイミングで、世界的なAIブームも到来した。きっとここからが、HR Techの本番だ。
こちらの記事は2023年04月28日に公開しており、
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編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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