SmartHR COO倉橋がフルに語る、新規事業戦略の全貌と、実力主義組織の秘訣──「まだまだ未完成」と語るその理由に迫る
Sponsoredスタートアップで働く醍醐味とはなんだろうか?事業が拡大していくさまを肌で感じることや、変化に富む環境の中で得られる挑戦機会の多さなどがよく挙げられるだろう。
数あるスタートアップの中でも、既存事業で爆発的な成長を遂げながら、次々と新規事業を生み出し、その醍醐味を存分に味わえる企業。SmartHRは、まさにそんな企業に該当するのだ。2021年6月に発表された、シリーズDラウンドでの約156億円の調達や、ARR45億円およびYoY100%以上のニュースも記憶に新しい。2021年末には、CEOの交代で話題をさらった。
とはいえ、事業がすでに完成されており、組織としても非常に安定しているといったイメージを抱く読者は多いのではないだろうか。「そんなことは全くありません。サービスとしても組織としても、進化の真っ最中です」と、同社の取締役・COOを務める倉橋氏は切り出す。
実現したいのは、「日本の“働く”を良くする」会社になること。クラウド人事労務ソフト『SmartHR』の提供を通じ、アナログで非効率な業務の効率化を支援してきた同社は、2021年に人事評価機能を追加した「人材マネジメント」事業においても急成長をすでに実現させつつ、次の新規事業も待機するなど、さらなる広がりを見せている。
倉橋氏に、SmartHRが目指す世界と、どのように実現していくのかを、事業と組織の両面から語ってもらった。
- TEXT BY YUI MURAO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
どの事業も、進化の真っ最中。
“働く”をひたすら良くする会社へ
プロダクト『SmartHR』のリリースは2015年11月。人事・労務の業務効率化を支援するサービスとして誕生したが、その領域で急成長を遂げながら、新たなサービスや機能のラインナップを拡大し続けている。
聞けば、新たに注力している「人材マネジメント」の領域ではこれまでの「人事・労務管理サービス」を上回る角度で成長率を伸ばしている。そしてさらなる成長のため、新規事業への種まきもすでに始めているものがある。
具体的には、グループ会社では会議の効率化を支援する『SmartMeeting』、従業員のメンタルヘルスを支援するオンラインカウンセリングサービス『Smart相談室』、外国籍労働者のビザ管理システム『AIR VISA』など、さまざまなサービスが展開されている。
SmartHRが目指す世界とは、どのようなものなのだろうか。倉橋氏は、「日本の“働く”を良くする会社になりたいんです」と語り始めた。
倉橋「人事」という領域を起点にして、日本中の人が気持ちよく、効率的に働けるようになるお手伝いをしたい。その思いに至った背景には、日本の大きな社会課題があります。
それは、日本において労働者の絶対数も人口に占める労働者の比率も下がっているという状況です。何も手を打たないままでは、国全体の経済規模が縮小してしまい、個人に対する社会保障の負担も増えていく一方。
この課題を解決するには、1人あたりの生産性を上げることと、「良い環境があれば働けるのに、それがないから働いていない」といった方が働きたいと思う環境を整備することの2点が重要なのではないでしょうか。SmartHRは、業務効率化を支援するDXど真ん中の事業であり、今の社会や人々が切実に必要としているものを提供したいと考えています。
そこでまず取り組んできたのが、サービスの原点でもある人事・労務管理業務の支援だ。入退社や年末調整などの煩雑な手続きをペーパーレス化し、さまざまなデータの一元管理を実現したのだ。
しかし、これらは『SmartHR』というプロダクトが持つポテンシャルの表層部分でしかない。まさに氷山の一角とでもいえよう。「データは21世紀の石油」というフレーズが象徴するように、『SmartHR』内に蓄積されたデータには、今後の未来を照らす大きな可能性があった。
倉橋ありがたいことに2021年には登録企業数が4万社を突破するなど、サービスの利用者は日に日に増加しています。それに伴い『SmartHR』上には「従業員の入退社」「異動・昇格歴」「給与」などの人事データが雪だるま式に貯まっていくんです。
もしこのデータを活用できれば、人事戦略や組織のパフォーマンス向上といった「人材マネジメント領域」において、非常に効果的なシナジーを生み出せるのではないか。いや活用しない手はない。なぜなら、データを持って終わりにするのではなく、きちんと次のフェーズへと発展させていくことが私たちの使命であり、責任でもあると感じたんです。
こうして着想されたのが、2019年から続く「人材マネジメント領域」への展開だったというわけだ。従来のプロダクト上に、人事評価や従業員サーベイといった機能を追加するかたちで、事業展開を進めている。
これまでの「人事・労務管理」と新たな「人材マネジメント」の確かなシナジーを、顧客企業にもすでに実感してもらえていると胸を張る。新規で両機能のセット受注となるケースが増えてきているのだ。
こうして、人事・労務支援サービスの高い成長率を保ちつつ、人材マネジメント事業でもそれをさらに上回る成長率で伸びているのが、SmartHRの現在地である。
さらに驚くべきは、その二つの事業成長に甘んじず「第三の柱」となる新規事業をすでに仕込み始めていることだ。まだ「柱」となるのかどうかは未定だとしつつ、2023年には、長年構想してきた「プラットフォーム事業」なるものも始動すると高らかに宣言する。目指すのは、「唯一無二の企業」になることだ。
倉橋あえて言い切ってしまうと、SmartHRが提供する現時点のシステムは、数年後には他社でもつくれるようになると思います。私たちが現状に満足していたら、社会に与えるインパクトの上限は決まってしまう。
常に新たな価値を生むために、さまざまなことに挑戦しながら、会社としても10倍、100倍、1000倍の規模になっていきたいんです。
SmartHRは、事業も組織も完成されている──。我々がこの会社に対して抱いていたイメージは、どうやら大きな誤解だったと、改めて焦りを覚える。
ここからは、SmartHRが今最も注力している人材マネジメント事業、そして会社をさらに飛躍させるべく種まきをしている最中の代表例である「プラットフォーム事業」構想について、その全貌に迫っていく。
読み終える頃には、なぜ今もなお、SmartHRが面白いフェーズにあるのかがわかってくるはず。これより語られるのは、あなたの想像の遥か先を行く、まさに一言たりとも聞き逃せない金言の数々。刮目せよ。
「人材マネジメント」に進出したのは、SmartHRがすべきことのど真ん中であり、かつ高い可能性を秘めた市場だから
倉橋氏から言及された通り、日本国内の労働力人口は減少が続いている中、どの企業も自社にマッチする優秀な人材を獲得するために苦戦している。そういった背景から注目されるようになったのが、人材マネジメントの重要性だ。
昨今、この領域に進出するHRテクノロジー企業は後を絶たない。中には数年前に上場を果たしたベンチャー企業すら存在している市場だ。もともとの人事・労務支援サービスと近接する領域ではあるが、なぜ、あえてその領域に後発ながら進出したのだろうか。
倉橋人材マネジメント事業に注力すると決めたのは、ずばり私たちが目指す「“働く”を良くする」にど真ん中で寄与できるからです。実際に社会的にもニーズが高まってきていると感じていますし、私たちが真剣に取り組んでいくべき領域だと考えました。
その上で、国内の人材マネジメント市場はまだまだ発展途上であるとの見解も示した。
倉橋先行プレイヤーはすでに多いですが、現状はまだ道半ばのはず。どの企業さんも、まだまだ成長される過程にあると認識しています。ユーザーさんたちの使い方を実際に見ていても、「こう活用すればOK」という完全な答えは見つかっていないように思います。
つまり、産業自体がまだ初期フェーズにあると言えるのではないでしょうか。私の見立てでは、少なくともこれから100倍以上には伸びる市場です。
人材マネジメントは、一朝一夕では効果が出ない難しい施策です。少なくとも半年以上、経営陣と人事担当者らがコミットすることで、ようやく組織が改善した実感を覚え始める、そんな感じでしょう。すぐに成果が見えにくいので、人材マネジメントツールをトップダウンで導入したは良いものの、息切れしてしまう会社さんも少なくないようです。
それに対して『SmartHR』は、人事の基礎となるデータがどんどん蓄積・更新されていくという土台があります。さらに、サービスの提供によって忙しい人事担当者の業務時間を圧縮できると、「攻めの人事」を行うためのリソースが生まれる。この二つの条件が揃えば、会社にとってもメリットは大きいですよね。
『SmartHR』でなら、その環境を作り出せる。ですから、たとえ後発でも私たちが人材マネジメント事業をやる意義が大きいんです。
ここで気になるのが、同じく近接する領域として、勤怠管理や給与計算業務の存在だ。しかし、その領域は意思をもって「やらない」選択をしたという。一体どういうことだろうか。
倉橋確かに、勤怠管理や給与計算といった業務を効率化するというニーズは非常に多く存在しており、人材マネジメント事業よりも大きな市場があるかもしれません。
ただ、異なるのが「市場が成熟している」ということ。もうすでに、この世の中にかなり良いサービスが出回っていて、ユーザーの方のニーズもある程度満たされている状態に見えます。もちろん、この市場でシェアを取れれば非常に大きい事業になりますが、新たに提供できる社会的価値の余白はあまり大きくないと感じています。
資産として持っている人事データを活かして、「より良くより新しい」価値を生み出せる可能性が高い市場。それを突き詰めて考えた結果として、人材マネジメント事業という方向で新たな挑戦を広げていくことにしたんです。
この話から、SmartHRは「自分たちだからこそ生み出せる価値」に対して、極めて真摯な会社であると伝わってくる。
唯一無二のサービスとなるために。
本格始動するプラットフォーム事業と「その先」を見据えた種まき
続いて、未来への種まきの段階である「プラットフォーム事業」についても詳しく伺っていくことにする。
プラットフォーム事業とは、2023年の本格リリースに向けて2021年から準備を進めているSmartHRの新規事業の一つだ。
倉橋プラットフォーム事業には、大きく二つの構想があります。一つは、他社サービスと『SmartHR』とで情報連携を行うこと。人事データを一緒に使える状態にすることで、多種多様なシステムとの共存、共栄を目指します。
もう一つが、『SmartHR』の上に他社サービスの機能をアドオンすること。その先駆けとして、既にナビタイムジャパンさんが提供する地図・ルート検索API「NAVITIME API」を活用した「通勤経路検索」を、新しいオプション機能としてリリースしました。従業員の申請手続きと管理者側のチェックにかかる手間と負荷を減らすことが目的です。この機能はお客様からも非常に好評ですね。
他社との連携という意味では、二つの構想は似たような内容にも聞こえるが、あえてアドオン施策を分けたのには狙いがある。
倉橋『SmartHR』のお客さまは中小企業から大手企業までさまざまです。それゆえ、SmartHRが自社で行う開発は汎用性が高い機能を優先しています。一般的にも、特定の業種にのみ高いニーズがあるような機能全てを盛り込むのは“悪手”と言えるでしょう。
しかし、我々はそんな定石を覆していきたい。『SmartHR』は、どんなお客様のかゆいところにも手が届くサービスになっていきたいんです。ですが、自前のリソースだけでは限界があるのも事実。そこで、すでにその機能を持っている他社にもビジネス機会の提供というメリットがある形で協業できれば良いのではないか、と考えました。
エンドユーザーさんは、ニーズに合わせてより柔軟に『SmartHR』をカスタマイズしていただけるようになります。三方よしの事業が実現します。
聞けば、プラットフォーム事業の構想は5年以上前からあったという。このタイミングで本格リリースに踏み切ったのは、どのような理由があったのだろうか。
倉橋私が入社した2017年に、当時のCEOである宮田さん(現取締役ファウンダー・宮田昇始氏)から「プラットフォーム事業をやっていこう!」と相談されました。ですが、当時はまだタイミングが早すぎると思ったんです。宮田さんを「100億円ぐらいの売り上げ規模になるまで、絶対やっちゃダメです」と説得しました(笑)。
というのも、このプラットフォーム事業は汎用性のある機能ではなくアドオン機能を扱うことになります。全体ユーザーの中で2~3割程度のお客さまにしか購入してもらえなくても、ビジネスモデルとして成り立たなければならない。
協業いただく他社サービスにもメリットをもたらすには、『SmartHR』というサービスそのものが大きくならないと絶対数が足りないんです。
そういった点を踏まえて、2023年ごろであれば、プラットフォーム事業が成り立つぐらいの規模感になれるだろう(*)と予測し、本格リリースに踏み切りました。
CEOはまだ見ぬ未来の姿を描き、COOはそこへたどり着く地図をつくる。この理想とも言える相互補完こそが、これまでのSmartHRの大躍進を支えたのだろう。創業期から続く「人事・労務プロダクト」単体でも、T2D3を目指し急成長を実現させてきた。加えて後発の「人材マネジメント領域」においても、それを超える成長率を維持している。そんなSmartHRが満を辞して、兼ねてよりの構想であるプラットフォーム事業に踏み切るのだ。
さらに驚くことなかれ。同社はその先すらも見据えている。それが現在構想中の「第三の柱」だ。「まだはっきりと形にはなっていないものの......」と前置きしつつも、その瞳に映るのは、同社の壮大なビジョンがいつの日か実現される未来だ。
倉橋人事・労務、人材マネジメントに続く「第三の柱」となる事業への仕込みを行っています。グループ会社のいずれかの事業が大きな花を咲かせるかもしれませんし、SmartHR自体も負けじと事業を生み出し続けていくつもりです。
このタイミングで次の事業構想は早すぎるのではないかという声もいただきますが、私たちは今だからこそ考えるべきだと捉えています。なぜなら、既存の事業が伸びた後に新規事業に求められる規模・ハードルは相当高いからです。早いうちに種まきをしていかないと間に合わないんです。
『SmartHR』のサービスビジョンは、“Employee First.”。テクノロジーと創意工夫で、日本で気持ちよく働ける人と会社を増やすということからはブレずに、私たちがやる意義のある事業を追求していけたらと思っています。
なぜ今、SmartHRに入社すると面白いのか?
その理由は、挑戦機会の多さと組織の成長率にある
SmartHR社の現在地と未来のありたい姿について、ひと通り聞いてきた。ここで、相変わらず積極採用中であるからせっかくなので、改めて倉橋氏に「なぜ、いまSmartHRで働くと面白いのか」という直球の質問をぶつけてみた。
先に述べたような子会社による新規事業にチャレンジしていけることは、もちろん理由の一つだと前置きした上で、SmartHRの既存事業、つまり「人材マネジメント領域」そのものの醍醐味についてもこう語る。
倉橋実はSmartHR事業そのものも、まだまだものすごい勢いで進化中です。すでにお伝えした人材マネジメント領域については、まだまだ私たちも手探りで、正攻法を探している段階。それだけでなく、『SmartHR』に登録されている人事データは、日本の労働人口に対してまだほんの数%ほどのカバー率なんです。
つまり、『SmartHR』を社会インフラとして日本中の企業へ広げていくという取り組みは道半ばだと言えます。チャレンジの機会は想像以上にたくさんあるとお伝えしたいですね。
さらに、倉橋氏は「急成長する組織に身を置く楽しさ」も付け加えた。SmartHRの従業員数は2022年5月1日時点で625名。現在も60を超える職種で積極的に採用を行っている(2022年5月30日現在、採用ページ参照)。
倉橋従業員数の急増が続いています。2021年は200名以上の方が新たに入社しており、SmartHRに1年もいれば、もうれっきとした古参側です(笑)。組織の体制をフェーズに合わせてアップデートしながら、新しいポジションも次々に生まれている変化の激しい環境です。初期スタートアップにも負けない成長率だと思いますね。
組織体制やメンバー一人ひとりの役割が変わっていく中、当然COOである倉橋氏自身の役割にも変化が訪れる。
入社から数年は現場対応にもコミットせざるを得ない状況ではあったが、最近は「全体最適」を求められる意思決定が増えたのだ。それはつまり、現場の業務をどんどん権限移譲しなければならないフェーズに差し掛かったということ。当然、現場の成長環境には事欠かない。
倉橋どんなに優秀なビジネスパーソンでも、1人で広さと深さを両立させることは難しいと感じています。
私やほかの経営陣は、多少浅くとも、広さを持って全体感を把握し、調整していくことが重要な仕事です。一方で、営業部門やカスタマーサクセス部門など、一つのグループの中で完結すべき意思決定は、向き合う課題や顧客に対する理解など、深さが必要な領域と言える。私たち経営陣は口を出さないほうがいいと思っています。
もちろん相談されたらアドバイスはできますが、「一番現場をわかっているあなたが最終的に決めてください」と伝えています。
個人的にはずっと現場感を大切に仕事をしてきたので、やっぱりそこを離れる寂しさはあります。けど、全体を俯瞰することによってしか正しい意思決定ができない領域もたしかに存在するので、自分に求められる役割が変わったのだと捉えていますね。
逆に言うと、手触り感のある実務の部分を現場にきちんと渡すことができているという意味だとも思っていて。権限を委譲したチームがいい仕事をして活躍をする姿に、子どもの少年野球を応援する親のような感情を抱くようになりました(笑)。
メンバーの成長のためには、まずチャレンジの打席に立つことが欠かせない。フェーズの変化によって適切に権限移譲を行っているからこそ、組織が拡大した今も現場にはチャレンジの機会がたくさん転がっているのだと言えよう。
「実力主義」と「フェアな人事」が、SmartHRをSmartHRたらしめる風土の礎に
ここまででSmartHRが考えている事業の広がり、そしてその可能性について、十分におわかりいただけたことだろう。
一方で、「そんなに急成長を続ける会社で、組織の軋みは生まれないのか?」と純粋な疑問が浮かぶ。きっと組織を健全に運営していくための秘訣が隠されているのでは?と問いただしてみたところ、SmartHRの組織風土を象徴する二つのキーワードに辿り着いた。「実力主義」と「納得感のあるフェアな人事」だ。
一見するとベンチャー企業では当たり前のように感じるこれらの文化も、SmartHRではその徹底具合が違う。それらを如実に体現する二つのエピソードを披露してくれた。一つは、メンバーが昇格した際の運用だ。
倉橋当社では等級制度を設けていますが、等級が一つ上がる際に本人に「昇格レポート」を書いてもらっています。この半年間どのような計画を立てて、成果を出すためにどう考え何を実行したのか、そのプロセスを改めて言語化してもらうんです。
書く側はまあまあ負担が大きいですが、公平性を担保する観点でメリットが大きいと思い、お願いしています。というのも、レポートは全社員に公開されるので「この人はこんな成果を出したから昇格したんだ」という納得感につながるからです。
結果、お互いにちゃんと健全なプレッシャーをかけ合える。“上司の評価”って、どうしてもブラックボックス化しやすいじゃないですか。それを組織としてしっかり可視化できていると感じます。
もう一つは、入社時に肩書を確定しないという運用だ。これは採用担当からすると、内定者への訴求の観点から少なからず抵抗感を抱く人もいるのではないだろうか。しかし、倉橋氏はこのように説明する。
倉橋実は、私もCOO「候補」として入社しました。名刺にも役職はついてなかったんです。前職では執行役員や部門責任者を務めていたメンバーである岡本(SmartHR執行役員兼SmartMeeting代表取締役・岡本剛典氏)や、古川(インサイドセールスマネージャー古川智之氏)なども同様に、です。
社内には役職の候補であることを共有し、周りから認められたタイミングで役職についてもらうことを徹底しています。前職での経験や活躍はもちろんすばらしいものだと思いますが、全員がゼロから出発した上で、SmartHRで本当にフィットして活躍できる方に責任あるポジションを担ってほしいからです。
組織の拡大にあたり、今後も制度として継続するかはわかりませんが、この考え方は大切にしていきたいと思っています。
ここまで徹底している会社は珍しいかもしれない。だが、サービスを通して「会社における人と組織」に向き合ってきたSmartHRならではの風土だと言えるだろう。
倉橋「なぜこの人が自分より等級が上なんだろう」と疑問をもってしまったら、やはりモチベーションが上がらないと思うんですよね。SmartHRは「日本の“働く”を良くする」と掲げているのに、自社でそれが実現できていないようでは話にならない。フェアで納得感のある人事が行われる会社でありたいという思いは強いです。
同社では、ファウンダーの宮田氏が2021年12月にCEOを退任し、芹澤氏にバトンタッチした話も記憶に新しい。宮田氏は、ユニコーン企業に仲間入りを果たしたSmartHR のリーダーを務めるより0→1のフェーズが得意だと、SaaSとFinTechの領域であるNstockをグループ内に立ち上げた。同じように、社員一人ひとりが切磋琢磨し、得意なことを任せ合っているからこそ、爆発的な事業の伸びが実現しているのだ。
一方で、得意を活かしたポジションにアサインするためには、メンバーそれぞれの強みをしっかりと理解する必要がある。SmartHRのように組織が大きくなってなお、フェアな人事評価を実現できているのは、それぞれの活躍がオープンに見える環境が寄与している。
倉橋もちろん、私自身がメンバー一人ひとりの行動を全て見ることができているわけではないですが、誰かが良い仕事をしたら、社内Slackですぐに賞賛されるので具体的な活動とともに目につきやすいんです。
経営陣は、社員の評価結果も全て見ています。それをもとに「次のマネジャー候補は誰がいいかな?」という話が日常的にされる環境です。人に関心がある組織ならではだと思いますね。
私たちは人事系のサービスを提供していることもあり、昔から経営においても人や組織を考える時間を多く割く文化があります。意識し続けないと簡単に形骸化してしまうと思っているので、人事に関する意思決定は一つひとつ魂を込めて行っています。
最後に、SmartHRで活躍してもらいやすい人物像についても聞いてみた。
倉橋「自信」と「謙虚さ」を兼ね備えた人でしょうか。転職すると環境も変われば文化も変わりますから、過去のやり方がそのまま活かせるわけでもないんですよね。そのときに、今までの成功体験にとらわれず、新しいことを学ぼうとする人はやっぱり成長が早いと感じます。
詳しくは公表していませんが、SmartHRはIT業界の中でもかなり離職率が低いんです。実力主義でお互いに健全なプレッシャーを与え合う一方で、手を差し伸べる文化もある。絶妙なバランス感を味わいたい方には楽しんでいただけると思います。
徹底された「実力主義」と、活躍こそが評価に直結するフェアな「人事制度」。これらは決して外資系企業や創業期のスタートアップの専売特許ではない。加えて、今後新たに生まれる新規事業が常に過去のトラックを超えることを期待されるタフな環境。極め付けには、100倍以上拡大が予想される市場のど真ん中にいると来た。
これほどまでに、企業としても、そして事業家としても、成長環境に満ち溢れている場所が他にあるだろうか。いや、やはり倉橋氏の言葉通り「唯一無二」と言える。ベンチャー転職を考えるなら必ず考慮に入れるべき会社に、今後一層、なっていくに違いない。
こちらの記事は2022年05月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
村尾 唯
写真
藤田 慎一郎
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