500名を超えたSmartHRは、もう面白くないのか?──いまだ試行錯誤の連続、その事業と組織の戦略をCEO芹澤・COO倉橋に聞く
2021年6月にシリーズDラウンドで約156億円を調達した、SmartHR。国内6社目のユニコーン企業入りを果たし、直近ではメインプロダクト『SmartHR』がこれまでの「人事・労務領域」のみならず、「人材マネジメント領域」にも積極的に参入するなど、その進化は今なお止まることを知らない。
また、2017年頃まで10名前後だった組織は2022年1月時点で500名まで拡大した。スタートアップとしては順調過ぎるほど成長しているようにも感じられる同社だが、果たしてこれからどんな未来を見据えているのだろうか?
FastGrowは2022年2月にFastGrow Conference 2022を開催。『500名を超えたSmartHRは、もう面白くないのか?──ユニコーン企業が次に目指すものをCEO&COOが語る』をテーマとしたセッションで、SmartHR代表取締役CEOの芹澤雅人氏、取締役COOの倉橋隆文氏に、事業と組織の側面から次なる展開について語ってもらった。レイターステージのスタートアップが持つ本当の魅力を、読み解きたい。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
人材マネジメント領域への参入は、試行錯誤の連続
SmartHRといえば、クラウド人事労務ソフト『SmartHR』のイメージが強いだろう。だが、直近では、従業員へのアンケート配信、集計・分析を実施する『従業員サーベイ』や、『SmartHR』に蓄積されたデータを定量的に可視化する『ラクラク分析レポート』などの機能を追加し、人材マネジメント領域への事業拡大を図っている。
人事・労務に関する業務を効率化し、創出した時間を攻めの人事戦略に使ってもらうためのサービス展開。とはいえこれまでに開拓した大きな顧客基盤があるため、拡大も容易だろう。そんな印象を抱く読者も多いだろうが、意外にも困難もあるという。法律の定めで義務的に実施する業務が多くを占める人事・労務と違い、人材マネジメントに関する取り組みは各企業に委ねられているため、導入ハードルが格段に高いのだ。そんな話からセッションは始まった。
倉橋離職者数が多かったり、採用が上手くいかなかったりする企業は、たしかに人材マネジメント領域に関心を抱いています。しかし、どう取り組んだら良いかわかっていないことが多い。
我々はそれらの課題に対して、どうアプローチしていくか試行錯誤を繰り返している段階です。チャレンジングな取り組みです。
芹澤私達はまず『SmartHR』に人材マネジメントで活用できる機能を追加し、プロダクト展開を進めています。
人事・労務のデータは多く持っていますが、人材マネジメント領域においてはまだまだです。今後、それらのデータが十分に溜まってきたら、アクセルを踏んで挑戦していきたいと考えています。
事業やプロダクトの展開で、まさに新たなチャレンジをしている真っ最中であると強調する。そんなSmartHRで、実際に社内ではどんな挑戦ができるのだろうか?
芹澤当社が展開するプロダクトは、まだまだ0→1のフェーズが多いです。特に、人材マネジメント領域はユーザーの課題が多岐にわたるため、何がサービスとしてヒットするのかわからない状況。なので、機能はできるだけ最小限の状態でリリースし、フィードバックをもらいながら素早く改善しています。
一方で、これまでの『SmartHR』の主な機能であった「人事・労務領域」は、リリースから6年以上も経ち、1→10フェーズの事業です。メンバーにとっては、0→1と1→10の両方のフェーズで挑戦できる環境になっています。
1→10と言ってもすでに完成したプロダクトであり、難しい挑戦の機会はそう多くないのでは。そんな視聴者の声も聞こえるような中、「決してそんなことはない」と先回りして補足する芹澤氏。
芹澤一見0→1フェーズを超えたように見える「人事・労務領域」においても、いまだに日々お客さまから大量の要望を頂いており、数多くの新機能をリリースし続けています。変わらず、かなり速いスピードで改善を回している状態ですね。
私はSmartHRで働き始めて7年目を迎えますが、まだまだスピード感を持ってプロダクトを展開している。そういった点が楽しいですね。
倉橋一方で1→10フェーズを象徴するのは、新規ユーザーの開拓に向けて、地方に支社を立ち上げるときなどですかね。参画したメンバーがセールスを行うのですが、土地ごとに勝ちパターンが異なるため、力量が求められます。
また、グループとして複数社を経営しており、中にはスタートアップのように2〜3人で事業立ち上げを行っている会社もあります。
従業員500名という点からは、安定している企業に思えるかもしれませんが、実態はそんなに甘くありません。やはり、どんなに規模が大きくなっても急成長し続けない限り、衰退してしまう可能性がある。だからこそ、新たな取り組みに挑戦し続けています。
自分の役割に固執せず、みんなでフラットな議論を
そんなSmartHRは、2021年6月に約156億円の資金調達を実施した。新たな挑戦をつづけるために、資金は必要不可欠なもの。その使い道が気になるところだ。とはいえ従業員規模は十分すぎるほど大きくなっているように見えるため、マーケティングやM&Aに振るのだろうか……と思いきや、芹澤氏は「人」と即答する。
芹澤間違いなく「人」ですね。まだまだ採用が必要なので、採用力を高めるために使っていきます。特に人材マネジメント領域の開発はすべて内製で行っているので、市場のシェア獲得に向けては人材面でリソースを割いていきたい。
M&Aも検討していないことはないのですが、あくまでお互いの方向性を加味しながら進めていくものなので、経営手段の1つの選択肢として視野に入れている状況です。
そんな中で注目を集めたのが、2022年1月に行われた代表取締役の交代。この点も改めて解説してもらった。
芹澤私自身は、代表取締役の就任前後で業務内容が大きく変わっていますが、ほかの経営メンバーに何か変化があったわけではありません。
私たちの組織の特徴は、自分の役割や立場に固執せず、お互いにフラットに議論できること。その雰囲気は変わっていないですね。
倉橋立場や役割に応じて意見を通すようなことはなく、みんなで「ユーザーや会社のためになるかどうか」を議論しています。だからこそ、芹澤さんから業務指示を受けたこともありません。実際に、代表取締役の交代が行われた後のアンケートで90%以上が「問題ない」と回答しています。組織への影響は少ないように感じていますね。
プロダクトチームとビジネスチームは、事業を支える“両輪”
これだけ大きな企業になっているのだから、組織内の役割分担やチーム分けも、難しいのかもしれない。どのような特徴があるのだろうか?
現在は、大きくプロダクトチームとビジネスチームに分かれ、それぞれで事業成長に向けた活動を行っている。倉橋氏は「両チームとも輝ける環境が整っている」と胸を張る。
倉橋プロダクトチームもビジネスチームも、パワーバランスは等しいです。プロダクトの開発においては、月に1度、直近3〜6ヶ月くらいの開発計画を仮決めする会議があり、両チームの全員が参加できるかたちにしています。セールスや開発、カスタマーサクセスなど各ポジションの担当者が「この機能がないと売れない」といった議論を率直にすることで、多角的な意思決定ができるんです。
さらに、ビジネスチームは数字に対するこだわりが強く、プロダクトチームから尊敬されている。
やはり、プロダクトチームもビジネスチームもパワーバランスを等しくしていくことで、結果的に良い意思決定ができ、かつ事業も成長しやすいと感じますね。
芹澤プロダクトチームとビジネスチームの交流が多い点は、印象的だなと思います。プロダクトチームは、ビジネスチームの数字に興味関心を持っていますし、ビジネスチームの意見を聞きたい人も多い。ビジネスチームも同様にプロダクトチームに関心があり、両チームの垣根はほとんどありません。
従業員数500名を超えた今でも、みんなでプロダクトを作って販売している感覚があります。SaaSは長期的なビジネスなので、プロダクトチームとビジネスチームのバランスはやはり重要。だからこそ、お互いをリスペクトし合うカルチャーを作り上げられるようにしています。
従業員数500名を超える中で、素早い意思決定をするのは、容易ではないようにも見える。そんな中で、倉橋氏は「権限移譲」がスムーズな連携につながっているという。
倉橋経営陣の許可を待たなくても済むように、開発も受注も含め、あらゆるシーンでの意思決定についてできるだけ権限移譲しています。
新しいことに常にチャレンジしている以上、権限移譲していかないと自分たち経営陣の存在がボトルネックになってしまう。現場のことは、やはり現場が一番考えている。だからこそ、現場を信じて任せています。
実力勝負で挑戦できる環境が、ここにある
ただ、やはり気になるのが組織の硬直性だ。「大企業病」と指摘されることが多いこの問題は、「やりたい仕事ができない」「組織の一つの歯車に過ぎない」と感じるメンバーが増えた状態が、事業成長のボトルネックになりやすいことを示す。
一般的には、組織の規模が大きくなればなるほど、人事異動も容易ではないとされている。そうした課題への対応策についても聞いてみると、SmartHRは「多様なキャリアを支援できる体制になっている」との答えだった。様々なフェーズの事業が存在しているため、メンバー一人ひとりのキャリア志向に合わせた提案が可能なのだという。
倉橋ビジネスチームの場合、半年に1度キャリアに関するアンケートを取っています。例えば、グループ会社から「0→1フェーズで、事業全般に携われる人材がほしい」とビジネスチームのマネージャーに連絡が来たら、メンバーの候補を挙げることができる。その上で、立候補者とグループ会社の人が話をし、受け入れ側・本人・マネージャーの3者が合意すれば異動が実現する仕組みになっています。
ここで、視聴者から「若手でも役員クラスになれる可能性はあるか?」という質問が投げかけられた。
芹澤年功序列という考え方はほとんどなく、実力さえあれば向上できるキャリアパスを支える人事制度になっています。組織のマネジメントに挑戦したい方であれば、最小のチーム単位である「ユニット」を取りまとめるチーフ→マネージャー→VPというように段階的にステップアップできる。向上心がある方であれば、どんどん前に進めるチャンスがあります。
例えば、2018年にプロダクトチームにジョインした方は、チーフ→マネージャー→VPoEと1年ごとにステップアップされました。当時は13〜14名ほどだったチームが、今では80名を超えていて、全然異なるレベル感で頑張っている。さらに、経営陣に対して経営のフィードバックをするくらい成長しています。
倉橋ビジネスサイドの例でいくと、新卒2〜3年目で、マーケティングオートメーションツールの運用担当として入社した方がいます。優秀かつ実力もあったので4〜5名のチームを持ってもらった後、マネージャーになるというようにステップアップしています。
また、「マネジメントに挑戦するハードルは、それほど高くない」と芹澤氏は語る。
芹澤最初のマネジメント職でもあるチーフは、比較的チャレンジしやすいカジュアルなポジションです。もちろん、一度試してみて、あまり向いていないと感じたら、戻ることもできます。もしマネジメントにもっとチャレンジしてみたいと感じたら、適性に応じてマネジメントの比重を増やすこともできます。
最後に、視聴者に向けたメッセージが送られ、セッションは締めくくられた。
芹澤当社の事業に対しては、人事・労務の効率化に取り組んでいるイメージが強いかもしれませんが、今後は人材マネジメント領域も発展させていきます。日本の働き方をアップデートし、一人ひとりの生産性向上をサポートする社会を実現するためにも、改めてより多くのメンバーを募集中です。
倉橋一緒に働いてくれるメンバーや、M&Aなどで一緒に会社を作り上げる方など、仲間がほしいです。ちょっとでも興味をお持ちいただけたら、ぜひ一度お話を聞いてほしい、カジュアル面談に来て頂けると嬉しいです。
こちらの記事は2022年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
連載FastGrow Conference 2022
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