社員育成を“事業化”したら半年で黒字化した話。
16期連続増収の注目ベンチャー・イングリウッドがイベントで語った「事業創造手法」をレポート

登壇者
岸本 裕史

1986年東京生まれ。新卒でディー・エヌ・エー入社。モバゲー全盛期のソーシャルゲーム開発部にてディレクター、プロデューサーとして、国内外向けゲーム開発に携わったのち、経営企画部に異動し、経営会議の管理やM&Aなどを幅広く経験。その後、医療系ベンチャーに移り、新規事業の立ち上げなどを手掛け執行役員として従事。2019年にイングリウッドに参画し、AI戦略事業本部 ビズデジ ゼネラルマネージャーとして新規事業「ビズデジ」の立ち上げを中心に、事業M&A、アライアンス等幅広い領域で事業推進を行う。​​​

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スタートアップ・ベンチャーが常に求め続ける「即戦力」。これは「いかにスピード感を持って、かつ営業利益に貢献できる人材」と言い換えられる。うまく採用し続けられれば悩むことはないが、そう簡単にいかないという諦めにも似た課題を抱える経営者や人事担当者も多いはず。

採用と両輪で考えるべきは「育成」だろう。社員がレベルアップし続ければ、即戦力を大量に確保し続けずとも、事業をグロースさせ続けられるかもしれない。しかし言うは易く行うは難し。「事業が伸び続けていて、社員が育ち続けているような企業において、実践されている育成ノウハウ」を、どこかで知ることはできないだろうか。

まさにそんな期待に応えるのがイングリウッド。創業以来16期連続増収を達成し、しかも経営陣も強くコミットする徹底した人材育成を進めていることを知っているだろうか?そんなイングリウッドの新規事業である、人材育成プログラム『ビズデジ』を、ぜひ知るべき。まさにノウハウを余すところなく、社外に提供するサービスなのである。

FastGrowは、そのイングリウッドから『ビズデジ』事業責任者、岸本裕史氏を招きセミナーを開催。「1人が1億円の売上を生み出す」秘訣から人材育成の本質、事業化の意義まで、広く語ってもらった。

  • TEXT BY YUKI KAMINUMA
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ファイナンスを理解し、逆算して事業を創るという理想

EC事業やデータテクノロジー事業を展開し、16期連続増収を達成した株式会社イングリウッド。「商品を売る最強の集団」として、外部からの資金調達に頼らずに事業を拡大させてきた彼らの特徴は、CEO含め経営陣が積極的に人材教育にコミットしていること。中でもファイナンスや商流理解に力を入れる。

株式会社イングリウッド AI戦略事業本部 ゼネラルマネージャー ビズデジ事業責任者 岸本裕史氏 (同社提供)

岸本会計数値は、曖昧な企業活動を明確に数値化したものですから、人によって差が出てしまう事業への認識について、共通した実態を的確に見ることを可能にします。事業計画は将来の事業活動の結果目標とイコールになるので、過去の事業活動の結果がまとまってある決算書を事例・教材として使いこなすことができるはずです。

自社の過去の決算書はもちろん、世の中に数多く存在する他社の決算書も参考にすることで、事業活動を「結果から逆算する」ことが可能となる。そんな人材の育成を意識しています。

ファイナンスへの強い意識は、イングリウッドの創業背景に起因する。海外で起業した当初はトップダウンで事業を推進し、一定の成功をみたものの、日本で同じように進めようとして苦戦。本格的に事業を拡大するにあたり、教育プログラムの重要性を実感したのだという。

岸本そもそも物販からスタートした弊社にとって、キャッシュフローの把握は企業存続に関わる重要な要素。また創業から長期の間、外部からのエクイティ資金調達をせずに事業を拡大してきたので、売り上げがなければ事業を成長させる源泉がなくなるに等しい構図にもなっていました。教育プログラムを策定するにあたり、そもそもファイナンスを知っておかないと未来の成長に繋がらないのです。

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会計指標とビジネス、実は遠いその距離感

社員が決算書や事業計画から学び、新しい事業を生み出す。言っていることは理解できるし、それがうまくいけば確かに事業は次々と生まれていきそうだ。しかし事はそう簡単でないために、多くの企業が事業開発人材を求めているのが、昨今の状況である。

それでもなんとか経営視点を持った人材を育成すべく、会計や簿記の勉強を推奨する会社ならかなり増えてきている。しかしそんな小手先の対策だけでは、企業変革につながる事業創造が実践されるまで長い年月を要する、ということくらいは多くの読者が想像しうるだろう。

岸本氏は力強く、「それでは明らかに不十分だ」と語った。その理由は、実際のところ至極単純だ。利益率の高さや流動比率の知識を得たところで、事業のフロントに立つ人間たちの立場に立って事業を見たときに、実務にまでは結びつかないからだ。

岸本いくら決算書の読み方を習ったとしても、「だから?」「で、どうしたらいいの?」という反応につながるのが精一杯で、事業の役に立たないことも非常に多いです。

なぜか?それは、指標単体を覚えても意味がないからです。そうではなく、財務会計の数値と、ビジネスの実態を意識的にしっかり結びつける必要があるのです。言いかえるなら、日々のビジネスの根本が、数字に結びついていないといけない。

ビジネス商流と事業計画・ファイナンスが、事業にどのような影響を与えているのか、なんとなくというレベルでも把握しているビジネスパーソンは、かなり少ない印象があります。

だから私たちは、数値の目標を基に、どのようなビジネスがどのように実行されているのか、これを全社で学ぼうとしています。弊社の人材育成では、これらを自社・他社事例ともに学び、理解することを目標としています。

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社員育成ノウハウを外販する事業モデルで社内外がwin-winに

新卒・中途を問わず、新入社員に対して総合的な学習を提供。全体の商流を知った上で自身の仕事の影響を把握し、営業利益を生み出す人材に育て上げる。

これがイングリウッドの大きな特徴だったのだが、さらに拡大させることを決め、走り回ってきたのが岸本氏だ。イングリウッド入社と同時にこのノウハウを『ビズデジ』として事業化させようと構想し、事業化を実現させた。他社への提供も順調に増え、なんとたった半年で黒字化を達成した。

岸本イングリウッドの人材育成投資の拡大を受けて事業化を進めました。さしあたりの目的は、収益化とデータ蓄積です。講師陣は事業に従事しているマネジャーが務めています。

『ビズデジ』は個人・法人利用の2つが可能。これまでの利用者の最高齢は56歳で、所属もベンチャー企業から大企業まで様々です。法人利用の場合はその法人のシチュエーションやフェーズ、参加者の属性に合わせてカスタマイズします。企業によって状況はまちまちなので、時にはタイピングやスプレッドシート、Slackなど業務ツールの活用方法から支援することもあります。

また、「今更聞けない」ニーズに応えることで喜ばれることも多いです。転職者のみならず「役員に昇進した」「副業の安定化や起業に成功した」といった声もすでに何件も頂いています。

我々としてはメソッドの再現性を確かめるという意味でも、事業化は有益でした。つまり、収益目線だけでなく、人材育成方法の質向上にも大きく貢献しています。

社内向けであれ社外向けであれ、人材育成で難しいのは、教え方やカリキュラムなど多くの要素のうち、どこに課題が多いのかを判断すること。事業化し、社員はもちろんですが、ユーザー・クライアントの声も聞いていくことで、その良し悪しをシンプルに計測し、改善につなげていく判断ができるというメリットもあったんです。

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「人を変える」でなく、徹底して「アウトプットを変えさせる」

約3ヶ月の人材育成プログラムとなる『ビズデジ』。最初の1ヶ月は、週1~2回2時間程度の講座を受講。残り2ヶ月はメンターによる1on1などを通じ、より業界に適した知識提供や実務での活かし方をフォローアップする。就業中に業務をやりながら受講が可能なのも『ビズデジ』の利点だ。

岸本マーケティング・デザイン・システム開発・コマースは、各観点が異なるだけで目指す場所は同じ。ビジネスや商流の理解を元に導き出される事業計画・ファイナンス観点の数値へと繋がっているはずです。自分のアウトプットが何に繋がっているのか。それを客観的に把握するために必要な視点を身につける研修だと言えます。「1人が10人分の引き出しを持つ」をキーワードにしています。

岸本例えば、SaaS事業で顧客獲得単価(CAC)が計画&競合の1/10以下、という報告があった場合。いい数字として解釈してしまいがちですが、実際の現場ではさまざまな観点から捉え直す必要があります。

数字や計測方法は正しいのか?売上面はどうか?商品ブランドやクリエイティブはどこがどう良いのか?そもそも母数はあるのか?など、様々な観点から事象を解釈する必要がある。全部に答えを出す必要はなく、観点の把握ができることを大切にしています。

岸本また、マネジャークラスになると、事象を網羅的に判断できるかどうか、という点も重要です。

例えば広告予算が10倍になった時、営業負荷はどうなるのか、クリエイティブのどこに予算を割くのか、そもそもパイはあるのかなど論点は複数あるはず。見るべきポイントを押さえ、その業務を進めるにあたっての適任者を探して的確にアサインできるかが、マネジャーに求められるスキルとなってきます。

新入社員であれ、マネジャークラスの人材であれ、事業が勝てそうか、それが本当なのかを見極める「目」を持つことが必要。その引き出しを作るのが『ビズデジ』のポイントです。

さらに『ビズデジ』が他の教育プログラムと異にするのは、人材自身の変化に拘らない点だ。教えることを目的化せず、あくまで「企業・事業に対するアウトプットの価値最大化」に注力する。

岸本あらゆる研修で、その人の考え方に介入し変化・成長を求めることが多くなっているように思います。一方、我々が意識しているのは、アウトプットの変化であり価値最大化です。その人自身を無理やり変えようとは思っていません。

自分の軸には沿っている上で、努力の方向性がビジネス的価値の最大化に繋がるよう導く。そして、日々の学習の意義や成果を実感できるようにしていく。そういった研修になっています。

事業を全体の商流の中で理解し、“与えられた”仕事ではなく組織の結果に繋がる仕事を生み出す。そんな組織づくりをサポートする『ビズデジ』。満足いかない場合は全額返金保証もやっています。これはつまり、サービスの質に対する自信の表れだと受け止めてほしいですね。

「育成」や「研修」というと、受講者自身に変化を求めるように考える人も多いだろう。しかしイングリウッドが求めるのはそうではなく、ひたすら「アウトプット」の変化なのだという。

多くの人は、「自分自身がしっかり変わらなければ」と思う反面、「外部から変化を求められること」に対しては、無意識に抵抗してしまうこともある。しかしそこで「アウトプットさえ向上させられれば良い」と考えられれば、成果を上げ続けることに最短距離で向かうことがきっとできる。そのための道を、イングリウッドは用意しているということだ。そしてそれが16期連続増収の所以なのではないかと、そう感じさせた。

こちらの記事は2021年01月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

上沼 祐樹

KADOKAWA、ミクシィ、朝日新聞などに所属しコンテンツ制作に携わる。複業生活10年目にして大学院入学。立教大学21世紀社会デザイン研究科にて、「スポーツインライフ」を研究中。

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