著名エンジェル10名が参画。
スタートアップの「知の流通」を加速させる
Japan Angel Fundの正体
- TEXT BY YUSUKE JOHNNY NISHIKAWA
米国最大VC、セコイア・キャピタルにヒントを得た投資スキーム
FastGrowのミッションの1つに「事業成長に必要な知識と仲間を世に広め、急成長するベンチャーを増やしたい」というものがある。今回はそんなFastGrowの元に、「事業成長のための知識」がスタートアップ界隈に広がるようなファンドが組成されたという話が飛び込んできたので報告しよう。
その名も、Japan Angel Fund。
第一号ファンドとして3億円を既に集めている。Candle創業者の金氏、Fablic創業者の堀井氏、スポットライト創業者の柴田氏、コーチ・ユナイテッド創業者の有安氏、エウレカ創業者の赤坂氏らに他5名の著名エンジェル投資家を加えた合計10名の投資家が参画する。
Japan Angel Fundではこの10名それぞれのことを「スカウター」と呼ぶが、それはUberやAirbnbの創業期にも出資した米国最大級のベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルのスカウトファンドを踏襲している。
その仕組みはこうだ。
- 10人のスカウターは、それぞれ3,000万円ずつ、ファンドとしての出資先を提案できる権利を保有する。基本的に、その提案に対して他のスカウターに拒否権はない。(実際の出資元はJapan Angel Fundとなる)
- ファンドとしてのリターンは、LPが合計50%、出資を提案したスカウター本人が40%、その他9名のスカウターが合計10%というように配分される
- エンジェル投資家であるスカウター10名それぞれは、1円もLPとして出資していない
なぜ今このタイミングで、Japan Angel Fundは組成されたのか。スカウターの1人であり、発起人でもあるCandle代表の金氏に取材したところ、「エンジェル投資家のノウハウと影響力を、スタートアップ界隈で最大化するためには今しかないと思った」という答えが返ってきた。
エンジェル投資家が持つ知識をスタートアップ・エコシステムに広めるために最適なアイデア
金氏いわく、きっかけはセコイアのスカウトファンドの仕組みをたまたま知ったことにあるという。
金氏綾太郎さん(MERY運営のペロリ創業者)や有安さん、佐藤さん(現・ヘイ代表取締役)等、エンジェル投資家のプレゼンスは今、日本でも上がってきていますよね。
起業家が意思決定したり、事業を伸ばしたりする上でのフィードバックは、同じフェーズでの事業経験があるエンジェルが強みとしているもの。実際に、エンジェル投資家に出資してほしいというニーズは急激に増えていますし、良い投資案件もVCよりも著名エンジェルのもとに集まってきているのではないかと感じています。
米国を中心とした海外でも、シード投資はエンジェル投資家やシンジケートファンドからの出資がメインです。
たしかに起業家にとって、自らと同じ領域やビジネスモデルでの事業成功経験あるエンジェルが出資してくれ、事業アドバイスをくれることほど心強いことはないだろう。
しかし、今回参画するスカウター10人それぞれも、個別にエンジェル投資家として活動の幅を広げている中、なぜわざわざファンドを組成しなければならなかったのか?
金氏あえて起業家はお金を出さず、LPから出資をいただくファンド形式にすることで、エンジェル経由で投資される金額規模を今より大きくしていくことができます。エンジェル投資家だって、個人出資の場合、出資できる金額も合計で数億円程度になってしまいます。
そこで今回、僕自身が、自分が起業するならこの人たちに出資してもらいたい、と思う本当に尊敬している敏腕起業家、エンジェル投資家の方々に恐縮ながら、スカウターをお願いさせていただき、まずはスモールにLP出資を募る形で、Japan Angel Fundは立ち上がりました。僭越ながら僕もその一員として参加させていただきます。
金氏は続けて、「自分自身が創業期、エンジェルの方々からの助言にとても助けられた。そしてその人達から教わったことを周囲の起業家に話すと、もっと早くその話を聞きたかった、という反応をされることも多い。だからこそ、同じようなアドバイスを受けられる起業家を増やしたい」と話し、スタートアップエコシステムを支える「知の流通」に課題意識があるとのことだ。
たしかに、昨今若者への出資も盛んとなり、起業家も増えている印象はある。しかし、経営チームが必死に試行錯誤しているにも関わらず、そのフェーズごとに必要な知識やノウハウが足りないがゆえに、「適切な成長カーブ」を描けていないスタートアップもいると、スタートアップへの投資に関わる著名投資家から私も聞いたことがある。
金氏そんなエコシステムの中で、エンジェル投資家に接する起業家の数がシリコンバレーのように増えていけば、日本のスタートアップ・エコシステム拡大の速度をあげられると考えました。
今回のJapan Angel Fundのような取り組みが成功を重ねることによって、スタートアップに投資される資金がさらに増え、成功する起業家も増える。これは日本全体にとっても非常にインパクトが大きいはずです。
さらに金氏は、「エンジェル投資家だけがスゴい、と言いたい訳ではない」と補足する。
金氏今の投資熱が加熱している日本の状況はあまりよろしくない。いろいろな資金の出し手が、誰がXX社に出資できるか?を競い合うだけでなく、事業会社やエンジェル投資家、VCがお互いの強みを連携させて効率良い資金と知識、ノウハウをスタートアップに提供していくことが、エコシステムをもっと大きく、強くすることにつながるはずです
将来見据えるのは「エンジェル投資家をハブにした良質な起業家と投資家のマッチング」
Japan Angel Fundの長期的な展望について金氏に伺うと、「エンジェルという起業家ともVCや投資家とも接点を持ちやすい人々をハブにした、強固なスタートアップ・ネットワークを構築したい」と語った。
シリコンバレーを代表するネットワーク、ペイパルマフィアのように、ある特定のユニコーン的成功を収めたベンチャーの創業メンバーや卒業生であったり、特定の著名起業家から出資を受けた起業家同士だったりであれば、たしかに高校や大学の同級生のように、親密な交流を行いやすい関係が生まれやすい。
そのような濃い、少人数のつながりが多く生まれていけば、その先に更に多くの派生的なコミュニティが生まれていく可能性も高まる。
金氏エンジェル投資家は、とにかくキャッシュでリターンが欲しくて出資しているのではなく、スタートアップエコシステムをもっと活性化させたい、という想いの人も多い。
そんな一面があるからこそ、エンジェル投資家ネットワークが発達してもっと密になることで、そのネットワーク内にいる投資家達だけでよい案件を独占したいというよりは、あの起業家ならこの投資家とマッチするんじゃないか?といった、起業家と投資家の良質なマッチングが行われていくと良いなと思っています。
「日本発のメガベンチャー創出」のための必要十分条件は、今回のようなエンジェル投資家の活動が活発化することだけではもちろん無いであろう。
しかし、たしかに金氏が言うように、「エンジェル・VC・事業会社など、あらゆるお金の出し手の強みを組み合わせて協力しながら、スタートアップエコシステムのために最適な支援の手法を創り出す」努力は、いまの日本にとって必要なのかもしれない。
Japan Angel Fundや同様の取り組みに対して賛否は別れるところもあるのだろうし、結局「うまくいくかどうか」は未知数である。
しかし、このような新しい取り組みを日本でスタートさせたエンジェル投資家10名は、やはり「投資家」ではなく「起業家」であると思うし、FastGrowとしても応援したい。Japan Angel Fundの今後の活動は要チェックだ。
スカウター4名の想い・意気込み
最後に、スカウターとして活動する金氏以外の9名のうち、4名のエンジェルから意気込み・コメントをいただいたので掲載しよう。
堀井氏Japan Angel Fundは日本でもエンジェル投資家が集結した、数少ないユニークなファンドだと思います。
エンジェル投資自体が黎明期であり、良いエンジェル投資家が生まれ、良いスタートアップが生まれるというエコシステムに自分も勉強させてもらいながら少しでも貢献できればと思い参画させて頂きました。
変わらず「人が欲しがるもの」を創れる起業家を応援していきたいと思います。
柴田氏「起業家が投資する側に回る」ことは、エコシステムにとって重要だと考えています。この取り組みは、そのための1つの良い試みだと思い参加しました。
小さく堅い、漸進的な事業アイディアがピッチコンテストで評価されがちな昨今、スタートアップらしい大きなアイディアへの支援を実現していきたいと考えています。
有安氏日本初の試み。社会実験として面白い取り組みだと感じてます。エンジェル投資家の連携という意味では、私個人としてはTokyo Founders Fundに続く二つ目のトライ。
シリコンバレーの規模感や洗練度とはまだ比較にならないですが、日本のスタートアップ・エコシステムの重層化、多様化に微力ながら貢献したいと考えています!
赤坂氏米国と比べてエンジェルの数もエンジェル間のネットワークも少ない日本がより良いスタートアップ環境を作るために面白い試みだと思い参加しました。
今まで苦渋の決断で投資を辞退するケースもありましたが、自分の元に相談が来ても投資対象から外れていた際の受け皿にもなり、更にはエンジェル間でナレッジの引き出し合いができる為、有意義な投資ファンドになると思います。
こちらの記事は2018年11月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
西川 ジョニー 雄介
モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中
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