人生は短い。今すぐリスクを取ってチャレンジせよ──Uberを発掘したエンジェル投資家、ジェイソン・カラカニス氏インタビュー

インタビュイー
Jason Calacanis

アメリカの情報テクノロジー分野の起業家、エンジェル投資家であり、作家、ブロガー。人気の週刊ビデオ番組、「ディス・ウィーク・イン・スタートアップス」のホスト、また起業家と投資家を橋渡しするテクノロジー系カンファレンスを数多く創立してきた。シリコンバレー・サンフランシスコ最大級のカンファレンスであるLAUNCH Festivalのホスト。シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルの「スカウト」メンバー。メディアにも頻繁に登場している。後にユニコーン企業となる数々のスタートアップにエンジェル投資を行っている。主な投資先は、Uber、Robinhood、Thumbtackなど。

関連タグ

今や評価額が13兆円を超えると言われるUberの創業初期に投資を行い、巨額のリターンを得たエンジェル投資家がいる。Jason Calacanis(ジェイソン・カラカニス)氏はシリコンバレーで数多くのスタートアップ投資を成功させ、2018年7月に和訳が刊行された著書『エンジェル投資家―リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか』でも話題を集めた。

FastGrowでは2018年9月、Calacanis氏の来日に際してインタビューの機会を得た。起業家が持つべき資質を問うと、彼の口から発せられたのは「起業家や起業を志す者は、今すぐリスクを取って行動すべき」というメッセージだった。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY HAJIME KATO
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
SECTION
/

失敗の数は、次に挑戦できる機会の数と等しい

あなたはUberをはじめとする多くのユニコーンを見出してきました。起業する人にとって最も大事なことは何でしょうか?

ジェイソン・カラカニス(以下、カラカニス)失敗を恐れずにリスクを取ること、それが一番大切です。

日本人は「失敗したらおしまいだ」「失敗したら傷ついてしまう」とチャレンジを憚る傾向があるように思います。しかし、アメリカでは逆です。失敗の数は、次に挑戦できる機会の数と等しい。むしろ、成功のために必要な勲章ともいえます。そういったマインドセットを日本人も持つべきでしょう。

そしてチャレンジをするときは、完璧なプロダクトを作り込む必要はありません。未完成のプロダクトでも、長い時間をかけて改良を加えていけば、必ず洗練されていきます。

完璧でなくていいから、まずは行動することが大切だと。

カラカニスそうです。実際に私も、常にチャレンジし続けています。

私はエンジェル投資家として、現在は世界でも5本の指に入る成功を収めていると思っています。しかし、私は全てのベンチャーキャピタリストだけでなく、Warren Buffett(ウォーレン・バフェット)を含めた全ての人々の中でNo.1の投資家になりたい。つまり、今は「世界一の投資家になる」という途方も無い挑戦の真っ最中なのです。人はこれを非常識だと思うでしょうが、挑戦しないことには何も生み出せません。

また、チャレンジするときは、実力だけでなく運とタイミングが重要。私がエンジェル投資家としてある程度の成功を収められた要因の一つは、その両者に恵まれたことです。

「あの起業家は運が良かっただけだ」「あの人は運も実力もある」といった話を言われることもあります。しかし、成功するために運も絶対に必要なもの。なので、そういった批評は意味をなしません。

私は、投資額が数千倍になるような「当たり」を7度経験しています。7度ですよ? では、何回当たりくじを引いたら、「運」ではないと証明できるのか。私は、今後あと20回は当たりくじを引いてみせますよ。

良い運やタイミングをたぐり寄せるために、何かできることはあるのでしょうか?

カラカニスそれらを引き寄せることはできません。しかし、成功するためにできることはあります。いつ訪れるかわからないチャンスをつかむために、常に全力で努力を続けることです。運の良い時期と悪い時期はまるで波のように交互に訪れます。しかし、実力を磨き続ければ、いつか良い運やタイミングに恵まれたときに、成功へと結びつけることができる。その努力を怠らないことです。

これはバフェットの教えにもあり、私は投資をする際にも心掛けています。株のピークがどこなのかは誰にもわかりません。なので、利益が出たらできるだけ早く売るようにしているんです。諦めずに売り続ければ、いつか必ず勝てます。カジノでポーカーをするときも、負けのままでは寝ないと決めています。勝ってからでないと寝ません。

しかし安定した生活を捨てることに尻込みしてしまう人も少なくないでしょう。

カラカニスプールの端っこで飛び込むのを躊躇っているということですか? であれば、私が背中を押します。傍観しているよりはるかに刺激的ですし、水の温度はちょうど良いですよ。起業する意志があるのであれば、今この瞬間に仕事をやめ、準備をはじめましょう。怖がってはいけません。

人生は短い。できるだけ若いうちにチャレンジした方が良いに決まっています。やり続けていれば、そのうち成功します。私自身、23歳の時にはじめて雑誌の会社を起業しましたが、5冊刊行したのちに失敗に終わりました。そして2回目の雑誌の会社にチャレンジしましたが、7年後にはまた失敗に終わった。その後に「Weblogs, Inc」というブログネットワークの会社を作り、18か月間もがいてようやくエグジットにこぎつけたんです。

頭を壁に打ち付けることは、確かに痛みが伴います。しかし、結果的にそれが成功につながっていく。痛みに耐え、継続すれば、必ず成功します。最悪の場合は、また誰かのために働けばいいのです。さぁ、早速アイデアと会社名を考えていきましょう。

SECTION
/

プロダクトを成功に導く2つの資質

エンジェル投資家として起業家と話す時、相手のどういった点を見ているのでしょうか。

カラカニスまずは、ハードワークに耐えうる胆力。起業家として成功するためには絶対に諦めないガッツと、その人にしかない独特のスキルを持って、強い意志でぶつかっていかないといけません。簡単な仕事なんてないからです。

カラカニスまた、「なぜそのプロダクトをつくりたいのか」というモチベーションも非常に大切です。ハードワークに耐えながら毎日働くことは、とても大変です。強い意思をもって、自分のプロダクトに魂をこめることができなければ、すぐに諦めてしまうでしょう。自分にとってどうでもいいような商品のために働くことは誰にとっても難しいのです。

強い目的意識を感じるプロダクトとは例えばどのようなものがありますか?

カラカニス一例ですが、瞑想アプリ「Calm」には強いモチベーションを感じます。現代社会には、ストレスや不安に悩まされ、精神的に不安定になってしまっている人が大勢いますが、効果的な解決策は未だ見つかっていません。そこで、この問題に「瞑想」というソリューションを提示すべく開発されたのがこのアプリです。実際に高い効果を生んでおり、メールやTwitterでユーザーからの感謝のメッセージがたくさん届いています。私もこのアプリの恩恵を受けているユーザーの一人です。

また、シリコンバレーでアグレッシブに挑戦を続ける日本人起業家・内藤聡が運営する「Anyplace」も、強い目的意識を感じます。手頃な値段で住居を見つけられなくて困っている大勢の人々のために、クリアなアイデアで熱意を持って取り組んでいます。この深刻な問題に取り組むことはなかなかクレイジーですが、私はそのクレイジーさに魅力を感じ、投資を決めたんです。

起業家の経歴や性格は気にしていますか?

カラカニスあまり気にしません。もちろん、学歴などの経歴はその人がどれほど頑張ってきたかを判断する一つのガイドラインにはなります。たとえば、ハーバード大学やMITといった難関大学を出ているのであれば、それなりの努力をした証左にはなるでしょう。しかし、あくまでも指標のひとつに過ぎません。それよりもその人がどんなスキルを持っていて、どういった動機でどんなプロダクトを作りたいのかを重視しています。

カラカニスそれと同様に、性格もほとんど気にしていません。もちろん、最低限持っていて欲しい良識や資質はあります。嘘つきは絶対に成功しないですし、押しが強い人の方がビジネスを有利に進めることができます。

しかし、起業は“パーソナリティコンテスト”ではありません。いかに人々を喜ばせるプロダクトをつくり、世界を変えられるかの勝負です。政治家や学級委員を決めるのであれば性格も大事ですが、これはビジネスです。気難しい人であれ、気楽な人であれ、消費者を喜ばせるプロダクトがあれば良いのです。

こちらの記事は2018年11月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

加藤 甫

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。