NPO設立に酒造の事業承継…28歳の「複業家」が仕掛けるVCとしての挑戦。
石橋孝太郎が設立「ガゼルキャピタル」の投資哲学に迫る
2019年9月11日、CROOZ VENTURESの立ち上げ人にして、元取締役の石橋孝太郎氏が、新たなVCファンドの設立を発表した。「ガゼルキャピタル」と呼ばれるそのファンドは、レガシーと呼ばれる業界を変革するスタートアップへの投資に注力していく。
石橋氏はこれまで、日本のローカルと積極的に関わるなかで、自分にしかできない「レガシー領域」との関わり方を発見。そのビジネスモデルを実現すべく、ファンドの設立に至ったという。石橋氏が描く新たなファンドビジネスの在り方と、その筋書きを聞いた。
- TEXT BY MONTARO HANZO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
日本中を渡り歩く「複業家」が気づいた、VCとして発揮できる自分だけのバリュー
石橋孝太郎氏は、現在28歳。2016年11月にCROOZ社の子会社として、投資会社のCROOZ VENTURES立ち上げに参画し、取締役に就任。2018年9月にCROOZ社に吸収合併となるまで、スタートアップのリサーチ、発掘からデューデリジェンスまでを担当し、シード期のスタートアップを中心に、約30社ほどの投資を担当してきた経歴を持つ。
学生時代には、大学生が使い終わった教科書を、国内の大学生に再販売し、その収益を活かして発展途上国の勉強がしたくとも金銭的なハードルなどで勉強ができない子どもたちへの教育支援を提供する非営利団体「STUDY FOR TWO」を立ち上げ、現在では日本全国で約50の支部を持つ組織に成長している。
CROOZ VENTURESの設立以前には、CROOZ社にて「地域社会×学生×ビジネス=地域活性化」をテーマとした宿泊型ビジネスコンテスト「BIZ CAMP」の主催を担当。5年間ほど継続的に地方自治体や、地域の事業者と関わり続け、そこから生まれた繋がりをきっかけに、現在は宮崎県日南市にて、仲間とともにLocal Local社を創業。焼酎の小売店、小売り事業を営む「日南酒造会館」の事業承継を実施し、展開中だ。
石橋自分自身もそうであったように、学生時代から人間の没頭で生まれる「狂ったような想い」に触れるのが好きでした。それを見つけたい、触れたい一心で、あらゆる環境、価値観、職業に関わってきました。
ただ、VCという仕事はずっと知らなくて。CROOZ社で若手人材を獲得する施策をディスカッションしていたとき、投資事業を提案したところ、役員会を通過し、取締役に就任したのがキャピタリストとしてのデビューでした。
「全く畑違いだった」というキャピタリストでの活動も、起業家の想いに突き動かされながら学習を重ねていき、シードラウンド向けの投資活動においては、2019年7月に大型調達の発表をした「Payme」や「ROXX」、8月に発表した「Hubble」などをシード時期より支援している。FastGrowでもかつて、石橋氏の活躍を紹介している。
石橋氏は2018年11月、CROOZ社から独立。新ファンド「ガゼルキャピタル」の準備に着手し、2019年5月に設立。主な投資領域は、製造業や医療、行政など、長い歴史を持ち、旧態依然とした構造から抜け出せない「レガシー業界」に挑むスタートアップたちだ。
石橋「BIZ CAMP」で地方へ赴き、地元の経営者さん、銀行さん、自治体さんたちと一緒にお酒を飲むなかで、彼らが共通して口にする課題がありました。それは地域での働き手の不足や、事業承継者の不足です。解決策がわからず、「このまま廃れていくだけ」とこぼすばかりでした。
ただ一方で、人が足りないにも関わらず、現場は自分の目から見ても、とても非効率的な既存の商習慣による取引やオペレーションを回していました。
そんな現状を前に、自分一人が事業を起業するのではなく、投資業を通じてアプローチする方が、起業家の絶対数をこの業界で増やすことができるのではないか。多くの起業家とともにこの業界を変えていくことがより効果的なのではないかと考え、ガゼルキャピタルを設立しました。
これまでの経験から投資を通じて、停滞感のある産業に刺激を与えられるのではないかと思ったんです。
足で稼いだ知見とスタートアップの結節点となり、レガシー領域を変える
これまでにも「レガシー領域の特化型ファンド」や「地方創生ファンド」は存在してきた。石橋氏の新ファンドは、自身がプレイヤーとしてレガシー領域の知見を、現場で学び続けていることが差別化ポイントに挙がる。
石橋日南酒造会館を承継させていただいてから、活動を地元紙やTVなど多くのメディアでも紹介してもらえるようになり、日南市内で知らないひとはいないほどの知名度になりました。東京から来た「よそ者」が何かをしている程度から、少しづつ与信が貯まっていき、地域の事業会社や地銀ともネットワークが生まれていったんです。酒類小売事業領域もレガシーな産業の一つでもあります。現場感覚を伴う叩き上げの知見が大きな武器になるんです。
それらの知見と、CROOZ VENTURESで蓄積した気鋭のスタートアップたちがシナジーを生むのだ。石橋氏は両者の「ハブ」になり、化学変化を起こそうとしている。
石橋現在進んでいる投資案件では、ある塗料・塗装業界の会社とスタートアップをマッチングさせ、塗料・塗装業界に特化したSaaSビジネスを構築しようとしているんです。
僕が足で稼いだ地方での与信を活かし、レガシーな産業領域の課題に触れる。その課題を解決できるシードラウンドのスタートアップとマッチングしていく。このモデルを増やしていきたいです。起業を志す優秀な若者が課題と出会い、サービスを生むきっかけも作っていきたいですね。
国内産業を救う「ファーム」を創り上げたい
石橋僕自身がやりたいのは「VCファンド」ではなく、日本の国内産業を次世代まで紡ぐことです。目指すは、国内産業の「負」を解決するノウハウを持ったスペシャリストが集まる「ファーム」ですね。VCファンドだけにとらわれず、ファームとして、事業承継ファンドなど他形態のファンドも通じて、レガシー産業と関わっていきたいと思っています。
いまはとにかく、「業界を変えたい」という情熱を持っている方や、起業に関心のある方々に、一人でも多く会いたい。既存産業とスタートアップをつなぐハブとして、投資させていただいた企業を精一杯に支援、応援し続けていけば、これまでとは異なる世界線が待っているはずと強く信じています。
ガゼルキャピタルの規模は約最大5億円。VCとしては小規模かもしれないが、彼らは「投資モデル」そのものに強みがある。レガシー領域の改善の先にある世界線を、私たちも期待したい。
こちらの記事は2019年09月11日に公開しており、
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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
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藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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