6年間で20事業を立ち上げた社員育成の哲学を、レバレジーズ創業者・岩槻に聞く

インタビュイー
岩槻 知秀

1980年生まれ。大阪府和泉市出身。早稲田大学社会科学部入学後、1年時からエンジニアとしてIT企業にてビジネス経験を積む。大学卒業と同時に、2005年にレバレジーズ株式会社を設立し、現在に至る。グループ会社の取締役も兼務。

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FastGrow読者であれば、「事業をつくり、伸ばす力を身につけ、経営人材として活躍したい」という志を持つ人も少なくないだろう。社会で活躍するため、自己成長を追い求めることは、もちろん非常に意義があることだ。しかしそれ以上に大切なのが、「何のために」「誰のために」成長したいのか。それを見失うと、もがいても一向に成果に結びつかない「負の連鎖」が起きてしまう。

「そんなことは分かっている」という声が聞こえてきそうだが、果たしてどれほどのビジネスパーソンが、真に理解できているだろうか。きっと、そう多い数ではないだろう。いかにして、説得力を持って成長の意義を伝えられるか。その答えを探すべく、私たちはレバレジーズ代表取締役社長、岩槻知秀氏のもとを訪れた。

同社は「社会全体から必要とされるための成長」を掲げ、創業当初からメンバーの成長環境に投資している企業だ。結果、2005年の創業から約15年で事業は40以上に広がり、正社員数は1200名以上にまで拡大。2020年度の年商は507億円で、一貫して黒字経営を続けている。「挑戦」と「経営基盤の安定」は一見すると相反するようにも思えるが、同社は「成長の意義」を問い続けることで、この難題をクリアしてきた。

そんな同社を牽引してきた岩槻氏の成長論は、時に厳しくも、事業成長に貢献できる人材になるためには欠かせないものだった。自分は何のために成長をするのか。その問いの答えに一歩でも近くヒントが詰まっている。

  • TEXT BY RIKA FUJIWARA
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かつては自分のキャリアにしか興味がなかった。
成長のあり方を教えてくれた「起業」

岩槻近年、転職が当たり前になりましたよね。それ自体は、本当に必要なものであれば悪いことではないと思うのですが、中には「2〜3年でこのスキルを身につけたら次の会社に行こう」など、「自分の成長」ベースで考えている人が散見されます。

社会に貢献できる人材になりたいのであれば、私はその考え自体を変える必要があると思います。本来、成長とは、自分が身に付けたいスキルや経験を計画的に埋めていくのではなく、その時に置かれている環境で成果を出すために、足りない力を身に付けて社会に貢献してくためにするものだと思うんです。「成果のために」成長するという本来の目的を忘れている人が多いんです。

岩槻氏が発した言葉に、思わずハッとさせられた。かつて日本に存在していた、終身雇用の考え方が崩壊し、選択肢が多様化した今、上昇志向が強い人ほど「今の会社はスキルを身に着けるためのステップだ」という考えに陥ってしまう場合も多いのではないかと感じたからだ。

岩槻氏は早稲田大学に入学し、1年生の頃からエンジニアとしてIT企業でビジネス経験を積んでいた。今でこそ「利他に根ざした成長」を掲げる岩槻氏だが、かつては自己成長に目が向いていたと振り返る。

岩槻大学時代、エンジニアをしていた時は、成果が重要であると考えていたものの「次にどんな言語を習得するか」「どんな経験を積むか」など、自分の計画的なスキルアップに関心の中心がありました(笑)。

岩槻氏は、大学卒業後の2005年にレバレジーズを創業。事業成長のために奔走する中で、いつしか自分の計画した成長には、ほとんど目が向かなくなったという。

岩槻起業すると、成果を出すために足りない部分を、まざまざと数字で押し付けられるんです。自分やメンバーの人生をかけて取り組んでいますから、何としてでも成果を出さないといけない。会社を存続させ、社会に必要とされる事業を届けていくためには、必死に目の前のことに向き合い続ける必要がある。「計画的にこう成長したい」などと悠長なことは言っていられなくなるんですね。この経験は、私にとって非常に大きなターニングポイントになりました。

「計画した成長」ではなく、「成果」を出すために今自分は何を学び何をすべきか。この意識は、起業を志す人材だけでなく、すべてのビジネスパーソンにとって欠かせないものだ。一見当たり前のようにも感じられるが、「成長」を追い求めていると時に見失ってしまうこともある。

岩槻氏は、会社の生死を分ける極限の状態で、自分の実力がダイレクトに数字に反映される経験を経たからこそ、早くから成長の意義を実感できたのだ。

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入社1年目を「責任者」に抜てきする意義

成長の意義に気づいた岩槻氏は、レバレジーズのメンバーに対しても、「成果のための成長」ができる人材になってほしいという思いを創業当初から抱き続けている。

それを実現するかのごとく「年齢や経験値を問わず、本人が背伸びをしなければ届かなさそうな仕事」をメンバーに任せることで、事業に対する責任感を育んできた。

岩槻基本的には、無茶振りするんですよ(笑)。本人ができなさそうな仕事を与えてみる。メンバーの様子を見て、「力を持て余している」と少しでも思ったら、年次問わず、責任者など裁量の大きな仕事を任せていきましたね。

規模が拡大してきてからは、一人ひとりの状態を把握することは難しいので、制度として組み込み、メンバーが成果にコミットできるスキルを育てる環境を整えてきました。

これまで多くのメンバーの成長を見てきた岩槻氏は、2名を例として挙げた。

一人目は人事部に所属するA氏だ(退社し起業したため匿名)。マーケティングソリューション会社の営業職から、レバレジーズへ転職。未経験で中途採用に挑戦し、実績を前年比160%にまで引き上げた。レバレジーズの成長に貢献できる成果をあげたメンバーに贈られる「ベストスタッフ賞」にも輝いた。

岩槻未経験ではあったのですが、前職で代表や人事担当者が「Aさんは、仕事を通して何ができれば楽しく生きられるのか」を問いかけてくれていたみたいなんです。その経験から「自分がキャリアにおいて求めること」が明確になり、一つひとつの仕事に意義を見出しながら取り組めるようになったそうで。

採用はもちろん、社員が活躍できる制度構築や環境づくり、能力開発まで関わっていきたいという思いから、人事職へのキャリアチェンジを考えていました。「他者貢献」に対する強い思いを感じ、任せてみようと決めました。

入社後、A氏は、メンバーが自主的にリファラル採用に関われるような説明会の開催や、属人的に行われていた採用業務を仕組み化するための「構造化面接」などに着手。採用業務以外にも、レバレジーズの企業理念やクレドなどを理解してもらう「マインド研修」も企画。採用に留まらず、業務の幅を広げ、前述の評価につながった。

もう1人挙がったのが、マーケティング部のメディカル事業部に所属する前川絵里氏だ。入社当初は、Webやパソコンの知識が全くなかった彼女だったが、1年目の後半に『看護のお仕事』のSEO責任者に抜擢される。

岩槻入社時点では、対外的なコミュニケーションは得意そうでしたが、Webサービスに対する知見はそれほど持ち合わせていない様子だったので、正直にいうと「大丈夫かな?」とは私も感じていたんです(笑)。それでも働き始めた姿を見て、イメージが覆りました。

「自分なりの成果を出したい」という目的意識を強く持っていて、成果を出すために足りないスキルを見極め、コツコツと努力をし続けられる人でした。そこで、思い切って責任者を任せてみようと考えたんです。

すると彼女は、持ち前の責任感を発揮し、他部署の担当者を巻き込んだ施策を積極的に実行し始める。掲載求人を増やす依頼をセールスに、サイト構築のスピード向上の相談をプロダクトサイドに、と縦横無尽に動いた。その結果、2年間でオウンドメディア経由での求人への応募数を3.5倍に伸ばした。

岩槻みんな、経験の有無に限らずトライ・アンド・エラーを繰り返して成長していきます。裁量を与えると、自分で判断する場面が増えるので、課題発見力や問題解決力がある人は能力が開花しますし、戦略の実行や検証を通して、自分の仮説に自信を持てるようになるんです。

例えば、メディアのデザイン一つとっても、「赤より緑の方がユーザーの反応が取れるはず」と感じていても、実際に検証をしないとわかりませんよね。検証をして、仮説が当たり、結果に結びついた経験があると、少しずつ自信が蓄積されていく。

そうやって、自分の仮説に対する自信や学びを得ることで、どんどん積極的になり、いろいろな難題に挑めるようになります。この力を得られれば、自己満足ではない、事業成長に結びつく成長を遂げられるはずです。

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失敗は当たり前だが、“成長のベクトル”には要注意

同社は、メンバーに裁量の大きな仕事を任せるだけではない。たとえ失敗してしまったとしても、リベンジの機会を与えていくのも大きな特徴だ。現在マーケティング部データ戦略室でリーダーを務める小山祥太郎氏は、入社1年目で新規事業立ち上げに参加したものの、成果が残せずクローズを経験。しかし、3年後には新たなグループで責任者となったのだ。

岩槻私は、失敗すること自体は悪いことではないと考えています。挑戦には失敗はつきものですし、私だって最近もよく失敗しますよ、人間ですから(笑)。

過去には成果を残せずに自信をなくして辞めてしまう人もいました。経営者として非常に悔しかったですね。他にも、私が心配になるような大きな失敗にぶち当たったメンバーを何人も見てきました。しかし、中には「事業成長」に貢献する意志を強く持ち、失敗を乗り越えて強くなっていく人も一定数、いたんです。

その例の一つが、小山です。新卒入社の頃から「新規事業がやりたい!」と志願してアサインされ、失敗を経験し、そこから学んで新しい施策や組織をいくつもつくり立ち上げてくれています。データ戦略室という新しい部署では、アーキテクトグループの責任者を務めた後、室全体のマネジメントを担ってくれています。頼もしいですよね。

ただ──と岩槻氏は加える。「失敗の仕方」によっては、そもそものマインドを改めなければいけないケースも存在する、と。

岩槻「自己成長」に目が向くあまり、「成果を出す」視点が欠けてしまっている場合があります。これはマネジメントの観点でも要注意ですね。

過去に、若手に事業を任せたものの、成果を出せずにクローズしてしまった事例があったんです。その以前から「この方向でいけばうまくいくのではないか?」と何度も社内ではアドバイスがあったのですが、彼はその行動を起こしていなかった。後にその理由を聞いたら、「その方向だと自分の勉強にならないから」と言ったんですよね。要するに「わざと失敗していた」んです。

彼は、顧客メリットとか、どうすればこの事業が上手くいくかを考えるより、自分の成長という目的を見ていたんです。だから、自身の興味関心という軸で、施策の優先順位や実施判断を決めてしまっていました。

そんな失敗から学べることなんてありません。周りの声に耳を貸し、健全に施策を検討したうえで、全力で挑戦した先にある失敗でこそ学べるんです。成功イメージを自分の中で持ち、その確信がある状態での失敗は上手くいきます。しかし、論理的に筋が通っているだけだったり、とりあえずやってみるというだけだったりすれば、そこから生まれる失敗は、成果にも繋がらないし、自分も成長しない。

どうやら「成長」を勘違いしてしまうと、「失敗からの学び」が目的になってしまう例もあるようだ。チャンスのある環境に身を置いていても、常に自分の言動を見つめ直していなければ、落とし穴にはまる可能性はあるのだ。

岩槻「利己」は人間である以上、誰しもが持っているものなので、ある程度は仕方がないと思います。ただ、責任者クラスになろうとするのであれば、「この事業を伸ばしていくために、どんな力を身につけなければいけないか」という成果や利他の精神に根差した成長が必要だと感じます。

自分が成長するために事業があるのではなく、成果を出し、社会に価値を還元していくために成長がある。この視点を持ち、常に意識して行動していけなければ、事業家として大きな成長はできない。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、きちんと腹落ちして日々実行できる人はそう多くないですよね。

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成長環境にいるかどうかを「可視化」、なぜそこまで?

ここまで、繰り返し「成果のための成長」の大切さを説いてきた。とはいえ、成長に貪欲なビジネスパーソンほど「自己成長」ばかりに目が向いてしまうパターンは少なくない。成果を残せずに焦っているときほど、利己に目が向き、その自覚もないままもがき続けることもあるだろう。そのときに、我々は何を指針に進んでいくべきなのだろうか。

岩槻各々が、会社でのミッションを持ち続けることが欠かせないですよね。もちろん、人間ですからスキルファーストで考えてしまうこともあります。ただ、成果にコミットするのであれば、「組織を成長させるまでやりきる」「顧客に価値を還元できるまで頑張り抜く」という意識が欠かせないのではないでしょうか。

もちろん、「価値観が合わない」「パフォーマンスが発揮できない」場合には、何年も同じ場所にコミットし続けるのもお互いにとって良くないとは思います。ただ、最初からそう考えるのではなく、中長期的に貢献先の企業のことを考えていくことで、成果にコミットできる成長の一歩を踏み出せるはずです。

成果に目を向け、事業成長に貢献できる人材として成長するためには、各々の意識改革が必要だ。それだけではなく、会社側もメンバーの責任感を育てていくための土壌づくりが欠かせないと、岩槻氏は最後に語った。

岩槻基本的には、メンバーのマインドセットを育んでいくために、私たち経営陣もメンバーと対話をしていくことが欠かせないと思います。そのために、できるだけ多くの若手メンバーと1on1の場を設け、成長のためのマインドセットを伝えるとともに、彼らが何を考えているのか、成果を出すためにどんな成長をしていくべきなのかを一緒に考えています。

成長のための成長ではなく、成果のための成長を遂げるというマインドをセットしたうえで、裁量の大きな仕事を任せれば、たとえ失敗したとしても、目的を見失わず、やり抜く力を手に入れるはず。

さて、ここまで読んで「確かにその通りだとは感じるが、理想論に過ぎない。岩槻氏は本当にこの課題意識のもとに、メンバー育成を行えているのだろうか?」そんな疑問が湧いた読者もいるだろう。最後にこの問いを投げかけてみると、驚かされた。

レバレジーズは、メンバー一人ひとりが適切な成長環境に身を置けているか、すべて客観的に把握しようとしているのだという。そんなことが果たして可能なのか、と取材陣も思ったのだが、岩槻氏の目は本気だった。社内のある部署で、実際にツール開発が進められているのだ。

基準として「自分は何をしていきたいのか」「社で背負うミッションは何か」「ミッション達成に向けて必要になる経験やスキルはどれか」「これから担うであろう業務において必要な経験はできるのか」といった観点を整理。これに基づき、現在置かれている環境を見定めようとしている。

岩槻私たちは、成果に向き合わない成長ではなく、事業を成長させ、社会のために貢献できる人材が活躍できる場を用意しようとしています。そのために、一人ひとりがしっかり自分のミッションを持ち、その上で必要な業務に打ち込めるような仕組みをどんどん整えようとしています。ツール開発ともなればもちろん、時間も費用もかかる取り組みになりますが、絶対に必要なものなので推進しています。

取り組みの成果として、最近も新卒8年目社員の子会社代表就任を決めました。300億円規模の売り上げがあり350人のメンバーがいる子会社です。小さいスタートアップでも、大きな企業でも、20代のうちからこんな経験、なかなかできないように思います。

私たちのサービスは、いずれも「世の中の一部で間違いなく必要とされるもの」だと思います。そうした社会的インパクトの大きい事業を20代で経験でき、責任感を育んでいける環境がありますし、これからもそういった場をどんどん増やしていきたい。

責任感を持って顧客と社会に本気で向き合い、事業をやり抜きたいと考える人とともに、この先の事業拡大に挑戦していきたいですね。

こちらの記事は2021年08月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤原 梨香

ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。

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