「他者のために働く“志事”こそ成長ができる」──LIFULL senior 泉氏が語る、社会課題を解決する“利他の働き方”から得られるものとは
Sponsoredデスクワーク系のホリゾンタルSaaSを筆頭に、日本でも既にユニコーン起業が生まれ、徐々に業界は成熟期を迎えつつある。一方で、レガシー産業はまだまだDXの余地を残しているのが現状だ。ゆえに、日本の起業家、投資家はこのレガシー産業に熱い眼差しを注いでいる。
中でも大きな可能性を秘めいているとされているのが、介護領域である。介護というキーワードに、「興味がない」と直感的に反応した読者も少なくないだろう。なぜなら、今回のインタビュイーであるLIFULL senior代表取締役 泉 雅人氏も、かつてその一人であったからだ。
今回は、そんな泉氏に、今後の急成長産業との呼び声が高い介護領域の真実を伺っていこう。
レガシー産業の大きな誤解、成長産業としてのポテンシャル、そしてLIFULL seniorが僅か数年で10倍以上の規模の競合サービスに打ち勝った手腕、組織を1ランク上にUPDする方法論......などなど金言満載の内容だ。
多くの優秀なビジネスパーソンがこぞってこの領域に飛び込んでいる現代。この記事を読めば、貴方もこのマーケットの魅力に取り憑かれることだろう。
- TEXT BY MISATO HAYASAKA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
超高齢社会=介護業界は伸びる、は誤解。
向き合うべきは二つの課題
「介護業界は、このままの状態なら伸びるどころか衰退しかない」。取材が開始されるやいなや、衝撃的な言葉を口にする泉氏。超高齢社会=介護マーケットという世間の認識は間違いであるという。一体どういうことだろうか。
泉超高齢社会を迎え、今後も介護・高齢者ビジネスは伸びるとよく誤解を抱かれます。しかし、そもそも若者が減り高齢者が増えている現在では、介護保険の財源である税収が厳しいため、このまま放っておけば業界自体が衰退の一途を辿ってしまうとも言えます。
というのも、介護施設の収入源となるのは“介護報酬”です。介護報酬は、介護保険が適用される介護サービスにおいて、事業所・施設に対価として支払われる報酬のこと。
つまり、少子高齢化が進めば進むほど、何も手を打たなければ税収減によってマーケットは衰退していく運命にあると言えるのです。
ただ一つポジティブな事実として言えるのは、“関わる層が増えている”ということ。それは、それだけ課題が大きく多岐にわたるということを意味します。なので、「マーケットの“ポテンシャル”は?」と聞かれると、間違いなく大きいと答えることができます。
泉氏は、介護業界の真実をもう一つ教えてくれた。
泉儲かるのか、儲からないかの話だけで言えば、はっきり言って「介護業界における人材紹介業は儲かる」と言えます。なぜか。それは、人材の需要に対して供給が足りておらず、介護人材の希少性が高いからです。
実際に、2022年1〜9月は、老人福祉・介護事業事業の倒産件数が最多を記録。2017年には東京23区の特別養護老人ホームの3割以上が空床となっています。その原因こそが人材難であり、職員の採用難度が上がり続けているんです。
その一方で、働いている人口自体はそれほど変わらないため、業界内の人材が内部でグルグルと流動しているに過ぎないという事実もあります。その度に、採用手数料が発生して人材業界に流れる分、それが過度に続くと介護業界自体が衰退してしまうという側面もあるんです。
泉氏の口から明かされたのは衝撃的な二つの真実だ。
まず一つ目に、介護業界自体は、税収減によって衰退していく可能性がある。そして二つ目が、慢性的な人材不足である。介護業界に深く根付くこれらの課題には、未だに明確な解決策が見つかっていないのである。
しかし、「課題が多い」ということは、そのマーケットに大きな可能性があるということだ。
我々もあらためて、解釈を改めなければならないだろう。“成長産業”の背中に乗れば安泰だ──そんな考えは通用しない。業界に新たな風を送る、パイオニアが求められているのだ。
10倍以上の掲載数を誇る他社サービスに打ち勝つ術
“LIFULL”と聞くと、不動産・住宅情報サイト『LIFULL HOME'S』を想起する読者が多いかもしれない。同社には10を超えるグループ企業があり、そのうちのひとつが、LIFULL seniorである。
そんなLIFULLグループには、“利他主義”という社是がある。この社是こそLIFULLの社会的存在理由であり、究極の行動原則なのだ。そしてこの社是に惹かれてLIFULL(当時の社名はネクスト)に入社したのが、まさしく泉氏である。子会社のLIFULL seniorにも利他主義は浸透しているというが、そもそも、利他主義とはどういう意味を成すのだろうか?
泉“相手のために尽くすこと自体が自分の喜びである”という考えのことです。自らの名声を上げたいなど、見返りを求めて尽くそうと考えるのは利己主義ですね。LIFULL seniorは“儲かりそうだから”スタートしたのではなく、課題が大きく、困っている人が多いからこそ始めた事業です。
“相手のために”は利他主義で、“自分のためだけに”は利己主義。社是を持ってして世の中の負を見渡した際に、介護領域にも挑むべきだと判断して興されたのがLIFULL seniorなのだ。ここで少し、同社の歴史を振り返ってみよう。
元はLIFULLのいち事業だった『LIFULL 介護』。アイデアの萌芽は10年以上前にさかのぼる。社内の新規事業提案制度で、ある一人のメンバーが、介護施設を探すのに苦労した体験をもとに事業を提案したのだ。
利他主義を掲げる同社は「これを解決するのは私たちの役目だ」との強い意志から、実際に事業化が進められたのである。そのビジョンは、“シニアの暮らしに関わる全ての人々が笑顔あふれる社会の仕組みを創る”。泉氏曰く、この“全ての人々”という部分が肝であるという。
泉高齢者ご本人だけでなく、業界で働く人、医療機関の人、行政の人……高齢者を軸にこの業界に携わっている全ての人々に向けて、この事業を広めようと考えました。
業界の方の困りごと“全部”を解決する事業を目指そうということを、私が入社した2010年の段階で決めていたんです。
介護施設探しのサービスを起点に、それだけで終わらない、笑顔あふれる社会の仕組みを一から創り上げる──。そんな強い信念のもと立ち上げられたのが、介護施設や老人ホームをはじめとした、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国38,000件以上掲載する『LIFULL 介護』だ。
しかし、サービス立ち上げ当初には既に世の中には類似の他社サービスが存在しており、『LIFULL 介護』が100〜200件程度の掲載数である一方、競合サービスは2,000件を超える掲載数を誇っていた。その規模の差は10倍以上だ。
サービスとしては完全に後追い。そこからどのようにして、現在のように業界最大級の規模にまで掲載数を拡大したのだろうか?ここで前職ではWebサービスのグロースに携わっていた泉氏の手腕が遺憾無く発揮される。
泉事業立ち上げ初期は、一人の営業により一件ずつ掲載数を増やす手法をとっていましたが、それでは競合サービスとの差は縮まるどころか、大きくなるだけ。後発である私たちは、その立ち位置に相応しい戦い方をする必要があったんです。
まず、ポータルサイトの価値とは、分かりやすく言えば“たくさんの情報があること”ですよね。情報量の多さは、ユーザーの満足度を高め、結果的にポータルサイトの利用頻度が高まり、Googleのアルゴリズムからも良い評価を受けやすくなる。なので、まずは“顧客数”ではなく“情報量”を増やしていくことにシフトしたんです。
介護業界で介護の情報を多く蓄積している企業と連携し、送客支援の見返りとして、情報を提供してもらいました。連携企業は、自分たちの情報をより広く発信することで、介護施設を探しているユーザーとの接点を増やすことができる。私たちは情報を提供してもらうことで、サイトとしての価値を上げることができる。
これを起点としてポータルサイトの利用者数は増加し、メディアとしての影響力が高まりました。結果として介護施設の方々の方から「ウチも掲載したい」と言っていただくことが増えたんです。
『LIFULL 介護』立ち上げ時のチームは、泉氏含めてたった2人。しかし、Webサービスに明るい泉氏の知見により、メキメキと結果が現れた。そして、チームが7〜8人になった時には、業界でも最大級の利用者数を誇るサービスへと成長していたのである。
これらの実績が認められ、LIFULLのいち事業であった介護事業は子会社として独立することになる。LIFULL seniorはその後も、『LIFULL 介護』のみならず、遺品整理業者の検索サイト『みんなの遺品整理』、Webメディア『tayorini』といったようにサービスラインナップを拡大させ続けている。
“利他主義”から生み出された事業の芽は、“シニアの暮らしに関わる全ての人々が笑顔あふれる社会の仕組みを創る”というビジョンへと花を咲かせ、今なお成長を続けているのである。
“人参”のために働くつらさ、“人”のために働く喜び
10倍以上の規模を誇る競合サービスが存在するマーケットにおいて、後発ながら僅か数年で業界最大級の事業を創り上げたLIFULL senior。そんな同社を代表取締役として牽引する泉氏とは一体どんな人物なのか。本章では泉氏のパーソナリティにスポットライトを当てていきたい。
「どうせやるなら大きいことをしたい」。学生時代からこのような想いを抱き、世の中にない事業をつくることを夢見ていた泉氏。その頃から、将来は漠然と“社長になる”という思いがあったという。そこでまずは、“稼ぐ力”をしっかりと身につけるべく、営業職として新卒で中古車業界の世界に飛び込んだ。「泥臭い営業活動で、人生で一番きつい仕事だったかもしれません」と、泉氏は当時を懐かしく振り返った。
1社目にてセールスパーソンとしての力を養った同氏はその後リクルートに転職。リクルートでの経験から事業家としての心得、組織力の偉大さに気づくと同時に、当時世間を席巻していたインターネットの産業にも興味を広げていった。
そして、後に泉氏の“働く”に対する価値観を大きく変化させることとなる、ITベンチャーの立ち上げフェーズに飛び込むこととなる。
泉2000年代初頭、当時はまさにITブームでした。「インターネットに関わらないと人生損する」と気付き、立ち上げまもないITベンチャーにジョインしました。そこでの初日の仕事はIKEAの家具の組み立てでしたね。(笑)
そこで約三年間、最初は営業しか強みがなかった私は、事業を一からつくり上げていく、Webサービスを収益化させていく、など様々な経験をしました。この頃は、「お金を稼ぎたい」と野心に満ち溢れながら仕事をしていましたね。しかし、そんな毎日にどこか違和感を感じ始めたんです。
“馬の鼻先に人参をぶら下げる”と言いますが、“人参”のために働くのはとてもつらいということに気づいたんです。それから、純粋に人の役に立つことをしたいと思うようになりました。
「人の役に立つことをしたい」そんな想いを胸に新たな企業を探す中で、偶然出会ったのがLIFULLだった。
泉LIFULLと出会ってすぐに感じたこと、それは「分かりやすいくらい“利他主義”な企業だな」というものでした。LIFULLグループの代表である井上の想いに感動して、すぐさま入社を決めましたね。
僕が入社した当時は、LIFULLがWeb領域の新規事業をどんどん展開していた頃でした。その中で偶然携わることになったのが、まだ社内でもできたばかりの介護業界のサービスだったんです。
実は正直言うと、当時は「介護には興味が湧かない」と思いましたが、携わってすぐに、「困っている人しか使っていないサービスだ」と実感できました。
これまでにも、様々なユーザーのニーズと向き合ってきた泉氏。「もっと稼ぎたい」「いい企業に転職したい」など、ユーザーの欲求は多岐に渡るものだった。
しかし、LIFULL 介護のユーザーの目的はただ一つ、“自分の家族に適した介護施設を探す”というもの。美味しいレストランを探すかのように「どこにしようかな」とイキイキしながら施設を探す人はおそらく存在しないだろう。ユーザーは常に“困っている”のだ。
もちろん、入社当時は泉氏自身に介護経験がなかったため、その大変さをリアルに想像できなかった。しかし、実際にユーザーとコミュニケーションを取り、介護に対する解像度が上がるにつれ「仕事にドハマりしていった」と語る。「人のためになれる、感謝される仕事だ」と、心底感じることができるようになったのだ。人の人生、しかも、人生の最後のシーンに直結する仕事。世の中の役に立っているということを、常々泉氏は体感したという。
ここで泉氏は、「私にはひとつ自慢があって」と、取材陣に微笑みかけた。
泉LIFULLに入社してから今までの13年間、朝起きて「仕事に行きたくないな…」と思った日は一日たりともないんです。これが、私の自慢です。誰かの役に立てているという実感と、自分で決めて事業を動かしていけるといった実感があったからだと思います。もちろんここまでの道のりは大変なことばかりでしたが、働きたくないと思ったことは一度もありませんね。
ぶら下げられた“人参”に食らいつこうとしていた若手時代。野心はそのままに、視点を“利己”から“利他”にシフトした泉氏。すると、苦しかった仕事から解放され、仕事が楽しくて仕方がないと感じるほどになったのである。
ひょっとすると、読者の中にも昔の泉氏のように、自身にベクトルが向いている人もいるかもしれない。「理想とするキャリアを築くためには多少の犠牲も必要だ」「他よりも先んじて成長していくにはセルフィッシュな考え方も大事だろう」と。確かに、燃えるような野心は若手のうちであれば特に重要であることは否定しない。しかし、「そのためならば周囲を押し除けてでも前へ出よう」といったスタンスでは、いずれあなたの周囲に人はいなくなる。
泉氏のエピソードは、成長したいと考えるすべての若者にとって参考になる示唆が含まれていると感じる。
“30人の壁”を乗り越えたのは、やはりビジョン
ここまで、LIFULL seniorの成り立ちや泉氏の経歴を見てきた。「順調そのものじゃないか」と感じる読者が多かったことだろう。しかし、数多のスタートアップ・ベンチャーがそうであるように、LIFULL seniorもとある壁にぶつかったという。俗にいう“組織の壁”だ。
泉急成長を急いだ結果、組織のコンディションが一時的に悪くなる経験をしました。このタイミングが、精神的に一番大変な時期でしたね。
というのも、LIFULL では組織のサーベイ・スコアを取り続けているのですが、LIFULL seniorを子会社化した当初は、事業も順調に成長していたため何もしなくともスコアが最高の水準で推移していたんです。しかし、そこから組織の急拡大を進めていたところ、スコアがストンと落ちる瞬間があったんです。そう、それがちょうど、30人を超えたくらいの時期、つまり“30人の壁”です。
これまで、会社経営の経験はなく、30人を超える組織のマネジメント経験もなかった泉氏。そんな同氏がとった施策は、あまりにもシンプルなものだった。
泉社員一人ひとりに、期待と現実のギャップをヒアリングしていきました。何を実現したくて、組織に何を期待していて、現実はその期待とどう離れているのか。私の至らなさからくる点は素直に受け止め、愚直に改善していきました。
ヒアリングの中で見えてきたのは、ビジョンと個人の繋がりが見えにくくなっていることだった。組織の拡大により個々人の管掌領域はどうしても細分化されていく。すると個人の、目の前の目標を達成することに傾倒してしまい、大目標であるビジョンが見えにくくなっていくのだ。分かりやすくいえば、“売上のために仕事をする”という発想になってしまう。
泉試行錯誤の末に辿り着いたのが、“ビジョンの再設定”でした。
それまでの、“シニアの暮らしに関わる全ての人々が笑顔あふれる社会の仕組みを創る”から、“老後の不安をゼロにする”へ変更したんです。すべての人に訪れる人生後半の時間は、健康、家族、お金などの不安が山積しています。その不安をなくすことで、笑顔あふれる世界にしたい。そんな想いをビジョンに込めたんです。
壮大でありながら、心にスッと入ってくるビジョンを再設定したことで、“自分たちがなぜ、何のために今の仕事をしているのか”について、誰しもが語れるようになっていきました。
結果、組織のスコアもV字回復を遂げる。社員ヒアリングによる課題把握と改善、ビジョンの再設定が功を奏したのだ。
泉この出来事は私にとっても大きな学びとなりました。“事業を伸ばす”と“組織をつくる”はまったくの別物であると知ったんです。ヒューマンリソースは本当に大事だと痛感しました。
大変だったけれど、この経験をもとに、現在は良い組織をつくれていると思っています。朝起きたとき、“なぜ、何のために仕事をしているのか”に答えられる組織が健全な組織かなと思っているので、そんな組織をつくり続けたいですね。
目覚めた瞬間の思考がすっきりした状態で、自分の仕事の意義を言語化できる──。それは、常日頃から、自身のミッションを自覚できているということだ。理想の組織像を、泉氏は現在も追い求め続けている。ぜひ読者の諸君も今一度、自問自答してみてはいかがだろうか。
一番は“人”、二番以降に“自分”。
メンバーの共通項
前章ではLIFULL seniorが組織の壁に直面し、ビジョンを見直すことで無事に乗り越えたストーリーを紹介した。泉氏からは「ヒューマンリソースが大事」との言葉があったが、そんなLIFULL seniorにはどのようなメンバーが揃っているのだろうか。
泉一人ひとりの専門領域のスキルを見ると、全員自分より上ですね。(笑)
人が一緒に働く意味は、それぞれの能力や特徴が違っているからだと思っています。ビジョンへの共感具合は全員が同じ状態を目指しつつ、そこで発揮するスキルに関しては“人と異なる”スキルを持った仲間が集まるからこそ、企業になるんです。
スキル面では、代表の泉氏よりも優れたメンバーが集っているというが、人柄としては、「いい人しかいない」と、泉氏は嬉しそうに語る。
泉面接を受けてくれた採用候補者、ほぼ全員に「LIFULL seniorのメンバーはいい人ばかりですね」と言われるんです。自慢の仲間を揃えられたな、と思います。その理由を突き詰めると、“利他主義”を掲げて働いている人ばかりだからかなと。つまり、自分のためだけに働いている人がいないんですよ。
「出世したい」「稼ぎたい」と自分にベクトルが向いていることはもちろん決して悪いことではありません。しかし、それが一番に来てしまうと、何かと人とぶつかる原因になります。一番は他者へのベクトル、二番以降に自分へのベクトル。この順番こそが大事だと思います。
自分にベクトルが向くこと自体は悪いことではない。事実、皆が「出世したい」「稼ぎたい」とギラギラした組織の勢いは凄まじいものがあるだろう。しかしながら、それでは個々人の衝突は避けられない。そしてもちろん、そこには“利他主義”、つまり他人を幸せにするという考え方が入り込む余地はない。
泉氏自身が、自分のことしか考えずに仕事をすることにより苦しんでいた張本人であるからこそ気付くことができたのであろう。
泉「こうなりたい」と思い続けていると、目指す自分と今の自分とのギャップが生まれ続けてしまう。だから、苦しかったんだと思います。でも、“利他”に視点を合わせたら、世界が変わるくらいに、何もかもが変わったんです。
事業をつくるのは結局人ですよね。「人は城、人は石垣、人は堀」つまり会社は“人”そのものなんです。その“人”が大義やビジョンのために自分はこう役立てるんだ、強みはここにあるんだ、という思いで働くことができる組織は、やはり強いです。
そんなLIFULL seniorであるからこそ、メンバー集めにおいて重視するのはやはり、“ビジョンフィット”だ。いくら輝かしい経歴を持っていても、ビジョンフィットに対する懸念があると、見送りになることも少なくない。候補者の過去の生き方、考え方にしっかりと耳を傾けながら、LIFULL seniorとの接点を探っていく。
ここで意外なことは、LIFULL seniorに入社前から“利他主義”を体現できているか否かは必ずしも必須ではないということだ。その理由はやはり、泉氏自身がこのLIFULLグループに身を置く中で変わることができたからだろう。
もちろん、利他主義を既に体現する人物が参画してくれることは大歓迎であるが、「これから利他主義になりたい」「利己主義から脱却したい」という人物にも遍く、LIFULL seniorの門戸は開いているのだ。
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子会社=裁量がないは間違い。
放任主義でこそ、人は楽しく働ける
ここに至るまで、LIFULL seniorの実態を事業、人、文化、泉氏の人物像という多面的な視点から紐解いてきた。一方、多くの読者が疑問に抱くであろう点が残されている。それが“子会社の自由度”であろう。
「親会社と子会社には上下関係がある」、「子会社には自由がない」、これは決して都市伝説ではない。LIFULLグループではどうなのか、泉氏に率直な意見を求めた。
泉基本的に自由にやらせてもらっていますね。裁量は十分にあります。そもそも、なぜLIFULLがグループ経営を推し進めているのかと言ったら、“経営者の育成”のためなんです。ですので、LIFULLグループにおいては原則、放任主義がベースとなっています。なので「これをやれ」といった指示は一切なく、一方で「どうしたいのか」を問われるんです。
その裁量の大きさは、LIFULL seniorのメンバーにも及んでいる。例えば、『みんなの遺品整理』という事業は社員の発案だ。社内の新規事業コンテストにて受賞、そのまま事業化されたという。そして事業化から現在まで、泉氏は一度も細かな口出しはすることなく、壁打ちやアドバイスを求められた時だけ関わるように心掛けている。
泉経営者として、会社が傾くほどの危機だと判断しない限り、大きな方針以外は基本的には託しています。
何よりも大切なのは“仕事は楽しむもの”なので。自分の意志で決めて、自分の意志で進めることで、仕事は楽しくなる。自分自身が納得してないのに、「よくわからないけど指示されたからやる」というのは一番ダメな仕事のやり方です。ですから、メンバーから「こうしたいです」と言われたら、断る理由がない限りまずは「やってごらん」と答えるようにしています。
孔子の言葉に、「これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉があります。つまり、「好きな人よりも、楽しんでいる人のほうが、圧倒的にすごい」ということ。僕が一番大事にしているポリシーでもありますね。
自ら意志を持って取り組める、裁量権のある環境。その理由は、一人ひとりが仕事を楽しむためだったのだ。LIFULL seniorは、一度入社したら長く働く社員が多い。離職率がIT業界でも群を抜いて低い理由が、垣間見れたのではないだろうか。
取材も終盤に差し掛かるころ、泉氏は心温まるエピソードを紹介してくれた。
泉メンバーが「本当に人のためになれる仕事をやれてよかったです」と話してくれたことがありまして。私も長らくそうでしたが、そのメンバーも前職においては“いかにして売上を上げるのか”を求められる環境だったそうです。
それが、LIFULL seniorに来てから一変したと。やはり“利己”から“利他”にスイッチを切り替えた時、人生は大きく動くんじゃないかと思います。
今回の取材で頻繁に出てきた、利他主義と利己主義。歴史を振り返ると、「なぜ、利他主義は利己主義よりも個人を幸せにするのか?」という命題に対して様々な意見が語られてきた。
アメリカの公民権運動の指導者であり、ノーベル平和賞受賞者であるキング牧師の演説にこんな一文がある。「人間はだれでも、創造的な利他主義という光の道を歩むのか、それとも破壊的な利己主義という闇の道を歩むのか、決断しなければならない」。
人生の軸を“利他主義”と“利己主義”のどちらに置くのか。今こそ、この選択と向き合ってみてはいかがだろうか。
こちらの記事は2023年01月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
スタートアップ人事/広報を経て、フリーランスライターへ。ビジネス系のインタビュー記事や複数企業の採用広報業務に携わる。原稿に対する感想として多いのは、「文章があったかい」。インタビュイーの心の奥底にある情熱、やさしさを丁寧に表現することを心がけている。旅人の一面もあり、沖縄・タイ・スペインなど国内外を転々とする生活を送る。
写真
藤田 慎一郎
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