ネット業界で黒字を続けて18年。
モバイルファクトリー代表が語る、成長を続けるための鉄則

登壇者
宮嶌 裕二

1971年、東京都生まれ。1995年に中央大学法学部卒業後、株式会社ソフトバンクに入社。1999年7月には株式会社サイバーエージェントへ転職。オプトインメール事業「メールイン」を立ち上げる。2001年10月、有限会社モバイルファクトリーを起業。2003年4月に株式会社モバイルファクトリーに組織変更、代表取締役となる。位置情報連動型ゲーム『駅奪取PLUS』をはじめとしたアプリゲーム制作や着メロ配信など、モバイルコンテンツ事業を展開。2018年7月にブロックチェーン技術を用いたサービスの開発・運営・販売を行う株式会社ビットファクトリー 代表取締役に就任。

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ソーシャルゲーム事業などを手がける株式会社モバイルファクトリーは、五反田スタートアップ界隈を牽引するインターネットカンパニーのひとつだ。

エンタメ・ゲーム事業で知られている同社だが、「モバイルファクトリー=モバイル上のサービスを生み出す工場」と定義し、2018年からゲームにこだわらず、ブロックチェーン関連事業にも参入している。その歴史を辿ると着メロを中心としたモバイルコンテンツ事業からスタートし、ゲームを始めとした様々な事業へと展開させてきている。 今年で創業19年目になるが、2年目には黒字化、それ以来一度も赤字を出していない。安定した成長を続けるビジネスモデルの背景には、宮嶌裕二代表の壮絶な原体験に基づく独自の経営スタイルがある。

2018年12月14日に開催されたイベント『【ブロックチェーン領域にも進出】インターネット事業を成功させ続ける起業家が語る、成長し続ける経営術』では、その経営スタイルが生まれた背景から、時代に合わせて変化し続けていく術が語られた。

  • TEXT BY RYOKO WANIBUCHI
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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「お金持ちになりたい」その一心で起業の道へ

モバイルファクトリー代表の宮嶌裕二氏が起業したのは、ちょうど30歳のとき。上場前のソフトバンク、急成長期のサイバーエージェントを経て、満を持しての起業だった。

起業に至る原体験は、学生時代にまで遡る。19歳のときに親の事業が倒産。一家はバラバラになり、苦しい暮らしを余儀なくされたことがきっかけだった。「もう二度とこんな目に遭わないように」という想いが、走り続ける原動力になった。

宮嶌起業のきっかけを聞かれてかっこいいことを答えられる人もいますが、私の場合は「お金持ちになるため」です。借金取りが毎日家に押しかけてくる悲惨な日々を経験し、「力とお金がないと大切な人は守れない」と、そんなことばかりを考えていました。必死にお金持ちになる道を調べた結果、起業して上場するのが間違いない。親の事業が倒産した年、19歳のときに決心しました。

そうは言っても、どのように起業し、上場すれば良いかは19歳の宮嶌氏には知るよしもなかった。絵に描いたような苦学生として学費と生活費を必死に稼ぐなか、希望の光となったのがソフトバンク創業者である孫正義氏の存在だった。

宮嶌孫社長は差別のある地域に生まれ、努力して今の立場を勝ち取った人だと知りました。何も持っていない人間でも、そこまで行ける可能性がある。なんとかそう言い聞かせて、自分を励ましていたんです。起業のために孫さんのような優秀な経営者のもとで学びたいと思い、大学卒業後はソフトバンクに入社しました。

当時のソフトバンクは上場前で、ソフトウェアの卸売が主な事業。社内では、自分の上げた利益が日ごとで目に見える「日次決算」が仕組みになっていました。当時身につけた管理会計スキルは今の経営にも生きています。あの時の経験がなかったら、モバイルファクトリーもここまで成長できなかったかもしれません。

ソフトバンクで経験を積んだ後、まだ10名前後のスタートアップだったサイバーエージェントに転職。起業から上場に至るまでの急成長を目の当たりにし、組織の発展にとって人材採用がいかに大切かを学んだ。この経験は、「人」を資産として捉え、何よりも大事にする今の経営スタイルにも生きている。

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19年間成長させ続けたのは、絶対に赤字を出さないスタンス

2社で修行を積み、ようやく自分の会社を立ち上げたのが2001年。時代の波を読み、選んだのは着メロ事業だった。宮嶌氏の読みは当たり、翌年には黒字化、以来モバイルファクトリーは黒字経営を継続している。

その根底には、「絶対に赤字を出さない」という宮嶌氏の強い信念がある。

宮嶌赤字は大嫌いです。実家の破産から、お金を借りることがいかに惨事を招くか、身に沁みてわかりました。だから絶対に黒字化させるために、要素をすべて変数に落とし込み、どれだけ利益を生める事業なのかをとことん計算し、確実に回収できる投資しかしないと決めています。

ソーシャルゲームの場合は離脱率や課金率をくまなく数値化し、売上が立つまでをシミュレーションしていきました。赤字になりようがない戦略設計をしているんです。そのために、他社のIR資料を読み込み、どのKPIが重要なのか、どこを押さえれば儲かるのか。その仕組みを頭にたたき込みました。IR資料は最も参考になるビジネス書です。

最近は、資金調達を繰り返し、短期間に大胆な成長を仕掛けていく起業家の成功も目立つ。宮嶌氏は、そのやり方をリスペクトしながらも、「我々の戦い方はそうではない」と言う。

起業してまず手がけたのは着メロ事業は、前職時代の経験から「小ロット短納期で販促に使えるレンタル着メロサービスがあれば売れる」という確度の高い仮説があった。その仮説があたり、年間2〜3億円の利益を出し続ける主力事業となった。

そこで得られた安定した収益を活かし、2009年に新規で挑戦しはじめたのがソーシャルゲーム事業だ。

宮嶌ソーシャルゲーム事業は、もともと自分がゲーム好きだったこともあり、手掛けたいという想いもありました。その上で、当時mixiやMobageといったプラットフォームが台頭しはじめ、「やるならこのタイミングだな」と選択しました。新しく事業を始めることになったのですが、離脱率、課金率などを分析した結果、「位置ゲーム」という当時はまだニッチなものに目をつけました。当時、RPGやパズルゲームは溢れていたので、ちょうど良いポジションをとれました。

儲けられる領域を見極め、確実に儲かる仕組みで、ビジネスを立ち上げ続けた宮嶌氏。しかし、変化の激しいインターネット業界において、読み通りにビジネスを回していくのは容易ではなく、苦労や失敗がなかったわけではない。

宮嶌もちろん苦しい時期はありました。ゲームで稼ぎ続けるには継続率が重要になりますが、最初はその観点にフォーカスできず、自分たちがつくりたいゲームをつくり、全くヒットゲームが出せない時期がありました。2年間の事業としての赤字時期を経て「位置ゲーム」という継続率が高く、長く遊べるジャンルにフォーカスしたことで、事業が急成長しましたが、それまでは本当に利益が出ず、苦心する日々でした。

ただ、苦しい経営状況のなかでも、ずっと支えになっていたのは着メロを含むモバイルコンテンツ事業です。安定して利益を出し続けてくれる事業がベースにあると、会社としてはリスクを抑えて挑戦できる。次々に事業転換しているイメージがあるかもしれませんが、基礎は変わりません。

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ブロックチェーンで、アプリ業界を次の時代へ

堅実な事業基盤と、綿密な戦略を積み重ね、挑戦を続けてきたモバイルファクトリー。同社が2018年頭に参入したのがブロックチェーン関連のサービス事業だ。ブロックチェーン技術を使った分散型アプリケーション(DApps)の普及を目指し、子会社の株式会社ビットファクトリーを立ち上げ、開発に専念している。

事業転換の背景には、「より中長期で事業を立ち上げねば」という視座の変化があった。

宮嶌ちょうど子どもが生まれるタイミングで、2ヶ月間の育休を取ったんです。その際に、中長期的な自社の未来を考える時間が確保できました。「お金持ちになりたい」という起業の目的をある程度は達成してしまった今、お金儲けではなく、自分の孫の代まで続くインフラのようなサービス、より多くの世界の人が利用するービスを作りたいと考えました。

その最右翼が、ブロックチェーン事業だ。モバイルファクトリーは、エンジニアのレベルにこだわり抜いて採用を行ってきた結果、優秀なエンジニアを数多く擁する。ブロックチェーン領域に参入したい起業家は多いが、技術力が伴わず断念するケースが多いと知り、そこへの挑戦がひとつの勝ち筋として見えた。宮嶌氏は、ブロックチェーンの可能性を以下のように見据える。

宮嶌ブロックチェーンにより、今後10年でインターネットが世に出てきたときと同じくらいの変化が訪れます。業界構造も大きく変わり、主要なWEBサービスも5〜10年でそっくり入れ替わるかもしれない。

インターネット初期のような、大きなうねりがおこる時代に、この業界に参入しない理由はありません。ブロックチェーンはスマホシフトの次に起こる大きなトレンドです。この5〜10年はそこに全力投球するつもりです。

この可能性のある領域において、宮嶌氏はインターネット業界自体の勢力図を変えたいと言う。

宮嶌私たちが提供したいのは、WEBサイトを作る感覚で分散型アプリケーション(DApps)を作れるツールです。ゴールドラッシュの時代に例えると、誰もが必要なツルハシを作ろうとしているんです。アプリの裏側で動くのでユーザーからはブロックチェーンだとわかりませんが、開発側から見たアプリ業界は大きく変わる。だからこそ、開発者が簡単にブロックチェーンに触れることができるツールや環境が必要になる。私たちがその環境を整備し、新しい形のアプリを増やしていくことで、GoogleやAppleに支配されたインターネット業界に新しい選択肢を与えたいという考えです。

「インターネットの会社」として、次の時代を構築するサービスを作る──それが、いまモバイルファクトリーが描く未来の姿だ。

宮嶌今のモバイルファクトリーであれば、日本に留まらず世界に通用するサービスを作れます。まだ見ぬユーザー体験を作り、新しい文化を作る。大好きなインターネット業界でそれが実現できるなんて、考えただけで興奮しませんか?

着メロ、ソーシャルゲーム、そしてブロックチェーンと、世の中の流れに合わせて事業をフィットさせてきた宮嶌氏。儲けられる領域を見極め、安定して収益を得られる仕組みを作り、キャッシュエンジンを確保しつつ成長させていく。方法はシンプルだが、その裏には膨大な思考があってこその成果なはずだ。方法論にとらわれすぎず、基本を、ロジカルに、とにかく突き詰める。宮嶌氏のやり抜く力があってこその成果ではないだろうか。

変化の激しいインターネット業界において、常に最先端を走り続けてきたモバイルファクトリー。これからも、次々にインターネットサービスを生み出す”工場”として、新しい時代を切り開く存在であり続けるはずだ。

こちらの記事は2019年05月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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雪山と旅を愛するPRコーディネーター。PR会社→フリーランス→スタートアップ→いま。情報開発や企画、編集・ライティングをやってきて、今は少しお休みしつつ無拠点生活中。PRSJ認定PRプランナー。何かしら書いてます

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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