連載“投資の顧客体験”を創造する──新しい松井証券の姿

「証券業界にもブルーオーシャンはある」
P&Gや外資証券も経験した新社長が目指す“儲けるだけじゃない投資体験”の創造とは

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インタビュイー
和里田 聰
  • 松井証券株式会社 代表取締役社長 

一橋大学商学部を卒業後、1994年に新卒でプロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト入社。1998年、リーマン・ブラザーズ証券へ転じ、UBS証券を経て2006年に松井証券に入社。IR室長を皮切りに営業推進部長、顧客サポート担当役員等の要職を歴任した後、2019年に専務取締役就任。そして2020年6月、松井道夫氏に代わって社長に就任。同社史上初の創業家以外からの社長として松井証券の新たな歴史をスタートさせている。

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創業100年を超える松井証券で、外資企業経験者が新社長に抜擢され、注目を集めた。それが和里田聰氏。就任直後から、さっそく経済紙等々で新たなビジョンについて発信し始めてはいるが、もっと等身大の目線で聞いてみたいことはたくさんある。

どのような人物なのか、トップとして何をしようとしているのか、松井証券の新しい姿をどのように見せてくれるのか……。

そこで、証券業界の現状と松井証券の展望について、本音を聞かせてもらうことにした。かつてインターネット証券革命を起こした同社が、これからどう動こうとしているのかについて。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「証券業界の変化」が、日本人の生活を変えられていない現実

「結局のところ日本人の投資行動は変わっていない。国内の金融業界も変わり切れていない。この現状認識からスタートするほかないんです」

和里田社長が最初に口にしたのは、“甘くない現実”について、だった。

和里田株の領域ではオンライン取引が90%を占めるようになりましたし、FXに関して言えばほぼ100%オンラインです。インターネットを利用した投資を日本に持ち込み、浸透させてきたのは我々だ、という自負はもちろんあります。結果として、金融機関やプロのトレーダーと一般投資家との間にあった格差は劇的に縮小し、取引量自体も増えました。

これらの動きは確かに、大きな変化と言えます。

しかし、実際の株式売買代金はライブドア・ショックのあった2006年の340兆円から、数十兆円増えただけ。これが現実なんです。

松井証券株式会社 代表取締役社長 和里田聰氏

ずっと言われ続けている「個人金融資産が貯蓄に偏り過ぎ」「投資家のすそ野を広げるべき」といった指摘。そんな中、株のネット取引というイノベーションで風穴を開けたのが他ならぬ松井証券だ。

直近20年ほどの間、業界に数々の変化をもたらしてきたのは紛れもない事実だ。だが、新社長の和里田氏はサラリと言ってのける。「変化は起こしたが、本当の意味での行動変容には至っていない」と。今もなお日本の個人金融資産の半分は貯蓄のまま。根本的な変革はまだ道半ばなのだと。

和里田個人投資家の取引にしても、すべてがオンラインになったかというとそうではありません。プル型商品と呼ばれる株式や先物、FXなどの取引はオンライン化しました。一方で、プッシュ型商品と呼ばれる投資信託や仕組債などは今も専門の営業マンによる対面販売がメインです。

日本の金融市場が本当の意味で活性化するために我々がやれることは、大いにあると感じます。

日本の金融業界や金融市場の現状を厳しく指摘する和里田氏。続けて、よどみない口調で、自社の反省点についても語る。

和里田営業マンの存在を否定して、ネット証券ビジネスを徹底追求した松井証券の姿勢は高く評価されましたし、事業も成長しました。それでも、このビジネス領域でNo.1にはなっていません。

競合各社との違いを端的に言えば、「選択と集中」をどこまで徹底していくかの戦略の違いでした。我々は、最も収益性の高い株式取引へのリソース集中に一貫してこだわってきました。この判断自体は良かったのですが、新たな投資家層を増やして裾野を広げることはできなかった。その間に他社は株式ビジネスの将来性に見切りをつけ、それ以外の領域で実績を上げていったというわけなんです。

株式ビジネスの変革に集中し続けた松井証券。その経営方針と実践はわかりやすく、鮮烈な印象を世に発し続けていた。一方で「早々と見切りをつけた競合他社」は、投資信託の運営や販売、FX事業といった領域の強化にシフトすることで、着実に成果を上げていったのだ。

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“顧客目線”で金融を変え、人々の行動を変える

証券業界や同社の厳しい現実についての話題を、柔和な表情でわかりやすく語ってくれた和里田氏。「では、これからどうするんですか?」という問いかけに対しては、ニコリと微笑みながら語り始めた。

和里田日本人の投資に対する意識をもっと明快に変貌させて、行動変容が起こるところまで持って行く。そうして投資の裾野を拡大していくことに私たちは力を注ぎ始めています。

和里田「ネット」や「オンライン」は、あくまで課題解決のための手段でしかありません。ですが当社に限らず証券業界・金融業界はオンライン化一色に染まり、半ばそれが目的化していました。最初に申し上げた通り、実質的な変革にまでは至らずじまい。何かが欠けていた。

それを考えた時、出てきた答えは非常にシンプルでした。「お客様、もしくは未来のお客様が、何を求めて投資をするのか」という顧客目線です。もっと言えば、“顧客体験としての価値”を明快にわかりやすく示してこなかったがゆえに、投資を始めていない多くの生活者の行動を変容させられないでいるのだと気づきました。

金融機関の多くが、十分に顧客目線を実現できていません。これを、松井証券では変えていきたいんです。

和里田氏は問いかける。「人はなぜ貯蓄ではなく投資をするのか?」「それは儲けたいからだ」。そして自問自答する。「本当にそうなのか?本当にそれだけが顧客の求める体験価値なのか?」「違うだろう。それだけじゃないだろう」と。

驚くことに、和里田氏はオンラインゲームを例えに持ち出した。

和里田ヒットしたオンラインゲームの中には、バーチャルなお金の要素が重要なものがいくつもありますよね。ゲームを有利に進めるため、アイテムの効率的な取得方法を自然と探り、うまく稼ごうとする、そんな経験がありませんか?ここにヒントがあると感じています。

言いたかったのは、「儲けようと思ったら投資が有効だよね」ではなく「人は何のために儲けようとするのかを見失ってはならない」ということ。プレーヤーはゲーム内での成長やステージアップにそもそもの「体験価値」を感じているということだ。和里田氏はさらに進んでこのように述べる。

和里田これらのゲームに夢中になったことがあれば、きっと共感してくれると思うのですが、単純に面白いんですよ。

ゲームの中での売買とはいえ、成果につなげるためには、様々な知識や情報を動員することになる。市場動向を分析し、気候や地形といった外部環境要因まで考慮に入れて、複数のデータを的確に組み合わせながら投資判断していく。このような行為自体が本当に面白くてワクワクするわけです。いわば、知的エンターテインメントがそこにはある。これは、リアルな投資にも言えることなんです。

そういう魅力を今まで、松井証券も、証券業界や金融業界も強くアピールしてきませんでした。

「儲ける」こと以外にも投資には魅力がある。その1つが知的エンターテインメントなのだ、という指摘は過去にも多くの有識者が示してきた。だが実際の事業者がそこにフォーカスした事業や施策をどこまで打ってきたかというと、ほとんどない。

和里田「年金だけで退職後の生活のすべては賄えない」という事実が明るみになったことから、老後の生活資金のため「現役時代から資産形成を」という意識は高まっています。政府も「つみたてNISA」や「個人型確定拠出年金制度(iDeCo)」の制度改善などを開始しました。

当社も、この方向性は重要だと捉えています。2019年に定めた企業理念「お客様の豊かな人生をサポートする」に基づいて、具体的なチャレンジを次々に形にしていきます。

その一環として、オンライン化といった手法を起点とするプロダクトアウト型の変革ではなく、お客様が体験する価値の向上や拡大のため、先に挙げた知的エンターテインメントとしての投資の魅力の追求や、それらがもたらす学びや成長に関わる要素にも着目しようと考えているんです。

和里田氏自身が大切にしているエピソードがある。ある専業主婦の顧客から「投資を始めてみたら、毎日が楽しくて仕方がない」という声を聞いた。儲けること以上の“生きがい”を得た、そんな様子を目の当たりにし、投資という体験が生む価値の新たな可能性を感じたという。

「お客様を儲けさせること」だけが目的だと捉えられがちな証券会社である松井証券が、「お客様の豊かな人生をサポートする」を理念に掲げることは、絵空事でもキレイ事でもなく、リアリティのあるビジネス戦略をも示している。そのことを納得させるような事例だ。

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「まるで身内」だった松井証券からの嬉しいお誘い

和里田氏のファーストキャリアは、プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト(以下、P&G)。最大の入社理由は「年功序列の組織は絶対にイヤだったから」だった。

和里田私が就職活動をしていた1993年、すでに日本のバブルははじけており、「日本社会や日本的経営は変わらなければいけない」という風潮が充満していました。「年功序列や終身雇用が染みついた組織ではダメだ」なんてことも言われていましたが、当時はまだほとんどの会社が年功序列のままでした。

私は小さい頃から「たった1年早く生まれた人間が偉ぶる」という慣習が大嫌いだったので(笑)、そういう“年功序列の会社”にだけは入りたくないと考えていましたね。

そんな中、当時としては珍しくインターンシップを開催していたP&G。当時から「マーケティングの会社」というイメージは強かったようだが、参加したのはたまたま、ファイナンス部門だった。

和里田競合他社の資金調達を比較分析する、というミッションに面白味を感じました。それに、先輩たちが垣間見せる自律的なキャリア観にも大いに共感するところがあり、入社を志望するようになりました。

入社後は充実した日々を過ごしたものの、「ファイナンス部門のキャリアのゴールはCFO」という事実に直面する。そして「目指したいのはCFOになることじゃない」と思い至り、新たな挑戦の舞台を求めて転職を決意。

積み重ねたファイナンス関連の知見を活用しながら、もっと自由にキャリアを伸ばしていけるのはどこなのか?そう考えた末に出した答えが証券業界だった。

リーマン・ブラザーズ証券を経てUBS証券で研鑽を積む中で、上場プロセスにあった松井証券と出会い、担当者となった。海外でのIR活動などに同行する中で、松井証券の魅力に触れ、深く理解するようになったという。

和里田アドバイザーの立場でありながら、まるで身内のような感覚になっていました。しばらくして、前社長から入社のお誘いをいただきました。その時の言葉は忘れられません。「この会社のサポーターになってほしい。ただし、私の奴隷にはならないでほしい。会社に提言してほしい、社長にも意見する人になってほしい」と。これが嬉しくて決意したようなものです。他の証券会社と迷うようなことなんてありませんでした。

その後、IRや営業企画の統括といった要職を経て専務に就任。名実ともに松井証券を牽引する存在となった和里田氏。それでも、社長になることはないと思っていたのだという。それが、新たなイノベーションのフェーズに本格的に挑んでいく段階で急転直下、次のリーダーとして指名された。

和里田驚きましたが、受けないわけにはいきません。次なる課題・テーマが顧客体験価値の模索と拡大だという認識が社内で一致していますし、ここからどんどん変革を加速していくという強い想いを持っています。

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100名規模の組織が日本の投資のあり方に変革をもたらす

和里田氏が強調する「顧客体験価値」は、UX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)といった言葉で最近は聞く機会も増えているかもしれないが、こと金融で顧客体験と言われても、なかなか具体像が見えてこない。

和里田おっしゃる通り、実際に顧客体験価値を本気で追い求めてチャレンジを実行している金融機関はありませんから、なおのことわかりにくいですよね。まだ誰も正解がわかっていない分野だと思います。私たちもどう事業化するのか、というところまで胸を張って語れるレベルにまでは来ていません。

ただ見方を変えれば、これは「ブルーオーシャンが広がっている」ということでもあります。「儲ける」とは異なる「価値ある体験」をお客様の目線で形にして、支持を集めることができたならば、それが日本における投資のあり方を大きく変貌させるきっかけになる。

そして、松井証券はこうした変革を生み出せる組織だと、胸を張って語った。

和里田松井証券のように長い社歴を持つ100人規模の集団こそが、新たな価値の創造をものにできる。アセットが蓄積されつつ、ベンチャー企業のような「フットワークの軽さ」も備えているからです。

グループ会社をいくつも抱えるような巨大な集団で変革を起こそうとすれば、当然のごとく理不尽な現実がついてまわる。しかし、松井証券には、変革を妨げるようなしがらみは一切ありません。だから、のびのびと「お客様のために」を追求していけるんです。

さらに加えて、この会社は長年、新卒採用で入社した社員が中核を担って成長してきましたから、仲間意識が非常に強い。経営陣と現場との間に意識の乖離はなく、共通の目標に向かっていく企業文化も根付いています。

その一例として、和里田氏は、コールセンターの現場力について語った。

和里田コールセンターでは、それまで言語化されていなかった組織共通の価値観を、派遣社員のオペレーターとともに現場で議論して、コールセンターの行動規範として作り上げて、実践しているんです。経営陣から与えられた価値観を踏襲するのではなく、現場から松井証券のカラーを作り、醸成させている。社員が主体的に会社を作り上げていこうとする企業文化に、今後の可能性を感じています。

まだ誰も確立できていない、金融領域における新しい顧客体験価値の提供というチャレンジ。これを、当社のような100人規模の会社で実現できると考えています。

視点の共有や組織の結束といった企業の原点からイノベーションを目指そうとしている和里田氏。それだけに本気度は強く伝わってくる。

和里田例えば、カフェチェーンで売られているモノにあまり大きな差はありません。それでもスターバックスは圧倒的な顧客支持を獲得しています。

スターバックスの特徴は「ユーザーに何を価値として感じてもらうか」を考え抜き、それを基にしたブランディングを徹底していること。スターバックスの目指す「サードプレイス」という言葉を、聞いたことがない読者はほとんどいないのではないか。

和里田証券や金融のビジネスも同じです。どこも似通ったサービスを展開しています。しかし、顧客からの支持を固めたスターバックスのようなプレーヤーはまだいません。

松井証券はそのポジションを確立するべく、投資を通じた顧客体験価値の向上に向けて一層加速していきます。「お客様の豊かな人生」をサポートする商品・サービスの提供を行っていく、という企業理念に共感し、一緒に変革を生み出していける仲間をこれからも見つけていきたいですね。

こちらの記事は2020年10月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

連載“投資の顧客体験”を創造する──新しい松井証券の姿

1記事 | 最終更新 2020.10.27

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