連載Reapra Ventures Summit

“攻め”と“守り”のCFO──参謀が果たすべき役割と攻守のバランスを探る

登壇者
松田 竹生

監査法人トーマツ、リーマンブラザーズ証券を経て、2006年エニグモ、10年グルーポン・ジャパンにて計7年に渡りCFOを歴任。13年からシンガポールを拠点としシード投資やスタートアップのアドバイザリー業務に従事。14年にREAPRA CEOの諸藤に出会い、15年1月に参画。同社CFOを務める。テキサス大学オースチン校経営大学院卒(MBA)、慶應義塾大学経済学部卒。

成松 淳
  • ミューゼオ株式会社 代表取締役社長 

幼少期からモノへの好奇心を糧に育ち、いまも変わらず、革靴やジャケット、アンティークシルーバーやミニチュアなど様々な魅力的なモノたちに惹かれ続け、気づけば靴のコレクションは300足以上の数になっているが、大切な思い入れがある。
有限責任監査法人トーマツ勤務、東京証券取引所出向などを経て、2007年1月よりクックパッド株式会社の取締役CFO(委員会設置会社移行後には執行役CFO)に就任し、同社の草創期において従業員10名弱の時代から経営陣として成長の一翼を担う。同社の東証市場一部昇格を機に執行役CFOを退任、身の回りの「大切なモノとの生活をもっと楽しみに」を次のミッションにしてミューゼオ株式会社を設立し現在に至る。

川崎 隆史
  • Unipos株式会社 執行役員 最高財務責任者(CFO) 

コーポレイトディレクション在職中、消費財メーカー中心に戦略立案から改革支援まで関与したほか、株式会社産業再生機構にてカネボウの支援案件に従事。 野村證券企業情報部にて電気・精密業界のM&A アドバイザリー業務を務めたのち退職。米国ペンシルベニア大学ウォートン・スクールに留学。成績優秀者として経営学修士号取得(MBA with Honors)。帰国後は三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資銀行本部にてM&A、資金調達等のアドバイザリー業務に従事。その後、2014年8月よりFringe81執行役員 最高財務責任者(CFO)。

矢野 方樹

モルガンスタンレー(日本)にて合計17年間に渡り勤務。Equity Capital MarketsのHead / Managing Directorを務め、様々な産業領域、企業規模に対して、クロスボーダーでのIPO前後の資金調達にまつわる業務に従事。またプライベートエクイティファーム、アドバンテッジパートナーズにて未公開企業での経営支援の経験も有する。東京大学経済学部卒。

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市場との対話、経営管理の強化、資金調達による事業成長へのテコ入れ──多岐に渡る役割を果たし、成長を目指すスタートアップにとって欠かせない存在である「CFO(Chief Financial Officer)」。一般的には、「CEOが“攻め”を担当し、CFOは“守り”を固める」といった役割分担がイメージされることも多いだろう。

実際に気鋭のスタートアップで戦うCFOたちは、自身の果たすべき役割や「攻め」と「守り」のバランスについて、どのような考えや矜持を持っているのだろうか。8月23日に開催されたReapra Ventures Summit(RVS)では、IPOを経験した成長企業のCFO経験者3名を囲み、その役割の要諦を探るべくセッションが行われた。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
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CFOは、「参謀」や「兵站」の役割を果たす

「攻めと守りのCFO 企業フェーズごとのCFOの役割の際の変化」と題し行われた同セッションでは、ミューゼオ株式会社代表取締役CEOの成松淳氏(元クックパッド株式会社CFO)、Fringe81株式会社取締役CFOの川崎隆史氏、REAPRA PTE. LTD. Managing Directorの松田竹生氏(株式会社エニグモ、グルーポン・ジャパン株式会社の元CFO)をパネラーに、モデレーターはREAPRA PTE. LTD. グループCFOの矢野方樹氏がモデレーターを務め、議論が行われた。

矢野本日モデレーターを務める、REAPRA PTE. LTD. グループ(以下、REAPRA)CFOの矢野です。今年4月に現職に就いたのですが、はじめてのCFO職ということもあり、いかにして「攻め」と「守り」を両立すべきか、日々模索しています。まずは登壇者の皆さんの自己紹介をお願いします。

成松ミューゼオ株式会社代表取締役CEOの成松です。もともとは監査法人トーマツや東京証券取引所で会計士としての専門性を生かして働いていましたが、2007年に、まだ10名に満たない規模だったクックパッドにCFOとしてジョイン。東証マザーズへの上場、そして東証一部への市場変更を経験しました。

その後、人の生活を良くするようなサービスを自らの手で開発してみたくなり、独立してミューゼオを設立しました。最近では、ウォンテッドリー株式会社や株式会社FiNCといった成長企業の社外取締役や、エンジェル投資家としても活動しています。

川崎Fringe81株式会社取締役CFOの川崎です。コンサルティングファームでキャリアをスタートした後、野村證券株式会社でM&Aアドバイザリーを務めました。その後、一度会社を辞めてMBAを取得し、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社を経て、今に至ります。

松田REAPRAの松田です。4月まではCFOを務めていました。はじめは成松さんと同じく監査法人トーマツにいて、一旦会社を辞めてMBAを取得した後、リーマン・ブラザーズ証券株式会社で働くことに。その後、エニグモ、グルーポン・ジャパンのCFOを務め、最終的には2014年にシンガポールでREAPRA CEOの諸藤周平と出会ったのがきっかけで、現職に至りました。REAPRAも含め3社でCFOを務めましたが、現在REAPRA本体と投資先各社で、組織設計やコーポレートガバナンスを担うManaging Directorに従事しています。

続いて「CFOに求められるものと、自身の性質が適合しているか」の点に議論が及ぶ。成松氏は「参謀や兵站であるCFOが性に合う」と言い、松田氏も「自分は人生を賭すテーマを見いだせなかったのでサポート役が合う」とCFO向きであることを自認する。一方で、川崎氏は「そもそもCEOとCFOの役割は明確に分けられない」と主張する。

川崎スタートアップにおいては、そもそもCEOとCFOの役割は明確に分けられません。前提として、私自身CFOの仕事自体は非常にエキサイティングで性に合うとも思っています。しかし、マネジメントチームは全員で経営のあらゆる範囲をカバーしていかなければいけない。CEOもCFOも、さらにはCOOやCTOであれ目指すところは一緒であり、チームとして役割が一体化しているともいえます。「CFOはここだけ見ていればOK」というものではないんです。

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「上場のために」はNG。必要なパッケージは「スケールのために」インストールする

続いて、話題は「上場」へ。上場準備を主導する役割を期待され、CFO職に就く人も少なくない。成松氏は、上場は知名度や信頼度の向上には非常に役立つと話す。

成松どんなに大型の資金調達をしても、スタートアップ界隈の人以外に、そのニュースはなかなか届かない。一般の方々に対しても知名度や信頼度を上げていくためには、やはり「上場」が近道です。上場すると採用率のしやすさも向上しますし、一部上場企業以外は口座を作れない外資系銀行などもあります。

また、上場に向けて組織体制を整えていくことが、結果として企業に「本質的なメリット」 を及ぼすことにもなるという。上場は目的ではなく、企業や事業をスケールさせるための手段に過ぎないからだ。

川崎上場は、一定以上の規模の企業を目指すにあたり、組織体制を整える良い機会になります。これは私の持論なのですが、上場するにせよしないにせよ、会社が大きくなるにつれ、何らかのルールや統制の仕組みを採り入れないと、どこかでワークしなくなる。

こうした認識のもと、企業の成長のために必要なことをやっているだけなので、あえて「上場のために」といった言い方をしないように気をつけています。

成松クックパッド社内でもよく、「上場という行為は、より大きな会社になるために先達が作った基本的なパッケージをインストールすること」と言っていました。もちろん、不要なルールを作らないように気をつけてはいましたが、きちんと売上を伸ばそうとすると、ある程度は、進捗状況の管理や組織体制の整備が必須になってきます。

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「攻め」と「守り」の区別は無意味?CEOもCFOも、目指す方向は同じ

いよいよ、パネルのメインテーマでもある、CFOの「攻め」と「守り」に話題が移る。成松氏は、役割は固定化させない方がよく、経営メンバーの特性に合わせて柔軟に変化させるものだと語る。

矢野CEOもCFOも両方経験されている成松さんはどう思われますか?

成松身も蓋もないのですが、結局は、経営メンバーの得意不得意にあわせて“攻め”と“守り”を柔軟に使い分けていくしかないと思います。一般的には「CEOが攻めて、CFOが守る」とイメージする人が多いでしょうが、実態を見ると必ずしもそうとは限りません。強いて言うならCEOは構想力や執念に優れている傾向にはありますが、結局は役員陣が一体となり、リーダーシップとフォロワーシップをそれぞれ順次使い分けながら進んでいくしかないんです。

矢野見ている方向が同じだからこそ、いざという時はしっかりと「ノー」が言えると。

成松はい。CEOと本気で喧嘩をして、周囲から止められたこともあります(笑)。

一方で、川崎氏は「世間ではあまり受け入れられないようなことをCEOがやりたがったときに、しっかりと実現に導く」ことも重要だと説く。

川崎CEOが「やりたい」と言ったことが合理的であれば、それを実現するための方法を考えるのもCFOの役割。たとえば短期的には利益が減るが、中長期的に見ると会社の成長につながるような施策があったとして、こうした打ち手について世間に対してしっかりと説明することも求められるんです。

成松場合によっては、CEOがやりたがっていることを「斜めにずらす」ことも必要ですよね。たとえば、「今じゃなくて、上場後に順を踏んでやったほうがいい」と説得する技術が求められます。結局、「攻め」も「守り」も必要なので、両者を切り分けることにあまり意味はないんです。

川崎私も分けて考えないようにしています。

松田とはいえ、間違った場面でアクセルを踏みすぎないように、CFOがブレーキをかけなければいけないシーンもあるでしょう。フェラーリのような高性能車は、加速だけでなくブレーキ性能も強いはず。スタートアップの経営は、アクセル全開で進めるまっすぐな道ばかりではありません。曲がり角やアップダウンに差し掛かったときに、適切な強さ、タイミングでブレーキを踏めるような仕組みを、組織的に持ち合わせることが必要です。

必ずしもそれがCFOである必要はありませんが、CEOの持つアントレプレナーシップへのリスペクトを根幹に持ちつつ、自律的にブレーキをかける機能が経営チームに内在する組織の方が強いと思います。

今回のイベントでの議論を聞いていると、CEOやCFOをはじめとする経営メンバーは、「企業を成長させる」という同一の目標に向かって補い合うことが肝要なのだと思わされる。優れたCFOとは、「攻め」や「守り」といった区別に惑わされず、今の組織に対して自身が還元できる価値を見極め、自律的に実行できる人物を指すのだろう。

こちらの記事は2018年11月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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