世界中で続々オープン、
ビジネスパーソンのための昼寝スペース「ナップスタジオ」とは?
- TEXT BY SAORI HASHIMOTO
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、「午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的」とされている。また、近年は体力回復や感情のコントロールにも有効であることが科学的に証明されてきており、「昼寝」に対する世間の注目度が高まっている。
そうした背景から、アメリカでも近年、GoogleやUberなど先進的な企業を中心にオフィス内に昼寝専用の部屋を持つところも増えてきているが、新しいアイデアを柔軟に取り入れるイメージのあるアメリカですら、勤務中に堂々と昼寝ができる企業はまだまだ少ない。
そこで、眠らない街として知られるニューヨークで今、「眠るための場所」が人気急上昇中。場所はマンハッタンの真ん中、オフィスビルが立ち並びハブ駅として機能する大きな駅が2つあるこのエリアは、オフィスワーカーと観光客の入り混じる繁華街。そこに街の喧騒とは無縁の昼寝スタジオ「Nap York」が、2018年2月にオープンした。
4階建て+屋上、目的別の昼寝・休憩スペースを提供
「Nap York」は昼寝できる空間を有料で貸し出す。シックなインテリアで統一された店内は全体的に暗く、完全防音。さらに空気を浄化するための生木など、訪れた人を快適な睡眠に誘う工夫が各所に施されており、現代人の健康をメンタル・フィジカルの両面から向上させるサービスを提供している。
建物は4階建てで、1階は静かなカフェ。メニューはへルシーな軽食、ジュースやスムージーなどで、注文はタブレット経由で行い、商品はベルトコンベアで運ばれてくる仕組み。テーブル席の壁は一面生きた植物で覆われており、食事をしながらリフレッシュできるよう配慮されている。
そして、2階からが昼寝スペースとなっており、ゆりかごと個室が選択できる。個室には天井に星空が映し出されており、防音対応のカーテンや空気を浄化させるための生木がある。アメニティーとして、オイルディフューザー、読書用のライトとノイズキャンセリング機能搭載のヘッドフォンなどを提供。またゲストは+5USドルでリネンの素材をアップグレードすることも可能だ。
また、もっと気軽に昼寝したい人におすすめなのが3階。そこはムーンチェア(円状の大きな椅子)と植物、そして暖炉があり、昼寝というよりリラックスするのが目的の場所だ。ここではヨガクラスとメディテーションクラスも開催しており、仕事の前後にリフレッシュするため参加する人が多いという。
4階にはデスクスペースがあり、人に邪魔されずに考え事をしたい人など向け。各デスクには音漏れ防止カーテンが備え付けてあるので、プライバシーも守れる。またフルフラットにできる椅子で休息することも可能だ。
全てのゲストはチェックイン時にバイブレーション式のアラームを手渡されるので寝過ごす心配はないという。春以降は屋上のハンモックでも昼寝できたりと、まさに都会のオアシスさながらだ。
衛生面と安全面に最も配慮、旅行者向けサービスも
共有の昼寝スペースとなると、気になるのが衛生面と安全面。実際、それらはNap Yorkが最も配慮している点だと同社のマーケティングディレクター、Stacy Veloric氏は話す。
各階に配置された24時間体制の守衛と複数台の監視カメラが常に顧客の安全を守り、衛生に関しては消毒のしやすさを追及して開発されたAirweave社特注のヴィーガン素材マットレスを使用。清掃係が顧客の入れ替わりの際に毎回消毒と消臭を徹底しているという。
Nap Yorkのターゲットはニューヨーク市内のビジネスパーソンだけではない。その立地を生かして観光客向けのサービスも展開している。Nap YorkからJohn F. Kennedy空港、 Newark Liberty空港とLaGuardia空港とを結ぶシャトルバスを運行しており、予約したホテルのチェックイン時間まで過ごしたり、深夜便で溜まった疲れを癒すために立ち寄る人が多いという。
また、荷物預かりや靴磨きサービスは出張者に人気のサービスだ。さらに近隣のハブ駅からは遠方への電車が常時発着しているので、電車を逃した人の休憩場所としても多く利用されるという。
価格は、一番安いもので30分$8USドル(約870円)のムーンチェア、一番安い個室は30分10USドル(約1000円)。3時間以上の予約でアップグレードされたリネンと歯ブラシセットがついてくる。
ニューヨーク市内ではこの価格で安全に眠れる清潔な場所を確保するのは難しい。旅行者などの休憩スペースとして重宝されているのも頷ける。実際、大手クチコミサイト「Yelp」での評判も5つ星中4.5ポイントと高評価だ。
- 「Starbucksでコーヒーとマフィンを買ったら10ドルはする。そう思うとNap Yorkでリラックスに使う10ドルはとても価値のあるもの」
- 「スマホの充電をしながらきれいな場所で眠れて、おまけに食事や靴磨きまでしてもらえて、シャトルカーを待っている間に仕事を片付けられるんだから、おそらくニューヨーク内で一番便利な場所だね」
- 「シャトルカーはテスラで運転が静かだから寝やすく快適。アイマスクとネックピローのアメニティも最高」
とサービスに対する好評が多く寄せられている。
2018年2月のオープン以降、2カ月で1,000人以上の来店があったという。他エリアへの出店も決まっており、Nap Yorkの快進撃はまだまだ始まったばかり、これからも続いていきそうだ。
世界各地で続々とオープンする「ナップスタジオ」
昼寝スペースを提供するのは、Nap Yorkだけではない。実は近年、世界中で続々と誕生しているのだ。
シカゴベースのナップスタジオ「PeacePowerNapping」は、同社のアプリを通して30分毎のスロットから予約ができる手軽さが人気。チェックインもすべてアプリ上で済ませられるので、受付を通らずダイレクトに自分が予約した部屋に行くことができ、忙しいビジネスパーソンから支持を得ている。
この流れは、シエスタ文化の本場スペインでも。昨年2017年にマドリッドで初となるナップスタジオ「Siesta&Go」がオープンし、こちらも話題に。同店では昼寝用のベッドとリラックスや読書に最適なアームチェア、また静かなワーキングスペースを提供している。料金は1時間で16USドル(約1,700円)。
米国のマットレスブランド「Casper」が展開するのは移動式のナップスタジオ「ナップモービル」で、バスを改造して作られたベッドで昼寝ができるサービス。もちろんマットレスは自社製だ。2015年の秋にニューヨークでサービスをスタートさせて以降、ブルックリンやワシントンDCなどアメリカ各地を移動。現在はカナダツアーを行っている最中だ。
日本のカプセルホテルからヒントを得たという同社の「ナップモービル」。室内の温度やライトの調節などがすべて手の届く範囲に配置されている便利さや、ベッドサイドの電話が昔話を読み聞かせしてくれるなどユニークなサービスが人気。
日本では昼寝というとサボっていると思われがち、まだまだ「昼寝=悪」のイメージが付きまとう。しかしジム通いなど、多忙な中で自身の体調管理のために対価を支払うことが当たり前のようになってきている今、「昼寝文化」が新たなルーティンになる日も近いのでは。
こちらの記事は2018年06月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
橋本 沙織
連載GLOBAL INSIGHT
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