1ヶ月で事業破綻→1ヶ月で復活のケースも!大阪市のスタートアップ事業「OSAP」が盛り上がる理由

大阪市と有限責任監査法人トーマツが運営する「OIHシードアクセラレーションプログラム」(OSAP)が好調だ。週1回のアクセラレーションやメンタリングで事業内容を徹底的に見直すプログラムで、資金調達をはじめ、VCや大企業との連携で具体的な成果をあげており、参加者からの評価も高い。自治体が運営するベンチャー支援策の中でも注目度が高まっており、2018年10月に行われた第5期デモデイも盛り上がった。

  • TEXT BY YUKO NONOSHITA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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世界に通用するイノベーションを大阪市が支援

大阪市がグランフロント大阪内に設置する施設「大阪イノベーションハブ(OIH)」では、世界に通用するイノベーションを関西から生み出すことを目的に運営され、関連するイベントやプログラムを年間200件以上開催している。

その一つであるOSAPは、シード期からスタートアップ期のベンチャー企業を対象に事業化を加速させる4ヶ月間のプログラムで、2016年から年2回ペースで実施されている。

創業5年以内かサービスリリースから5年程度で、売上高が概ね5,000万円以内のベンチャーが対象。大阪市以外の地域や海外からの応募も受け付けている。毎回50〜60件近い応募があり、書類と面接で10社程度に参加者を絞り込む。

内容は、研修やワークショップをはじめ、事業とKPIに関するディスカッションや進捗確認を個別に毎週実施し、徹底的に事業内容を見直す。100名以上のメンターやVCによるメンタリング、大企業とのマッチング会もあり、具体的な支援に結びつける。

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資金調達や事業連携にプログラムの成果が出る

プログラムの総括であるデモデイには150名を越えるオーディエンスが集まり、最優秀賞にあたるアクセラレーター賞と会場が選ぶオーディエンス賞、メンターが選出するメンター賞が選ばれる。第5期デモデイにはプログラムに参加した9社中8社が登壇し、すでにプログラムの成果を出しているスタートアップもあった。

アクセラレーター賞に選ばれたのは、自社調査員が空き家を訪れて調査した情報をデータベース化し、不動産業者らに提供したり、コンサルティングを行ったりする空き家活用株式会社だ。情報の正確さやオンラインサポートなどによる諸業務の代行で成長途上にある。

全国の空き家が2033年に2,100万戸に倍増するというデータから市場はさらに拡大すると見込まれ、そこに向けていち早く事業を展開したことから賞に選ばれた。すでに6,210万円の資金調達を達成しており、内3,000万円をOSAPを通じて調達している。他にもOSAPを通じて大和ハウスグループとの事業連携を進めている。

病院を退院した後に在宅復帰が困難な人たちに適切な介護施設を紹介する社会問題解決型ベンチャーの株式会社KURASERUは、プログラム中にプレシリーズで投資案件まで事業を進めたことから、オーディエンス賞とメンター賞を受賞した。

現在は神戸市で事業を展開しているが、退院後に介護施設への入居が必要な人は神戸市内だけで毎月600人、全国では8.9万人にものぼる。今後はそうした市場に向けて全国展開とマネタイズ化を進めるという将来性に対しても、会場から期待が寄せられていた。

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地域や社会を支援する起業への評価が高い

VRやMRを使った認知機能や高次脳機能障害を改善するリハビリシステム「リハまる」を開発している株式会社テクリコは、複数のVCにプレゼンを行うことができるイベント「VCブートキャンプ」で資金を調達している。

関西医科大学と開発したシステムは、自宅でも質の高いリハビリが可能。自動でデータ化され、健康寿命を伸ばすニーズからも成長が期待される。XXXリハビリテーション学会でもプレスリリースが発表され、メディアにも多数取り上げられなど製品の注目度は高まっている。

株式会社ワイズエッグは、体験や情報を共有する地域密着型のコミュニケーションサービス 「DIIIG(ディグ)」を展開している。新規ビジネスとして立ち上げるためにOSAPに参加し、サービス名を冠した株式会社設立まで行ったスタートアップだ。

ミッションと呼ぶイベントを作成する機能やチケット販売、参加ポイントを景品に交換できるサービスなどをトータルで展開している点や、サービスの内容を実証実験しているところもあわせて会場から評価されていた。

外食でもらえるポイントをNPOに寄付するプラットフォームを目指すGochiso株式会社は、VCとのマッチングやメンタリング、メディアに取り上げられたことがOSAPの成果だとしている。

事業内容は他にも似たようなサービスがあり、提携先となるレストランの開拓やアプリ開発の支援が必要だが、課題を明確にしている点と、非営利団体の資金調達をサポートするという起業目的に対して、今後の成長に期待したいという声が会場から寄せられていた。

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1ヶ月で事業が破綻し、新たに立ち上げるケースも

最初の応募内容とは異なる事業に方向転換しているケースもある。

現役大学院生を中心に運営する株式会社WATTDAYは、お願いごとが簡単にできるプラットフォーム「obeca」の事業化を進めていたが、参加した最初の1ヶ月で事業が破綻し、アイデアを見直さざるえない状況に陥った。

しかし、そこでプログラム終了とはせず、アポイントを効率化するサービス「TIMEPACK」を残り1ヶ月で新たに立ち上げ、翌月にベータ版を公開するところまでこぎつけた。結果的に、奈良県からの助成金を獲得し、銀行からの融資も決まった。

このようにOSAPは、徹底したメンタリングとコーディネートで実際に資金調達や事業連携に結びつけている。「壁打ち」と呼ばれる個別面談ではかなり厳しいダメ出しもあり、WATTDAYのようなゼロから事業を見直すケースもある。

第5期には、他にも犬のしつけへの悩み解決アプリ「いぬノート」を開発するANIMA株式会社、ペットの1分間動画を配信する「Perorin」を運営する株式会社Nolem、コスプレイヤーとコスチュームを制作するクリエイターをマッチングするサービス「narikiri」を展開する株式会社オタクラウドが参加した。

OSAPのデモデイを見てわかるのは、課題をさらけ出すことで、必要とする支援や資金額が明確になり、それが事業の加速化につながっていることだ。

これまでOSAPが調達した資金が総額約31億6,000万円にのぼり、35件の事業提携が行われているのも、事業目的を明確にできている点が大きい。そうしたところから最近は、OSAPに参加していることが投資先に有利に働くケースも出はじめているという。

先日、第6期プログラム参加ベンチャーが発表され、11社が新たに4ヶ月のプログラムに臨む。2019年3月中旬に行われるデモデイで、どのような成長を見せてくれるかが楽しみだ。

こちらの記事は2019年03月07日に公開しており、
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執筆

野々下 裕子

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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