「差別化戦略は考えない、顧客の声を鵜呑みにしない」
リーガルテック市場のオピニオンリーダーを目指すサイトビジット
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リーガルテック市場が隆盛しつつある。国内市場規模は2016年で184億円、2018年には228億円に拡大。2020年には300億円に迫ると予測されている。
勢いを増すリーガルテック市場をさらに活性化するため、オピニオンリーダーを志しているスタートアップがサイトビジットだ。「『リーガル×テクノロジー』で社会のインフラになる」をビジョンに掲げる、同社代表の鬼頭政人氏。東京大学を卒業後、弁護士として活動していた法律業界のエキスパートだ。法曹の現場で培った知見と、産業革新機構で得た問題意識は、事業に惜しみなく反映されている。
サイトビジットは、難関とされる法律資格の取得を支援するオンライン×リアルの学習サイト『資格スクエア』、法務・財務・税務・知財に特化した人材サービス『Legal Engine』を展開。法律領域のプレイヤーを育成・支援してきた。
2019年11月には、ワンストップ電子契約サービス『NINJA SIGN』をリリースし、SaaS領域に踏み出した。競合がひしめく電子契約サービスの勝ち筋は「顧客の“真の声”を聞くことだ」と、鬼頭氏は力強く語る。そのシンプルな戦略には、同社が積み重ねた知見がつまっていた。
- TEXT BY ISSEI TANAKA
- PHOTO BY TOMOKO HANAI
- EDIT BY MASAKI KOIKE
日本には、本当の意味で法律が浸透していない
2019年最後の衝撃的な一報は、日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告の海外逃亡だった。プライベートジェット、元グリーンベレー隊員による手引き…。ハリウッド映画のような逃亡劇は世界中で注目された。本件について、弁護士でもある鬼頭氏は「法律家として忸怩たる想いがあった」と切り出す。
鬼頭日本のメディアは「法律を破って逃げている。出国を正当化しているが説得力がない」といった論調の記事がほとんどです。
一方、海外では「日本は北朝鮮のような国なのだろう。わけのわからない法制度で裁かれるくらいなら逃亡も仕方ない」といった意見が多い。世界では、「日本の法律はおかしい」という見解が多いようです。
日本の法律が非難されることは、法律を制定する役割をもつ国会が非難されることであり、ひいてはその構成員たる国会議員を選んだ国民が批判されているのと似たようなものです。
同時に、「法律の正当性、意義について考えさせられました」と語る。
鬼頭法律とはそもそも、人びとを守り、フェアな社会を実現するためにあります。法律がない状態とは、社会的弱者、権力がない人が虐げられる社会です。日本は法治国家であるはずなのに、社会に法律が浸透しきっておらず、困っている人たちが多い。
統計によると、日本人の約1割が法律トラブルを抱えたことがあるんです。 でも、優良な弁護士を知らなかったり、良い法務サービスを利用できなかったりする人も多い。そうした人たちは、法律の保護を十分に受けられていないといえます。
一部の権力者や富裕層だけが恩恵を受けている状態は、フェアではない。「法律という素晴らしいインフラを社会に浸透させるために、リーガルテック市場を盛り上げたい」と鬼頭氏は意気込む。
労働人口が減る日本で、リーガルテックは数千億円の規模になる
リーガルテック市場は、日本とアメリカでは市場規模の差が大きい。アメリカの市場は数千億円規模だが、日本は300億円程度。アメリカは、弁護士間の競争が激しい。アメリカには弁護士が120万人いるが、日本は4万人。総人口は2倍の差でも、弁護士数は30倍もの開きがある。
日本国内のリーガルテック市場は黎明期ではあるものの、「バックオフィスの業務改善等も含めると、数千億円規模まで伸びるはず」と鬼頭氏は推測する。
鬼頭日本の労働人口は減少し続けています。さらに、働き方改革により、残業規制が強まっている。少ない人が、限られた時間しか働けない時代になっているため、業務効率化のニーズは高まります。
バックオフィス分野の効率化サービスが急速に普及しているのは、その証左でしょう。電子契約をはじめとしたリーガルテック領域の需要も、大きくなっていると感じます。
「契約のニーズがなくなることはない」教育、人材からSaaS領域へと踏み出した理由
2019年11月にリリースしたのが、ワンストップ電子契約サービス『NINJA SIGN』。契約書作成、レビュー、締結、管理までカバーするSaaSだ。タレント活動も行う北村晴男弁護士が出演するCMを観た読者も多いかもしれない。
本事業は、サイトビジットがアプローチしてきた領域とは大きく異なる。これまでは『資格スクエア』で資格勉強を、『Legal Engine』で法律業界における就職を支援してきた。なぜいま、新しい領域で事業をはじめたのか。
鬼頭これまではキャリア支援によって、“法務分野の入り口”をつくってきました。次のチャレンジとして、法律の知見をもとに一般企業の業務効率化をサポートしたいと思ったんです。
そこで鬼頭氏が目をつけたのは、電子契約だ。一見ニッチな領域に思えるが、鬼頭氏は「 ビジネスのプロセスとして、ニーズがなくなることはない」と着目した。
鬼頭ToBの業務は営業→契約→会計という流れを踏みます。たとえセールスフォースで営業を効率化し、freeeで会計を効率化しても、契約の領域は残る。電子契約サービスの競合も多いですが、まだまだ手付かずの領域。市場を開拓する余地が十分にあると考えました。
鬼頭氏は他社の電子契約サービスを長く利用し、改善できるポイントをNINJASIGNに反映させた。サブスクリプション課金システムで電子契約締結数を無制限にし、ワークフローを可視化、契約書管理の手間を大幅に削減した。顧客にも「既存サービスと比べて使いやすい」と評価されている。
今後は、従来のワンストップサービスを安価で提供しながら、点在するニーズに合わせて顧客がカスタムできる仕様をプラスアルファの料金で提供していく。
顧客は「ウォークマンが欲しい」と言わない
拡大するリーガルテック市場において、大企業や新進気鋭のスタートアップとどのように戦っていくのだろうか。
鬼頭氏の答えはシンプルだった。「顧客の声を聞くこと」だ。ビジネスパーソンであれば誰しも耳にする基本を、鬼頭氏は徹底的に考え、実践に落とし込んでいた。
鬼頭差別化戦略は考えません。差別化は、結果的になされるもの。僕らはひたすら、顧客の言語化できていないニーズを考えています。そこを捉えれば“勝ち”ですから。
この考えは、スティーブ・ジョブズの名言を彷彿とさせる。『美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ』。
では「顧客の声を聞く」をどのように実践しているのか。
鬼頭顧客の課題を、抽象度が高いままで把握しようと考えています。なぜなら、課題は明確に言語化されていない場合が多いからです。
ウォークマンの誕生を思うと、顧客は「ラジカセを持ち歩いて聴いています」とは言っても、「小型で持ち運びやすく、歩きながら聴けるラジカセが欲しい」とは語りません。でも、そこを把握できれば勝ち。
顧客の“真の声”を捉えることは、NINJA SIGNでもすでに実践されている。
鬼頭「契約の変更履歴を管理したい」という声を深掘りすると、「契約の内容がなぜ変更されているのか知りたい」だけだったりする。契約文書の細かい「てにをは」が変わっているのを知りたいわけではないんです。
そこで「ワークフローなどの履歴で確認できれば十分じゃないですか」と言うと、「そうですね」と納得していただけた。結果的に、細かい履歴は残さないシンプルなシステムにしました。顧客の声を鵜呑みにすると「変更履歴を全部管理するシステムつくらないと」となり、とても大変です。
深掘りして抽象的なニーズを捉えることで、最適なソリューションを提供できるんです。
顧客の声を掘り当てて応える一方で、1人のニーズを100%満たせても、99人の顧客のニーズに合わなければ、ビジネスとして拡大しにくい。1人の顧客と総体としての顧客、最適な塩梅をどのように見つけるのか。
鬼頭自分たちのターゲットを最重視して、開発の優先順位をつけます。多言語対応の要望ひとつとっても、「全てのプロセスでベトナム語と英語に対応してほしい」「メール文面だけ英語ならいい」など、色んなニーズがありますから。
このとき、ノイジーマイノリティに惑わされてはいけません。先端を走っている人の声ですら、鵜呑みにしない方がいいときもある。「iPaaS(クラウドと企業間の統合を構築し展開するためのプラットフォーム)と連携した方がいいですよ」と言われても、ほとんどの顧客はそこまでコアな仕様を求めていない。
ですから顧客の声の全体像を理解して、ターゲットのニーズを捉え、攻めることが大事なんです。
ボトルネックは常に自分。社員の半分が辞職したのも「全て自分のせい」
鬼頭氏の経歴を振り返ると、正真正銘の“エリート”だとわかる。開成高校を卒業し、東京大学に進学。司法試験に一発合格した後は、弁護士として活動。そして官民出資の投資ファンド・産業革新機構でベンチャー企業を支援してきた。
なぜ起業という茨の道を選択したのだろうか。原体験は、小学校4年生だった1992年。バブル崩壊の影響を受け、父親がリストラされたことだった。
鬼頭そのとき、「会社員は厳しい」と思って。キャリアの選択肢として、手に職がつくような医者や弁護士などを志向するようになりました。
起業を明確に志したのは、法律以外の知見を広げるために産業革新機構へジョインし、3年が経った頃だった。VCファンドのLP出資を担当していたとき、メルカリの山田進太郎氏やランサーズの秋好陽介氏と出会う。同年代である彼らの「自信満々で頭のネジが外れた感じ」に大きな刺激を受けた。
鬼頭創業当時から山田さんは「海外しか考えていないです」と言っていました。イーストベンチャーズの小さなシェアオフィスに会社があって、メルカリも全く普及してない頃です。その視座の高さに驚きました。当時の僕は31歳で、弁護士に戻ろうと考えていたのですが、「こんな人たちと肩を並べていたい」と思い、起業を決めたんです。
そして2013年、サイトビジットを立ち上げる。しかし、道は険しかった。カンパニーヒストリーを振り返ると「ヒト、モノ、カネ、全て困った」と苦笑いする。ある時は会社の預金残高が20万円になり、自らの預金を刻むこともあった。
困難だった出来事の一つが、社員の半分が退職したときだった。2016年、資格スクエアが事業拡大していた時期である。
鬼頭エントリーマネジメントができていなかったんです。経験やスキルがある人を優先した結果、ミッションやビジョンに共感していない人も入社しました。面従腹背の社員、社内の不満をわざわざ告げ口する社員もいたりして、精神的に追い詰められましたね。社員は次々と去っていきました。
現在は、採用のミスマッチが起こりづらい仕組みを整え、サイトビジットの理念に共感するメンバーが集まっている。この経験を振り返り、鬼頭氏の心により一層刻まれたのが、自責思考だ。
鬼頭常に、一番のボトルネックは僕だと考えています。僕が採用をしっかりできず、入社後の対応も適切にできなかったわけですから。
この考えを持ちながらさまざまな経験をし、トライアンドエラーを繰り返してきたことで、動じない範囲が広がっていると感じます。自らの人間的なキャパシティが広がれば事業構想力も広がりますし、優秀な人を巻き込む力も強くなります。
会社では「何を言うか」、社会では「誰が言うか」が大事
鬼頭氏がリーガルテック市場で事業を営むうえで志しているのが、「オピニオンリーダー」になることだ。
鬼頭freeeが「SaaS」という言葉を広めたり、僕らが資格スクエアで「予備校なのに独学」という概念を浸透させたりしたように、リーガルテック市場のオピニオンリーダーとなり、法律の重要性を広めたいんです。そのためには、「何それ?」と言われる概念を一貫して言い続けることが大事です。
では、一体どんな概念を唱えるのか訊くと、鬼頭氏は「CLO」と返す。「Chief Legal Officer(最高法務責任者)」のことだ。日本でも、一部の企業では広まりはじめている。ベネッセホールディングスやLIXILグループ、そしてクラウドファンディングサービスを運営するREADYFORなどではCLOが設置されている。
類似したポジションとして、パナソニックではCRO(Chief Risk management Officer)やCCO(Chief Compliance Officer)といった役職も存在する。「今後、法律のエキスパートを会社の重要なポジションに置くケースは増えるでしょう」と鬼頭氏は語る。
鬼頭5G、AI技術、IoT…新しいテクノロジーがビジネスに利用されるほど、法規制も強まります。実際、クラウドファンディングサービスを提供する企業も弁護士と連携しています。
サイトビジットはCLO的な専門家が集まる企業になりたいし、CLO的な機能を代替するサービスを提供したい。そのために「CLO」の重要性を叫び続けたい。
しかし、オピニオンリーダーとなるには「時間がかかる」と鬼頭氏は苦笑いする。
鬼頭資格スクエアの経験から、「人にものが伝わるまでには長い時間がかかる」と痛感しました。
立ち上げて1年目から「勉強は独学。自分で考えてやるものだから、講義はオンラインで十分です」と言っていたのですが、ずっとポカンとされていました(笑)。でも徐々に受け入れられてくる。
資格スクエアの会員数が10万人以上になり、スタートから6年経ったいま、僕が受講者の目の前で「勉強は独学」と言うと「待ってました!」と会場が盛り上がります。言っていることはずっと変わらないけど、浸透度合いは大きく変わりました。
会社においては「何を言うか」が大事ですけど、社会においては「誰が言うか」が大事なんです。
そうした理想を実現するために、鬼頭氏が欲する人材は法律分野に限らない。実際、サイトビジットのメンバーの経歴は多種多様だ。大手IT企業、コンサルタント、メガベンチャー、教師、美容師…。 共通するのは、「人の権利や生活を守る社会貢献性の高い仕事をしたい」という想いだ。
そして鬼頭氏は、求める人材のもう一つの要件を、「コップに水が半分入っているとき、『半分もある』と思える人」と表現する。
鬼頭ここでいう水とは、「ヒト」「モノ」「カネ」です。大企業に比べて、スタートアップは当然のように水が少ない。「半分しかないなら何もできない」と嘆く人ではなく、「こんな可能性のある事業を展開できる」と前向きに捉える人と仕事をしたい。法律分野における新しい概念、事業、組織を創出していきたいですね。
こちらの記事は2020年02月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田中 一成
写真
花井 智子
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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