「在宅でも生産性落ちない」はまだ早い!
DXスタートアップ2社が指摘する“ニューノーマル幻想説”に迫る
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新型コロナウイルスの感染拡大は、リモートワークの急速な普及をはじめ、ワークスタイルの変化を否応なく引き起こした。
この状況を追い風と見る向きもある。これまで漸進的だった“働き方改革”が、一気に進む可能性があるからだ。
改革のなかでも、オフィスや契約業務には大きな注目が集まる。これを機に「脱オフィス」「脱ハンコ」は進んでいくのだろうか。いや、変わってきたように見えて、実は変わっていないのではないか──この問いについて考えるべく、クラウド受付システム『RECEPTIONIST』を提供するRECEPTIONIST代表取締役CEO・橋本真里子氏と、ワンストップ契約サービス『NINJA SIGN』を運営するサイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏を招いた。
そんな問題提起から始まったこの対談。「このままでは働き方は変わらない」と共通する危機感を持つ二人の目に、日本人のワークスタイルはどのように映っているのだろうか?
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
働き方のニューノーマル…そんなものは幻想だ
「以前の働き方に戻ろうとする力学が働いているように感じる」
開口一番、橋本氏は警鐘を鳴らした。
橋本3,000社分の『RECEPTIONIST』の利用データを見れば、変革が進んでいないことは明らかです。たしかに、緊急事態宣言下にあった2020年4~5月は、企業を訪問する人の数が、前月比で85%減ったという結果が出ました。しかし、それ以降は、徐々に従来の数値に戻りつつあり、現在は3月と同じ程度の来客数です。
国の対応を見ても、本気で改革を進める気があるようには思えません。例えば、経済産業省が主導するIT導入助成金を申請したのですが、その方法がとても煩雑で、多くの労力がかかりました。これでは申請できる企業が限られてしまいます。
このままだと、感染が収束した瞬間に「よかったよかった、じゃあ元通りの働き方で」と逆戻りしてしまうのではないでしょうか。誰しも、慣れ親しんだやり方を変えることには抵抗を覚えます。しかし、そこから逃げていては、何事も前に進みません。
橋本氏の懸念に、鬼頭氏も同意する。契約業務、捺印作業がリモートワークの推進を阻害する一因となっていることが報道されるなど、電子契約への注目は高まった。しかし、ワンストップ契約サービスを提供する者として、「注目のまま終わらせてはいけない」と緊張を表す。
鬼頭日本人は「マイナスをプラスに変えること」は得意だと思うんです。戦後の混乱を脱し、世界に冠たる経済大国へと一気に駆け上がったことは最たる例ですし、コロナ禍でもその強みは発揮されていると感じています。政府機関が2020年7月にまとめた「規制改革推進に関する答申」を見て、「短期間でこれをまとめたのか!」と驚きました。生じたマイナスをプラスに変える道筋はすでに立っています。
しかし、その後のプロセス、つまり「プラスをさらに大きくしていくこと」は苦手です。例えば、コロナ禍の前に比べて、電子契約が普及するのは間違いないでしょう。でも、「日本の契約業務を変えた」と言えるほど社会に定着するかは、正直まだ分かりません。働き方がドラスティックに変わるかどうかの勝負は、これからなんです。
在宅勤務は「無茶」だった?生産性の評価は時期尚早
変わらない背景には、従来の働き方にメリットが大きかった事実もある。橋本氏は、コロナ禍におけるリモートワークや在宅勤務の広がりについて、「負担を感じていた人も多かったのではないか」と指摘する。
橋本私たちが得たデータからは、来客回数が戻ってきている傾向が見受けられました。多くの人が「在宅勤務はやっぱりツラい」「オフィスに行っていいのなら出社したい」と感じ始めているように見えます。
日本で働く人の多くは、オフィスなしで生産性を維持して働き続けるのが難しかったのではないでしょうか。出社することで、仕事モードにスイッチを切り替えていた人が多いはずですから。
はじめのうちは、多くの人が在宅勤務にメリットを感じただろう。「オフィスに行かなくていい」という状況が新鮮でなんとなくワクワクし、満員電車に乗る必要がなくなったことでストレスも減る。参加したくない飲み会に参加する必要もなくなり、仕事はもちろん、家事や趣味に使える時間も増える。
しかし、こうした非日常が長くなるにつれて、個々人の適応度合いに差も生まれてきた。
橋本これからは、「在宅はツラかった、やっぱりオフィスはいいよね」といった声が目立つようになるでしょう。でも、このことを頭ごなしに否定していては、一向に働き方は変わりません。そう簡単には変わらない、まずはこのことをよく認識するところからスタートしなければいけません。
「在宅勤務でも生産性は変わらなかった」と主張する方もいます。ですが、生産性を判断するのは、まだ早いでしょう。感染が収束し、従来の出社勤務が復活して比較できるようになって、はじめてはっきりと判断できることだと思っています。
鬼頭極端に言えば、在宅でも出社でもどちらでも良くて、最も大事なのは、仕事を通じてあなたが価値を出すこと。僕はサイトビジットのメンバーに、この当たり前のことを当たり前に言い続けています。
どこでどのように働くべきかは、人によって違いますし、同じ人でも、担う業務によって変わってきます。
こうした多様性を認める経営、このことを前提とした現場のマネジメント、そして個々人がパフォーマンスを最大限に発揮する方法を、それぞれが考え抜いて実践する。こうした基本的な仕事のあり方を、改めて見つめ直す必要があるでしょう。
オフィスを求めるのは、人間の動物的な習性?
ワークスタイル変革をめぐる議論で、よく話題にのぼるのが、オフィスのあり方だ。規模を縮小あるいは廃止するなど、「脱オフィス」を掲げる企業も見られるが、もはや無用の長物なのだろうか。
この点について、両氏は「オフィスは不可欠だが、担う機能は変化していくだろう」と考えている。
橋本オフィスは主として作業場であると同時に、コミュニケーションを図るための場所でもありました。いま、作業場としての存在意義を再考する企業が増えているなかで、今後の中心的な機能は、「コミュニケーションの活性化」に移っていくでしょうね。
鬼頭僕も同じ考えです。サイトビジットは、出社は週1日だけでいい。残りの4日は任意としていて、各々に任せています。コロナ禍で出社と在宅勤務とのバランスを試行錯誤していたのですが、週1回は必ず全員で集まることにしようと決めました。アイデアを出し合うなど、共創が必要な仕事は、顔を合わせてコミュニケーションを取った方が、効率良く進みますから。
さらに鬼頭氏は、「オフィスは企業文化や規律(風土)を浸透させる役割も担っている」と付け加える。
鬼頭オフィスはその会社の不文律を伝える場なんです。例えば、スタートアップで働いている人は想像しづらいかもしれませんが、「社長が社長室から出て執務エリアに来たら、みんなで挨拶をする」という風土を持つ企業も見られます。オフィスという空間が、企業ごとの共通認識を根付かせる機能を果たしているんです。
しかし、オンラインで企業文化や規律を伝えるのは難しい。比較的フラットな組織づくりをしているスタートアップも同じだと思います。オフィスで会話することを通して文化を浸透させる、あるいは、オフィスの設計やデザイン自体にビジョンやミッションを反映させている企業もあるように、その「場」自体が、企業の思想や風土をメンバーに伝える機能を果たしていますから。
橋本オフィスは、組織づくりにおいて不可欠な存在ですよね。強い組織をつくるためには、メンバー間のつながりや一体感を醸成することが重要だと思っています。それを生むためには、業務以外の何気ない会話を通して、お互いを知ることが必要です。
初期人類であるアウストラロピテクスは集団で生活をしていたと言われていますし、霊長類の仲間であるゴリラやチンパンジーも集団生活を営みます。集団をつくり、その集団の中でコミュニケーションを図ることで信頼関係を築く──そうした動物としての習性は、簡単に変わるものではありません。
だからこそ、みんなで集まりコミュニケーションを図る場としてのオフィスが重要だと考えているんです。もちろん、オンラインでも創発が生まれるようにするための取り組みも、たくさん行われています。とはいえ、現状は弊社も苦労しています。オンラインでは「昨日こんなことがあった」といった何気ない会話はなかなか生まれにくく、信頼関係を育む難易度は高いと感じます。
「導入率は1%未満」電子契約の普及を阻む“2つの壁”
一方で、コミュニケーションによる創発が望まれない業務に関しては、オフィスから排除する、あるいは「どこでもできる」状態にすることが求められていくと、両氏の見解は一致した。
契約・捺印は、まさに「脱オフィス」すべき業務の一つだろう。しかし、鬼頭氏によると、全国約350万社のうち、有料で電子契約サービスを利用している企業は1%に満たないという。
鬼頭巷では「脱ハンコ」が話題になっていますが、実態は全く伴っていません。契約の電子化が進まない原因は、契約業務や電子契約に関するリテラシー不足だと考えています。
契約業務の電子化を進めるためには、関連する法律への理解が欠かせない。法律によって、オンライン上で締結された契約のほとんどが有効であると認められているが、「この『ほとんど』という文言がやっかいだ」と鬼頭氏。法律の専門家ではない多くの経営者や法務担当者は、電子契約が有効になる条件の判断がつかず、「念のため紙の契約で進めよう」と意思決定しがちだというのだ。
また、法律だけでなく、テクノロジーに対する理解も必要だ。電子署名は「公開鍵暗号方式」と呼ばれる技術によってその安全性が担保されているが、関連領域に馴染みがなければ、その仕組みは理解されにくい。
鬼頭電子契約サービスの導入を検討する企業は、「どのように導入するか」を考える前に、法律と技術の壁を乗り越えなければいけません。でも、その壁を自力で乗り越えられる会社は、日本にそう多くあるわけではない。これが、日本に電子契約が普及しない、根本的な原因だと考えています。
腕の立つ社内弁護士がいれば、法律の壁を乗り越えることは難しくありませんが、日本の社内弁護士の総数は2,500人ほどしかいません。
こうした状況を打開するため、「今はまだ競合とのシェアを争うフェーズではない」と強調する。最優先事項は、日本に電子契約を普及させること。そのためには、競合サービスと協力体制を築くことも必要だと考えている。
鬼頭まずは、日本企業の電子契約に関する法律や技術面のリテラシーを底上げしていかなくてはなりません。僕たちは2013年から、資格取得のためのオンライン学習サービス『資格スクエア』を展開しており、知識を噛み砕いて伝えるためのノウハウを持っています。場合によっては競合サービスとも協力しながら、電子契約サービスに関する知識を伝えることに注力していきます。
今はまだ「ニューノーマルのきっかけ」ができたに過ぎない
電子契約サービスの普及はまだまだこれからだとはいえ、大企業からの問い合わせは増加したという。「確実に変化が生じ始めている」と鬼頭氏は自信をのぞかせる。
クラウド受付システムである『RECEPTIONIST』にとっても、現在の状況はポジティブだと橋本氏。オフィス丸ごと解約する企業もあることは事実で、向かい風もなくはないが、導入の問い合わせ自体は増加傾向にあるのだという。
橋本企業訪問者数が前月比85%減になった2020年4月でも、『RECEPTIONIST』の稼働台数は、25%ほどしか減少していなかったんです。もちろん、オフィスには誰もおらず、配送業者や飛び込み営業の訪問に対応しただけ、といったケースも含まれます。でも、オフィスがある以上はむしろ必要とされるサービスなのだ、という手ごたえがあります。
訪問者数の減少をきっかけとして、企業の姿勢に変化が生まれているのは事実だと思います。受け付けに担当者を置くなど今まで同様のコストをかけると、費用対効果が悪くなる。多くの訪問者に対応してきた大企業は、受け付け対応のために派遣社員を雇っていましたが、今後はローコストに済ませる流れが加速する。弊社への問い合わせが増えた背景には、こうした事情があるのだと思います。
『RECEPTIONIST』と他の受付サービスと比べてユニークなのは、内線電話と連携していない点だ。来客があっても電話が鳴ることはなく、『Slack』や『Chatwork』などのコミュニケーションツールに通知される仕組みを採用している。この仕組みは、メンバーの集中を阻害しないための工夫でもあり、新型コロナウイルス対策としても機能していると話す。
橋本「新しい生活様式」の実践例として「いつ、どこで、誰と会ったのかを記録すること」が挙げられていますよね。『RECEPTIONIST』を導入すると訪問者の履歴が残るため、自然と対策が取れるんです。本来は、ビジネス上で役に立つデータを蓄積するための仕様だったのですが、うれしい誤算ですね(笑)。
このように、コロナ禍がワークスタイルの変革への契機となった面があるのは事実だ。しかし、橋本氏と鬼頭氏が繰り返し述べてきたように、それだけでは十分でない。
橋本受け付け対応や電話対応を自動化・電子化することで、バックオフィスを担うビジネスパーソンの活躍の幅を広げていきたいんです。そうすれば、経営者にとっても高い費用対効果が得られますしね。理想とする未来のために、今後もより一層『RECEPTIONIST』を広めていきます。
鬼頭僕らは、経営者が意志決定の際に参考となるデータを提供することを目指しています。紙で行われていた契約をデータ化できれば、多様な分析が可能になりますから。
例えば、法務担当メンバーの業務効率を計測できるかもしれないし、過去の契約内容と照らし合わせることで、自社にとって不利な条件となっている契約を判別できるかもしれない。便利にするだけでなく、契約という業務の価値をより高めることにチャレンジしていきたいですね。
こちらの記事は2020年09月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
校正/校閲者。PC雑誌ライター、新聞記者を経てフリーランスの校正者に。これまでに、ビジネス書からアーティスト本まで硬軟織り交ぜた書籍、雑誌、Webメディアなどノンフィクションを中心に活動。文芸校閲に興味あり。名古屋在住。
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