連載コロナ禍の苦境を乗り越えた5人の経営者──未曽有の“危機”を乗り越えるための思考法

【みずほ銀行コラボ企画】「慌てず、動じず、前向きに」──オフィスの生産性をUPDATEする、RECEPTIONIST・橋本氏。コロナ禍の“受付不要論”を覆す経営の大局観とは

Sponsored
インタビュイー
橋本 真里子
  • 株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO 

2005年より、トランスコスモスにて受付嬢のキャリアをスタートし、USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として10年以上、のべ120万人以上の接客を担当した受付経験から、受付の効率化をめざし、2016年に株式会社RECEPTIONIST(旧・ディライテッド株式会社)を設立した。2017年にリリースしたクラウド受付システム「RECEPTIONIST」は、リリース5年で5,000社の企業が導入。現在は日程調整・スペース予約管理の3つのサービスを開発・提供し、ビジネスコミュニケーションのアップデートをめざす。

関連タグ

2020年2月。突如あらわれた未知なる感染症が日本に波及し、国民全員が先の見えない道に放り出されました。その感染症は、今なお我々の生活を脅かし続けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。この厄災により、多くの中小企業や小規模事業者がダメージを受け、明日の経営に不安を抱いているのではないでしょうか。

「そんな経営者たちを少しでも応援したい」「自分の経験から、明日の糧になるヒントを得て欲しい」。そんな想いで駆けつけてくれたのは、自身もコロナ禍の影響を受けた5名の経営者たちです。

今回語ってくれたのは、RECEPTIONISTの代表取締役CEO、橋本 真里子氏。「受付の効率化」を図るプロダクトを提供している同社は、コロナ禍の影響を人一倍受けたことでしょう。しかし、それでも前を向き、有効な打開策を講じ続けたRECEPTIONIST。今回は、その折れない経営者としての思考やマインドにスポットをあてていきたいと思います。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
SECTION
/

“受付不要論”。
コロナ禍で突きつけられた事業の存在意義

コロナ禍になり、人との接触を8割減らすことを推奨する提言が、政府より国民に発信された。多くの企業が一斉にリモートワークを導入し、オフィスからは瞬く間に人が減っていく。当時の自社を取り巻く状況について、橋本氏はこう振り返る。

橋本氏コロナ禍によって、弊社にとっては極めてネガティブなムードが漂いました。感染症という問題ゆえ、“受付不要論”が社会に生まれ、受付で人と人が出会うシーンのサポートをしている弊社にとっては致命的な問題に感じられたんです。

誰も経験したことがなく、この先どうなるか見通せない状況だったので、商談の長期化やペンディング、失注が多発。この先、事業やプロダクトはどうなっていくのか、メンバーは日々そんな不安に駆られていたと思います。

当時の不安感漂う様子を思い返しながら語る橋本氏だが、現場の不安感に対し、経営陣はいたって冷静だったとのこと。現場目線で見れば、確かに「オフィスへの来客がなくなれば受付は不要となり、プロダクトを導入する意味もなくなってしまう…」と考えるだろう。だが、「本当に人と人が会うこと自体がゼロになるのだろうか」──。橋本氏たち経営陣が出した答えは、“否"だった。

橋本氏いくらコロナ禍で対面機会が減ったとしても、お客さまと会う機会が完全にゼロになるとは思えなかったんです。であれば逆の発想で、「今こそ私たちが提供するプロダクトが活用される、役に立てるシーンがあるのではないか」と考えました。

確かに世の中の風潮としては、人と人が会うということにネガティブな空気が漂ってはいるけれど、「自分たちのプロダクトだからこそできること、解決できる課題がきっとあるはずだ」と。

とはいえ、社会全体でみるとオフィスへの来客数は確実に減っているのも事実。その状況下で、どうすれば事業として踏ん張れるのか。橋本氏たちが着目したのは、コロナ禍で増加が見込まれるオンラインでのコミュニケーションだった。

橋本氏もともと『RECEPTIONIST』のサービスのひとつとして実装していた“日程調整”の機能を、2020年6月に『調整アポ』という新たなサービスとして早急に切り出しました。もともと「この機能を別プロダクトとして提供できるようにしていこう」という構想は以前からあったもので、その計画を一歩早め、かつオンラインにも対応した形です。

日程調整は、オンラインだろうがオフラインだろうがビジネスシーンでは必ず行われるもの。「オンラインコミュニケーションの機会が増加するコロナ禍において、対面時のようにサクッと日程調整ができないことに煩わしさを感じている人が増えているのではないか」、「ここを効率的にすることができれば助かる人がいるのではないか」と考えました。

受付の効率化、すなわち、人と人がオフラインで出会うシーンの最適化という“点”に縛られず、人と人が出会うために必要な調整業務の一切をオンラインに移し替え、最適化するといった、“面”で事業を捉えるように、RECEPTIONISTは進化したのだ。

その結果──、にうつる前に、なぜ橋本氏はここまで“人と人とが出会うこと”の可能性に懸けることができるのだろうか。さらに言えば、なぜ“受付業務”に着目したのだろうか。その答えは、彼女自身が長く積み重ねてきた受付キャリアにあった。

SECTION
/

「受付はもっと輝ける」。
11年の現場経験から確信した受付の伸び代

RECEPTIONIST創業前、橋本氏は11年ほどIT業界で受付業務に従事してきた。その間にとりわけ感じていたのは、受付業務の非効率さだったという。

橋本氏この20年は、インターネットの普及によって世の中がどんどん進化してきた時代です。しかし、受付に関してはまったく進化がなく、どれだけ常連のお客さまであっても手書きの受付票を毎回書いていただかなければならなかったり、内線電話で連絡をして取り次いでもらわねばならなかったりと、アナログの非効率さを感じるシーンが多くありました。

そうした受付の状況に対し、生産性の観点から伸び代を感じていて、「インターネットを使えば必ずこの課題を解決できる」、「受付からきっと新しい価値を提供できるようになる」と思ったんです。

その想いを形にできる企業を探したが、当時は該当する企業が見つからなかった。そこで、自然と起業への道を歩むことになる。それまでIT業界、とりわけベンチャー企業での受付経験が多かったことから、経営者や起業家といった面々とのコミュニケーションは日常茶飯事。日々、こうした経営者らを間近に見ながら仕事をしてきたことによって、起業に対して必要以上に不安を抱くことなく飛び込めたのだ。

唯一、プロダクトづくりをしたことがないという課題はあったが、そこは迷わず“人に頼る”選択をし、必要な仲間を集める方向に突き進んでいったという。幸い、ITに強い仲間にも恵まれ、RECEPTIONISTは順調にスタートを切った。

そんな橋本氏がめざす受付業務の効率化だが、一見すると、彼女自身が長きにわたって務めてきた受付の仕事自体を奪ってしまうようにも思える。事実、RECEPTIONIST立ち上げ時からこの問いかけは頻繁に周囲から受けてきたそうだ。しかし、橋本氏は毎回「そうではないんです」と明確に、そして力強く主張を返してきた。

橋本氏私が受付に従事していたとき、「私が受付にいるのは、“人にしかできない仕事”にコミットするためだ」と思っていたんです。例えば、お茶出しや会議室の調整、清掃などですね。しかし、現実はお客さまに受付票を書いていただいたり、社内に内線をかけたりといった取次作業に追われる日々。終日、ほぼ受付カウンター内での取次しかできない日も多々ありました。しかしこれでは、“人にしかできない仕事”どころか、“人がやらなくて良い仕事”にコミットしてしまっている、まさに本末転倒だと感じるようになったんです。

そうした受付現場において『RECEPTIONIST』を導入すると、受付の仕事を奪うのではなく、むしろ“人がやらなくて良い仕事”を代替してくれます。それはつまり、受付の方々が“人にしかできない仕事”にフォーカスできる環境をつくることに他なりません。言い換えるなら、“受付の方々がより輝けるようご支援するプロダクト”だと言っても良いかもしれません。ですので、受付業務の代替と捉えている方々にはそのようにご説明しています。実際に、有人の受付と『RECEPTIONIST』を併用してご利用いただいている企業さまも多くいらっしゃるんですよ。

このように、RECEPTIONISTは決して有人の受付を世の中からなくそうとしているわけではない。むしろ、全部で10ある受付業務のうち、人がやらなくても良い4割の業務をこの『RECEPTIONIST』によって自動化させることで、有人でこそ担える6割の受付業務に全集中できるような、そんな価値提供を志向しているのだ。つまり、RECEPTIONISTは世の受付にとって脅威となる存在ではなく、救世主となる伴走パートナーといえるだろう。

SECTION
/

プロダクトの可能性を信じたからこそ、
新たな市場が開けた

容赦なく世の中を暗雲で覆い尽くす新型コロナウイルス感染症。多くの企業がこのコロナ禍による事業ダメージを補うべく、あの手この手で売上の可能性を模索していた。そんな状況において、RECEPTIONISTが元の事業と大きくズレることのない領域で新たなプロダクトを提供できた理由は、SaaSによる月額課金制のビジネスモデルが関係している。

橋本氏ご存知の通り、SaaSビジネスはプロダクトの解約が発生しない限り、基本的に先月の売上を下回ることはありません。つまり、先々の売上予測が立てやすい。そして幸いにも、このコロナ禍の影響で「解約の電話が鳴りやまない…」ということもなかったため、落ち着いて今後の事業方針を考えることができました。経営陣が一丸となって前を向き、今あるプロダクトを軸にしながら、サービスの横展開や時代に合った機能の提供について検討できたと感じています。​​

また、今回のコロナ禍という状況で慌てふためかずに済んだのは、私自身の性格もありますが、やはりこれまでの受付業務で鍛えられた部分が大きいと思っています。

例えば、受付にとって最も忙しくなる午後一番の時間帯において、一度に大勢のお客さまがいらして混乱するようなシーンでも、受付は慌てた様子を出さずに冷静にご案内をしなければなりません。そうした状況下で11年間お客さまの対応をしてきた経験というのは、今でも平常心を保つうえで大いに役立っていると思います。

そんな“事業としての安定性”と、橋本氏自身の“経営者としての落ち着き”が備わっていたからこそ、事業のピボットならぬ、プロダクト・スピンオフも円滑に進めることができたのだ。

橋本氏当時、既存のプロダクトに対する解約はそれほど発生しなかったものの、やはり新規のお客さまの獲得には伸び悩んでいたのも事実です。ですので、受付システムだけで見ると一時的に成長は鈍化しました。

しかし、「どうやらコロナ禍は短期間で収束するものではない」という認識が世の中に広まってくると、この状況を踏まえて安心安全なオフィスづくりを考える方向にシフトする企業が増えてきたんですね。

普段、“受付”というシーンは経営陣もあまり注目しない領域だと思うのですが、コロナ禍を受けて、「有事における受付対応をどうするのか」、「感染リスクがある中、有人の受付のままでいいのか」といった議論が出てくるなど、その価値を再定義するきっかけが生まれたんです。

コロナ禍のピーク時においては新規の引き合いが減ったとのことだが、上述したような“世の中の、受付に対する見方の変化”や、“ニーズあるプロダクト機能の切り出し”によって、即座にリカバリをしていった。

実際に新たに切り出した日程調整ツール『調整アポ』は多くの企業から引き合いがあると橋本氏はいう。今や本サービスを使って調整されているアポイントの数は、月間10,000件にも及ぶそうだ。

そして『RECEPTIONIST』においても、プロダクトの開始当初は予想だにしていなかった顧客層からの相談を得ることになる。

橋本氏コロナ禍を機に、工場や病院からの引き合いが増えるといった変化もありました。いずれも、コロナ禍とはいえリモートワークができない業務環境を持たれているため、オフラインでの来客対応が依然として発生します。

例えば、工場では守衛さんが受付業務をしているのですが、通常の来客対応に加えて検温や消毒といったプラスアルファのご案内が増え、業務が煩雑になっているという課題があったんです。そこに対して「『RECEPTIONIST』で業務を効率化したい」というご相談を、徐々にですがいただくようになっていきました。

当初は想定していなかった市場にも拡大するチャンスを得た橋本氏。ここで一気に加速度を上げる『RECEPTIONIST』の導入社数は、2022年2月時点において5,000社を突破したという。導入先は従業員数50名以下の企業から5,000名以上の企業まで幅広く、業種業界も問わないホリゾンタルなSaaSプロダクトだ。

このように今後も成長が期待される同社であるが、総じて橋本氏の平常心っぷりが際立つ取材となった。いくら受付で揉まれてきたとはいえ、もともと事業経験は持たない同氏である。このような未曾有の危機においても焦らず状況を俯瞰し、ポジティブに先を見据えることなど、なかなか真似しがたく感じる読者も多いだろう。

「どうすれば橋本氏のようにドッシリと構えることができるのか」──。最後にこの問いを投げかけたところ、「コロナ禍に関係なく、常に前を向くことを意識しています」と微笑みをみせた。

SECTION
/

笑う門には福来る。
ポジティブさこそ経営者の一丁目一番地

橋本氏企業のトップ、象徴である社長が下を向いてしまうと、組織のみんなも下を向いてしまう。そうなると、上手くいくものもいかなくなり、好転できるものもできない状況になってしまうと思っています。

“笑う門には福来る”っていい言葉だなと思っていて、事業を推進するうえで常にそういうマインドでいるよう心がけているんです。人生においても、経営においてもネガティブなことは必ず起きますが、それは一生続くわけではありません。ですから、そんな事態に見舞われた時こそ冷静になって、「先を明るくみよう。そうすればきっとよくなる」ととらえて、困難を糧に変えていけたらと思っています。

橋本氏ちなみに、具体的なアクションとして運動はオススメしたいです。身体を動かすと物理的な健康面だけでなく、メンタル的にもいい影響を与えてくれますからね。

経営者の方だとこんなご時世、ついついオフィスに一人こもってしまうことも多いかと思います。けれども、PCに向き合っているだけでは解決できないこともたくさんあります。なので、仕事に煮詰まったら職場から離れて、リフレッシュする時間も大切にしてみてはいかがでしょうか。きっと、思わぬ切り口で課題の解決策が浮かんでくることがあると思いますよ。

創業時からコロナ禍に至るまで、ネガティブなことが起きても決して下を向かず、常に前を向いて進むことで乗り越えてきた橋本氏。「人と人が会う機会はなくならない」という想いを胸に、今後も企業のコミュニケーションに関わる生産性の向上に取り組み続ける。

そんな事業を下支えする根幹となるものは、「慌てず、動じず、ポジティブに」といった経営者としての佇まいだった。感染症は社会情勢を変えることはできても、経営者の芯までは変えることができなかったようである。どんなハードシングスにおいても前を向いていく強さ。これこそが、有事においても折れず、有効な打開策を講じ続けられる秘訣なのかもしれない。

こちらの記事は2022年06月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン