連載次世代カメラメーカー「Snap」を紐解く
【買収企業17社を全解説】「Snap」は次世代カメラメーカーだ!黒船襲来前に押さえたい4つの戦略軸
日本ではあまり馴染みのない企業「Snap(スナップ)」。
大手SNSアプリ「Snapchat(スナップチャット)」を運営会社である。
ほとんどの方が「Snap」の動向を注視せず、米国だけのトレンドであると認識してしまっている。
しかし同社は、日本の得意分野であるカメラ製造市場を大きく揺さぶりかねない可能性を持っている。
そしていま、「Snap」が私たちを脅かす存在になるであろうリスクをはらんでいることを理解しなければならないだろう。
- TEXT BY TAKASHI FUKE
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
苦戦を強いられている「Snap」
「Snap」の評判は右肩下がりだ。
「Snapchat」は24時間経過すると消えてしまう、10秒の写真・動画コンテンツを通じて、友人とコミュニケーションできる大人気アプリ。「Snap」は2017年に上場を果たした。
しかし、同アプリの主力機能「ストーリーズ」は、Facebook傘下の競合アプリ「Instagram」と「WhatsApp」に模倣されてしまい、ユーザーの囲い込みに苦戦している。事実、2017年11月のTechCrunchの記事によれば、両社のアクティブユーザー数は3億を超えている一方、「Snapchat」のユーザー数は1.7億とほぼダブルスコアーで負けていると報じられた。
最近では、アプリデザインを大幅に変更したことで、ユーザーから不評を受けている。『Recode』はユーザーのアプリデザインに関する数値データを公表(最大評価100、最低評価-100の範囲で評価)。デザイン変更前には30ポイントあった数値が、変更を行った4月には8ポイントにまで急減してしまった。
カメラを再発明する企業「Snap」
ユーザー数の伸び悩みだけに焦点を当てると、「Snap」は「Twitter」のように成長戦略を指し示せない、成長限界を迎えた企業だと認識されてしまいがちだ。しかし、「Snap」の本質はSNSにはないという認識に立つと、十分に再起する可能性を秘めている企業であると考えられる。
私たちが見落としがちなのは、「Snap」はカメラメーカー企業であるという点だ。
SNSアプリ企業であるとの認識で企業成績を判断すると、ユーザー数の上下高に一喜一憂してしまう。たしかにユーザー数は重要な指標ではあるが、「Snap」がカメラ企業としての成長戦略に沿って展開していることを考慮すれば、競合SNSアプリと比べて、遥か先を見据えた革新的な企業であると認識できるだろう。
2007年、初代iPhoneが登場した。以降、スマートフォンの爆発的な普及に伴い、私たちのカメラレンズの使い方は大きく変わってしまった。いまや一眼レフ以上の画質の写真や動画を、手軽に片手で撮影できるようになった。
iPhone登場から4年後の2011年、「Snap」はビジュアルコンテンツを通じた新しい若者向けコミュニケーションが確立されると睨み、創業された。そして、カメラレンズの使い方からコンテンツ投稿プラットフォームまで、“カメラ”を取り巻く全てのUXを再発明しようとしたのだ。
“カメラ”に関連する川上から川下までを抑えたのが「Snap」の本質であるといえる。
ここでいう川上とは「カメラの製造」、川下はコンテンツの投稿先となる「SNSアプリ」だ。この点、「Instagram」は川下しか考えられていない。ユーザー視点でみると、川下の側面にしか目がいかない。しかし、「Snap」はカメラ製造にまで戦略軸を置いている点であるとの共通認識に立つと、製品ラインナップの見方が一変するだろう。
私たちはメガネ型端末時代の初代iPhoneを目の当たりにしている
2016年秋、急に「Snap」が発表した初めてのハードウェア製品が「Spectacles(スペクタクルズ)」だ。(現在は第二世代「Spectacles2.0」を発売中)
「Spectacles」は129.99ドルで販売されたメガネ型端末。ユーザーはレンズ越しに見える世界をワンクリックで録画でき、コンテンツを「Snapchat」上へ自動投稿できる。
販売当初は、カリフォルニア州ベニスビーチに置かれた一台の自動販売機でしか購入できないユニークなPR戦略を展開。一見すると単なる企画物ガジェットであると認識されてしまいがちであった。実際、筆者が使用した際、機能やデザインがシンプル過ぎたため、“おもちゃ感”が否めなかった。
しかし、「Snap」がカメラメーカーであるという認識を持つと、SNSアプリ「Snapchat」を確立させた後、メガネ型端末「Spectacles」を投入することで、川上から川下の全てを抑える戦略の一環であると腑に落ちた。
「Apple」もハードウェア端末「iPhone」だけでなくコンテンツの受け皿となる「iTunes」と「AppStore」の両方を開発することで大きく成長を遂げた。「Snap」はすでに「Snapchat」を大ヒットさせている。残すは端末「Spectacles」を市場に認めさせることだったのだ。
初代iPhoneも発売当初は酷評されていたが、今となっては私たちの生活に欠かせないものとなった。こうした事例から、「Spectacles」が市場に受け入れられるまでリソースを全力で注ぐだろう。そしてカメラメーカーとして、次なる「Apple」の立ち位置を目指しているのだ。
日本は「Canon」や「Nikon」に代表される、世界に名だたるカメラメーカーを抱える。しかし、こうした企業はSNSアプリ「Snapchat」しか目に映っていないため、実はカメラメーカー企業の根幹を揺るがす可能性を持って動いている黒船「Snap」の全体像を捉えられず、その脅威を推し測れていない。
実際、わたしがお会いした多くの人は、「Snap」を10秒でコミュニケーションの取れる単なる若者向けSNS企業として捉え、同社の本質を理解できていなかった。なかでも40-50代のエグゼクティブは、「Snap」の動向を軽視しがちで、日本企業のお家芸であるカメラ製造開発がディスラプトされるかもしれない危機感を全く感じていない。
私たちは、新たな黒船襲来の危機に陥っているのだ。対応するには「Snap」の戦略を深く理解しなければならない。さもなければ、日本のガラケーがiPhoneの登場で市場を簡単に駆逐されてしまう事態になりかねない。
そこで本連載では、「Snap」がカメラ企業であるという前提を踏まえ、同社がこれまでに買収してきた17社の足跡を辿りつつ、4つのカテゴリーに分けて長期戦略と軌跡を紐解いていきたい。
こちらの記事は2018年07月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
福家 隆
1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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4記事 | 最終更新 2018.08.16おすすめの関連記事
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