「ゼロイチこそ人類に残されたラストフロンティア」──ジェネシア・ベンチャーズ田島氏と考える、産業創造を実現する起業家とVCの在り方

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インタビュイー
田島 聡一
  • 株式会社ジェネシア・ベンチャーズ 代表取締役 / General Partner 

三井住友銀行にて約8年間、個人向けローンや企業向け融資、シンジケーション・債権流動化等のさまざまな形態のデットファイナンス業務に関わる。2005年1月、サイバーエージェントに入社。同社では、複数の金融サービスの立上げを経験した後、サイバーエージェントの100%子会社であるサイバーエージェント・キャピタルにて、ベンチャーキャピタリストとして投資活動に従事し、多数のIPO・バイアウトを実現。2010年8月以降は同社の代表取締役として、日本・東南アジアを中心とした8ヶ国における投資戦略の策定及び全案件の投資判断に深く関与することで、同社をアジアで通用する数少ないベンチャーキャピタルにまで成長を牽引。2016年8月、株式会社ジェネシア・ベンチャーズを創業するとともに、2023年7月より日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会長を務めている。大阪大学/工学部卒。

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昨今、シードステージのスタートアップが向き合うビジネス環境に変化が起きている。

多くの起業家たちがさまざまな課題を解決してきた結果、解くべき課題はより深く、複雑なものになってきている。その結果、PMFを達成するまでに必要な資金や時間が増加し、より高度なアプローチが求められるようになった。

それに伴い、昨今ではベンチャーキャピタル(以下、VC)の立場も変わってきている。数年前までは、起業家が資金調達する際、どちらかといえばVC側に主導権があったものの、今や産業構造を変え得るトップ1%の起業家には数多くのVCが列をなしており、その主導権がVCから起業家に変わりつつある。具体的には「起業家から高評価を受けたVCのみが出資する権利を得る」状況だ。

こうした中、起業家はどのような事業拡大を描き、パートナーとなるVCを選ぶべきだろうか?VCはどのような支援体制を敷き、起業家から選ばれるようになるべきだろうか?

その答えを得るべく、我々はジェネシア・ベンチャーズの代表取締役 / GP(ジェネラルパートナー)である田島 聡一氏を訪ねた。

同社は主にプレシード / シード期のスタートアップを対象に投資と経営支援を行う独立系のVCだ。現在は日本、ベトナム、インドネシア、インドの4ヵ国に拠点を構え、読者もご存知であろうHRBrainやタイミーを始め、インドネシアにおいてはシリーズCラウンドで累計調達額133.9MUS$となったQoala、ベトナムにおいては先日51.5MUS$の資金調達を発表したBuymedなど、数多くのスタートアップに対してシードステージから投資・伴走している。

今回、田島氏にはVC側の視点から語っていただくが、このテーマはシードステージを支えるVCだけでなく、シード期の起業家やその予備軍、さらには全ベンチャー / スタートアップパーソンにとっても学びあるものとなっている。本記事がこれからの起業家やVCの在り方を考える一つのきっかけとなれば幸いだ。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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シードVCは、今こそ一丸となって「資金力の底上げ」をすべき

田島昨今、これまでにないほどプレシードからシリーズAに到達するまでのハードルが高まっていると感じています。

これはスタートアップを中心としたプレイヤーによって様々な課題の解決が進んだ結果、解くべき課題がより深く、複雑なものになってきているという意味です。

田島例えばIT領域に目を向けると、生み出されるプロダクトがピュアなソフトウェア領域にとどまらず、AIやブロックチェーンなどの技術基盤や、ハードウェアをはじめフィジカルな領域と融合するものが増えてきている印象です。

これは特にディープテック*と呼ばれる領域で顕著にみられます。ジェネシアでは直近、ディフェンステックのスカイゲートテクノロジズ核融合スタートアップのMiRRESOにそれぞれシードラウンドで約1.5億円を投資していますが、解決する課題が大きな分、PMFの達成に必要な時間が以前より長期化し、事業運営にかかるコストも増加する傾向にあると感じています。

*ディープテックとは…科学的な発見や革新的な技術に基づいて、事業化・社会実装が実現できれば、国や世界全体に大きな影響を与える取り組み(参考

例えば、ITソフトウェア領域でいえば、ERPのような自社サーバーで運用する総合的な製品(オンプレミス型Whole Product)から、SaaSのような特定業界や特定課題向けの製品(クラウド型Vertical Product)に移行してきたが、ここにきてこうしたクラウドサービスを再統合し、オンプレミス型とクラウド型の中間レイヤーを目指すような、部分最適から全体最適に押し上げようとする動きも出てきている。

また、ディープテック領域でいえば、AIをはじめとするテクノロジーを活用し、最適解のアウトプットに必要なトライ&エラーのプロセスを短縮させ、材料開発を迅速化するマテリアルズ・インフォマティクス、開発された材料の最適な製造方法を探索するプロセス・インフォマティクスなどもスタートアップが手掛けている。

その他、社会に残る負を解決するためのアプローチとして、今や宇宙開発、核融合といった大きな事業テーマまでスタートアップによって手がけられようとしているのだ。

田島そしてこうした複雑性の高い事業を成功させるには、以前にも増して優秀な人材の採用が不可欠となっています。

昨今ではスタートアップの裾野が広がり人材の流動性こそ高まっているものの、優秀な人材に対しては各社こぞってアプローチしており、熾烈な獲得競争が発生している状態です。

そうした人材をアトラクトするためにも、今まで以上にオファー水準がハイレベルになると同時に、以前に増して経営者としての力量や壮大なビジョンが求められるようになってきていると感じています。

このように課題が複雑化し、より高度なアプローチが求められるようになったスタートアップシーンの中で、田島氏は「新産業を生み出すような、複雑性の高い事業に挑む起業家を支えるVCも、今こそ更なる進化に挑戦すべきではないか」と唱える。

田島まず真っ先に挙げるとすると、シードVC全体での「資金力の底上げ」が重要ではないでしょうか。

これまではシードステージにおける資金調達額は事業内容や市場の状況によって幅があるものの、1億円未満が主流だったと思います。しかし冒頭にお伝えした通り、私の感覚としてはPMFに必要なコストと時間が増えることで、シード調達に必要な資金も増加していると感じています。

そのため、仮にシードステージで数千万円の資金調達ができたとしても、その後の仮説検証で想定通りに進まなければシリーズAにたどり着く前に資金が尽きてしまうことも十分に起こり得ます。

そうしたタイミングで、その都度新たなVCを探して資金調達することに時間をかけるのではなく、「一番最初に出資したVC」が責任を持って追加投資できる状態が理想的だと私は思っています。なぜなら、一番最初に出資した“First Believer”こそがその起業家やこれまでの仮説検証のプロセスを最も理解しているはずだからです。

プレシードの段階から伴走し、起業家が直面する葛藤や困難を最も理解しているVC(≒First Believer)がサポートすることで、起業家は安心して次のラウンドに進むことができる。そのためにも、シードVCはこれまで以上に資金的体力を持った上で起業家を支える必要がある。これは全てのシードVCに言えることではないでしょうか。

田島氏は「ファンドの規模がスタートアップの存続や成長に大きく影響する」という見解を持っている。

ファンドの規模が小さいと、自ずからそのVCは資金的なバッファが少ない中で投資の意思決定を行うため、得られるリターンを最大化すべく、スタートアップの株式シェアをより多く得ようとする傾向がある。しかし、そうすると今度は起業家の持ち株比率が減り(=株式の希薄化) 、今後の資金調達余力を下げることにもなりかねない。

本来、プレシードからシリーズAに至るフェーズにおいては、起業家は事業の仮説検証を行いPMFに向けて全神経を集中すべきである。

しかし、充分な資金余力がないと、「資金が底をつくかもしれない」という意識を過度に強く持ってしまうことで意思決定に制約がかかりかねず、結果としてPMFから遠ざかることも十分にあり得る。それは起業家とVC、どちらにとっても望ましい形ではないはず。故に、こうした事態を避けるべく田島氏はシードVC全体での資金力の底上げを提唱しているというわけだ。

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組織化、仕組み化でスタートアップの失敗確率をさげる

では、高度化するスタートアップの挑戦に対し、ジェネシア・ベンチャーズはどのような取り組みを行っているのだろう──。

ジェネシア・ベンチャーズの特徴としてまず挙げられるのは、「投資家や事業会社とのネットワークを活用した起業家の支援」だ。特にBtoB向けのスタートアップにとって、スタートアップフレンドリーな大企業のキーパーソンや投資家との出会いは事業の成長スピードを加速させる重要な要素となる。

田島我々は持続的な産業の創出を目指した「産業創造プラットフォーム」という経営理念のもと、様々な投資家との共同投資、及びスタートアップと大企業との共創に取り組んでいます。

例えば、私たちは数多くの国内外の投資家、中でもGP(ジェネラルパートナー)クラスとのネットワークの構築や事業会社のキーパーソンとの構築に力を入れています。これらのネットワークを活用し、「Finance Hub(ファイナンス・ハブ)by Genesia.」や「Business Hub(ビジネス・ハブ)by Genesia.」といったネットワーキング・イベントを四半期に一度開催しています。

ここではシリーズA以降の投資家との出会いの創出や大企業との案件マッチングの支援に力を入れており、起業家にとって貴重な一期一会となるようなプロデュースを行っています。

また、ジェネシア・ベンチャーズは起業家が最も失敗しやすいとされる「組織構築やカルチャーづくり」に関しても豊富な知見を有しており、投資後の経営チームに対してその失敗確率を下げるための支援を密に行っている。

田島現在、ジェネシア・ベンチャーズでは160社ほどのスタートアップに投資(2024年5月末時点)を行っています。その投資先がプレシードからシリーズA、シリーズBへと進む中で陥りがちな、組織トラブルや採用のミスマッチを未然に防ぐナレッジやノウハウを体系的にまとめています。

そこで集められた情報・データを体系化し、具体的な事例をもとに起業家にシェアすることで、投資先の経営チームが組織づくりにおいて適切なマインドセットを持ちながら意思決定できるようサポートしています。

組織とは人間の欲求やエゴがぶつかり合う“生き物”です。ここに対する経験が少ない起業家にとっては、組織トラブルがどこで発生するのか予想することは困難でしょう。私たちは、メンバーから経営チームへのフィードバックおよび経営チームを含めたメンバー全員から見た組織全体へのフィードバックをアンケート方式で収集・可視化するチームアセスメント『G-Owl』を、コーチングをはじめとしたリーダー育成事業などを展開する株式会社コーチェットと共同開発し、積極的に活用しています。

組織内で人がぶつかり合うのか、お互いに手を取り合えるのかによって事業の成長スピードは格段に変わります。だからこそ、ジェネシア・ベンチャーズが提供する投資先支援メニューの中でも「スタートアップの組織づくり」を最重要項目として掲げています。

ジェネシア・ベンチャーズがこうしたスタンスを表明する背景は他にもある。

田島氏はスタートアップが取り組む産業において、「VCが起業家よりも詳しいことはあり得ない」と捉えており、事業に関する意思決定においてはその領域に対する解像度が最も高い起業家に委ねるべきと捉えているのだ。

だからこそ、ジェネシア・ベンチャーズは汎用性ある組織づくりの支援に振り切っていく。産業をつくる起業家へのリスペクトがあるからこそのスタンスなのであろう。

田島組織づくりにおける過去の失敗事例を起業家にシェアすることで、起業家が同じような課題に直面した際、「これは以前ジェネシアから聞いた事例と同じ要因だな」と気づくことができるようになります。

他にも、投資先から採用候補者へのアトラクトや俯瞰的評価の観点で、「採用面接に第三者の立場として参加してほしい」と求められるケースなどがあります。

その際、起業家側としては「この採用候補者の方はすばらしいですね。ぜひ採用したい」と感じるケースでも、第三者の立場から見ると“虫の知らせ”を感じることもあります。それは私のキャリアとして、銀行員時代から多くの経営者と接してきたからこそ感じる直感なのかもしれませんが──。

なので、その瞬間は起業家に「なぜ田島はそんなことを言うんだ?」と思われることも時折あります。

田島ただし、そう感じた事実と理由は起業家にお伝えするものの、「あの候補者の採用はやめた方がいい」とまで断言することは決してありません。

なぜなら、事業も組織も、どの方向に進めていくかの意思決定は最終的に起業家が担うべきであり、VCである我々はあくまでフォロー役だと考えているからです。それに、成功するにせよ失敗するにせよ、起業家自身が下した意思決定から得られた学びの方が、本人にとっても血肉化しやすいですからね。

ですので、後に起業家たちが実体験を通じて学び、「あの時、田島さんがくれたアドバイスの意味がようやく分かりました」と言っていただけることもあります。

産業を創造するようなスタートアップ、起業家として成長していくため、時には失敗を体験することが大きな飛躍につながることもある。

ジェネシア・ベンチャーズは、起業家が組織づくりや意思決定で致命的な失敗を避けられるよう支援する一方で、同時に失敗から学び成長できるような支援にも心を砕いているのだ。

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「集合知化されたGPの知見」と「キャピタリスト個の力」で起業家に向き合う

一般的に、シードVCといえば「組織」としてよりも、キャピタリスト「個人」のスキルや人柄が起業家とのマッチングの是非に影響を及ぼしやすいもの。

しかし、ジェネシア・ベンチャーズはシードVCながらもキャピタリスト個人の強みに加え、チームとしての強みを強化することも重視している。これは同社の経営哲学に根ざしたアプローチであり、他のシードVCとの差別化にもなっている。

田島我々が経営哲学や投資哲学として大切にしていることは、「地図はつくるが、ガイドマップはつくらない」という考えです。

ガイドマップには目的地や行き方が書かれていますが、地図にはそれらが記載されていません。ビジョンやミッションなど、チーム内で大きな方向性は共有しながらも、状況に合わせた最適解を各自で考え、答えを導き出せる組織こそが自律的に成長し続ける組織であり、変化に強い組織だと考えています。もっと言えば、正解がないからこそ生じる揺らぎが、変化に適応するためのダイナミズムになっていくと考えています。

この考え方は、まだ歴史の浅いVC産業が今後も持続的に成長していく上でも重要なことです。

田島どういうことかというと、例えばGP(ジェネラルパートナー)は投資を決める際、マーケットサイズの大小だけでなく、競合の有無や代替え手段の多寡や強弱、ないしモメンタムの強さやそれらを生み出す因子など、多次元的な要素を考慮しながら意思決定を行っています。

加えて、経験や知識、直感などの様々な要素を複合的に活用し、時間の経過に伴う事業や外部環境などの変化も考慮しながら投資判断しているため、投資判断の際に脳内に映っている景色を他者に共有することがとても難しい。

しかし、こうした思考プロセスをアート(非論理や感性)に任せていては、GPのスキルが職人芸となってしまい、後世に引き継いでいくことができません。

そのため、我々は“ジェネシアとして”投資の意思決定をする羅針盤の一つとして『Market.iO』というフレームワークをつくり、社内における共通言語化を目指しました。これによって、キャピタリスト毎の個性も活かしつつ、ジェネシア・ベンチャーズ全体としての共通の投資方針、投資哲学を持って支援することができるようになりつつあります。

以下はジェネシア・ベンチャーズが定義する、市場の類型とその変数を示すものである。

  • 川幅の広さ
    調査機関出自の市場規模で5千億円以上((WIDE) or 未満(NARROW)。
  • 船の数
    「INITIAL / Crunchbase / TRACXN上の国内競合企業数が10以上︎(MANY) or 10未満(FEW)、グローバル事業の場合は100以上(MANY)or 100未満(FEW)。
    *実態としてはもう少し感覚的な運用
  • 流れの速さ
    3つの変数で最も定量化が難しい要素につき定性的な判断を受容する。一義的には顧客獲得の速度を示す。

Market.iO 〜市場の8類型とその変数〜』(提供:株式会社ジェネシア・ベンチャーズ)

さらに、こうしたフレームワークやナレッジは、日本だけでなくジェネシアが展開する海外3カ国を含めた全拠点で利用できる共通言語としてまとめており、『Genesia OS』という呼称でジェネシアのチーム内で展開されている。

シードVCとして、ここまで組織的な仕組み化がなされているVCは稀ではないだろうか。

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起業家(創業者)が変わっても、持続的に成長し続ける企業を生み出したい

先ほど挙げた「Finance Hub」や「Business Hub」などの取組みに加え、同社の特徴として挙げられるのが、産業創造プラットフォーム『STORIUM(ストリウム)』の取り組みだ。

現在、スタートアップ・投資家・大企業・地方自治体などの産業創造を担うステークホルダーの間には大きな情報の非対称性が存在し、生まれるべき出会いが阻まれているという現状がある。STORIUMは、ステークホルダー間の情報の非対称性を低減させることを通じて、生まれるべき出会いを実現し、イノベーションの総量を最大化させることを目的に開発されている(開発・運営はグループ会社のグランストーリーが担う)。

本プラットフォームに参加しているのは、ジェネシア・ベンチャーズの投資先やLP投資家などの直接のステークホルダーだけではなく、同社が繋がりを持つあらゆる投資家や大企業、地方自治体などのキーパーソンが参加している。また、相互の事業内容や連携ニーズを理解した上でのネットワーキングができるように設計されており、実際に同プラットフォームの上で数多くの一期一会が生まれている。

その中でジェネシア・ベンチャーズは多くのステークホルダーを結ぶハブとしての役割を担っており、スタートアップの企業価値向上、ひいてはスタートアップエコシステム全体の底上げを目指した取り組みに尽力している。

産業創造プラットフォーム構想(提供:株式会社ジェネシア・ベンチャーズ)

産業創造プラットフォームの創造というミッションや、持続的な経営支援に向けた取り組みを見ると、ジェネシア・ベンチャーズが単に「自分たちの利益」だけを追求しているわけではないことが伝わってくるはずだ。しかし、同社はなぜこうしたスタンスを貫くのだろうか。

田島ひとえに、産業を創造するような起業家が一人でも多く増え、我々VCやステークホルダーと一緒に社会を良くしていきたいと考えているからです。

志を共にする産業創造に関わるステークホルダー同士で、業界や業種の垣根を超えてナレッジやノウハウを共有し、あるべき社会を創っていく方が、社会にとって、スタートアップエコシステム全体にとって良い影響を与えられると信じています。

また我々にとっても、こうした視座や取り組みこそが高い志を持つトップ1%の起業家から選ばれるVCであるために必要なのだと思っています。

更に、田島氏個人としてもこのVC業に取り組む背景を伺ってみると──。

田島今の世の中に対して悲観的な見方をするだけではなく、次世代に持続可能な社会を引き継ぐために全力で努力することが、私たち大人に課されたミッションであると感じているためです。

これまで、日々エネルギーに満ち溢れた起業家たちと仕事をする中、はたまたネットを通じて貧富の格差・環境汚染・戦争など世界の情勢があらゆる角度から可視化され目に入ってくる中で、知りたかった情報はもちろん、出来れば知りたくなかった情報、見たくなかった情報までもが目に耳に飛び込んでくる時代になりました。

そうした環境下において、私自身35歳を過ぎたあたりから「豊かな社会の実現に向かうために、果たして自分には何ができるのか? 」という問いを抱くようになっていました。

自分の父親は50歳の時に胃癌で他界したのですが、2025年1月で私も50歳になります。また、自分の子供が成長して巣立っていく様などを見ていると、冒頭にお伝えしたように、次世代に向けて持続的な社会を引き継ぐことに少しでも貢献することが自分のミッションだと考えるようになりました。

そしてこれは一人のキャピタリストとしての想いになりますが、やはり投資を通じて「産業を生み出す」ことに貢献していきたい。

これは投資先がIPOしてキャピタルゲインを得るだけの話ではありません。投資先がIPOやM&Aされた後も持続的に成長し、数多くの雇用と大きなインパクトを生み出し続けることを意味しており、私はVCとしてそこに資するような投資がしたいと考えています。

創業者の代だけで事業を終わらせず、その経営哲学や企業文化を後世に引き継ぎ、長期に渡って持続的に成長することを通じて、トヨタのような大企業と肩を並べる、あるいはそれを超える存在として世の中に価値を提供し続ける。そんな企業の創出に貢献することが、「新たな産業の創造」に繋がるというのが田島氏の見解だ。

では、新たな産業の創造を担う起業家とはどのような人物を指すのだろうか?

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産業創造に必要なマインドは、「利己を内包した大きな利他精神」を持つこと

田島我々の投資先であるタイミー代表の小川さん、HOKUTO代表の五十嵐さんなどは、若手起業家ながら世の敏腕経営者に全く引けを取らず、大きなビジョンを掲げて急成長しています。

また、昨今では1度目の起業で経営経験を積み、2度目の起業でより大きなビジョンを描いて産業創造に挑む起業家も増えており、ポジティブな流れを感じています。

このような起業家たちに多く共通する点は、私的な欲求の実現ではなく、社会全体の利益最大化にフォーカスしていることです。ジェネシア・ベンチャーズではこうした起業家のことを「澄んだ水で満たされている、大きな欲求のタンクを持った起業家」と表現し、まさに我々が伴走していくべき相手だと捉えています。

そして、そのような大きなビジョンを掲げるからこそ、そこに共感する高い志を持った仲間たちが集まるといった好循環を生んでいる。事業を大きく伸ばしている起業家をみていると、そんな特徴があると感じています。

田島また、これは余談ですが、お金を稼ぐことを目的とした起業家よりも「世の中に大きなインパクトを与えたい」と考えている起業家の方が、結果として多くの経済的リターンを得ているようにも感じています。

言うなれば、「究極の利他が究極の利己につながる」という、一見すると逆説的な現象です。

事実として、起業の目的の一つであった金銭的な欲求が満たされてしまった結果、進むべき方向性を見失って苦しんでいる起業家たちも少なからず見てきました。もちろん人間なので、私含め誰しも利己はありますし、その内容は人生のフェーズによっても変わってくるでしょう。したがって、「利己を捨てよ」ではなく、「利己を内包する大きな利他を持ってみることが大事なのでは」と常々思っています。

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シード起業家は理論武装を解き、シードVCは傍観者をやめるべし

一方で、そうした大きなビジョンを描く起業家の台頭を阻む要因がVC側にもあるのかもしれないと、田島氏は自戒を込めて吐露する。

昨今、起業家だけでなくVC自体も増加傾向にあり、またSNSの発達によって資金調達におけるさまざまなノウハウやナレッジが共有されるようになった。その結果、起業家たちのプレゼンテーションがコモディティ化し始めていると田島氏は感じている。

田島例えば事業計画において、VC側でバリュエーション(企業価値)を定める一つの基準として、「PSR(株価売上倍率)としてはこの程度の数値が必要」といった指標を設けていることがあります。

すると起業家たちはそうした指標こそ資金調達をする上でのキーになると判断し、「私たちのPSRは7倍で、バリュエーションはこれぐらいです」という投資家のロジックに引っ張られたプレゼンテーションをしてしまっているのではと感じることがあります。

しかし、私の体感としては、そうしたある種の生真面目な起業家ほど資金調達がうまくいっていない印象を持っています。つまり、理論が先行してしまい、特にシード起業家に対してVCが求める「想い」や「覚悟」が見えてきづらいといった状況になっている。

反対に、「私がつくりたい世界は◯◯で、そのためには◇◇ほどの資金が必要。だからぜひ本気で挑戦したい」といったストレートな想いをぶつけてくれる起業家の方が、結果的に資金調達がうまくいっていると感じています。

イーロン・マスクを例に挙げると、彼は「電気自動車の会社をゼロから立ち上げて、自動運転の世界をつくりたいんだ」「SpaceXを立ち上げて、火星に人類が移住する世界をつくりたいんだ」という強い願望を持っていました。実現不可能に思えることでも覚悟を持って果敢に挑戦したからこそ、今のイーロンが存在しているのでしょう。

また、特にシード期の資金調達においてよく聞かれる、「そこに市場はあるのか?」「その市場は本当に伸びていくのか?」といったVCによる問いも、起業家の芽を摘みかねないコミュニケーションなのではと危惧する。

田島マーケットの大小や事業計画達成の是非を精査するようなVCからの質問は、伝え方に気を配らないと起業家のマインドをシュリンクさせ、汎用的なアウトプットに収束させてしまう恐れがあるとも思っています。

0→1で挑戦している起業家は、市場の存在よりも「世の中に新しいサービスやプロダクトをつくりたい」という強い想いや覚悟を持って挑戦しています。事業計画においても、達成できるかどうかなんてやってみなければわからない中、全力を尽くす姿勢で臨んでいるはず。

もちろん市場ポテンシャルを見定めることはVCとしてとても重要です。ですが、それをテーブルの対面から評価査定するといった姿勢ではなく、起業家の隣に座って、「どうすればその市場を生み出し、ビジョンを実現していけそうか」を共に考える、評価者ではなく、当事者としてのマインドを持ったコミュニケーションの取り方が大切なのではと思っています。

シード起業家は、理論理屈よりもまず先に「どんなビジョンを実現したいのか?」「なぜそのビジョンを実現したいのか?」を語り、VCにその熱い「想い」や「覚悟」をストレートに伝えていくことが肝要だ。

対するシードVCも、起業家を一方的に評価したり、「こうすべきだ」と諭したりするのではなく、起業家と建設的な対話ができるような問い、いわばコーチング的なアプローチで共に考えていく姿勢が重要なのではないか。田島氏はそのように考えている。

より多くのVCが起業家の横に並んで支援することで、その分だけ多くの起業家が勇気づけられる。すると「自分も◯◯なビジョンを実現していきたい」と新たな産業を創造しうる起業家の台頭が増え、0→1のフェーズが活性化される。それはすなわち、日本のイノベーションの総量が増えていくことを意味するのだ。

「VCの言動によって、起業家が持つポテンシャルを抑制してしまうことは勿体ない」──。

田島氏のような想いを持ったVCの存在は、シード期の起業家にとってその大志をより強く、大きく燃やしていくための希望となるのではないだろうか。

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AI全盛の時代。ゼロイチへの挑戦は人類に残されたラストフロンティア

最後に、VCとして起業家の「意志」や「覚悟」を捉え、同じベクトルを向いていくためにジェネシア・ベンチャーズとして心掛けていることは何か?また、それを社内のキャピタリストたちにもインストールしてもらうべく、日々どういったコミュニケーションを図っているのか?を聞いてみたい。

田島VCも、起業家と同じだけの「意志」と「覚悟」を持つ努力をすることです。

「意志」とはスタートアップのサービスやソリューションを必ず社会に実装させるという強い想いで、「覚悟」とはそれを自らが起業家と共にやり遂げてみせるという気概を指します。

そのために、特にシードVCのキャピタリストは他の誰もが気づけない、事業や起業家の秘めたる大きな可能性に気づける事業家としての能力が重要だと思っています。

ですので、キャピタリスト向けの研修などで私が話す際には、投資判断にあたってのナレッジやノウハウも伝えますが、それ以上に産業創造を担う資本家としてのマインドセットや存在意義について出来る限りお伝えするようにしています。キャピタリストは字のごとく、投資家ではなく資本家である。資本家とは、投資家と事業家の両方を兼ね備えたマインドセットと能力が欠かせないと考えているからです。

VCが「意志」や「覚悟」を持つということは、自社や自身の得意領域や成功確率の高いコンフォートゾーンから飛び出し、起業家のように新しいフロンティアを開拓していくことである。

その過程で成功と失敗を積み重ねることで、投資家としての嗅覚を育て、次の投資活動に活かしていくことができる。田島氏が先に挙げた「VCも進化を遂げていくべき」とはまさにこうした挑戦を指すのだろう。

今回の取材を通じて田島氏からは、「自分たちは産業を変えうる優秀な起業家たちから選ばれるVCであるのか」を自らに問い続ける姿勢を強く感じた。それはジェネシア・ベンチャーズが単なる資金提供者ではなく、起業家・スタートアップと共に「産業をつくりにいく」ことに本気であることの現れであろう。

そんな田島氏から、本記事を読んでいるシード起業家、ないしこれからシード起業家になっていく読者たちに向け、その挑戦を後押しするメッセージをもらった。

田島私たちは創業初期のスタートアップへの投資・伴走に強い拘りを持っています。

シード期はまさに何もないところから新たな価値を生み出すプロセスそのものであり、不確実性に溢れています。裏返して考えれば、この先に大きなフロンティアが拡がっているとも言えます。

また、新たな価値の創造、言い換えると不確実性に向き合っていくことが、人間に残された重要なミッションになると考えています。なぜなら、事実や実績になったもの(確実性の高いもの)から順にAIをはじめとしたテクノロジーに代替されていくと考えているからです。(少なくても今は)ChatGPTが打ち返してくれる内容は「過去の結果の最適化」に過ぎません。

未来における最適解をChatGPTに聞くという行動は、過去の結果の最適解を未来に当てはめることに近しく、そこから得られるあらゆる意思決定がAIの管轄エリア内に収束していきます。また、ほとんどの人が未来における最適解をChatGPTに聞くという合理的・効率的な選択肢を選ぶようになるでしょう。そのような中で、あるべき社会の実現に向けて、意志ある人間が敢えて自分の頭で考え、想像し、まだAIがカバーしていない新たな価値の創造に挑戦することの価値が大きく高まっていく。そして、その挑戦が人間に残された重要なミッションになっていくのではないか。それがシード期のスタートアップへの投資・伴走に私が拘る理由です。

シード起業家こそが味わえるこのフェーズの挑戦は、AI時代においても、人類の叡智を如何なく発揮できる残されたフロンティアと言えるでしょう。

繰り返しますが、挑戦の過程において、起業家はVCから市場の有無や事業計画の実現性などさまざまなフィードバックを受けるかもしれません。

しかし、それに飲まれずに「そんなの関係ない。自分はこういう世界をつくりたいんだ」という強い想いを持ち続けてほしいと思います。

そして、日本からもイーロン・マスクのように、革新的なビジネスプランやビジネスアイデアを持った起業家がどんどん生まれてくることを願っていますし、私たちジェネシア・ベンチャーズもコンフォートゾーンに留まることなく、新たなフロンティアを開拓し続けていきたいと思います。

高い志を持った起業家と共に、持続的な社会・豊かな未来を築いていきたいです。

ここまで読み進めた読者の中には、既にシード起業家として活動している人や、今まさに起業を考えている人も多いことだろう。最後に、そんな挑戦者たちに朗報がある。

本取材を通じてわかったように、ジェネシア・ベンチャーズは社会を変える大きな産業づくりに挑むシード起業家を応援している。その支援の一環として、現在『IGNITION ACADEMY』なる創業支援プログラムの開催を予定しており、次代を担う挑戦者たちからのエントリーを待っている。

今回の田島氏のメッセージを受け、「我こそは」と奮い立っている人はぜひ、チャレンジしてみるといいだろう。諸君の起業家人生にプラスになる出会いや刺激が、必ずや得られるはずだ──。

こちらの記事は2024年05月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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