連載次世代カメラメーカー「Snap」を紐解く
次世代カメラメーカーへの布石は2014年から打たれていた──カメラ製造からコミュニケーションアプリまでの投資
今となっては当たり前となったアニメーション機能。
「Instagram」に代表されるコミュニケーションアプリの台頭により、今や誰もが当たり前に使う機能ではあるが、こうしたテクノロジーの買収を先んじて「Snap」がおこなっていたことはあまり知られていない。
こうした時代の先見性からおこなう買収をおこなっているのが「Snap」の大きな強みである。
カメラ企業の買収も、今後やってくるメガネ型端末のトレンドを予感しているからこそおこなったと感じざるをえない。
本章ではカメラメーカーの買収から、コミュニケーションアプリの基盤となるアニメーション技術を開発するスタートアップ買収の歴史をつまびらかにしていきたい。
- TEXT BY TAKASHI FUKE
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
Google Glassの競合買収からドローンカメラまで
「Vergence Labs」、「Ctrl Robotics」
2014年にメガネ型カメラ端末を開発する「Vergence Labs(バージョンスラブス)」を買収した一件は、まさに「Spectacles」の開発を睨んだ戦略の一環であったといえる。
「Vergence Labs」は2011年に創業され、「Google Glass」が発表された2012年以降にかけて、次世代メガネ型端末市場で熾烈な競争を行っていた。同社が発表した端末は、「Spectacles」の形状とほぼ同じシンプルなデザインになっている。
値段も300ドルと手頃な価格帯であった。HD動画撮影を行える小型カメラを使い、ユーザー視点の風景をそのまま共有できる機能に特化し、多機能な「Google Glass」と比較して、数点の機能のみが搭載されていた。
「Snap」が創業してからたった3年しか経っていない間に、カメラ企業を約1,500万ドル費やして買収したこともあり、改めて「Snapchat」の立ち上げ当初から、カメラメーカーとしての市場ポジションを狙っていたことが伺える。
「Snap」のカメラ開発はメガネだけではなく、ドローン開発にまで手を伸ばす可能性がある。
2016年に買収をした「Ctrl Robotics(コントロールロボティックス)」は、中小規模の映像会社が、手軽にプロ仕様の上空映像を撮影できるカメラ搭載型ドローンを開発していた。
「Vergence Labs」の買収から初代Spectaclesの発売まで約3年の月日がたっていることから、カメラ搭載付きのドローン製品を市場に投入してくるとすれば2019年頃かと思われる。
これまで「Snap」は前述した2社のハードウェア企業の買収案件を行った。振り返ると、カメラレンズの利用シーンを、スマートフォンや、「Spectacles」に代表されるメガネ型端末だけでなく、ドローンなどの多領域に広げていく戦略を採用していることが伺える。
たしかに、初代Spectaclesの購入者の端末利用率が、購入から1カ月後には50%以下にまで下がっていることから、今後改良を重ねる必要があるだろう。しかし、たとえ「Snap」が市場から酷評されようとも開発を続けるのは、Z世代およびミレニアルズ向けのカメラメーカーとして確固たる地位を築くことをビジョンに掲げているからだ。
iPhoneも、何度も世代を重ねながら機能を進化させてきた。一方、「Spectacles」はまだ初代が発売されてから1年ほどしか経っていない。これから5-10年のロードマップで考えれば、依然大きな成長の余地があるはずだ。仮にメガネ型端末が受け入れらない結果になっても、全く別の形状でカメラ開発を行う姿勢も伺える。
現在のコミュニケーションアプリの先駆け
私たちにとって当たり前なコミュニケーション機能を作った ──「Addlive」、「Looksery」
ハードウェア側だけでなく、ソフトウェアの機能充実化も抜かりなく行なっている。
2014年に3,000万ドルで買収した「Addlive(アドライブ)」は、WebRTC(ウェブリアルタイムコミュニケーション)のAPIを開発していた。従来、Webブラウザーにライブ動画配信などのリアルタイムコミュニケーション機能を実装したい場合、プラグインを追加する必要があった。しかし、WebRTCのコンセプト上では、プラグイン無しで機能を実装できる。
「Addlive」の強みは、当時は対応できていなかったiPhoneやAndroid端末上でも、プラグイン無しのリアルタイムコミュニケーション機能を可能とさせたことだ。実際、買収直後に「Snapchat」上でライブ動画配信およテキストチャットを行える機能を実装させている。
カメラレンズを通じたリアルタイム相互コミュニケーション機能をスマートフォンアプリにまで開拓させた証左である。今となってはどのSNSアプリでも当たり間になった光景だが、現在のアプリ機能の先駆けとなった買収であったのは間違いない。
2015年に1.5億ドルで買収した「Looksery(ルックセリー)」のアニメーションエフェクト機能は画期的であった。筆者は偶然にも、サンフランシスコの小さなピッチイベントで、買収前の「Looksery」と出会っているのだが、当時ピッチ内容から大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
「Looksery」は、「LINE」が買収した自撮りアプリ「Snow」の機能のように、カメラに映った人物にアニメーション効果をつけて、ユニークな写真や映像を送り合う機能を開発。前述の「Addlive」の買収で獲得したリアルタイムコミュニケーション機能に、若者がより楽しめるようなエフェクト効果を追加できる。
若者に好まれるコミュニケーションを追求した結果、買収に至った企業が本章で紹介した2社である。従来のカメラメーカーでは出てこなかった、10-20代向けのカメラレンズの使い方を市場に提案したわけだ。
事実、「Snow」が登場したのが2016年であることから「LINE」より遥か先のトレンドを捉えていたといえるだろう。また、エフェクト効果においても、「Instagram」より先んじていた。
こちらの記事は2018年08月06日に公開しており、
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執筆
福家 隆
1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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4記事 | 最終更新 2018.08.16おすすめの関連記事
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