お菓子ではなく、「おやつ」という体験を提供する。
リーンに成長するスナックミーに勝ち筋を聞く

インタビュイー
服部  慎太郎

1981年生まれ。慶応義塾大学大学院修了後、日本総合研究所、ボストン・コンサルティング・グループにてコンサルティング業務に従事。その後、スタートアップを経て、ディー・エヌ・エーにてベンチャー投資業務を約2年間行う。2015年9月に独立し、株式会社texta(現 株式会社スナックミー)を設立。ボストン・コンサルティング・グループでは主にインターネット関連企業への新規事業立案、M&A、アライアンス戦略を担当。ディー・エヌ・エーではスタートアップ約15社への投資を行う。

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おやつのサブスクリプションサービス『snaq. me』を提供するスナックミーが、順調に成長中だ。同社は2016年3月のサービスのローンチ以降、月次で5%から10%の伸びを積み重ね、2019年5月にはW venturesなどから総額約2億円の資金調達を実施した。

サービス開始から4年を迎えた2020年3月、サービスのリファインが発表された。リブランディングやリニューアルでなく「リファイン」という言葉が使われたのは、代表の服部慎太郎氏が「『snaq.me』は永遠のベータ版であり、変えるのではなく洗練させたい」という想いを持っているからだ。

「永遠のベータ版」という言葉が表す通り、『snaq.me』はお菓子というリアルなものを提供しながら、Webサービスのように改善されてきた。その過程を探っていくと、「お菓子ではなく、おやつの体験を提供する」という一貫した姿勢と、愛されるプロダクトをつくることへの情熱が見えてきた。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY JUNYA MORI
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定期購入サービスをWebサービスのようにリーンに始める

『snaq.me』は、お菓子の定期購入サービスだ。人工添加物、白砂糖、ショートニングなど不使用の自然素材から作られた、100種類以上のおやつを毎月ユーザーの元に届けている。栄養価の高さ、ヘルシーさなどおやつでありながら、健康に良い点などもユーザーに好評だ。

会員登録すると、まずスマホから「おやつ診断」を行う。診断結果からユーザーに合ったお菓子が選ばれ、8種類のお菓子が入ったボックスが届く。

提供:株式会社スナックミー

『snaq.me』は、お菓子が届いたあとも重要だ。ユーザーは届いたお菓子に対する評価を自身のマイページから行う。その内容によって、セレクトされるお菓子がパーソナライズされ、アップデートしていく。使えば使うほど、ユーザーが求めているお菓子が届くようになるというわけだ。

今でこそ、サブスクリプションは社会に浸透したビジネスモデルとなった。だが、スナックミーが創業した当時、まだスタートアップでサブスクリプションビジネスを立ち上げるプレイヤーはそこまでいなかった。

『snaq.me』は、どのような流れでサービスとして立ち上がったのだろうか。

株式会社スナックミー 代表取締役 服部慎太郎氏

服部前職はディー・エヌ・エーでベンチャー投資業務に従事していました。当時は人々の購買行動の変化に着目していたんです。

起業準備をしていた2015年頃は、ECの中でチャットを通じて商品を売るような機能が登場し始めた時期でした。単にものを売るのではなく、コミュニケーションを通じて売買が発生するというのが面白いと考えました。

コミュニケーションを重視した販売を考えていた結果、早期にサブスクリプションに着目。商材選びに移った。服部氏が商材としてお菓子を選んだ理由は、自身が「普段のおやつを楽しめていない」という課題を抱えていたからだ。

服部コンビニにお菓子を買いに行くと似たような商品ばかり並んでいる上、原材料を確認すると、どうにも食べる気が起きなかったんですよね。だから、思わず食べたくなるお菓子を手軽に見つけられるサービスをつくることにしました。

リリース時はどんな人たちが価値を感じてくれるか明確でなかったため、詳細なペルソナは設定しなかった。「健康にいいお菓子を定期的に食べたい」というユーザーインサイトは本当に存在するのか。服部氏はこの検証のために、小さくサービスをスタートした。

服部リリース時点ではマルシェで買ってきたお菓子に自社のシールを貼って提供していました。まずはキュレーションのみを提供し、事業の仮説検証をしていたんです。

今も昔も、サービスでやりたいことや基本的なコンセプトは変わっていません。お菓子を届けるサービスでありつつも、リーンスタートアップの考え方を取り入れて、最小限の機能だけをつくってお客様の反応を確かめ、仮説検証してきました。

最近のD2Cブランドはクリエイティブをつくり込み、しっかりとターゲットを決めた上でリリースしているケースが多い。『snaq.me』は時期が異なるのもあるが、最低限のつくり込みでスタート。ウェブサービスのように、ユーザーの反応を見ながらリーンに改善していった。

服部氏のnoteより

最初のボックスをつくった後、シンプルな写真を使ってFacebook広告を出稿。どのようなリアクションが来るかをチェックした。Facebook広告を通じて100人ほどのユーザーを獲得した後、広告を止めてもユーザーは自然と増えていったという。

「こんなお粗末なクリエイティブにもかかわらず、利用したいと思ってくれる人がいる」と、服部氏はニーズを確信した。ニーズを確信した後は、サービスのブラッシュアップを重ねていった。

当初はペルソナも明確に設定していなかった『snaq.me』だが、サービスを提供しながら徐々にユーザー像が明らかになっていく。

ユーザーからのフィードバックを受け取っては改善し、ときにインタビューを行って、どんなユーザーが、どんなニーズでサービスを利用しているのかの解像度が上がっていった。

リファインされた最新のおやつBOX

服部お客様の話を聞いていて、女性から強く支持されていることや、お菓子を食べることだけでなく、箱を開ける体験をも楽しんでいただけていることが分かりました。

「初期は強い熱量を持ったファンが大切」というWebサービスの通説に従い、明らかになった顧客層に向けた改善を積み重ねていきました。

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ユーザーからのフィードバックがサービス価値を高める

ターゲットとなる顧客層を明らかにしながら、ユーザーからのフィードバックの獲得の仕方も変えていった。

服部最初は、LINEでお客様からフィードバックをもらっていました。次に届くお菓子の中身に影響するため、お客様も真剣に回答してくれて、正確なデータが集まりました。

そこで、ユーザーが主体的にお菓子選びを楽しめるよう、LINEでお菓子のリクエストを募ることにした。「こんなお菓子が入荷しました」とユーザーに送っていくと、「食べたい」という反応がよく返ってきた。

リクエストはユーザーが楽しむコンテンツとして必要だと判断し、Webにマイページを実装。マイページができてからは、ユーザーの熱量を測る指標として、ログイン率を追っていく。すると、解約も減っていった。『snaq.me』のユーザーはオーガニックに増えていき、売上は右肩上がりに伸びていった。

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停滞を機に、「おやつの体験」という提供価値が定まった

右肩上がりで数字を伸ばしてきた『snaq.me』だったが、2018年末頃に成長が停滞し始めた。当時は、つくり込まれた商品で勝負するD2Cブランドが、数多く登場し始めた時期でもある。

服部氏の中で、これまで通りWebサービス的な改善を繰り返していくのか、時間をかけて商品をつくり込むのか、サービスの運営方針に迷いが生まれた。「サービスを提供している意識が薄れ、商品の質で勝負しようとしてしまっていた」と服部氏は振り返る。

成長はすべてを癒す。だが、停滞し始めると組織にも迷いが生まれる。サービスのピボットも含めて方向性を検討していくなかで、向かうべき先を気づかせてくれたのはユーザーの声だった。

服部長らく『snaq.me』を利用しているユーザーの存在に気づき、「なぜ使ってくれるのか」を聞くために電話インタビューを行っていきました。

そして、自分たちが提供すべきはお菓子ではなく、「おやつ」という体験なのだと気がついたんです。迷いは消え、体験にフォーカスしてサービスの改善を続けた結果、『snaq.me』は再び伸びていきました。

提供する価値が明確化したことで、それまでなかったミッションやビジョンも決まっていった。当時の社員数は10名ほどであり、プロダクトが成長してさえいれば組織がまとまるフェーズだった。

そのため、サービスの運営方針に迷うまで、ミッションやビジョンについて考える機会はなかった。「会社の未来を考えるいい機会になった」と服部氏は話す。

服部お客さまの立場から、「どういった体験なら、自然に投稿したいと思えるか」を考え、つい投稿したくなるようなコンテンツをつくっていきました。もしかするとそれ以前は、「こういう投稿をしてほしい」と押し付けていたところもあったかもしれません。

お菓子を食べる瞬間だけでなく、ポストに投函された箱を取り出し、部屋で開封し、お菓子を食べるまでの体験をリッチにすることを目指し始めたんです。そのために、おやつの時間を楽しめるコンテンツをつくりました。

『snaq.me』は掲げた新たなミッション「新しいおやつ体験を創造し、おやつの時間の価値を高める」にもとづき、既存の施策の見直しを行った。「おやつ体験」の創造のために、提供するお菓子そのものだけではなく、箱のデザインなども含めて捉え直したのだ。

旧デザインの箱の数々

服部箱のデザインを四半期に一度変えると、そのタイミングでSNSでの投稿が増えたり、お客様から「今回の箱は良い」といったリアクションが届いたりするようになりました。「だったらデザインを変えるペースを上げよう」と、今では毎月箱のデザインを変えています。

他にも、お客様がお菓子の撮影時に敷く用のシートをつけたり、毎月のおやつの時間に読んでもらう冊子をつくって同梱したりといった取り組みを行いました。

おやつに同梱されるオリジナルの冊子『3PMmm….』

こうした施策は、SNSを通じたサービスの認知拡大にも有効だ。「おやつの定期便」について検索する人は少なく、SEOに注力しても効果は薄い。サービスを知ってもらうには、SNSでユーザーの投稿に触れてもらうのが最適だと服部氏は考えた。

お菓子の写真が投稿されると、つながっている人同士でコミュニケーションが生まれやすい。また、お菓子の定期便に登録するハードルは高いが、知人が利用者だった場合、購入に至りやすい。その体験がよければ、さらに投稿が増える好循環が生まれる。

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複数のお菓子ブランドをリーンに開発し、2,000億円規模のメーカーを目指す

「おやつの体験にフォーカスすると、既存のお菓子メーカーは競合にならない」と服部氏は話す。それは、メーカーが奪い合う対象が、お菓子が最も売れているコンビニやスーパーの棚だからだという。

スナックミーはその戦いには加わらない。競合となるのは、おやつの体験を提供するカフェやデパ地下スイーツだ。

服部『snaq.me』は一箱あたり約2,000円なので、一般的なコンビニのお菓子と比べると高いです。とはいえ、カフェでケーキやフラペチーノを頼むと、1,000円くらいしますよね。カフェ2回分と考えれば、そこまで高くはありません。

スナックミーはおやつの体験を軸に、既存のお菓子メーカーと市場を奪い合うのではなく、お菓子のマーケットの拡大を目指す。Uberがタクシーの市場をディスラプトせずに規模を拡大したように、誰もがオンラインでお菓子を注文する文化を根付かせようとしている。

服部数年前は「スマホで服を買う人なんかいない」と言われていましたが、今は誰でも買っています。スマホでお菓子を買うのはまだ一般的ではありませんが、いずれ当たり前にできると考えています。

「頑張ったから、ご褒美にお菓子を注文しておこう」という風に、誰もがおやつの時間をつくる世界観を目指しているんです。

服部氏に今後の展望を聞くと、「『snaq.me』だけでなく、複数のブランドを展開していく」と返ってきた。これまで通り『snaq.me』の成長を目指しつつ、100万件以上あるユーザーからの評価のデータをもとに、ブランドとして独立を目指せる新商品をリーンに開発していく。

スナックミーはすでに、健康への感度が高いユーザーからの要望をきっかけに、プロテインバーのブランド『snaq.bar』を立ち上げている。

日本初のピー(エンドウ豆)プロテインバー『snaq.bar』
提供:株式会社スナックミー

同じように、今後も複数のブランドを立ち上げていこうというのだ。新しくつくったブランドは、『snaq.me』に限らず幅広いルートで販売し、多くの人に届けられる状態を目指す。

実際に『snaq.bar』は、他社のECでも販売されている。いずれはそういった新商品を体験してもらうための場として、店舗を持つことも考えているという。

商品開発は自社だけでやることもあれば、他社と組むこともあるそうだ。生産者からすれば、『snaq.me』を通じてユーザーの率直な声をもとに商品開発を進められるのは、大きなメリットと言える。

全国に50社以上の提携先があり、スナックミーからお菓子をオーダーすることもあれば、できたお菓子を紹介されることもあるという。提携先は大規模な工場から小規模なお菓子屋まで揃い、つくりたい商品に合わせて小さく早く開発している。

服部お菓子の商品開発は、パッケージなども凝り、半年から一年をかけて開発するのが一般的です。一方、僕たちは1週間から2週間でお菓子をつくり、完成したタイミングですぐに提供する。そして、お客様からの評価をもとに、精度高く改善していけるんです。

スナックミーはリーンな商品開発を重ねていき、中長期的に2,000億円ほどの規模のお菓子メーカーを目指すという。森永製菓やカルビーは複数のブランドを持っており、一つのブランドあたり100億円から200億円の規模。

それらが集まり、数千億円の規模になっている。スナックミーも同じように、複数のブランドを抱えて拡大を目指す。

服部僕たちの開発プロセスが正解なのかは分かりませんし、もしかすると他のD2Cブランドのように、最初からつくり込んだほうがいいのかもしれません。けれど僕は、“Webサービス気質”なんです。

いきなりプロダクトを完成させようとするやり方に気持ち悪さを感じますし、どういったルートであろうと、行き着く先は同じな気がしています。この先も熱量が高い人に向け、サービスの改善を続けていくと思います。

こちらの記事は2020年04月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

写真

藤田 慎一郎

1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。

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