連載リクルートマフィアのDNAを受け継ぐ、10名の起業家たち
平成のスタートアップは、リクルートから生まれてきた──マフィアのDNAを受け継ぐ、10名の起業家たち(前編)
アメリカのスタートアップシーンでは、イーロン・マスク、ピーター・ティール、リード・ホフマンなど、PayPal出身の大物起業家が、“Paypalマフィア”と呼ばれ注目されている。日本にも、PayPal同様に「人材輩出企業」として知られる企業がある──リクルートだ。
彼らは、1960年の創業時から「起業家精神」「圧倒的な当事者意識」「個の可能性に期待し合う場」といった企業理念を一貫して掲げてきた。「人材に投資する」という強い育成方針のもと、卒業生たちは一体どのような経験を積み上げてきたのだろうか?
そこで、本記事では特に直近10年間で目覚ましい活躍を遂げているリクルート出身の起業家10名を取り上げ、前後編に分けて紹介したい。
- TEXT BY NATSUKO KAJIKAWA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
古川健介(Supership株式会社 取締役)
1981年生まれ。2000年、早稲田大学政治経済学部在学中に学生コミュニティである「ミルクカフェ」を立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。
2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアに「したらばJBBS」を事業譲渡。
2006年、大学卒業と同時に株式会社リクルートに入社。2009年に退職し、「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任し、現在に至る。
古川氏は在学中から事業運営の経験があったものの、インターネットビジネスを学びたいと考え、リクルートに入社。事業開発室で新規事業開発を担当し、現在の株式会社KAIZEN Platform共同創業者兼CEO・須藤憲司氏が上司だったこともあるそうだ。
3年間の在籍期間では、特に自身の「働き方」について影響を受けたという。社内の副業推奨に後押しされ、本業と兼業する形で株式会社ロケットスタートを立ち上げたほか、当時からリモートワークも実践。
また、心理的安全性が担保された風土であることから、従業員が失敗を恐れずに、新規事業にチャレンジしやすい環境となっているとも言及している。
Supership株式会社
2015年にKDDIグループの事業会社として生まれた、株式会社nanapi、株式会社スケールアウ、株式会社ビットセラーの3社による合併企業。
広告事業、データマーケティング事業、インターネットサービス事業を中心に、toBからtoCに至るまで幅広く事業を展開。全方位的なアプローチから、顧客のデジタルトランスフォーメーションをワンストップで実現している。
出典:「大企業は新規事業に向かない 」 nanapiけんすう氏が成功しなかった理由|「暗いやつは暗く生きろ」リクルートの成功を支えた多様性|株式会社nanapiが3社統合してSupership株式会社になりました
山野智久(アソビュー株式会社 代表取締役)
1983年生まれ。大学在学中に、累計30万部を発行するフリーペーパーを主宰。2007年、リクルートに入社。2010年に同社を退社し、カタリズム株式会社(現アソビュー株式会社)設立。2012年に体験型予約サイト「asoview!」を開設。
山野氏は、将来的に起業することを学生時代から見据えていたため、「起業家輩出」のイメージが強かったリクルートに入社。在籍中は、HR事業「リクナビNEXT」の法人営業を担当。
そこでは、100社にも及ぶ担当顧客の経営陣と対峙しながら、多様な業種・業態のビジネスモデルに対する理解や、飛び込み営業の経験を積んでいる。
また社内では、事業をスケールさせるために最適化された業務オペレーションや、目標達成に向けてPDCAサイクルを徹底的に回す仕組みを学んでおり、これらの経験が現職での経営に活かされているそうだ。
アソビュー株式会社
「ワクワクを、すべての人に。」とのミッションを掲げ、余暇時間の選択肢を幅広く人々に提供し、質を向上させることを目指している。主要事業はasoview!の企画運営。
アウトドアスポーツや陶芸教室、日帰り温泉などの「遊び」のプランをサイト上に掲載し、体験型レジャーなどを提供する事業者と、消費者のマッチングを行っている。
2015年には、株式会社JTBと資本業務提携し、体験型プランの販売などで連携するほか、各地の宿泊施設や観光地の支援サービスにも乗り出している。
森健志郎(株式会社Schoo 代表取締役社長)
1986年大阪生まれ。2009年近畿大学経営学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで、広告営業や不動産関連の広告企画・制作に従事。2011年10月株式会社スクーを設立し、現職に。
主要事業である「Schoo(スクー)」の構想が生まれたのは、森氏がリクルート入社2年目のとき。社内のeラーニングシステムを使ったことがきっかけだったという。その内容は、興味分野の講義であったにも関わらず、画面の中の講師がただ資料を延々と読み上げるだけで、ユーザーの向学意欲を掻き立てるものではなかったそうだ。
このことに問題意識を抱いた森氏は、翌日に退職届を提出。オンラインでもっと効果的に学べるサービスを企画しようと決意し、退職までの半年の引継ぎ期間で事業開発を行った。そして、2011年10月にリクルートコミュニケーションズを退職。資本金30万円で、1人で創業したという。
株式会社Schoo
オンライン動画学習サービスSchooの運営を行っている。当サービスは、「未来にむけて、社会人が今学んでおくべきこと」をコンセプトに、生放送授業を毎日無料で提供。
コンテンツは、働き方・お金・健康に関することをはじめ、すぐに使えるビジネススキル・ITスキル・経済・ニュース・思考法・文章術など幅広く提供。
現在の会員数は35万人を突破(2018年8月末時点)。日本国内の教育系動画配信サービス(MOOC)の先駆けとなっており、行政や複数の国内大学と連携。単位認定の授業も生まれている。
出典:「オンライン学習で可能性を広げる」スクー代表・森健志郎が描く壮大なイノベーションと天職の見つけ方、「世の中から卒業をなくす」インターネット動画学習サービス・スクーの理念とグロースハックの裏側
篠塚孝哉(株式会社Loco Partners 代表取締役社長)
1984年生まれ。2006年に東洋大学経済学部を卒業後、Washington State Universityへ留学。
帰国後、2007年に株式会社リクルートに新卒入社し、旅行カンパニーに配属。企画営業として大手チェーンホテルや各地のリゾートホテル、旅館などを担当し、トップ営業として活躍。2011年9月に株式会社Loco Partnersを創業し、代表取締役に就任。
リクルート在籍時には、旅行情報サイト「じゃらん」の営業を担当。入社1年目に福島県を担当した後の2011年、取引先だった宿泊施設が東日本大震災の影響で倒産した経験を持つ。その原体験から、「宿泊施設や地域のために役に立つことをしたい」という情熱が生まれ、Loco Partnersを創業するに至った。
創業当時は、前職の縁故を中心に、企業や宿泊施設のホームページ受託制作を行って資金を稼いだ。その後、2013年4月には現在の主要事業となる、高級旅館・ホテルの会員制宿泊予約サイト「Relux(リラックス)」をオープン。
前職の営業時代、「旅行の際の宿泊先」について頻繁に相談を受けた経験を反映させ、1年半かけて事業のアイデアを練り上げたという。
株式会社Loco Partners
企業理念は、「インターネットを通じて、日本の地域とアジアの架け橋になる」。
主要事業であるReluxは、独自の100項目にも及ぶ審査基準をクリアした旅館・ホテルを厳選しており、現在約700件の宿泊施設の情報を掲載中。海外からのインバウンド需要に鑑みて、英語、スペイン語、中国語(繁体字)、中国語(筒体字)、タイ語、韓国語、ベトナム語、アラビア語、インドネシア語、フランス語といった多様な言語にも対応している。
出典:【20代の不格好経験】キャッシュフローを理解せぬまま起業し、設立5カ月後に「残金5万円」に~株式会社Loco Partners代表取締役 篠塚孝哉さん
藤代聡(株式会社ママスクエア 代表取締役)
1966年、東京都生まれ。平成元年、株式会社リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)入社。10年間の営業で3,500社のクライアントを担当したほか、事業企画や『タウンワーク』の全国展開プロジェクトのリーダーも経験。
37歳で退職し、2004年3月に親子カフェ「スキップキッズ」創業。2013年10月株式会社ディアキッズを立ち上げ。2014年12月株式会社ママスクエアを設立。同社代表取締役就任。
藤代氏は、リクルート在籍時から、将来の独立に向けた新規事業の種を探していたという。当時、虐待や育児放棄など、子育てに関する悲しいニュースが増えていたことから、育児中の母親をサポートする事業ニーズに着目。
2004年にリクルートを退職し、母親が子どもを遊ばせながら、食事や会話を楽しめるキッズスペースとカフェスペースを併設する「親子Café」を開業した。このアイデアが元となり、現在は日本初の託児機能付きオフィス「ママスクエア」という事業に発展。全国20ヶ所で展開している。
株式会社ママスクエア
「子どものそばで働ける世の中を作りたい」という想いから、子どものそばで働ける新たなワーキングモデルを提案。ママスクエア事業を基軸に、国内大手企業や行政と連携し、母親層に向けた雇用創出を行っている。
出典:社会の「負」を掛け合わせ「プラス」に ー ママスクエアは「コロンブスの卵」
同じリクルート出身の起業家でも、創業の経緯は人それぞれだ。起業を見据え、リクルート在籍中に新規事業のヒントを探していた者がいる一方で、在籍中に「やりたいこと」が見つかり、結果的に起業した者もいる。
共通しているのは、各キャリアのフェーズごとに目的意識を持って働いていること。「なぜ自分はこの場所で働くのか?」と自ら問いかけ、その目的が達成できる最適な場所に活躍のフィールドを移している。
本記事に引き続き、後編では「直近10年で目覚ましい活躍を遂げた、リクルート出身の起業家」のなかでも、2014年以降に創業し、わずかこの4年で急成長を遂げた起業家を5名紹介する。
こちらの記事は2018年12月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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1992年生、早稲田文学部卒。事業会社で新卒採用に従事する傍ら、フリーランスのライター・編集者としても活動中。執筆業を通じて「誰もが自分らしい生き方・働き方を肯定できる」機会を創出したい。日本語フェチ。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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