「ガラケーでUber」から「孫とのマッチング」まで──若者に注目しないシニア向けサービスを紹介

高齢者のケアを主眼に置いたスタートアップがアメリカで存在感を発揮している。

日本国内では、少子高齢化による高齢者向けビジネスの市場拡大は加速度的になると考えられている。みずほ銀行の試算によると、高齢者における「医療・医薬」「介護」「生活産業」の事業分野における市場規模は、2007年時点で67.8兆円。これが2025年には、101.3兆円にまで伸びると予測されている。

アメリカの先例を知っておくことは、日本でも次なる起業を促せる可能性につながるはずだ。本記事では、米国を中心に盛り上がるシニア向けITスタートアップ5社を紹介する。

  • TEXT BY MONTARO HANZO
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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高齢者の資産運用をサポートする「Truelink Finance」

高齢者が巻き込まれる代表的な犯罪は、振り込め詐欺やオレオレ詐欺。2015年時点で、アメリカの高齢者を対象にしたこれらの被害総額は、年間約4兆3,000億円となっている。

クレジットカードの利便性を逆手にとり、高齢者の生活を脅かす犯罪が多発している。こういった状況を背景に、True Link Financial社は、高齢者向けサービス「True Link Card」を提供。このサービスでは月額10ドルの利用料で、Visaプリペイドカードを発行する。

その特徴は、カードの名義人以外に「管理者」を設定できることだ。管理者に任命された人物は、Webサイトを通じて名義人の利用履歴を確認したり、利用限度額を変更できたりする権限を持つ。認知機能などに不安を抱える高齢者であっても、犯罪に巻き込まれることを事前に防いだり、お金の使いすぎを防ぐといったことにつなげられるのだ。

TrueLink Financial社は、2017年に800万ドルの資金調達を実施。高齢者だけでなく、金融リテラシーの低い学生などもターゲットとし、ユーザーを増やしていくと予想される。

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ガラケーでもUberが呼べる!?「GoGoGrandParent」

多くの人々にとって、スマートフォンを持つことが当たり前の時代がやってきた。しかし、2016年の時点で、アメリカでスマートフォンを持たない高齢者は7500万人を超えているという。フィーチャーフォンを使い続けるユーザーの存在も、無視することはできない。

彼らを想定したサービスが「GoGoGrandParent」だ。ユーザーは基本情報を登録した後、指定された電話番号にかけて「1」を押すだけで、配車サービス「Uber」や「Lyft」の手配が代行される。あとは自宅まで迎えに来てくれたドライバーに行き先を伝えるだけで済む。

長期的には、配車サービス以外の機能も提供していきたいと考えているという。多くのスタートアップがスマホ向け市場を狙うなか、フィーチャーフォンとオンデマンドサービスの「仲介業」として、GoGoGrandParentは存在感を発揮していくだろう。

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介護士や“孫”とのマッチングまで…。まだまだある「シニア向けIT」

残りの3つは、個性的な高齢者向けサービスとして注目を集めているスタートアップだ。

最初に紹介するのは、カリフォルニアに拠点を構えるLoop社が提供する小型ディスプレイ「Loop」。家族間でSNSやクラウドにアップロードした写真を共有できたり、ビデオチャットやYouTubeなどの動画サービスが楽しめるデバイスだ。デバイス側面に付いている調節ネジを回す操作方法や、ブラウン菅のようなフォルムも目を惹く。

Loopは、液晶テレビとスマートフォンの「間」を狙い、現代のメディア消費に即した「小型デバイス」の需要を生み出そうとしている。同社代表のBrian Gannon氏は、これからのテレビを「家庭内もしくは離れた家族とのコミュニケーション媒体」と位置付けており、Loopを通して実家にいる祖父母や親戚と「つながる」ことが重要だと語っている

介護士マッチングサービスの「Honor」は、高齢者とヘルパーをつなぐプラットフォームだ。高齢者やその家族は、アプリを介して対応可能なヘルパーをアサイン。ヘルパー側は高齢者のプロフィールやケア内容を予め把握できるため、スムーズなケアが可能となる。

Honorの特徴は、精度の高いマッチングだ。申し込みをすると、話せる言語や人種といった属性データから、独自のアルゴリズムにより最適なヘルパーをマッチングしてくれる。THE BRIDGEによれば、顧客からの評価も高く、3カ月以上の継続利用率は83%に及ぶという。

最後に紹介するのは高齢者と若者をマッチングする「Papa」だ。「Grandkids On-Demand(必要な時に孫を)」を掲げる同サービスは、“大学生と高齢者とをマッチングするサービス”となっている。マッチングが成立した大学生は、スーパーへの買い物や病院の予約、家事手伝い、スマホの設定まで、生活のあらゆる側面をサポートする。

COURRiER Japonによると、同社のCEOであるAndrew Parker氏はサラリーマン時代、認知症を患っていた祖父の介護を担っていた。しかし、仕事と介護の両立に悩み、大学生に声をかけて助けを求めたという。そうしたところ、祖父は大学生に世話をしてもらうことを喜び、祖母も自分の時間を作れるようになったのだ。この経験が、Papaにつながった。

Papaは、2019年にアメリカ国内5州でサービスの展開を予定。老人ホームなどの高齢者施設と提携を結ぶなかで、ケアできる領域を拡大していく方針だ。

今回は「アメリカで存在感を発揮しているシニア向けITスタートアップ」と銘打ち、高齢者向けにITサービスを提供する企業を5つ紹介してきた。彼らのサービスをつぶさに見ていくと、若者とはまた違った手法でアプローチしていることがわかる。スマホやパソコンを使わない彼らを、どれだけスムーズにITの恩恵に導くかが鍵となっていくのではないだろうか。

こちらの記事は2019年04月16日に公開しており、
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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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