米アクセラレーター「Techstars Mobility」が注目する、移動にイノベーションをもたらすスタートアップ11社

ライドシェアやカーシェアの普及など、移動手段の領域に変化の波が押し寄せている。

米アクセラレーターのTechstars Mobility(テックスターズ・モビリティ)は2018年8月、ヒトやモノの移動に関連する技術開発に取り組む注目スタートアップ11社を発表した。

同年10月9日には、これらの企業がビジネス内容のプレゼンを行うデモ・デイが米国ミシガン州デトロイトで行われた。

本記事では、各社の取り組みを紹介していきたい。

  • TEXT BY KAYO MIMIZUKA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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先端技術の中心地となりつつあるデトロイト

Techstars Mobilityは、かつて自動車産業が栄え「モーター・シティ」とも呼ばれたデトロイトに本拠地を置く。同市は2013年に財政破綻したものの、その後は家賃や労働コストが高い大都市から人を誘致し、現在はスタートアップも多く集まっているという

最近では、米非営利団体「ナイト財団」による、自動運転技術でスマート・シティ化を推進する5ヵ年プロジェクトの投資先にも選ばれるなど、新たに先端技術の中心地になりつつある。では、Techstars Mobilityが注目するスタートアップを、カテゴリごとに見ていこう。

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安全運転に貢献する技術

Autobon AI(シカゴ)

AIによる自動操縦システムを開発し、トラックドライバーの運転をより快適にすることを目指している。Webサイトによれば、このシステムで事故率は40%減少し、燃料消費も30%抑えられるという。GPSによるトラッキングや、動画によるリアルタイムの情報フィードバック機能もある。同社を立ち上げたのは、父と息子の「親子チーム」なのも興味深い。

Autobon AI

Driver Technologies (ニューヨーク)

事故などに備え、「ドライブレコーダー」で運転中の映像を記録する人が増えている。Driver Technologiesが提供するアプリは、スマートフォンをドライブレコーダーとして使え、運転中の映像がクラウドにバックアップされる。

また、自動車や歩行者と衝突する危険を察知し、警告してくれる機能も備える。

Driver Technologies

Humanising Autonomy (ロンドン)

歩行者の動きを予測して、自動車事故を防ぐシステムを開発するロンドン拠点のスタートアップ。同社のシステムがユニークなのは、AIを活用することで、交通ルールや文化が異なるさまざまな都市に合わせた予測方法を構築している点だ。Webサイトによると、これまでにニューヨーク、ロンドン、東京、ムンバイ(インド)で実証実験を行っている。

Humanising Autonomy

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「タイヤ」のイノベーション

IntelliTire (サンフランシスコ)

安全運転をサポートする「スマートタイヤ」を開発。2018年9月現在、同社のWebサイトには情報がほとんどなく詳細は不明だ。「CB Insights」によると、センサーを搭載したタイヤとソフトウェアを組み合わせ、リアルタイムでタイヤの状態を分析できるとしている。

IntelliTire

Zohr (カンザスシティ)

自動車タイヤの買い替えや装着は面倒な作業だ。Zohrは、車種に合うタイヤを豊富なモデルから選んで購入できるWebサイトを運営。顧客の家の近くなど、指定された地域にZohrの専門技術者が出向き、タイヤ交換までしてくれる。「自動車大国」アメリカならではのアイデアと言えるかもしれない。

Zohr

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自転車の移動をサポート

LaneSpotter(ピッツバーグ)

自転車移動をサポートするサービスを提供している。同社のモバイルアプリを使えば、自転車専用レーンがある道や安全なルート、ショートカットなどの情報が手に入る。

さらに、ユーザーがこうした情報をアップロードできるため、通れない道や補修がされていない場所などが、リアルタイムで把握できる。日本でも自転車通勤や自転車シェアリングが普及すれば、今後需要があるかもしれない。

LaneSpotter

Lumos Helmet(香港)

Lumos Helmetが開発するのは、自転車用の「スマートヘルメット」だ。自転車は、特に夜間は自動車ドライバーに見えにくく、事故につながる場合もある。同社のヘルメットは、約50個ものLEDライトを搭載。さらに、道を曲がる際には左右の「ウィンカー」もヘルメット上に表示することができる。11社の中では唯一、アジアからの参加だ。

Lumos Helmet

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ビジネス出張を快適&お得に

Priva Mobility(シカゴ)

国内出張のたびに飛行機に乗るのは面倒、という方も多いのではないだろうか。Privia Mobilityはフライトに代わるドア・ツー・ドアの高級車送迎サービスを行っている。

車内では高速WiFiが自由に使えるだけでなく、プロジェクター機器も用意されている。そのため、グループでの移動中にミーティングなども行える。

現在はデトロイトとシカゴ間のみでサービスを提供しているが、今後は対象都市を広げていく予定だ。同社Webサイトによると、往復の料金は「航空券2枚分」ほどだという。

Priva Mobility

SkyHi(サンフランシスコ)

月額199ドル(約2万2千円)を支払うと、毎月5フライトまでお得な固定料金で予約できるサービスを提供している。航空券は、1,000マイル以下ならどのルートでも35ドル(約3,900円)、2,000マイル以下なら75ドル(約8,300円)。10日前まで予約できるため、急な出張などにも対応できる。現在は北米と欧州のみ対象のサービスだ。

SkyHi

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ドローン&機器操作サポート

Aerotronic(インディアナポリス)

燃費が良いとされる単一ローターのドローンを開発するスタートアップ。パイプラインから石油が漏れた場合の検知や、ソーラーパネルの点検、海上石油掘削装置の検査といった用途を想定している。主なプロダクトは、悪天候にも強いというドローン「Dauntless」だ。

Aerotronic

DeepHow(ニューヨーク)

扱いが難しい産業用機器を、より簡単に使えるようにするサービスを提供している。具体的には、モバイルアプリやウェアラブル端末を通じて、エンジニアや技術者に機器オペレーションの“指導”を行ってくれる。さまざまな検査や修理メンテナンス作業が容易になるという。さらに、専門家も遠隔で作業をサポートしてくれる。

DeepHow

今回紹介した企業の中には、スマートタイヤや自転車移動、さらには産業機器など、これまであまり馴染みのない分野でイノベーションを模索するスタートアップも多い。

Techstars MobilityのManaging DirectorであるTed Serbinski氏は、今回選ばれたスタートアップは国やジェンダー、年齢などにおいて、これまでで「最も多様性があるチーム」がそろっているとし、今後のビジネス展開に期待を寄せている。

こちらの記事は2018年12月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

耳塚 佳代

ライター、翻訳者。1985年生まれ。元通信社英文記者

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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