【海外スタートアップ最新トレンド】
2018年度ティール・フェローシップ選出メンバーの注力領域を一挙紹介

2018年5月、本年度のティール・フェローシップに選ばれた20名が発表された。ティール・フェローシップとは、PayPal(ペイパル)創業者で投資家のPeter Thiel(ピーター・ティール)氏が2011年に開始した若手起業家育成プログラムだ。大学を中退することを条件に、22歳未満の若者に2年間で10万ドルを投資している。

過去記事「イーサリアム創業者を輩出したティール・フェローシップ。2018年度に選出されたブロックチェーン・プレイヤー4名とは?」では、本年度に選ばれた20名のメンバーのうち、ブロックチェーン領域のプレイヤー4名を紹介した。

本記事では、残りの16名を紹介する。ティール・フェローシップが注目する領域をみることで、最新のスタートアップトレンドを探っていきたい。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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心臓モニタリング用のウェアラブルデバイスから、パーキンソン病診断AIまで。HealthTech領域での選出者多数

前回は、2018年度にティール・フェローシップに選ばれた起業家の中で、選ばれた人数が多かったブロックチェーン領域に取り組む起業家を紹介した。ブロックチェーンと同様に多かったのが、HealthTech領域のプレイヤーだ。

その中の一人であるAndre Bertram氏は「HelpWear」のCEO。過去にはY Combinatorのバッチに出場した経験もある。心筋梗塞や不整脈といった心臓の異常を検知して医師に知らせてくれる、腕時計型のウェアラブルデバイス「HeartWatch」を提供中だ。

医療においてウェアラブルデバイスを活用するシーンも増えたが、機械を身体に装着することは不快感も伴う。「ExpressionMed」のCEO、Meghan Sharkus氏は、医療用ウェアラブルデバイスをより快適に長く身につけられるようにするために、肌とデバイスの間に貼るテープを開発し、自社サイトやAmazonで販売している。

難病の早期発見に取り組む者たちもいた。「Higia Technologies」のCEOであるJulian Rios氏は、手軽に乳がんのリスクを判断してくれるウェアラブルデバイスを開発中だ。

また、「FacePrint」の創業者であるErin Smith氏は、顔認識技術によって、発症初期であってもパーキンソン症を特定できるAI診断ツールを開発している。

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3ヶ月で消えるタトゥーインク、人工タンパク質──BioTech・FoodTechも盛り上がりを見せる

BioTech・FoodTech領域のプレイヤーも目立った。

Josh Sakhai氏は「Ephemeral Tattoos」の共同創業者。3ヶ月で消えるタトゥーインクを開発し、エンターテイメントの可能性を広げようとしている。一般的な手法で彫るよりも気軽に様々なデザインのタトゥーを選べるため、ユーザー層の拡大や新しい楽しみ方が発見されるだろう。

人体に関わる技術だと、「Avro Life Science」の創業者・Shak Lakhan氏も、皮膚に貼りつけることで体内の薬物分布をコントロールできるシールを開発している。このシールは希少な高分子の有機化合物から生成されている。薬剤を量的・空間的・時間的に制御し、患部や病原体などに的確かつ集中的に作用させることで、薬剤の治療効果を高めるという。

人工タンパク質の開発という挑戦的な取り組みを行うのは、「Terramino Foods」CEOのKimberlie Le氏だ。真菌(カビの仲間の総称)からタンパク質を作り、味、食感、栄養において、シーフードや肉を代替しようとしている。これが実現すれば、持続可能性の高い、新たな食環境システムが構築されるだろう。

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機械学習を10倍速にするチップや、分散型クラウドサーバなど

インフラを支えるテクノロジーに注力するプレイヤーも多かった。コンピューターの処理速度向上に取り組むスタートアップ「Vathys」のCEOであるTapa Ghosh氏は、機械学習用のチップを開発している。従来と比べて10倍の処理速度を実現するという。

「Diluvian」の創業者であるGreg Tseng氏は、個人情報やビジネス上の機密情報を守るための、新たなテクノロジーを開発している。

インターネットインフラの整備に取り組むJamie Cox氏は「Flare」の創業者。CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)による通信速度の高速化に取り組んでおり、将来的には新たな分散型インターネット実現のためのインフラを構築しようと目論んでいるようだ。

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ドローンやVRから、弁護士を代替するチャットボットまで。最先端の若手起業家が集結するティール・フェローシップ

そのほかにも、様々な領域でユニークなプレイヤーが選ばれていた。

インド出身のDivyaditya Shrivastava氏は、消防士向けの革新的なドローンを開発中だ。より早く火事に反応するドローンで、より正確な場所を特定できるようになる。

VR領域に取り組むのは、Gemma Busoni氏。「Discover Labs」の創業者で、教育用VRサービスを提供しており、すでに医療従事者の研修や歴史学習に活用されているという。

DoNotPay」のCEOであるJoshua Browder氏は、弁護士の代わりとなるチャットボットを開発している。自動で訴訟手続きのサポートをしてくれるチャットボットによって、法律トラブルに立ち向かうハードルを下げようとしているのだ。

いつでもゲームを楽しめるコミュニティの構築を目指している「Rainway」CEOのAndrew Sampson氏のようなプレイヤーもいた。ゲームのストリーミング配信サービスを提供しており、いつでも、どんなデバイスでも、お気に入りのゲームがプレイできるような世界を目指している。ストリーミングサービスといえば音楽が思い浮かぶが、ゲーム領域はGoogleが提供を企んでいるとの噂もあり、今後伸びていく可能性が高い領域と考えられる。

農業領域に取り組むのは、「Amber Agriculture」の創業者である、Joey Varikooty氏。ワイヤレスセンサーを通じて、農業従事者が貯蓄中の穀物の状態を最も高く売り出せるタイミングを見極めてくれる画期的なサービスを開発中だ。

また、エネルギー効率化に取り組むのは、Liam Berryman氏である。「Nelumbo」のCEOを務め、効率的な冷暖房システムを可能にする物質を開発している。

以上、本年度のティール・フェローシップ選出者を紹介した。最先端のビジネストレンドが反映される顔ぶれだけに、関連領域に関わる人なら、情報を深掘りする価値があるだろう。

こちらの記事は2018年09月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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