全スタートアップへ告ぐ。「イグジット/上場」を妨げる“反社”について、これだけは知っておいて欲しいこと
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スタートアップにとって、「成果」は欠かせない存在だ。優秀なメンバー、壮大なビジョンと並び、フェーズが進むごとに定量的な成果は求められる。故に、スタートアップは攻め続けなければいけない。
ただ、「成果」ばかりを追い続けていると、時に足もとをすくわれる「リスク」もある。
そのひとつが、「反社会的勢力」だ。
- TEXT BY KAZUYUKI KOYAMA
エグジットも調達も不可能になる、反社という罠
反社会的勢力といわれても、一見、スタートアップには関係のないように思えるだろう。
では、『「株主」「社員」「取引先」に反社会的勢力との関係が疑われる人物や組織がいれば、調達もエグジットも不可能』と言われると、どうだろうか。
こんな例がある。
株主の中に素性の怪しいエンジェル投資家がいた。次のラウンドで調達する際に、その人物と反社会的勢力との関係が問題に。ラウンドをクローズするには、株を買い取らなければいけないという事態になるも、買い取れるほどの資金は手元になかった。
また、上場前には必ず「反社会的勢力と関係性がないかのチェック」、いわゆる「反社チェック」の結果を提出するように求められる。そこでつまずく例もある。
上場直前、反社チェックをしたところ、取引先にその疑いがかかる企業が発覚した。大口の取引先で契約を切ると売上予測に大幅な下方修正が生じ、上場を一旦ストップせざるを得なくなった。
いずれも、事業活動を通し、間接的であれ、直接的であれ、反社会的勢力へお金が流れることを防ぐ必要があるからだ。2007年、法務省が『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について』を発表以来、各省庁や地方自治体、銀行など国内のあらゆる機関が規制を強化。それに伴い、事業を行う企業が、反社会的勢力へ資金を流すことのないよう厳しく目を光らせている。
大企業ならば問題が生じるとマスメディアで報道されるが、スタートアップの場合は表に出ることなく人知れず消えていく。そしてその「消えゆく数」は、しばらく増えることになりそうなのだ。
2018年11月に発表された指針により、登記時点で反社勢力と関わりがないことを証明する必要も出てきているようだ。ここからは想像であるが、「反社との関わりがグレーな事実が1度でもあると、しばらく上場できない」といった規制がしかれる可能性すらあるかもしれない。
さらに、2011年までに全都道府県で発令された『暴力団排除条例』では、暴力団員等の反社会的勢力に対する利益供与は禁止されており、違反すれば勧告や公示される恐れがある。
しかし、反社会的勢力は組織実態を隠ぺいするために、フロント企業を設立したり、政治活動や社会運動を標ぼうするなど、一見反社会的勢力であるとわからないケースや、“暴力団”の関与が濃厚だが断定できないことも多く、“反社会的勢力”の捉え方が広義になってきている。
コンプライアンス遵守の観点からも、反社会的勢力とは関係なくとも犯罪を犯したり、反社会的な行動を起こした会社・従業員に対して厳しい対応をとることが重要である。
総じて、「まだスタートアップだから気にしなくてよい」、「上場はしばらく先の話だから」といった言い訳が通じる状況ではなくなってきているのだ。
報告しなかったため上場廃止。反社が絡んだ2つの事例
では、どのように企業は反社会勢力と出会ってしまうのか。先述の通り、スタートアップの事例は報道されないため大企業が中心となるが、明るみに出たケースから学んでいきたい。
「株主」にいた事例では、2015年、株式会社オプトロンは、第三者割当増資時に、割当予定の企業が反社会的勢力の疑いがある報告を社外から受けた。しかし、その報告を上場していた名古屋証券取引所に伝えなかった結果、増資割当前に上場廃止の決断が下された。(参照:http://www.nse.or.jp/listing/files/20150831_7824.pdf)
「社員」にいた事例では、2016年、元役員の横領が明らかになったAppBank株式会社が記憶に新しい。横領資金の流出先に反社会的勢力が浮上したが、社としては否定。事実関係は明らかにならなかったが、同社の株価は20%近く下落した。(参照:https://japan.cnet.com/article/35078064/)
いずれも上場企業であることから、反社チェックを適切に行っているはずだ。それほどに「反社」は既存の社会システムに巧妙に組み込まれていると言っても過言ではない。完全に関わり合いを防ぐのは容易ではないのである。
だからこそ、「チェック体制・仕組みを社内に構築している」「反社との関わりを防ぐ意志がある」ことが、企業のリスク回避のためには重要だ。「どのような体制で防ごうとしているか」「どのような線引で取引先を選定しているのか」を定義し、向き合う姿勢を明示できることが、企業規模に関わらず、現代の企業には求められている。
特に、ここ数年トレンドとなっている不動産業や印刷業、製造業、物流・倉庫業、金融業などといった歴史ある既存産業にスタートアップとして切り込んでいく場合には、必然的に反社勢力に出会うリスクも高まる。スタートアップにとっても決して他人事とは言えないのだ。
数百円から対応可。リスクヘッジに向けた3つのアプローチ
では、このリスクを最小限にするために、どのような手法が存在するのか?反社チェックの方法は3つに大別できる。
1:自社データベース
専任の担当者が、新聞やWeb、自社で蓄積したノウハウ、顧客情報などから綿密なデータベースを構築し、取引先や投資先における信用の精度を高めていく。扱う金額が数百万円を超えるような、保険信販、銀行、証券といった金融系や、不動産系に多く見られる。ただし、多額のコストが掛かり、スタートアップとは少々縁遠い方法といえる。
2:調査会社
新聞やWebの情報から、帝国データバンクといったデータサービス、私立探偵による調査などを組み合わせ、立体的に情報を集めていく。調査先1件あたり3〜10万円ほどのコストがかかる。一定のコストは要するが、調査の精度を重視したい場合に有用だ。自社の規模が拡大した後に、経営陣や株主など意志決定に強く関わる可能性のある人物の信用調査に利用するのも有効といえる。
3:チェックツール
新聞やWebから公知情報を集めたデータベースを活用してチェックをかける。1件数百円ほどの調査料で済むため、取引先や社員といった入れ替わりの頻度が高く、調査数も多い場合に適する方法だ。
攻めの姿勢を崩さぬために、最低限の守りも固める
ここまで反社によるリスクについての懸念を深めてきたが、スタートアップに求められるのは基本的に「攻め」の姿勢である。
反社チェックは「守り」であり、そこへ割くリソースが後手へ回るのは仕方がない。ただ、少なくとも上場2期前にはあらゆる企業が「反社チェック」を求められ、上場後も定期的なチェックを必要とされる。
そこで発覚、ないしは急に膨大な手間を引き受けるよりは、契約書で反社会的勢力排除条項を定めておくことはもちろんのこと、新規取引先との契約前や、従業員の内定通知書発行前、資金調達の投資契約書締結前など、日常のオペレーションに簡単にでも組み込んでおくほうが得策といえる。
特に、企業規模が小さいうちから仕組みに盛り込んでしまったほうが楽なのは間違いない。前述のようにコストが数百円単位で済むものもあるため、リスク回避の方法に意識しておくといいだろう。
反社チェックをもっと知りたいスタートアップへ
こちらの記事は2019年03月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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