フェムテック最前線──3つの分野から語る、女性起業家向けビジネスアイデア7選

「帝国データバンク」によると、国内の社長のうち女性の割合は7.69%。2007年から10年で1.45%しか上昇していない。こうした格差は米国でも起きている。全米のベンチャー投資のうち、2%しか女性起業家へ投資されていないと『Reuters』は報じた

こうした背景を受けて、大手金融会社「Goldman Sacks」は女性の社会的地位の向上を支援すべく、2018年から女性起業家へ5億ドルの資金を用意するなど、状況は変わり始めた。

そこで本記事は、女性起業家がスタートアップを立ち上げた米国の3つの市場を紹介する。女性ならではのビジネスの兆しを探り、日本市場でも成長する可能性を見ていきたい。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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不動産市場 ── 女性特化型スペースに商機をみつけた「The Wing」「Fit Pregnancy Club」

The Wing

The Wing

2017年に開催された世界経済フォーラム「ダボス会議」において、世界の男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」の報告書が発表された。同報告書によると、日本は世界144カ国中114位となり、過去最低だった前年の111位からさらに後退したという。

一方で、米国では「Backstage Capital」に代表されるVCが、積極的に女性やLGBTファウンダーへの投資を行っていることもあり、女性起業家によるスタートアップが目立ち始めてきた。これら女性起業家によるスタートアップに共通している点は、女性だからこそ共感しやすい悩みに焦点を当てていることだ。

「化粧直しをするスペースを十分に確保してほしい」「夜遅くまで働くなら、汗を流せるシャワー室がほしい」といった声を、身をもって理解できるのは女性起業家の大きな強み。こうしたニーズを満たすのが女性特化のコワーキングスペース「The Wing(ザウィング)」である。

The Wingは2015年にニューヨークで創業し、累計4,250万ドルの資金調達に成功しているスタートアップだ。年会費1,950ドルで入会できるコワーキングスペースを運用する。

『BusinessInsider』の記事では、2016年のサービス立ち上げから約13,000人以上の会員応募があったとしている。2017年3月時点で、1,500人が入会していたことから、約9割の人がウェイティングリストに入っていることになる。

コワーキングスペースの分野では、2018年に日本へ上陸した「WeWork」が圧倒的な市場シェア率を誇り、最大の競合として立ちはだかる。しかし、「The Wing(ザウィング)」は自由に使えるコスメを備えた化粧室があったり、シャワールームが完備されていたりと、多くのニーズが反映されている。

Fit Pregnancy Club

Fit Pregnancy Club

コワーキングスペースのような「リアルな場」という文脈では、マタニティー教室にも大きなビジネス機会がある。「Fit Pregnancy Club(フィット・プレグナンシー・クラブ)」は2017年10月にニューヨークで創業し、約半年で1,000人の会員を集めた。

その特徴は、Instagramでミレニアル世代の妊婦顧客獲得に成功している点だ。『Forbes』の記事によると、50%の顧客がInstagram経由でサービスを知り、会員になっているという。

また、単にInstagramマーケティングに長けているだけでなく、各種ブランドと提携し、妊婦向けサービスのプラットフォームになろうという長期戦略が最大の競合優位性となっている。

赤ちゃんをおんぶして肩こりや筋肉痛になることはよくある話。こうした顧客の身体を癒すため、マッサージスタートアップ「Zeel」との提携でサービスを無料で提供している。また、忙しくて買いに行けない化粧品も、原料成分にこだわった化粧品ブランド「Beauty Counter」から提供してもらう仕組みを構築した。ブランド側もミレニアル世代の顧客との接点を持つことで、優良顧客獲得の可能性を広げられるメリットがある。

つまり、各ブランドを巻き込み、出産前後のフォローアップサービスを充実させることで、妊婦向けサービスプラットフォームの地位を確立しようとしているのだ。

先述したThe Wingも会員限定の小売店舗やメディアを展開するなど、不動産事業に留まらず周辺サービスの強化へ動き、顧客と多数の接点を持つことでサービスフックを確立させた。

このように、様々な女性向けブランド企業を巻き込み、プラットフォームとして機能することを念頭に事業展開すれば、日本でも大きなビジネスチャンスをつかめることだろう。

たとえば、女性向けレッスンクラブ「SHElikes(シーライクス)」や、母親向けのQ&Aアプリや情報サイトを提供する「ママリ」などが化粧品メーカーやスポーツグッズ企業と手を組み、女性を支援する共創プラットフォームを作れば、より大きく成長するかもしれない。

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人事採用市場 ── 母親の社会進出を後押しする「Cleo」「Fairygodboss」

Cleo

Cleo

2015年の『Huffington Post』の記事によると、25~54歳の日本女性の就業率は71.8%だったという。一方、子供を持つ母親の就業率は52%であった。半数以上が就業しているというデータをみれば、あまり危機感を覚えないかもしれない。

しかし、52%の母親のうち、たった8%しか正社員として働けておらず、62%がパートやアルバイトをせざるをえないのが現状だ。大きな理由としては仕事とのミスマッチが挙げられる。

仕事をしていない母親の61%が「自分に合った仕事が見つからない」ことを理由に就職できておらず、約70%が「仕事と家庭を両立できる仕事」を望んでいるというニーズが判明した。

上記の数値データにより、いまだ企業側が産休明けの母親を受け入れる体制の整備ができていないという問題点が浮かび上がる。また、自分に合った仕事を見つけるための情報収集とマッチングに苦戦している課題も露呈した。こうした女性の働き口が見つからない問題を解決しようとしているスタートアップの1つに「Cleo(クレオ)」が挙げられる。

Cleoは2016年にサンフランシスコで創業し、累計1,280万ドルの資金調達をおこなった。同社は企業向けに、妊活から育児までのサポートをする福利厚生プログラムを提供する。

Cleoのプログラムを導入した企業の従業員は、妊娠に関して専属の医師から遠隔診療を受けられたり、育児費用に関してパーソナル財務アドバイザーからコンサルティングを受けられる。『Forbes』の記事によると、手厚いサポートに魅力を感じ、93%の女性従業員が出産前に勤務していた企業へ復職を果たしているという。

米国では2016年に出産した女性の82%がミレニアル世代だと、「Pew Research Center」が発表している。女性たちが希望する柔軟な働きやすさに対しての需要を、収益化のしやすいB2Bモデルを採用することで急成長を遂げているのだ。

日本においても女性の社会進出の機会は増えているという傾向がみられる。こうした背景から、大手企業それぞれが時代の変化に対応する福利厚生プログラムを作りこんでいる。そのため、母親の復職プログラムの外販にも、大きなビジネスチャンスが眠っているかもしれない。

Fairygodboss

Fairygodboss

Cleoでは女性が働きやすい環境の構築をサポートするが、そもそも、こうした企業を見つけるのは至難だ。この課題を解決する「Fairygodboss(フェアリーゴッドボス)」は女性特化型の求人サイトを運営する。2015年にニューヨークで創業し、累計400万ドルの資金調達をおこなった。

Fairygodbossは、いわゆるキュレーションメディアだ。女性従業員から匿名でレビューを集め、Webサイトに掲載する。『The Atlantic』の記事によると、立ち上げから1年で全米7,000人の従業員から19,000のレビューを集めた。

日本では女性特化型のレビューが集まった求人サイトをあまりみかけない。女性向けの求人サイトはあるが、企業側が広告費を支払って投稿されたコンテンツが並び、実際に求人企業で働いた女性の声を聞くことはできないケースが多いのではないだろうか。

Fairlygodbossはこの課題を解決する求人情報プラットフォームを提供する。現在は投稿数を伸ばす成長段階にいるが、広告モデルを払拭した高品質なキャリアレビューサイトに集まる情報を分析して、統計データを発表するリサーチ会社としての役割も果たす。

大切なのは、純粋な従業員のレビュー情報を担保することであろう。そのためには、求人情報出稿料から収益化を図る既存サイトとは違う事業モデルを構築する必要がある。この点、積極的な収益化は難しいかもしれない。しかし、信ぴょう性の高い企業内部情報が集まることで、先述した「女性向け求人リサーチ会社」という独自の市場ポジションを狙える可能性がある。

仮に、Fairygodbossの事業を日本で行う場合は、ユーザー獲得を先に行い、競合他社より良質な情報をなるべくたくさん集める必要があるだろう。先行投資型のビジネスモデルはリスクが伴うが、事業へ参入する意義は十分にあるだろう。

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化粧品市場 ── パーソナライズ提案が鍵となる「Scentbird」「Proven」「Function of Beauty」

Scentbird

Scentbird

「高い化粧品を買っても、いつも使い残してしまう」という女性の悩みは万国共通。この課題を解決し、香水分野で急成長しているのが「ScentBird(セントバード) 」である。

同社は2014年にニューヨークで創業し、累計2,240万ドルもの資金調達を果たした。ScentBirdは毎月好みのブランドの香水が使い切り容器で送られてくるサブスクリプションサービスだ。

最初にオンラインでいくつかの質問に回答することで、最適な香水を提案してくれる。使い勝手の良い独自のボトルを使用し、顧客体験の充実も図った。2017年の『TechCrunch』の記事によると、利用者数は14万人に及び、毎月200万ドルの収益をあげているという。

Proven

パーソナライズ提案のトレンドは他の分野にも及ぶ。AIを活用した化粧品提案を行う「Proven(プルーブン)」が代表的だ。同社は2016年にサンフランシスコで創業し、12万ドルの資金調達を果たした。著名アクセラレーター「Yコンビネータ」のプログラムを卒業している。

『TechCrunch』の記事によると、消費者が化粧品を選ぶ平均時間は45~90分ほどかかるといわれている。しかし、55%の人たちが商品に満足していないという。

Provenでは、こうしたスキンケア化粧品市場の課題をAIで解決している。800万以上の化粧品レビュー、4,000を超える科学論文と2万個の成分情報をAIに学習させており、基礎データと顧客のアンケートデータをひも付けて最適な組み合わせを提案する。

Function of Beauty

Function of Beauty

同じくYコンビネータを卒業し、AIを活用してカスタマイズ・シャンプーを提供する企業に「Function of Beauty(ファンクションオブビューティー)」がある。他社同様サービス利用前に簡単なクイズに答えると、最適なシャンプーの成分パターンをアルゴリズムが計算してくれる。『TechCrunch』の記事によると、配合成分の組み合わせは120億通りあるという。

ここまで化粧品市場で活躍するスタートアップを紹介してきた。いずれもビックデータ解析やAIを活用したパーソナライズ提案をおこなうIT企業という位置付けだ。この点、起業参入障壁は非常に高いように思えるかもしれないが、女性だからこそ気付く課題感をテクノロジーで巧みに解決する姿勢は参考になるだろう。

すぐにAIのような高いテクノロジーを持たずとも、市場需要を的確に捉えることで成長できる可能性は十分にある。たとえばコンパクトサイズの化粧品を販売する「Stowaway Cosmetics(ストーアウェイ コスメティックス)」が好例だ。同社は低価格で高品質な小さなサイズの化粧品を販売する。AIやパーソナライズ要素を持たずとも、「コンパクトな化粧品」というコンセプトが評価され、150万ドルもの資金調達を果たしている。

このように、まずは顧客ニーズを満たす製品展開をおこない、長期戦略でAIを活用したテクノロジーを導入するタイムラインを描ければ、日本での成長可能性も考えられるはずだ。

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女性だからこそ提供できる価値に特化を

Flickr ©Rob Kall

ここまで紹介してきたスタートアップ以外にも、ミレニアル世代の女性向けメールマガジン「The Skimm」や生理用品のサブスクリプションサービス「Cora」、女性向けのルームウェアを開発するアパレルブランド「Lunya」など、様々な企業が生まれている。

このような事業を始める際の大切な要素は2点あると考えられる。

  1. 成長市場を狙う
  2. 女性だからこそ提供できる価値に特化する

「不動産」「人事」「小売」はいずれも巨大市場だ。市場規模が大きければ、たとえ女性に特化したニッチ分野で事業を展開したとしても、ある程度の成長余地が残される。また、男性創業者では真似できない女性目線での開発ノウハウを活かせば、男性が中心となっている起業家の世界で競合優位性を十分に活かすことができるだろう。

昨今、#MeToo運動に代表されるように、男女平等や性差別問題をなくすムーブメントが世界的に起きている。こうした背景のなか、女性起業家は同性に対して強いメッセージを発信することができるだろう。筆者がサンフランシスコで取材していたときも、女性創業者が過去に投資家からセクハラ被害を受けていた経験を何度か耳にした。

とても心の痛む出来事であり、この問題の根本には男性が優位に立っていると思わせる社会の雰囲気があると言わざるを得ない。こうした負の文化を払拭するためにも、積極的に女性起業家を輩出するトレンドが生まれてきて欲しいと心から望む。本記事で紹介したスタートアップの事例が少しでも起業を考えている女性の背中を押すことが。できれば幸いだ。

こちらの記事は2018年08月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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