事業モデルの特性を見極めよ!
エクイティ調達をしない経営の実態をアクシス末永・プレックス黒﨑に聞く
創業して間もない中、エクイティやデッドなど資金調達すべきか悩むことは多い。そんな中、あえて「エクイティ」という選択肢を取らなかった企業も存在する。
キャリアコーチングサービス『マジキャリ』を運営するアクシス、ドライバーに特化した採用・人材紹介サービス『Plex JOB』を運営するプレックスも、その一角だ。
2022年2月に開催したFastGrow Conference 2022。「シードラウンドでは“あえて”調達しない。エクイティ調達に頼らない経営の可能性。──輸攻墨守の戦い方にみるユニコーンと対をなす『ゼブラ型スタートアップ』とは?」と題したセッションでは、エクイティファイナンスを実施しない経営の裏側に迫った。登壇したのは、アクシス代表取締役の末永雄大氏、プレックス代表取締役の黒﨑俊氏だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
エクイティファイナンス、しなくても死にません。
冒頭で、モデレーターの渡辺氏は「正直、エクイティでの資金調達を必要だと思ったタイミングはあったか?」と率直な問いを2人に投げかけた。
末永氏は「前提として、エクイティでの調達に対してネガティブに捉えているわけではない」と前置きしつつ、「エクイティファイナンスをすべき理由が明確に見つからなかった」と語った。
末永2012年に創業した当初は、資金も人材も足りない状況下で、エクイティで調達すべきかモヤモヤと悩んでいました。2012~2013年頃は数億円単位の資金調達が珍しかったのですが、友人の中には2~3億円の資金調達を行っている人もいたんです。彼らと一緒にご飯を食べに行くと「資金調達したら?」と言われて。「資金調達していない企業=スタートアップではない」といった圧を少なからず感じました。
エクイティはあくまで資金調達の手段の1つに過ぎません。他の手段もある中で、なぜ調達すべきか考えたり、友人に調達した理由を根掘り葉掘り聞き回ったりしたのですが、明確な答えにはたどりつけなかったんです。
幸いなことに、そうやって考えている間に売上が伸びていき、資金調達の必要がなくなりました。
黒﨑氏も「自分の中で明確な答えが出なかったことが、エクイティファイナンスをしない判断につながった」という。
黒﨑創業当初は資金がそれほどあるわけではないので、エクイティしたい時期はめちゃくちゃありましたね。私が創業したのは2018年で、コロナ不況の予兆なんて全くありませんでした。そのため比較的、エクイティで調達しやすい時代だったと思います。それに伴って、様々な企業から「投資することで、事業成長のスピードが早くなる」「競合が参入してきた時に勝ちやすい」などのお話を頂きました。
私自身も創業1年目でほとんど資金調達に関する情報を持っていなかったので、なんとなく「エクイティファイナンスをすれば事業成長にメリットがある」というイメージはありました。
ただ、合理的にビジネスモデルと収益性を考えた時に、そのタイミングで資金調達すべきなのか明確に答えが出なかったので、それなら必要はないのだろうと考えていました。そうこうしているうちに売上が立ち、直近は必要がなくなりました。
両者とも思い悩んだ時期もありながら、エクイティファイナンスには至らなかった。第三者から「なぜエクイティをしなかったのか?」と理解されなかったことはあるのだろうか。
末永もちろん、あります。特に採用面でそれを感じましたね。「資金調達のリリースで採用を加速させる」という企業が多いですよね最近は。それを僕たちはできないわけです。
アクシスは『すべらないキャリアエージェント』という転職エージェントのサービスを展開しています。その中で転職者と向き合うことが多いのですが、採用やPRを考えると「単一のプロダクトでエクイティ調達しています」というストーリーを、投資家のお墨付きとともに見せられるのでアトラクトしやすくなるのは事実。
ただし、それがすべてだとは感じていませんね。
黒﨑第三者に理解されることは正直気にしていなくて...。エクイティはあくまで手段にすぎません。それよりも、マーケットと向き合い、その結果として「売上が一年間で3倍になった」ときちんと成長を示すことができるようになる、といったところに注力しています。
だから採用面でも、エクイティファイナンスをする必要性をそこまで強く感じてはいません。合理的に数字の良さで判断してくれる採用候補者が、しっかり集まるように運営できています。
チャレンジングな意思決定を可能に
多くの企業が資金調達する背景には、事業成長の加速に対する期待値があるだろう。だが、エクイティファイナンスしない選択肢を取ることによって、事業が保守的になるなど懸念点はないのか。
末永氏はこの問いに対して「あくまで経営者の方針次第」だと語る。
末永確かにファンドから資金調達することでイグジットが前提になるため、成長にコミットし社外にリターンを生む義務が生まれます。とはいえエクイティをしなくても、経営者が望めばいくらでも成長の機会はあるのではないでしょうか。成長を求めるか否かは経営者次第です。
アクシスは、「ヒトとITのチカラで働くすべての人を幸せにする。」というミッションの達成に向けて活動している企業です。自己満足ではなく有言実行していくためには、成長が欠かせません。
実際に、2030年までに300億円の売上を目指し、50個の事業を展開していくことを発表しています。少なくとも私自身はこういった意思決定を発表し、逆算して計画を推進することを考えています。
さらに、今後は展開する事業の性質に応じて、エクイティファイナンスによる事業成長の加速を検討する可能性もあるという。
末永働く人のキャリアや働き方にまつわる領域で事業展開することは変わりませんが「ビジネスモデルに対しては特にこだわらない」と社員にも伝えています。実際に、SaaS事業の展開も考えているので、エクイティを検討する可能性は十分にあります。
黒﨑氏は、アグレッシブに新規事業へ投資し、さらなる事業の拡大を図っている。
黒﨑利益が出たら、そのまま溜め込むのでなく、全部投資に回すようにしています。利益率を高めることで、余剰資金で既存事業にも投資できるようになる。今期も、エネルギー領域における人材紹介事業と、ドライバーに特化したダイレクトリクルーティングサービスが予定よりも早く立ち上がってきました。
およそ5,000万円前後の資金があれば事業の仮説を検証できることがわかったので、今後は毎年2~3本程度の新規事業を立ち上げていくことを考えています。
決して保守的になるのではなく、むしろ貪欲に成長を求める様子を見せている両者。逆に、エクイティしていないからこその強みもあるのではないか。
末永私自身の価値観として、社外で働く個人だけでなく、社内に対してもキャリア開発の機会を提供したいという気持ちがあります。
新卒でリクルートに入社した際に、5~10年後の先輩のポジションを見ると、キャリアステップにあまり大きな変化はなかったんです。そこで、弊社の社員には社外に転職しなくても複数の事業を展開することで、社内で転職できるキャリアの開発機会を提供したいと考えました。
一つのプロダクトだけを成長させていくことを考えると、組織構造はピラミッド型になりやすい。でもそれ以外のかたちもあるのではないかと思うんです。
黒﨑氏は、エクイティしないことのメリットとして、2つの観点を掲げた。
黒﨑1つ目のメリットは「意思決定がしやすいこと」です。
プレックスは、物流領域に特化しているのですが、直近ではエネルギー領域など、法規制や資格が存在する領域においても採用や人材紹介といった解決策を提供できるのではないかと思った。そこで、ミッションを物流からインフラ産業に向けたものに変更しました。
実際にミッションを再定義するにあたり、1年弱のコミュニケーションがかかったものの、ステークホルダーがより多ければ、その意思決定は難しくなるのではないかと感じています。
2つ目のメリットは「資金調達しない代わりに、生産性高く事業を営むことで利益を出していこうという意識が強くなること」です。そのため、各種の指標を改善し、生産性を高めることがより求められます。
しっかりとオペレーションをやりきる・作り切るカルチャーは、今後の強みになると思っています。
「マーケットインでの他サービス展開」などは、非エクイティが向いている?
ここまで両者から、エクイティしない選択肢を取った理由やメリット・デメリットがリアルに語られた。ここでモデレーターの渡辺氏から「エクイティすべき業態、しなくても良い業態の見極めは?」という質問が投げかけられた。
末永SaaSのように開発費用や人員を先行投資で確保し、ユーザーを集めてから収益につなげるモデルであれば、エクイティの方が良いのではないでしょうか。そんな風に、経営者の個性だけでなく、ビジネスモデルによって検討の仕方が変わるものだと思いますね。
黒﨑氏も「事業モデルによって区切りがあるのではないか」と語る。
黒﨑コンサルティングやM&Aのようにビジネスモデルの型があり、収益が生まれやすい事業に関しては、エクイティがなくても事業を推進しやすい。逆に、金融やマーケットプレイス、SaaSなどは初期に投資が必要なモデルは、エクイティとの相性は良くなると感じています。
最後に、今後の目標について両者から語られ、セッションが終了した。
黒﨑2021年12月に「日本を動かす仕組みを作る」というミッションに変更し、物流やエネルギーなどの日本を動かす産業に対して、弊社自身が日本を動かす事業を展開していく方針を掲げています。
まずはドライバーや電気工事士など専門職のラインナップを増やしていきます。また今後は、転職に至るまでのプロセスを短くし、システムによる転職支援やダイレクトリクルーティングを伸ばしていきたい。さらに人材紹介のみならず、ブルーカラーやエッセンシャルワーカーなどインフラ産業の業務改善にも貢献できるようなプロダクトを展開していきたいです。
末永2030年までに「日本一、働く個人を幸せにするワークテックカンパニーになる」ことをゴールとして掲げています。そのために50個の事業を展開し、売上300億達成することを目標としている。
我々のお客様は「働く個人」であり、課題になっているところに対してプロダクトを1つひとつ展開していきたいと考えています。単に新規事業を展開するのではなく、ミッションの実現を達成するための事業戦略とセットで考える。そこには、事業の数だけリーダーも必要です。そういった方々も採用しながら、長期ゴールに掲げている目標を実現していきたいです。
エクイティの適不適は事業戦略やフェーズによっても異なる。だがそれは同時に、「エクイティしない」という選択肢がハマるビジネスモデルも当然、少なからず存在するということだ。両者のリアルな実体験は何よりも説得力がある。この選択肢をとる企業の急成長がさらにメジャーになっていく日は遠くないだろう。
こちらの記事は2022年05月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
連載FastGrow Conference 2022
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