「企業変革・成長のため、どんな投資も厭わない」弥生の新株主PEファンド・KKRパートナーたちの戦略と経営支援手法を学ぶ
投資ファンドのイメージに変化が起こっている。
アメリカの投資会社KKRの日本チームは2022年3月、弥生の株式を取得して主要株主となった。主にプライベート・エクイティ(PE)ファンドを運営する彼らが、従来の「ファンド」のイメージと違うことが、弥生代表取締役社長執行役員・岡本浩一郎氏の次の言葉からも見て取れる。
「投資ファンドが企業に価値を付加する方法は主に2通りあります。1つは、コストダウンや事業の再構築を強力に推し進める、いわば『事業再生』のケース。もう1つは『もっとできる!』と、短期的な採算の度外視も含めて成長を模索する関わり方です。弥生とKKRの組合せは明らかに後者で、『一定期間であれば投資だと考えて、利益を犠牲にしてもいい』とさえ言われます」(引用元記事)
KKRが弥生の株主となってから、弥生の成長戦略も大きく変わった。一言で言えば、直線的な成長から、Jカーブを示すスタートアップ型の成長を目指すようになったのだ。
今回は、この出資の狙いを背景に、KKRというファンドの存在意義に迫りたい。インタビューするのは、PE投資を取り仕切る谷田川氏と原田氏だ。
- TEXT BY YUICHI YAMAGISHI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
日本企業の2大欠点「人材と資本の流動性」の抜本改善へ
KKRが日本に進出したのは2006年。
プライベート・エクイティ(PE)投資といっても2006年頃の日本では、まだまだこの投資スキームはほとんど知られていなかった。
このPEと一緒に語られ、似たようなものとして混同されがちなのが、ベンチャーキャピタル(以下、VC)だ。その違いを見ることで、PEの本質をきちんと理解することができる。
PEファンドは、複数の機関投資家や個人投資家などから集めた資金を未上場、あるいは上場企業に投資する、上場企業の株式であれば非上場化することが多い。そして徹底的な経営支援を通じてその企業価値を高めた上で、最後は再上場させるか、その企業にとって戦略的にふさわしい相手に株式売却を行う。リターンが出た場合はファンドの出資者に配分する。
一方のVCは、ベンチャー企業・スタートアップと呼ばれるような未上場かつ創業年次の若い新興企業に出資して株式を取得。将来その企業が株式を公開(IPO)した際に株式を売却し、値上がり益を獲得することで投資回収を目指す。その投資会社や投資ファンドがVCだ。
では、PEファンドの運営を主にするKKRはいったい、日本経済の発展においてどのような役割をはたしているのだろうか。
ゴールドマン・サックスを経てKKRへ入社した、東京大学工学部出身でテクノロジーにも造詣が深い谷田川氏と、大和証券SMBCやメリルリンチ日本証券を経て2020年にKKRへ入社した原田氏。弥生の社外取締役にも就任しているこの2人からの視点で解説してもらう。
原田VCがスタートアップなど新興企業に投資するのに対して、私たちPEは、成熟した企業に投資するケースが多いのです。そこが最大の特徴と言えます。
例えば、傘下に多くの子会社を持っている大企業では、経営資源の「選択と集中」がバランス重視に寄ってしまいがちです。そうなると、子会社によって売上規模やビジネスモデルがバラバラな玉石混交の状態の中で、特に拡大ポテンシャルの大きな事業体に思い切った投資を行うという意思決定がしにくい。親会社にとって戦略的に核となる事業体ではないけれども、経済の発展という観点では大きな将来性のある良い事業や子会社が、眠ってしまっていることがあります。
そこへ私たちPEは、一部の事業をカーブアウト(切り出し)して、新会社やベンチャー企業のようなかたちで独立させ、成長資金を思い切り投じることで企業の成長を促すのです。
私たちが、カーブアウトされた会社のオーナーとなり、その会社のありたい姿に近づける「自己実現」やIPOまでの成長などを支援します。あるいは業界再編の動きの中で、日本や海外の企業を買収する際の資金的なサポートも行うこともあります。広い視野で見ればPEは、日本の業界再編を裏で担う重要な役割を果たしている自負があります。
原田氏が説明するように、いわば「投資対象の企業が大きく成長するための支援なら、なんでもやる」といった具合だ。経営支援、現場支援、さらには資金・ファイナンス援助に至るまで。
原田とても社会的な意義を感じる仕事ですし、関わる企業の予算や売上、利益を伸ばしていくダイナミックな部分に関われることは、とても仕事として面白いものです。
日本は1950年代の高度経済成長のあとにバブル崩壊を経て、デフレ経済が長く続きました。いわゆる「失われた30年」です。企業の統廃合を含む業界再編がもっと進んでいたら、こうはなっていなかったかもしれません。でも、諦めずにこれからも挑戦する必要がある。一つひとつの企業を見て、考えを巡らせると、事業をいい方向へ変革していける部分は多くあると思います。
PEはこの時代において、変革の起爆剤や触媒といった役割を果たせると思っています。
谷田川日本社会の中でPEの果たす役割の重要性は、今後さらに高まっていきます。日本の経済界が抱える課題には「資本の流動性」と「人材の流動性」の2つの流動性という大きな課題があります。
この2つの課題に流動性を促し、提供できるきっかけになるのが、PEだと思います。
資金力のありそうな大企業の中にありながら、せっかくの潜在能力を発揮できていない子会社や事業部が少なからずあります。そうした事業体も、もっとアグレッシブな資本の引き受け手がいれば、非連続的に次のステージへ進むことができるかもしれません。
適切な資本が注入され、株主が変わることによって企業そのものが変わり、それに伴っていい人材が流れ込んでくるようになります。こうして、資金の流動性のあとに、人材の流動性が生まれます。
もちろん、1つの会社に長く勤めることの良さが、これまでの日本企業の競争力を形成してきた面はあると思います。その一方で、同じ会社の中だけで外の世界を知らないでいるメンバーばかりの環境では、多様化する社会の中で「組織発展上の脆さをはらんでしまう」とも言えるかもしれません。
資本と人材の流動性が増し、ダイナミックな動きが出ることによって、さまざまな知見や経験が集積され、企業がより良く成長できる面があるからです。
PEのような存在を利用することで、日本に欠けているこの2つの流動性を提供できますから、PEは大きな意味のある役割を果たせるのではないかと思います。
アドバイザーよりも、責任ある主体へ。
PEの魅力は“現場”感
原田氏・谷田川氏ともに、外資を含む名だたる投資会社や証券会社などで誰もが知る大手企業のM&Aや資金調達、アドバイザリー業務に従事してきた。そんな彼らがなぜPEのKKRを選んだのか気になるところだが、実に興味深い話を聞けた。
原田投資会社は基本的にアドバイザーのポジションとして、大きな会社の案件に携わることができるのは大きな魅力です。例えば私が携わったのはリクルートのIPO案件や、LINEとYahoo!の統合などですね。
しかし、せっかくそういった大型案件でも「限られたプロセスの範囲内での関わり」になるため、そのあとの行程に関わることがあまりありません。IPOや経営統合が完了すれば、そこでプロジェクトは終了です。本当はその先に、事業拡大や経済発展への貢献といった面白さがあるはずなのに。
一方でPEの立場なら、弥生の事例のように長期で経営に直接携わることができます。毎週の経営会議に参加でき、面白さややりがいがとてもあります。
つまり、企業の成長やライフサイクルにもコミットしながら、投資判断をするという大事な仕事に関われるのがPEです。責任もあります。これこそが、私の感じる、証券会社とPEの最大の違いです。
株主として投資先の企業価値をいかに高め、次のステージへ上げるか。そのために、具体的な成長支援をどれだけ実現できるか。アドバイザーとしてイベントに合わせて投資をしてフィーをもらうビジネスと、PE投資は、似ているようで、実はかなり性質の異なるものだと思っています。
原田氏がマクロ寄りの視点で魅力を語れば、谷田川氏が昨今注力する弥生案件に関連付けてミクロ寄りに語り、その面白さについて補完する。
谷田川まさに今、私たちは弥生の企業価値をいかに高めるかの部分に携わっています。例えば弥生への投資後に「100日プラン」を立てて、現在は実行フェーズに移行している最中です。経営層から現場までいろんな方々の話を聞いてみると、みなさん本当に色々なアイデアを持っていて驚かされました。その中にはもしかしたら、旧体制では実現できなかった部分もあるのかもしれません。
そうした社内のヒアリングに加えて、改めて業界全体の動向やユーザーの求めていることなどの調査も行いました。弥生の強みや、強化すべきポイントも見えてきました。その上で優先順位をつけて実行していくためにあるべき社内体制はどのようなものなのか。それらを定めました。
ここからは、とにかく“実行あるのみ”ですね。絵に描いた餅で終わらせないよう、私たちもどんどん汗を流していきます。
一般論に近い冒頭の話は、冷静な分析も必要な話題だからか、比較的落ち着いた調子で話していた2人。弥生案件の具体に踏み込むと、やや力が入るような印象を受ける。それだけ、現場近くでの実行支援が重要であり、面白みを感じる部分であると、共通認識を持っているのだろう。
ここからは、その具体的な部分をより一層熱く語ってもらいながら、KKRの存在意義を深掘りしていきたい。
一流PEの視点で語る、弥生の顧客基盤が持つ社会変革ポテンシャルと、課題
事業を担う主体となることで運命共同体になるのがPEの特徴だと理解できた。世界規模で多くの企業と携わり、広く業界・業態を見た中でのノウハウも豊富だろう。その知見を持って、弥生の現状の強みをどう分析し、改善すべきポイントはどのように捉えているのだろうか。まずは率直に聞いてみた。
原田弥生のデスクトップアプリケーションのシェアは、「業務ソフト」で23年連続No.1、「申告ソフト」でも18年連続No.1(株式会社BCN調べ、プレスリリースはこちら)と、圧倒的に高いポジションにいます。
すでに支持を得ているデスクトップ版の強さを保持しつつ、クラウドネイティブで始まった新たな参入企業にも負けないクラウド会計サービスの強さがあるはずなので、しっかり伝えていきつつ、レベルアップも図りたい。もともと弥生にはブランド力もありますし、品質もピカイチですので、当然ながら成長ポテンシャルは十分にあると考えて投資しています。
このような現状分析において、この2人が魅力を強く感じる背景に、海外事例との比較がある。
原田アメリカで圧倒的なシェアを誇るクラウド会計ソフトを展開するIntuitは、1983年設立の老舗企業です。最初はデスクトップ版から始まり、40年近い歴史がありながら、いわゆる「イノベーションのジレンマ」を回避し、クラウドの会計ソフトでもトップシェアを誇る世界最大手企業です。つまり何が言いたいかというと、デスクトップとクラウドの両面の強さを持つ企業になることは可能で、弥生もそうなってもらいたいのです。
私たちだけではなく、弥生の岡本社長もそうした事例を意識して、「第二創業の気持ちで会社を変えよう」と努めています。
また、最近現場を見る中で新たに感じることもあります。社員のバックグラウンドも実は多様で、中途入社が多くいますし、社歴の浅い若い方も多い。社風は上意下達というよりみんなの意見を聞き、経営会議でも各々が意見を活発に言い合います。勢いのある風通しのいいベンチャーのような雰囲気で、ポテンシャルはおそらくとても大きい。
谷田川弥生の特徴は何と言っても、原田も指摘した通りですが、今まで23年もの間会計ソフトでNo.1の地位を築いてきた顧客基盤の強さにあります。そしてその裏側を支える、豊富な会計事務所のネットワークが今後も活きますよね。個人事業主のクラウド会計ソフト市場における利用シェアがNo.1であり、拡大基調にある (株式会社MM総研調べ)のも、そうした背景からです。
なかでも大きな伸びしろがあるのは、やはりクラウドのほう。今後はクラウド関連の事業をいかに強化していくかが鍵を握っています。それには組織開発やさらなる採用強化といった対策も不可欠で、資金投入が必要になりそうですね。
谷田川ユーザーインターフェースを含めて、ものづくりにこだわりが強い会社で、プロダクトのクオリティはかなり高いのですが、その分ミスがないようする意識が強い。週に何十本と新機能をローンチしていくような他のクラウドネイティブの企業に比べると、スピード感をさらに速める余地があると感じています。品質を維持しつつも展開スピードを上げていくためには、「攻守のバランス」を変えていけばもっと弥生にダイナミズムが生まれると思います。
原田これまでのデスクトップ版パッケージソフトを家電量販店に並べて売る強みだけでなく、Web広告などのデジタルマーケティングをもっと採用していく新しい取り組みも必要だと考えています。YouTube広告の本格活用やWebページの抜本的な改善も進めています。マーケティングに関しては単に予算を増やすだけではなく、どのチャネルを使うかを含め根本から見直しています。
そのためには、デジタルマーケティング分野の専門性を持った人にどんどん入ってきてもらって、弥生のいいところと他社で培ってきたいいところがうまく融合できればいい。弥生のメンバーにも、良い方向に変わっているよと強く伝えたいです。
語られる内容だけでなく、2人の口調からも、積極性を節々に感じる。経営会議でもこのような雰囲気で議論が進むのだろうか、とつい想像してしまう。おそらく、そうなのだ。第二創業期、あるいは変革期とのちに振り返られるような節目を創り出すためには、この勢いが必須なのだろう。
谷田川これからの1~2年という単位で弥生という会社の営業利益を見れば、減少するかもしれません。しかし、それでいいのです。将来の成長のためには必要な投資だと私たちは考えています。すでに強い弥生をさらに盤石にするためにも、今は思い切った投資を行うタイミングです。
原田さらに言えば、弥生の持つネットワークと顧客基盤を軸にすれば、全ての事業を自社で展開する必要もありません。逆にさまざまな企業から見れば、弥生の持つ250万以上の登録ユーザー数と、それに付随するさまざまなデータ基盤は、すごく魅力的に映るはずです。お互いにメリットのある組み方で提携し、サービス提供を拡大していけるといいですね。
最近はYouTubeの広告を流すなど、マーケティングの投資も加速させています。これも組織強化と同様に資金が必要な取り組みです。こうした意思決定と実行を徹底的に進めるため、KKRとしては、5年を超える長期スパン目線の投資で弥生の企業価値をいかに上げていくかを考えています。
ところどころ顔を出す“思い切った投資”という言葉。経営者ならば誰もが頭の中に持っているであろう言葉であり、選択肢であるはず。だが、実際に意思決定をして、実行していくのは簡単な話ではない。その背中を力強く押してくれるのが、この2人をはじめとしたPEファンドの存在なのかもしれない。
KKRと前株主の違いから浮かび上がる「成長戦略の差」
アグレッシブ、より強く表現するならばドラスティックな変革をいかにして実現するか、思考を重ねている様子が見て取れるこの2人。しかしながら前株主も金融機関で、事実、前株主の元で弥生は会員数を2倍に増やし、堅実に成長して実績を残している。昨今はクラウド化の波に遭い、成長戦略を大きく前進せざるを得なかったのでは。そんな疑問も浮かぶ。
そこで改めて、このタイミングでの投資決定という背景について聞いてみた。特に、前株主との間では、具体的にいったいどのような思想の差があるのだろうか。
谷田川前株主さんは上場している事業会社でしたから、弥生の毎期の業績は連結対象で、常に公開される営業利益に直結する構造でした。安定的な利益貢献のため、右肩上がりの着実で安定的な利益成長を続け、成果をしっかり上げてきました。
私たちは弥生の成長をさらに加速すべく、潜在能力を測った上で中長期スパンでの非連続成長を確実に実現させるべく動いています。そのため、クラウド関連などの投資により、単年度で見れば10億円を失う損益になったとしても、将来はそれ以上にリターンを得られればいい──そう考えられる資本構造になっています。思い切った投資をしやすい環境になったわけです。
岡本社長にはその構造の違いを伝えた上で「企業の発想や世界観そのものの変革が必要」だと話をしています。
たとえ単年での利益は目標未達だったり赤字だったりしたとしても、投資額に対して順調な売り上げ拡大ができていれば、数年後の高いROI(投資利益率)を実現する礎になりますから、「良い仕事」と評価できるでしょう。足元の利益は究極の目的ではありません。将来の成長達成につながる必要な投資なら肯定する立場ですし、この考え方は、単年度の利益最大化ではなく、会社の中長期的な価値ともいえる時価総額の向上に向けて投資先とともに歩むという意味で、私たちPEの得意とするところでもあります。
原田弥生は上場企業の子会社だったわけですが、今回KKRが株主になり非公開化したことで四半期ごとのレポーティングなどが不要となり、よりアグレッシブな形で中長期的な成長戦略を描けるようになりました。
様々なソフトウェア企業がクラウド転換を迫られるタイミングの中、上場企業は投資家からIR活動、BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)を見て判断され、あるいは「モノ言う株主」と対峙する場合もあります。そのため、上場しながら、あるいはグループ内の事情を抱えながら利益を削りながらの成長戦略を描くのは、難しい場合もあるわけです。
「もちろん中には、上場したまま転換や構造改革を進めている企業もある」と念を押す。SaaSビジネスモデルをとる上場企業はその筆頭と言えるが、昨今の市場評価は低迷しており、株式公開で得られる資金面・ブランド面などのメリットと、改革の進めにくさというデメリットとのバランスには、やはり難しさを抱える経営者が多いだろう。
谷田川「数年の間、今よりも単年度の利益が減少したとしても、大きな成長投資をして、企業変革を図りたい」そんな事情を抱えている企業にとってPEはうってつけのパートナーとなりうる上に、すごく相性が良いのです。オーストラリアの会計ソフト企業MYOBがまさに同じような形式で非公開化し、クラウド化を推進していますから。
転換期を迎えているような企業にとって、PEによる長期投資の中で企業価値を上げていく選択肢はかなりおすすめです。より具体的に言えば、例えば積極的な投資を行えば市場のDXの波に乗ることができそうだが、そこに踏み切れない上場企業。あるいは、最近起業したスタートアップであっても、じっくりと時間をかけてでも古い慣習を打破して本質的なDXを実現したいと考える未上場企業なら相性は良いかもしれません。
事業の転換や深耕を加速させるための意思決定と実行が必要なときでも、その期間をギュッと短くできる資金力やノウハウがあります。それこそがPE傘下に入ることのいちばんのメリットと言ってもいいくらいです。
価値を伸ばせる潜在能力を持っている企業はまだまだ日本にたくさんありますから、PEの活躍の場はますます拡大するでしょう。
この記事では紙幅が限られるため詳しくは触れないが、谷田川氏が経営支援を担当した現東証プライム上場企業のPHCホールディングスが、KKRの支援先企業として典型的な事例を残している。
パナソニックグループのヘルスケア企業として1969年の創業から長く事業を続ける中で、2014年にKKRの資本参画によってカーブアウト。抜本的な経営改革と事業拡大を実現した後、2021年に時価総額(評価額)を大きく拡大させて旧東証一部への上場を果たした。
こうした事例を仕込み続けているのが谷田川氏と原田氏だ。弥生に限らず、新たな成功事例が日の目を見るのが楽しみだ。
日本を元気にするために。
弥生とKKRの「続いていく関係性」
セクション1で触れた「投資対象の企業が大きく成長するための支援なら、なんでもやる」という考えの中で、ここまでは経営と意思決定の支援に重きを置いて聞いてきた。やはりこれらが、特に変革を支える要になっていくだろうし、KKRの強みでもある。
だがそれだけでなく、さらに伝えたいこととして“組織改革”の面が最後に強調された。この点を深掘りして、記事のまとめに入っていこう。
谷田川組織の形そのものの改革にも、かなり汗を流しています。弥生では、以前までプロダクト推進のリーダーがおらず、開発とマーケティングが一緒に力を合わせて、ディスカッションを重ねながらさまざまなチェックを経て進める開発手法を採っていました。
それに対して私たちは、新たに「プロダクトオーナー」を置くことを提案し、実際に進めてもらっています。それも、社外からそうした人材を連れてきたのではなく、元から弥生にいた若手を抜擢しました。これまでにないほどの権限を明確に与えてみたところ、チーム全体が同じ課題感を持って、意思決定と開発が非常に速く進むようになりました。本人たちも「この製品は自分たちで作った感」が高まっているようなので、意欲も継続的に上がるはずです。
投資ファンドの参画については「経営者が送り込まれるだけ」というイメージを持つ読者もいるかもしれない。だが、そんなことは決してないのだ。この若手抜擢のような地道な動きもサポートしている。
谷田川決して大げさではなく、弥生は日本全国の中小企業をより元気に、より成長性のある存在にするためのポテンシャルをまだまだ大きく持っています。私たちが投資を決めた理由としても、これは大きなテーマです。
少子高齢化に伴い、労働人口が減っていく中で、GDPを上げるには一人あたりの生産性をあげていくしかありません。そのためには、テクノロジーの活用やDXが不可欠です。それらの課題を解決するソフトウェアの先頭にいるのが弥生だと本気で思っています。
原田マーケティング本部副本部長の加藤さんもインタビューで語っていましたが、“中小企業のプラットフォーム”としての役割と存在意義を広げていくことに、今後期待したいですね。中小企業が困っていることは、会計以外にも、給与計算や資金調達、M&Aなどたくさんあります。こうした業務における課題を解決していく事業を次々と立ち上げていき、岡本社長が強調する“事業コンシェルジュ”の姿を実現させていきたい。
夢は広がりますが、実現するためにはエンジニアを含め、優秀なメンバーをもっと増やしていかないといけません。採用活動にも力を入れ、私たちのノウハウを注入していきます。
谷田川私たち株主は、貸借対照表のいちばん下に株主資本が書いてあるように、最後の責任を持っているんですね。そこは融資業務がメインの銀行さんとも違う点で、私たちの果たすべき役割なのです。
責任の大きさゆえに、間違った方向に進むような判断をしてしまう可能性がないとも限りませんし、逆に、株主だからこそ、今までできなかったことを実現させたり、お手伝いができたりすることもあります。
また、私たちはPEですから、当然ながら弥生だけではなく、様々な企業を再生・支援するお手伝いをしています。さらに言えば、最近はスタートアップ向けのマイノリティ出資も徐々に増やしています。
「ポテンシャルを感じているのに、まだやり切れていないことがある」──そんなご相談があれば、企業規模を問わず、ぜひKKRまでご連絡ください。私たちが能動的に発掘しているだけではなく、お問い合わせをいただいてから関係が発展するケースも少なくありません。もっとさまざまな日本企業に、KKRを活用していただければと思います。
アドバイザーでもインキュベーターでもなく、銀行でもVCでもないが、その全部を含んでいるような奥深いPEの世界と、その中で発展の兆しを見せる弥生という会社。いかがだっただろうか。
特に弥生については、「盤石な経営基盤がありながら、ベンチャー企業としての成長性を感じられる」といったイメージも感じられたのではないかと思う。今後、「PEファンドとの関わり」を、就職先・転職先探しにおいて重視するような人たちも増えていくかもしれない。それくらいに、KKRのさまざまな支援と、傘下企業の発展に、期待が持てそうだ。
こちらの記事は2022年09月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
山岸 裕一
写真
藤田 慎一郎
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