連載スタークス株式会社

新規事業に強い組織をカルチャーで生み出す。
ユーザベース流・イノベーションの極意

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インタビュイー
上ノ山 慎哉

1983年生まれ。大学卒業後、2006年に株式会社ファインドスターに入社。新規事業立ち上げ、営業マネージャー、グループ会社役員を経験。同社からの出資を得て、2012年7月にスタークスを設立。代表取締役に就任。インターネットを活用したサービスの開発、販売を行う。サービス利用企業数は、1,500社を超え業界シェアNO.1に。現在、クラウド型・物流プラットフォームサービス「クラウドロジ(旧:リピロジ)
を主軸に、社会課題ともなっている物流領域の変革を目指している。
孫正義氏の後継者プログラム『ソフトバンクアカデミア』最終合格。

稲垣 裕介

1981年生まれ。大学卒業後、アビームコンサルティングに入社。テクノロジーインテグレーション事業部で、プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案・構築、金融機関の大規模データベースの設計・構築等に従事。2008年、新野良介氏、梅田優祐氏とともに株式会社ユーザベースを創業。2017年よりユーザベースの代表取締役に就任。

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マーケット・イノベーションによって社会課題を解決することを目指す企業 「スタークス」代表の上ノ山慎哉が、イノベーティブなビジネスや組織を確立した起業家に話を聞き、 経営者としての考え方の本質、社会変化の捉え方に迫る。

第3回は、創業事業であるSPEEDAに続けてNewsPicks、FORCASなどと矢継ぎ早に新規事業を生み出し、グローバルに成長を続けるユーザベースの稲垣裕介氏との対談。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「自由に挑戦する」ための基盤、「ミッション」と「7つのルール」

上ノ山ユーザベースさんは、新規事業の立ち上げ、海外進出をスピーディーに展開されていますね。また最近でも、事業のバーチャルホールディングス化を実施されており、事業部ごとの成長スピードと企業のミッション達成をうまく両立できている印象を受けます。その秘訣はどういうところにあるとご自身では捉えていますか?

稲垣事業の立ち上げは「ベンチャーがなぜ大企業に勝てるのか?」という問いへの答えと同じで、「やりたい人が好きにやる」ことに尽きると思っています。

事業の責任者が、組織をつくり、事業に対するアプローチも全部自分で考えて、そこからPCDAサイクルを回してスケールさせていく。この一連のプロセスを、自分が最もオーナーシップが高い状態で、どこまで自由にやり切るかということ。

その時に、すべての社員が“船頭”になるわけではありませんが、事業トップと共に推進する組織のメンバー全員が、一つの理念や価値観といった軸を同じレベルの強度で共有することが大事だと考えています。

ユーザベースの場合でいうと、「経済情報で、世界をかえる」というミッションと、共通して大事にしたい価値観・バリューとして「7つのルール」を定めています。これが秘訣というか、スピード感をもって事業を展開する基盤になっていると思います。

ミッション(株式会社ユーザベース)

経済情報で、世界をかえる

7つのルール(株式会社ユーザベース)

  • 自由主義で行こう
  • 創造性がなければ意味がない
  • ユーザーの理想から始める
  • スピードで驚かす
  • 迷ったら挑戦する道を選ぶ
  • 渦中の友を助ける
  • 異能は才能

上ノ山ユーザベースさんの場合、どのようなプロセスで新規事業が生み出されていくのですか?

稲垣新規事業をやりたい、そういうふわっとした想いを持つこと自体は悪ではないと思いますし、当社にも「事業をやりたい」という人材は多くいると思います。ただ、そこに対して「新規事業部門」のような箱をつくって人をアサインしたり、ガンガン投資したりしていくスタイルはユーザベースではとっていません。どちらかといえば堅実で、具体的なアイデアを持つ人が、それを本当に「人生を懸けてやる」という姿勢が見えたものにだけ投資していく形です。ただ、一度投資すると決めたら、振り切ります。

いま、創業事業であるSPEEDA以外の事業としては、「entrepedia」と「FORCAS」があります。そのうちentrepediaはM&Aによりユーザベースの事業になったものですが、FORCASは佐久間(佐久間衡氏。FORCAS代表取締役)という者が、当社で初めて創業メンバー“以外”の者として、ゼロから立ち上げた事業になります。

事業ごとの大枠の目標数字についてはまず期初に佐久間が立て、それを経営の意志として、グループ全体として株式市場やマーケットに対して私や(もう1人の共同代表である)梅田がコミットします。ただ、その数字を具体的にどう実現するかについては、佐久間に対して経営陣からは基本的に口を出しません。もちろん「どう思うか」と聞かれたら答えますし、グループ全体として助けられることはいくらでもします。しかし、あとは彼のオーナーシップが最も高まる状態をつくることを最重要と考え、われわれもコミットします。

海外展開についても基本的には同じ発想です。最初の立ち上げだけは日本から行った者がコミットし、チームづくりまではやりますが、それ以降は現地の人に任せます。やはり、その国のことを誰よりも知っていて、その国で大きなサービスを生みだすことに誇りを感じる人が経営していくべきだと考えるからです。

現状でも、海外拠点の半分以上は現地の人間がトップになって経営しています。その人のオーナーシップが最も高い状態をつくることを、われわれ経営陣としては目指していますね。

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チーム経営を実現するのは「本物の意志」

上ノ山多くの経営者の悩みだと思いますが、新規事業を創れる人、任せられる人は、どういう人だと思われますか?共通して持っている素質、あるいは既存事業で一定の実績を挙げているなど、何か見極めのポイントがあるのでしょうか。

稲垣「チーム経営」を大切にしているので、チームを率いてプロジェクトを成功させられることは一つの条件になるかと思います。

一人のスーパーマンのおかげで勝てる事業もあると思いますが、僕らの勝ち筋はそうじゃない。チーム経営で勝つということを、とても重要視しています。

先ほどのFORCASを率いる佐久閒の例もそうですが、彼が突出した何かを持っているとしても、万能ではありません。非エンジニアであればエンジニアは必要ですし、逆にエンジニアが一人いても何もつくれないと思うんですね。だから事業に必要な要素を理解し、チームを構成して、それを運営していくことを、いかなる形でもいいからすばやく実現していかなくてはなりません。

稲垣ではどういう人がそれをできるかというと、例えば人を惹きつけるようなビジョンを持っている、一人で抱え込まずチームの仲間に任せるべきところは任せられるといった要素をもっている人材であるということでしょうか。

あるいは、補い合えるチームのポートフォリオを構築したら、そのメンバーにやり切らせる力、理想的なチームを維持し続ける力、そういった要素の場合もあるでしょう。また、先ほど話に出た、仲間から認められる実績を残しているということも要素の一つかもしれません。

でもなんと言っても一番は、事業に人生を懸けるという「本物の意志」です。それがなければ人がついてこないはずなので、そこに集約されるとは思います。

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丸1カ月、好きなことに取り組む「自由研究制度」

上ノ山新規事業をやりたい人はどうやって見いだしていくのでしょうか。新規事業プランを社内公募する、何か決まったプロセスや制度がある、という仕掛けはありますか?

稲垣ここは正直、いろいろ試行錯誤しています。以前は、他社でもやっているような新規事業アイデアのコンペをやっていました。ただあれは、“お祭り”としては楽しいですし、普段の仕事から離れて非連続な思考をするという社員教育としては良い面もあるのですが、どうもみんな、勝てそうなプランに「合わせに」来てしまうんですよね。だから、その時点で本人が本当にすべてを懸けてやりたいと思っている事業はなかなか出てこない。

そこでやり方を変えて、「自由研究制度」を導入しました。1年のうち1カ月間、自由にやりたいことに取り組んでいいという制度です。例えばエンジニアが一つプロダクトをつくってもいいし、英語を勉強するために海外拠点に行くとか、とにかく何でもやっていいと。ただし、仕事なので、本気で取り組むことが条件です。

1カ月しっかりコミットすれば、人生観が変わるようなこともあるんじゃないか。幼い頃、夏休みに何かにチャレンジしたのと同じことが、大人もできたらいいんじゃないか。そう思って始めた制度です。この自由研究の成果から、新規事業につながりそうなものがあれば、それを見て事業として継続するか否かを判断するということもしています。

上ノ山やはりユーザベースさんでも、数々のチャレンジを成功させるためのカギは人にあり、ということで数々のトライを今も続けられているのですね。

稲垣先程もお話したとおり、新規事業という荒波を超えていくためには当事者の「意志」が重要ですから、その「意志」を引き出せるような環境づくりには終わりがありません。最近では、新設子会社の社長にも独立したのと同じような当事者意識を持ってもらうため、出資してもらうことも検討し始めました。設立時に売上や利益ベースのマイルストーンをユーザベース側と決めておいて、そのラインに到達したら一定価格でユーザベースが株式を買い取る。そのとき初めてユーザベースの100%子会社にして、子会社社長には自力でIPOしたくらいのキャピタルゲインを得てもらおう、という考えです。もしくは、子会社がうまくいったタイミングで、借り入れ資金などもフル活用して、経営陣自ら100%の株を買い取り、独立する道もあり得ると思っています。

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組織はオープンさが大事

上ノ山そのような組織づくりが上手くいったからこそ生み出せた事業、あるいはスケールさせられた事業というような成功事例はありますか? 新規事業を生み出す組織として見た時の、ユーザベースの強みや他社との違いという視点で教えていただければと思うのですが。

稲垣一番大事なのは、全部オープンに伝えていくことだと思いますね。

稲垣例えば、先ほどのFORCASは、製品の特質としてSPEEDAとカニバる(カニバリゼーションが生まれる)リスクもありました。FORCASという製品が、SPEEDAの一部のクライアントシェアを奪う可能性があったのです。でも、その可能性もすべて全メンバーに説明した上で、「文句があれば言ってくれ」というオープンな姿勢を貫きました。そういう議論から、僕を始めとした経営陣は絶対に逃げることはありません。実際のところ、文句をいう人はいなかったんですけどね。

もちろん、FORCASが社内で発表された当時、誰も何も思わなかったかというと、焦った人はいたでしょう。でもそれも当然なことなので、否定せず、その上で「どうしていくことがグループ全体にとって良いのか」「SPEEDAとFORCASという製品が後々どうなることが理想的なのか」、妥協なく社内で会話しきったことが、シンプルながら大事なポイントだと思いますね。

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30人の壁をどう乗り越えるか

上ノ山スタークスは今、正社員で24人くらい、業務委託やインターンも含めると50人くらいの規模になり、目が届かなくなってきた感じがあります。気がつくと、経営の悩みのほとんどが事業というよりは組織や人に関わる問題になっています。

稲垣経営会議が人の話一色になった時って、一番危ないんですよね。会社や事業の未来の話ができていないということですから。僕らがそれくらいの規模の時も、そこは明確なアラートとして捉えていました。

上ノ山やはりそうだったのですね。ユーザベースさんのサイトの「7つのルール」のところには、「社員数が30名を超えた頃、私たちは内部崩壊の危機にありました」と書かれていますが、どのようにして乗り越えて来られたのでしょうか。

稲垣その頃、(共同創業者で当時代表取締役の)新野が体調不良で休養に入ることになり、彼と梅田と私の3人で担ってきた責任を、2人で分担しなくてはならなくなったんです。

当時は僕もまだプレイヤーで、エンジニアとして開発をしていましたし、梅田は外に出て走り回っていたフェーズでした。そうすると、社内メンバーとコミュニケーションがほとんど取れない状態に陥って、だんだん組織が見えなくなっていくんです。

そんな状態でも採用を進めていたのですが、その頃、給与体系を変えました。それまでは給与は全社員一律だったのですが、初めて給与テーブルを導入して、経営幹部層の採用も進めていったんです。すると、多様なバックグラウンド・経験を持つ人、大企業で結果を出してきたような人たちが入ってきて、組織のパワーバランスが崩れ始めたんですね。

そして、「経営陣はおかしいんじゃないか」という話が、見えないところで囁かれるようになってしまった。僕らに面と向かって言ってもらえれば全く問題なかったのですが、陰口のように、本人がいないところで誰かの批判をするようになった。それがやがて、組織にとって致命的なことになりかけたんです。

その時ようやく、問題は経営陣である僕らの発信不足であることを認識しました。そして、創業メンバーがどういう想いで経営しているのかを伝えなければいけないと考えて、「7つのルール」を定義したのです。

上ノ山まさに今、当社も同じ状態ですね。従業員が増え、新しい部署や拠点を設立してメンバーの活動拠点が分散すると、コミュニケーションがやはり難しくなるんだな、ということを実感しています。 また業務プロセス上、複数チームによる分業体制を敷いているのですが、個々のチームでの最適化が進みセクショナリズムのようなものが見え始めています。これは、当社で定義している3つのバリューのうちの1つ「オーナーシップ」に沿わないことなんです。

ただ、そういう中でもオーナーシップが高いメンバーももちろんいます。その人たちの共通点は何だろうと考えたところ、「いろいろな部署を経験したことがある」ということでした。どうも複数の部署をまたいでいると、組織横断的に物事を考えることができるらしい、と。それで、積極的にジョブローテーションさせる仕組みを入れようかと今考えているところです。

稲垣なるほど。複数部署を経験した人が社内メンバーとのコミュニケーションのハブになれるということが、ポジティブに働いているんじゃないでしょうか。結局、人に関わる組織の問題の多くは、お互いに「知らない」ことが発端なんです。人数が増えるほど情報が行き届かなくなってしまいますから。

そこで僕らは70人くらいの時、初めて執行役員制度を設けました。その直後はとにかく創業メンバーと執行役員陣のコミュニケーションがうまく噛み合わず、経営会議の時間が長くなって仕方なかった。創業メンバー3人であうんの呼吸でお互いに理解できていたことが、一つずつ説明しなければいけなくなったためです。

でも、制度導入から1年経つと、見違えるように経営が早くなりました。それは、執行役員陣が社内コミュニケーションのハブになっていったから。そうすると、彼らを介して経営の意志を組織中に循環させることができるんですよね。ハブの役割は、執行役員のような“ポジション”で振ってもいいし、得意な人に“タスク”として振るのもいいと思います。

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バリュー定義のカギは「言葉を創らない」こと

上ノ山バリューやカルチャーに対して社員が愛着を持つ、あるいは共感したり、好きになったりするために、何か工夫されていることはありますか?

ある程度社員数が増えてからバリューを定義した場合、ある種の“押しつけ”になり、抵抗があったりもするんじゃないかと思うのですが。

稲垣7つのルールの導入時には、思ったほどの抵抗はありませんでした。発表の日は多少身構えて臨んだのですが、蓋を開けてみると、発表後の飲み会で各自が7つのルールの解釈を話したり、経営陣のところに質問に来たりして嬉しかったですね。

一方で人数が100人を超えてきた頃に、「カルチャーチーム」を作りました。チームのミッションは、カルチャーを組織内に浸透させること。主にエントリーマネジメントとして、ミッション・バリューに沿った採用スキームを構築することと、在籍メンバーに対してもミッション・バリューを感じられる機会をつくること。これによって、経営とカルチャーがセットになって、組織をよりよく変えていく流れができたと思います。

あとは「7つのルール」を定義する際、勝手な造語によって「言葉をつくらない」ことには気をつけました。新しい言葉を“つくる”と、実際に今いるメンバーの価値観とかけ離れたもので、言葉が独り歩きする状態になってしまいがちです。だから、定義するときに皆で考えていたのは「普段、僕たちはなんという単語を多く使っているっけ?」という一点に尽きます。

多少キャッチーな表現に整えはしましたが、そういう言葉の基になる要素は創業当時からほぼ変わっていないので、普段の自分たちの会話から抽出することを重視しました。

バリューを口にしなくなると、どれだけ施策を講じても意味がない。だから普段から自然と口に出る言葉を選びました。そうすると、無理なく、効率よく、社員も口にしやすい状態でミッションやバリューが浸透すると思います。

上ノ山それ以外で、カルチャーを浸透させる取り組みはありますか。

稲垣社内報ともまた違うのですが、1年間のユーザベースグループの活動をまとめた冊子「YEAR BOOK」を毎年つくったりしています。その中に「○○さんは『7つのルール』のどれを一番体現していたか?」といった企画もあります。写真付きで1年を振り返れるようにして、年末のパーティーの時に社員全員に配っているんです。

上ノ山やはり、相当なリソースを割いて組織づくりに力を入れているんですね。

スタークスでも、これから50人、100人と組織を拡大していくフェーズを迎えます。僕のゴールはあくまでも「イノベーションによってマーケット・社会の負を解決し続けること」であるため、組織づくりは手段だと思っています。しかし、イノベーションを起こしやすい組織の理想形の一つが、ユーザベースさんだと感じました。

稲垣新規事業をつくるにしても、今ある事業を伸ばすにしても、まずは基盤となる組織がしっかり固まっていることは大事だと思いますね。その基盤があるからこそ、新規事業として強気にアップサイドをつくっていけるはずです。

ユーザベース自体もまだまだ発展途上のため偉そうなことは言えませんが、僕の見解では、組織が大きくなって人数が増えても、最後の意志決定はトップダウンでもいいと思うんです。ただし、その過程のコミュニケーションやプロセスはオープンにすること。そしてメンバーが増える中でもバリュー浸透に経営陣は時間を割くこと。この2つを徹底していけば、創業当時のカルチャーを維持しながら、うまく組織も成長していけるかと思います。

こちらの記事は2018年06月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

藤田 慎一郎

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