“環境”と“経済”の二項対立ではない──気候変動を社会の可能性に変えていく、ゼロボード。そのBizDevが挑む“2つの課題”に迫る

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インタビュイー
小野 泰司

株式会社ゼロボード 事業開発本部本部長。自動車・物流・小売等の戦略セクター向け脱炭素ソリューション開発や、パートナー・アライアンス戦略、海外展開、事業戦略等を所管。大学卒業後、トヨタ自動車株式会社に新卒入社。営業部門、労働組合専従(副執行委員長)を経て、トップサポート渉外チームに着任。経産省との連携や自工会の活動等の社外折衝と共に、全社でのBEV計画立案等にも幅広く携わる。2022年にゼロボードにジョイン。

片山 賢

事業開発本部 スペシャリティ事業部部長。大学卒業後は新卒で豊田通商株式会社に入社、14年間超一貫して無機化学品の営業に携わる。並行して、投資先子会社・関連会社の管理や投資案件の推進なども担当。5年間の米国駐在を経て本社に帰任した後、2022年ゼロボードにジョイン。

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成功するスタートアップの共通項とはなんだろうか。著名投資家から大型の資金調達を実施していることか?足元のトランザクションが急成長していることだろうか?それとも、連日メディアなどで取り上げられることなのか?

もちろん、これらもとても大切な要素だ。だが、成功するスタートアップの一番の特徴はやはり「優秀な人材を獲得し続けられていること」だろう。なぜなら、スタートアップにおける最大の資本は人だからだ。

今回は、創業2期目にして導入社数2,200社を突破し、直近シリーズAにて約25億円の大型資金調達を実現した実績もさることながら、他に類を見ない勢いで優秀な人材を集めているスタートアップを紹介する。企業のCO2をはじめとした温室効果ガス排出量の可視化・削減プラットフォームを提供するゼロボードだ。

今回は、トヨタ自動車・豊田章男前社長のトップサポート渉外チームという花形部署からゼロボードに転身した小野氏と、豊田通商で海外駐在も経験し、順調にキャリアを重ねる中でゼロボードを選んだ片山氏にインタビューを実施。

なぜ日本を代表する大企業で活躍する人材が、創業2期目のスタートアップであるゼロボードに集まるのか?40歳目前で大企業からスタートアップへの転職という大きな意思決定の背景や、「家族に猛烈に反対されてもなお、この会社しかないと思った」という熱いエピソードに、背中を押してもらえる読者もきっといるはずだ。

彼らをそこまで惹きつけたゼロボードという会社の魅力、そしてゼロボードのBizDevが挑む2つの課題とは一体何か、迫っていこう。

  • TEXT BY HANAKO IKEDA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「将来の飯の種を作るのが仕事」。
ゼロボードのBizDevが挑むのは、目の前の課題と中長期の仕掛けの両方

今回インタビューする事業開発本部の小野氏と片山氏は、いずれも日本を代表する大企業出身。新卒入社して10数年、キャリアもいよいよ軌道に乗ってきたところで、ゼロボードへの転職を選んだ。まずは、彼らをそこまで惹きつけたゼロボードの事業開発本部とはいったいどんな役割を担っているのかを紐解いていこう。

小野現在は事業開発本部の下に6つの事業部を配置し、役割や担当業界によって部署を分けている形です。とはいえ、いま事業開発本部に所属するメンバーはほぼ全員何かしらを兼務しているので、部署を横断しての取り組みも多いです。

元々はビジネス本部として複数の機能を抱えていた。それらが独立した本部として再設計され「事業開発部」は2023年3月に「事業開発本部」となったばかりとのこと。事業上のプロセスと業界のセグメントによって部署が分かれており、“パートナー企業”とエンドユーザー企業である“『zeroboard』ユーザー”のどちらとも相対するのが特徴だという。

片山私はスペシャリティ事業部の部長として、例えばパートナー企業である大手商社さん、そのエンドユーザー企業であり『zeroboard』ユーザーとなる大手ゼネコンさんの両方とやり取りをしています。今は業界特化型のプロダクトを作るため、ユーザーヒアリングにより意見を集めて開発につなげる取り組みの最中です。

他にも、CO2排出量を削減したい企業と、削減ソリューションを提供しているゼロボードのパートナー企業をマッチングする機能を開発するための要件定義などを担当しています。

小野私は事業開発本部の本部長として、全体を統括しています。ゼロボードとして注力していく業界として自動車や化学品、物流や建設、小売などがありますが、個社だけではなく、業界全体で『zeroboard』を使って脱炭素の取り組みを実施いただくにはどうしたらよいか?を考え、実行するのが事業開発本部のKPIです。

例えば、自動車最大手の企業ならおそらくゼロボードがなくても、自前でCO2排出量を可視化・削減するソリューションを作ることができてしまうでしょう。だから、そんな彼らの想像を超える事業を作り上げる必要があります。

どこか1社のためだけではなく、自動車業界全体の課題を捉え、長く広いサプライチェーンに切り込んでいくんです。そのために何の機能が必要か、ビジネスの座組みを誰と組むのか、どんなペインをどのように解決していくのか、これらを総合的に考えていく必要があります。

全体の青写真をいかに描き、戦略立案で終わらず粘り強く相手と調整していくことが事業開発本部の最終的なミッションです。

注力業界に『zeroboard』導入を進めていくことが、現在の大きなミッションということだ。とはいえ対象となる業界が自動車や物流と大きいため、目の前のKPIをどう設計しているのかも気になるところ。

小野分かりやすいKPIは業界内での導入企業数と、キーマンとなる重点企業の導入数ですね。トップ企業が導入すると他にも伝播していく業界もありますが、そうではない業界もある。例えば自動車業界の場合は、最大手が導入しているからと言って二番手の会社が同じツールを必ず導入するかと言えば、そうとも限りません。

業界ごとの特性を見極めてストーリーを描き、攻めていくことが必要になります。

世の中にスタートアップは数多あるが、「CO2排出量の可視化と削減」という、あらゆる企業が避けられない課題に向き合っているゼロボードならではの面白さもあるという。

片山ゼロボードはまだ社員数が130名ほどの小さい会社ですが、日本を代表する大企業、経産省や地方自治体といった行政機関とタッグを組んで大きな仕事を回していけるのは、率直にすごい環境だと思います。

私の前職も大企業でしたが、ここまで大きな相手とやり取りした経験はありませんでした。入社してから驚いたことのひとつです。

現在はパートナー企業と一緒にやっていくという戦略がものすごくうまくいっています。いちスタートアップだけではできない大きな仕事を、大企業を巻き込んでダイナミックに動かしていけるのはゼロボードならではの面白さですね。

小野ゼロボードでは、単なる一企業の儲けがどうかという世界を越えて、まさに社会課題にどう向き合っていくかという、高い視座からビジネスができることも大きな魅力です。

「大企業が有利/スタートアップは不利」というような力学を超えて、政府機関も巻き込んだルールメイキングに近いところで、「明らかになりつつあるペインに対する解決策を持っているか?」という本質的な部分で勝負することができます。特に自分のように大企業出身者にとっては、大企業の金看板無しでどこまで勝負できるか、すごく刺激的な日々だと感じますね。

地球のために、「気候変動対策に自分は関係ない」とはもはや誰も言っていられない状況。うちの会社にはそんなことをやる体力はない、という人にも一緒に取り組んでもらわなくてはならない。もっと具体的に言えば、気候変動対策のためにコストをかけられない中小企業をどう巻き込んでいくか、そのためのコストを誰が背負うのかという課題もある。

明確なルールがまだアンクリアな状況なので、企業や政府を巻き込んでどうやって新しくルールメイキングをしていくかという面白さもあります。

近年の猛暑や豪雨、漁獲量の減少など、気候変動はまさに我々の身に差し迫った危機になりつつある。全人類で解決していかなければならない社会課題だ。NPOではなく、スタートアップの立場からこの課題に切り込もうとしているゼロボードでは、ビジネスと社会課題の解決という、一見相反することを同時に追うことができる。

そんな同社が提供する『zeroboard』はCO2排出量を算定し、可視化するプロダクトとして始動したが、事業開発本部の役割は可視化のさらに先、「CO2排出量の削減」までを実現できるサービスを作っていくことだという。

小野我々事業開発本部のミッションは、目先のCO2削減プランの構築ではありません。「CO2排出量を削減したい」という『zeroboard』ユーザーのご要望に応えるだけでなく、ユーザー企業の事業成長につながる戦略までを描く役目です。

将来的な成長戦略までを中長期的に考え、新しいプロダクトを作っていくという部分は、社内でも事業開発本部だからこそ担えるユニークな役割かと思います。

片山現在のゼロボードの事業の中心は、脱炭素経営の入口となる「各企業が排出しているCO2排出量を可視化するソフトウエアの提供」ですが、CO2排出量の可視化は手段でありゴールではありません。

すでに、『zeroboard』ユーザー企業の側も徐々にCO2排出量の可視化だけでなく削減まで目を向け始めている段階です。事業開発本部は、「CO2排出量の可視化から削減までを一気通貫でできるソリューションを実現し続ける企業」になるため、どのような事業・プロダクトをかたちづくっていくのかを、常にゼロベースで考えることができる部署だと感じています。

CO2排出量をゼロにし、脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現するためには、CO2排出量の可視化がまず最初の一歩。ゼロボードが「CO2排出量の可視化と削減ができるサービス」という次のステージへと昇華すべく、新しい大きな絵を描き続け、その実現のために汗をかくのが事業開発本部といえそうだ。

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パートナー戦略を講じ、「あらゆる企業に使ってもらえるサービス」を目指す過程での難しさ

独自のパートナー戦略で、創業2期目にして導入社数2,200社を突破し、名だたる大企業や政府機関とも連携するゼロボード。小野氏と片山氏の溌溂とした話しぶりからも、事業の魅力が存分に伝わってきた。

しかし、一見順風満帆に見えるゼロボードも、まだ創業2期目のスタートアップ企業。プラットフォーム企業を目指す過程には多くの困難も存在していた。

小野目下の課題は大きく2つあります。ひとつは、「CO2排出量の可視化と削減」という取り組みを、資本力が十分ではない中小企業も含め持続的に行っていけるような仕組みづくり。二つ目は、ゼロボードを継続的に使い続けてもらうためのサービス設計です。

一つ目、「CO2排出量の可視化と削減」は、これから大企業・中小企業を問わず、あらゆる企業が取り組む課題になっていくでしょう。だからこそ、ある特定の企業は嬉しくて、そうでない企業は取引先から言われるから渋々やっているだけという状況は望ましくありません。

「自社の利益を吐き出してまで、中小企業のためにCO2排出量の可視化や削減に取り組もう」とする大企業はまだ多くはないと思います。一企業の儲けがどうかという世界を越えて、社会課題にどう向き合っていくか、という高い視座を持ち、そして、企業規模や資本力を問わず、中小企業も含めて継続的に取り組んでいけるような仕組みをどう設計していくかが問われます。

二つ目に、我々のSaaS型のビジネスモデルは、一度受注して終わりではなく、その後も継続的に利用し続けてもらうことが不可欠です。我々の利益だけでなく、お客様にとっても、CO2排出量の可視化から削減のサイクルを回し続けるためには、『zeroboard』というプロダクトが使われ続ける状態が理想だと思っています。そのためにお客様の期待を超えるサービス・プロダクトを提供し続けることが必要です。

「CO2排出量の可視化」という機能提供に終始せず、使い続けるほど価値が大きくなるサービスにしていく必要があります。同時に、「取引先もみんなゼロボードを使っているので、自社だけやめるのはデメリットが大きい」という状態…いわゆるネットワーク効果といわれる部分をさらに強固にしていくことが、今後の事業課題の一つですね。

前回のゼロボード代表・渡慶次氏へのインタビューでは、ゼロボードがパートナー戦略によって急激な成長を遂げていることについて詳しく紹介した。画期的かつ、メリットばかりに思えるパートナー戦略だが、それゆえの難しさもあるという。

片山ゼロボードはパートナー企業と『zeroboard』ユーザー企業の両者に向けたソリューションを提供しているので、両方に満足してもらえる機能やサービスを作っていく過程での難しさがが面白さでもあります。

小野座組の設計やコントラクトの話を進めていくときは、「相手の嬉しさは何か」を常に意識し、直接聞いたり、チームで考えたりして、絶対に見過ごさないよう、メンバー全員で注力しています。ゼロボードの嬉しさは「導入して使ってもらえること」ですが、これだけを追及していては当然うまくいかない。

『zeroboard』ユーザー企業の目的は「CO2排出量の可視化」、さらにその先の「削減」です。最終的には『zeroboard』を活用することでCO2排出量が削減され、それがユーザー企業の収益アップまで繋がっていくようにサービスを設計していく必要があります。

ただ、『zeroboard』はあくまでプラットフォームであり、CO2削減のソリューションアイテムは持っていません。CO2排出量の可視化から、パートナー企業が提供する削減ソリューションまでをどううまく繋いでいくかが目下の大きな課題です。

パートナー企業も『zeroboard』ユーザー企業も、相手は何かしらゼロボードという会社に期待をしているからこそ利用してくれています。その思惑を汲み取り、どう結果でお返しできるかは意識していますね。

今回のインタビューでは、小野氏・片山氏ともに「相手の嬉しさ」という言葉を繰り返し用いていたことが印象深い。プラットフォーム企業として多くのステークホルダーを巻き込み、パートナー企業やユーザー企業、政府機関とも関係を構築しながら、ゼロボードと関わる人たちに様々な形の「嬉しさ」を返したいということだろう。そのために、ゼロボードのBizDevは日々試行錯誤を繰り返しているのだ。

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中立的な立場のスタートアップであるゼロボードだからこそ、大企業を巻き込んでスピーディーに動いていける

パートナー企業と『zeroboard』ユーザー企業の両方を向いて仕事をしていく、まさにプラットフォーム企業ならではの困難があるようだ。同時に、ゼロボードだから発揮できる強みについても詳しく聞いてみたところ、「中立」と「スピード」という2つのキーワードが見えてきた。

前回の記事でも、「営業担当10人未満、アウトバウンド営業は一切行わずに、サービス開始からわずか1年余りで2,200社以上の導入を達成した」という実績には驚いた読者も多いはず。同社の最大の強みとも言える「中立」と、スタートアップならではの「スピード」という言葉の意味を、事業開発の観点からもさらに深堀りしていこう。

小野ゼロボードの大きな強みは特定の財閥や大企業の色がついていない、中立の立場であることです。例えば、我々が特定の大企業の傘下にあったり、なんらかの系統を出自に持っている場合、必ずどこかで「このグループ系列の企業にはどうしても導入できない」という壁にぶつかってしまうでしょう。そうではなく、どんな企業ともフラットに取引ができるのは、我々が独立したいちスタートアップだからです。

先ほどネットワーク効果という言葉を使いましたが、「あらゆる企業がゼロボードを使っている」という状態を目指すためには、中立性はかなり有利に働くポイントになります。特定の企業の色がついていない中立の立場だからこそ、真に顧客の課題に寄り添えるというポジションを取ることができるのも、ゼロボードの大きな特徴です。

片山スタートアップだからこそ、機動力をもってしがらみなく動けるという強みもありますよね。ゼロボードに入社して一番驚いたのが、意思決定のスピードの速さです。前職では数ヶ月の期間を要するような、事業の今後を大きく左右する重要な意思決定が、ここでは1日2日で決まっていきます。日常業務の中でも、「自分ひとりの判断でここまで動いていいのか」という衝撃がありました。

新機能の開発も、まずは走らせてみるという部分が多いのも驚きでした。まずはやってみて、不具合があればその都度対応し、機能を改良していくという「走りながら改善していく」という動き方は、大企業ではなかなかできなかったことだと感じます。大企業ではどうしてもリスクを先に考えてしまうので、スタートアップでは動き出しの速さ自体が大きな優位性になっているように思いますね。

小野意思決定や動き出しのスピード感は、スタートアップならではですよね。とはいえゼロボードのパートナー企業や『zeroboard』ユーザー企業には大企業も多いので、どうしても“我々だけ”が速く動いても、プロジェクトが進まない場合もあります。そこで、ゼロボードでは顧客も含めたステークホルダー全体を、一緒に歩を進める“仲間”という意識で巻き込むことで、大企業の力を借りながらもスタートアップのスピード感を作り出せています。

また、常に全ステークホルダーの課題に寄り添い、彼らの視点で一緒に取り組んでいくという部分も大事にしているつもりです。導入前のプレゼンでも、「我々は『zeroboard』というプロダクトをあなたの会社に導入してほしい。でも、正直まだまだ未完成な部分もあります」ということを誠実に伝えています。その上で、今ある課題はこう解決し、将来的にはこんなプロダクトを織り込んでいこうという展望までしっかり説明しています。

スタートアップならではのスピード感に加え、発展途上であることを隠さないという潔い姿勢もまた、ゼロボードが顧客から信頼され、ユーザー数を急拡大できている理由の一つなのかもしれない。

気候変動という社会課題を取り巻く急速な市場環境の変化も、特に重要なポイントだと小野氏は語る。

小野この数年で急速に「カーボンニュートラル」という言葉が叫ばれるようになり、大企業・中小・スタートアップ問わず、どんな企業も準備ができてない状態です。十分な対応ができている企業がいないという意味で、事業の競争の土壌自体が他の業界と異なっていると言えるでしょう。

これはつまり、繰り返しにはなりますが、「大企業が有利/スタートアップは不利」というような力学を超えて、政府機関も巻き込んだルールメイキングに自ら携わることができる企業が優位に立つのです。

『zeroboard』は、この分野では日本で最初にローンチしたサービス。かつ、中立的な立場のプラットフォームという特徴もあり、我々はまだ創業2期目のスタートアップですが、ある意味圧倒的な優位性を持っているとも言えます。

もちろん失敗も多くありますが、前人未踏の取り組みに、スタートアップならではのスピード感と、スタートアップとは思えない事業スケールでチャレンジしていけるのはゼロボードならでは。難しい部分もありますが、本当に面白い仕事だと感じています。

ゼロボードは中立的な立場であるが故に、どんな企業ともフラットに関係構築できる。さらに、中立な立場のプラットフォームだからこそ、真に顧客の課題に寄り添うというポジションを取ることができるのが、同社の大きな強みと言えるだろう。

ビジネスとしての強固な座組がありつつ、スタートアップらしく「走りながら改善する」というスピード感のある動き方ができていることも、ゼロボードの競争性を確かなものにしている理由のひとつと言えそうだ。

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大企業での約束されたキャリアを捨て、創業2期目のスタートアップへ。

ゼロボードのビジネスの面白さと事業の強さが存分に分かってきたところで、同社の事業開発について実にイキイキと語る小野氏と片山氏のバックグラウンドにも目を向けたい。 小野氏は新卒でトヨタ自動車に入社し、花形部署から一転、40歳の節目の年にゼロボードへ転職している。大企業での約束されたキャリアを捨てて、なぜ創業2期目のスタートアップを選んだのか?そう尋ねると、小野氏は笑顔で率直な気持ちを聞かせてくれた。

小野40歳を目前に、この先の人生について考え始めたのが最初のきっかけです。

また、トヨタ時代にも関わりのあった、経産省の若手官僚の存在も大きかったですね。彼らはすごい大局観を持って、日本のことを思って働いている。日本の産業をいかに生き残らせるか、雇用と経済、さらにはエモーショナルな生きがいまでも意識し、とても広い視野で物事を見ているんです。

一方で、当時の自分はトヨタ自動車の社長のトップサポートチーム所属。このポジションにいると、世間が思う以上に社内外のあらゆる方が気を遣ってくださるのがよくわかるんです。自分の実力はさておき、あらゆる人が無理難題に対応しようとしてくださいました。

そんな中、若手官僚の方々との議論はとても新鮮でした。彼らは日本のことを真剣に想い、それゆえに忖度もしない。真摯に、かつ客観的にトヨタや自動車産業の現状をみて「トヨタの将来も安泰とは言い難く、そのポジションを失うかもしれない」「自動車産業のみならず、日本の産業全体をグローバルかつもっと戦略的に考えなければいけません」なんてことも普通に進言してくれるんです。彼らと話すうち、もっと広く外の世界を見ないといけないと考えるようになったんですね。

若手官僚との議論の影響、そして脱炭素というメガトレンドを科学的に引用し、一気にものづくりの覇権を取り戻そうとする欧州の動き、自動車産業出身者として、日本が世界に誇るものづくりの競争力をさらに向上させ、この国をこの先も世界に誇れる国にしていきたい。

そのためには、トヨタにいてトヨタおよび自動車産業を更に強くするより、もっとやれることがあるのではないか。

そんなことをぐるぐると考え、気持ちが少しずつ転職に向かっていったという小野氏。そんな折に偶然出会ったのが、ゼロボード創業者の渡慶次氏だった。同氏との出会いが、小野氏の人生を大きく変えることになる。

小野転職活動を始めたころに、トヨタの元同期の紹介で渡慶次と話す機会があり、会話しているうちにゼロボードという会社に興味が湧いてきたのが、入社のきっかけです。

私自身も「脱炭素」が重要なトレンドであることは理解していましたし、まだ幼い我が子に胸を張れるような仕事をしていきたいと考えていました。

少し脈絡のない話をしますが、自分は愛国心がとても強いタイプなんだと思います。新卒の就職活動の時は、「雇用」と「納税」という企業姿勢にかっこよさを感じ、日本のプレゼンスを高めることができるかどうかを一番に考えた結果、トヨタに入りたいと考えました。

今度はトヨタで学んだことを活かし、脱炭素やESG分野でのルールメイキングに携わり日本のものづくりを守っていきたい。また、そのために自分はハードの世界だけでなくもっとソフトのことも学ばなければならない。こんな自分にとってゼロボードはぴったりの会社だったんです。

花形部署にいたからこその葛藤と、人生をかけて成し遂げたい目標がうまくマッチした結果がゼロボードだったということだろう。

一方、片山氏の転職のきっかけは至って正直。きっと共感できる読者も多いはずだ。

片山シンプルに、もっとスピード感のある環境で働きたいという気持ちが大きくなったのが転職のきっかけです。私は新卒から14年ほど豊田通商という商社にて、化学品の分野で営業や投資を担当していました。

実は、5年ほどアメリカに駐在していた時期があったのですが、その間は現地の子会社の管理や販売を任せてもらい、本社業務にはないスピード感や裁量を持って働く経験をさせて頂きました。この経験から、スピード感や裁量をもって働く魅力に気づいたことで、転職という選択肢が浮かび上がったんです。

特に転職活動の軸は決めず、事業環境や待遇などの条件面の希望だけ決めていた程度でした。ただ、大学時代は環境工学の研究をしていて、地球温暖化をテーマにした論文を書いていたというバックグラウンドがあったんです。それもあってか、転職エージェントに最初に紹介されたのがゼロボードで、直感的にこれだ!と。間違いなく伸びる事業だとも感じたので、特に他の会社と比較することもなく(笑)、ここで働こうと決めました。

海外駐在中の裁量権の大きい環境を経験した後だからこそ、大企業ならではの慎重な意思決定のスピードとのギャップを感じたという片山氏。ゼロボード入社後は逆に意思決定のあまりの速さに驚いたとも語ってくれたが、その表情からはそのスピード感を心から楽しんでいることが伝わってきた。

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スタートアップ転職、最後の壁。
家族の理解を得るまで

家庭を持つビジネスパーソンの場合、転職にあたって家族の理解は欠かせないものだ。特に幼い子どもがいる場合であればなおさらだろう。収入が下がること、仕事量が増えて家族との時間が減ること、安定した大企業での地位を手放すこと……などなど、負の側面ばかりが取り沙汰されることも多い。「なぜあえて大企業からスタートアップに転職するんだ!」と家族から猛反対されるケースも多いことだろう。

そして、今回インタビューした二人も例に漏れず転職を考えた時は40歳間近で、家庭を持っていた。ゼロボードという創業期のスタートアップに転職するにあたって、どうやって家族の理解を得たのだろうか?

「少しでも同じ境遇の方々の参考になれば......」と二人は当時の家族とのやりとりや、心境を赤裸々に語ってくれた。

片山特に商社マンは給与にこだわる人が多いので、待遇面を重視するとなかなかスタートアップという選択肢は選びにくいですよね。自分の周囲もスタートアップに行く人はかなり少数派で、コンサルに転職するか、取引先に引き抜かれるケースが多かったです。

自分が周囲と決定的に違っていたのは、妻も元々同じ会社にいて、今もバリバリ働いていること。失敗しても最悪なんとかなるという気持ちは心の奥底にあったのかもしれませんし、実は妻の方が先に商社を退職して転職していて、自分はそれを後押ししていた経験があるんです。

だからこそ、自分の時も応援してもらえました。

「お互い様」の精神があったことが功を奏し、家族の理解もスムーズだったという片山氏。一方、小野氏は説得に多少の苦労があったと正直に打ち明けてくれた。

小野私は逆に妻から猛烈に反対されましたね……。やはり、大企業からスタートアップへの転職について、簡単に理解してもらえるような魔法の言葉はないと思います。とにかく根気よく話し合って、それでもダメなら押し切るしかないのかなと(笑)。

妻も大企業勤めなので、最初に相談したときは「スタートアップ転職なんて、何もいいことがないじゃないか」とまず言われましたね。労働時間もきっと長くなる、大企業に比べると不安定、ひょっとすると潰れるかもしれない、何より子どもとの時間も多分減る。

転職の決意が固いのだと認識してくれた妻からは、いきなりスタートアップではなく、「せめてもう少し段階を踏んだら?」と言われましたが、自分としては、「それだと意味がない、大企業とあまり変わらない世界にいくならトヨタに残った方がきっとよい、日本のためにルールを変えにいくためにスタートアップでチャレンジしたい。今はまだスタートアップだけど、あの時の決断は英断だったねと思わせるから」と何度も話し合い、最終的には「そこまで決意が固いなら」と妻の方が折れてくれた形です。

近年、大企業からスタートアップへ飛び込む人が増えている。もちろんその中には家庭がある人も多く、家族から反対されるケースもあるだろう。特に、子どもがいれば尚更のことだ。

しかし、結局は小野氏の言う「簡単に理解してもらえるような魔法の言葉はない」という言葉に尽きる。大切なのは、何よりもまず正直に対話することではなかろうか。片山氏のように、先に相手に理解を示し、お互いがサポートしあうという姿勢も重要だ。

その上で、最後は自分の意思を貫き、結果で納得してもらうというマインドも必要なのかもしれない。自分が選んだ道がどうであれ、最終的には「あなたがそこまで言うなら」と言ってもらえるくらいの信頼関係を、日頃から構築できているかどうかが肝要と言えそうだ。

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大企業での経験は創業期のスタートアップでも十分すぎるほど通用した。
大事なのは人としての関係構築

圧倒的な先行者優位に、高度に磨き上げられたビジネスの座組と、名だたる大企業から集まる優秀な人材。ゼロボードは確かに魅力的な会社だが、そんな環境で本当に自分が活躍できるのか、気後れする読者も多いはず。

ところが、ゼロボードで活躍できる人材について尋ねてみると、意外にも「人との繋がりが大事」という答えが返ってきたのだ。

片山ゼロボードはビジネスの座組がすごく洗練されていますし、経営陣も華々しい経歴の方ばかり。きっと外から見ると、頭が切れてものすごく仕事ができる人しか入ることができない会社みたいなイメージを持たれがちです。

ただ、実際に自分が入社してみて思ったのは、結局は「人と人との繋がり」が重要だということ。パートナー企業や『zeroboard』ユーザー企業の方々と対峙して、人として善い関係を作っていけるかどうかが求められていると感じます。そういう意味では、自分のキャラクターを出して、自分という人間を売り込んでいける人は、ゼロボードでも活躍できるのではないかと。

私は商社でそういった「人との関係構築」を武器に商売をしてきたので、スタートアップで通用するのか最初は不安でした。ただ、パートナーやクライアントがどれだけ大きな企業や行政機関になったとしても、結局最後は人同士のコミュニケーションです。商社での経験は、意外としっかり役に立っているなと感じますね。

小野確かに、商社のような業界で、人と人との繋がりを使って事業を作ってきた人は、ゼロボードに向いていると思います。同時に、分かりやすく「事業開発」とか「事業企画」という名前の付く経験があるかどうかはあまり関係ない気もしますね。

例えば、とある会社のエンジニアで、僕はこの部品の品質向上をひたすらやってきましたという人がいるとします。

品質向上自体が目的ではなく、その部品の品質向上に取り組むことが事業全体にどんなインパクトを持つのか?品質向上のためのサプライヤーをどう動かして、どうやって原価を下げながら品質を向上させていくのか?その部品の品質が向上した結果、それが事業全体の中で最終的にどういう意味を持ってワークしていくのか?

ここまで考えて仕事ができていたのであれば、取り組んできたことの大小はあまり関係ないように思います。担当していたのが小さな業務だったとしても、全体の視点で物事を発想できるタイプの人は、ゼロボードに向いていると感じますね。

仕事の大小より、自分の仕事が事業全体の中で持つ役割や影響について解像度高く考えられているかどうかの方が重要ということだ。

小野我々はまだまだ小さなスタートアップです。会社としての型もまだ定まっているわけではありませんし、自分たちだけでできることは限られている。だからこそ、多くのステークホルダーを巻き込み、巻き込んだ人たちの力をどうレバレッジさせていくかが重要になります。自分本位でなく、パートナー企業や『zeroboard』ユーザー企業も含めたチームとして物事を進めていこうという姿勢が大切です。

「三方よし」という言葉がありますが、ゼロボードが目指すのは三方ではなく、四方、五方かもしれない。事業を作っていくうえで限界を決めず、どれだけ大きな目標を描けるか。そしてその目標を掲げて終わりではなく、それを粘り強く実現していけるかが求められるように思います。もちろん、最初から完璧にできる人を求めている訳ではなく、最終的に目指す姿という意味ですけれど。

今の仕事が他社で活かせるものなのか、専門性があると言えるレベルなのか、自分がスタートアップで通用するのか…不安に感じている読者もいるかもしれない。しかし、結局商売の本質は「人対人」。多くの人と関係を構築しながら、自分の仕事の意味についてとことん突き詰めて考えられることが重要と言えそうだ。

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環境と経済の対立構造ではない。気候変動を、社会の可能性に変えていくチャンスと捉える

ゼロボードで活躍する人物像にはキャリアの華やかさよりもむしろ「人との関係構築」「自らの仕事の解像度」の方が重要ということが見えてきた。

事実、ゼロボードでは実に多種多様な人材が活躍中だ。また、CSは専門知識を備えたプロフェッショナル集団、BizDevは大企業出身者も多く活躍しているなど、チームによっても違いがありそうだ。最後に、多彩な人材が集まり織りなすカルチャーについても尋ねてみたい。

小野ビジネスの世界では特に、物事は常に対立軸で語られがちかと思います。でも、それは本質ではないと豊田章男前社長は常々言われていました。EVかガソリン車か、環境保護か経済成長か、社会課題の解決かビジネスとしての成功か…物事は、そんな単純な二項対立では決して語り切れないということです。対立軸をつくらないことが最も重要であると。

トヨタの外に出て、自分でリアルにビジネスを動かしていく中で、対立軸で物を見ないことの重要性は今になってすごく腹落ちしてきた気がしています。

ゼロボードの企業理念は、「気候変動を社会の可能性に変える」です。環境と経済のトレードオフ構造ではなく、気候変動を新しいイノベーションのきっかけとして捉える社会を作っていきたいんです。「気候変動」という言葉はどうしてもマイナスの印象を与えますが、そこには大きなチャンスと、地球を救う可能性も潜んでいることを、まずは我々が企業理念として掲げていきたい。最終的には、気候変動というこの大きな課題を、ゼロボードという一企業だけでなく、社会全体にとっての可能性に繋げていきたいと考えています。

ゼロボードでは気候変動という社会課題に向き合いながら、同時にビジネスとしてまだ正解がよくわからない世界で非常に大きなチャレンジができる。一見相反することを、ゼロボードでなら同時に目指せるという意味で、本当に面白い環境だと思います。

今の仕事に強い不満があるわけではない。だが、このままでいいのか?自分の仕事は本当に社会のためになっているのか?そんな葛藤を抱えるビジネスパーソンは多いはずだ。

そんな時は、ぜひゼロボードのことを思い出してほしい。気候変動という未曽有の社会課題の解決を目指す、将来の自分や子どもたちのためになる意義のある仕事だ。同時に、日本を代表する大企業や国家機関とも連携して新たな事業を作っていく、ビジネスとしても最高にエキサイティングな環境がそこにはある。

こちらの記事は2023年05月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

池田 華子

写真

藤田 慎一郎

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