連載MBA再考
8年で4倍以上の志願者!
卒業生6名の体験談から考察した、“アジアMBA”がキャリアに有利な6つの理由
7月23日、東京・渋谷で、アジアのトップビジネススクールが一堂に会する「アジアMBA夏祭り」が開催された。
同イベントは今年で第5回目の開催となるが、アジアのMBA人気の高まりに比例して、年々規模を拡張していることで注目を集めている。
当日は、6校の卒業生によるパネルディスカッションと、その後のブースでの卒業生との交流に150名を超える参加者が集まり盛況のうちに終了した。
それにしてもなぜ今、アジアのMBAが人気なのだろうか。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
アジアのMBAなら、アジア人がリーダーになるんだという意識が強くなる
同イベントパネリストの一人である向井秀明さんは、シンガポールMBAを志望した理由の一つとして「アジアのMBAでは、自分にとって身近なアジアのことだから日本人(アジア人)がリーダーとしてぐいぐい前に出ていきやすい。そのため、起業家に必要な能力がよりブラッシュアップされる」と説明。
さらに、自身の早稲田-ナンヤンダブルMBA/Nanyang-Waseda Double MBA(東京-シンガポール)に私費留学した経験を振り返りながら、「学校側に、起業家をサポートする体制が整っているのも魅力ですね」と語り、さらに、在学中にも様々な企業の採用担当者と話をする機会を持てたことで、「どんな職種なら自分の能力を活かせるか」「給料はどれくらいアップするか」といったことを総合的に考えながら就職活動を進められたと明かした。

万全のサポート体制のもと、よりよい働き方を考えた結果、「(在学していたMBAがある)シンガポールでの就職も検討したが、英語が流暢な日本人として勝負するには帰国したほうが有利」との答えに辿り着き、帰国して楽天の新規事業立ち上げに関与。同時に、ドローン関連の子会社を設立してCEOにも就任している。
また、「早稲田‐ナンヤンダブルMBAは、東京とシンガポールの両方のネットワークを活用できたので、その点も有利に働いた」と、就職活動時には早稲田教授の紹介による企業訪問ツアーにたびたび参加していたことも明かした。
欧米企業がアジアをどういう風にとらえているかを垣間見れる
パネリストの中には社費で留学した人もいる。その一人が、清華大学経済管理学院/School of Economics and Management Tsinghua University(北京)卒の周藤一浩さんだ。
「社内には他にもMBA留学を希望している人がいたので、自分の価値を高めるために彼らとの差別化を意識した。そこで、(これまでの)スタンダードの欧米ではないアジアへのMBAを考えた」。その結果、成長率が高い中国への興味が高まり、とりわけ自分の専門であったテクノロジーの分野に強い清華大学を選択。

「クラスの5~6割は中国人で華僑をいれるともっと多いが、欧米からの留学生も多く、『欧米企業が中国をどういう風にとらえているか』がわかったことは大きな収穫だった」と、アジアMBAだからこそ持ちえた視点について説明した。
急成長するアジアのマーケットで活躍したい人にはもってこい
事実、世界第2位の経済大国として今なお発展し続けている中国は、世界中からの注目を集めている。そのため、MBA留学を機に中国経済への造詣を深めることが、後の就職活動においてプラスに働くというメリットもある。
この点に関して、中欧国際工商学院/China Europe International Business School(CEIBS)(上海)に社費留学した大川栄一さんは、「成長率が高いということは、これまでになかったものが常にどんどん生み出されているということ。欧米だと、イノベーションを起こそうとしても規制に邪魔されることがしばしばあるが、中国は“なんでもござれ”というスタンス。起業家として新しいアイディアを生み出すには最適な国」と補足。
ちなみに、MBA留学前は営業・トレーディング業務に携わっていたが、帰国後は事業投資・事業開発に携わっているというのだから、新しいものを生み出す力が存分に磨かれていることは間違いない。

物価が安い分、留学費を抑えられる
また、急速な技術の進歩を目の当たりにする一方で、「街中にあるものは日本と変わらないからアフターファイブも充実しているし、治安もいいから安心して暮らせる」とも話す。
安心して暮らせる条件の一つには「お金に苦労しないこと」もカウントされるが、その点においてもアジアは優位である。
学費そのものに関しても欧米のMBAと比べ安価であるが、加えて、「シャワー・トイレ付き個室でMBA寮の家賃は4、5万円。キャンパス内にはフードコートが10ヶ所以上あって1食だいたい300~400円」(向井さん)、「MBAの寮は月額4万円」(周藤さん)と生活費が安くて済むのも学生にとってはありがたい話であろう。
※個人差があるが、欧米2年制MBAとの比較で授業料は約半額程度
国内のMBAなら、在学中から就職に有利なネットワークを構築することができる
さらに渡航費さえ不要になるのが、国際ビジネス色の強い国内のMBAで学ぶという選択だ。しかし、国内のMBAとはいえ日本人率は高くない。
一橋大学大学院(東京)国際企業戦略研究科(英語授業)に社費留学した山田泰穂さんによると、「クラスの8割は外国人」で、「日本人がリーダーシップを取れるというレアな環境だった」と当時を振り返る。

また、在学中にイスタンブールやアメリカで短期集中型の講義も受講したところ、「国や地域によって物事のとらえ方や考え方がまるで異なることが新鮮だった」、「外国人が日本をどう見ているかがすごくよくわかった。日本人からすると意外なものを好きだったり、逆に日本では人気のものへの関心が薄かったり。海外の人の嗜好を知ることで、ビジネスの種を見付けることができた」と、留学前から従事していたホテルマネジメント・運営に加え、卒業後は海外事業開発・新規事業開発にも携わるようになった経緯を明かした。
さらに、アジアMBAの魅力について、「日本にいると、アジアの経済における現状や今後の課題をより自分に身近なトピックとしてとらえているということを再認識できる」と語った。
加えて、在学中からホームグラウンドでネットワークを構築することができるのも、日本国内のMBAに通うことの醍醐味だという。そのため学校選びにおいては、先々の就職活動を見据えて、教鞭をとる教授らが実業界でどんなつながりを有しているかまでしっかりとチェックした。
もちろん、他のパネリストらも学校選びには十分な時間をかけたというが、その際のチェックポイントは「5年後に資産をどこまであげられるか」「就職活動において有利に働くブランドであるか」など多岐にわたる。
アジアのMBAへの留学生数は7~8年で4倍以上に増加
いくつかのチェックポイントを考慮しながら、欧米のMBAとも比較検討した結果、アジアへの留学を決意する人が年々増加しているというが、どのくらい増えているのか。
「アジアMBA夏祭り」主催の株式会社アゴス・ジャパン、チャイナMBAマネジメント協会によると、ここ7~8年でアジアMBA主要10校※2への入学者数は4倍にも膨れ上がっているのだとか※1。
パネリストたちの意見を総合するとその理由は、「アジアでは日本人がより積極的にリーダーになれる」「留学費用を安く抑えられる」「(欧米MBAという)スタンダードではないからこそ、アジアMBAで学ぶことで価値が高まる」「自分にとって身近なアジアのことだから、強い関心を持って学べる」「世界がアジアをどう見ているかがわかる」といったところだろう。
もちろん、アジアのMBAで学び、アジア経済に精通したからといって、卒業後の進路をアジアに絞る必要はないし、MBAの授業はほぼ100%英語でおこなわれるため、身につけた知識や語学力を元により広い世界へと羽ばたくことも可能だ。
同様に、欧米やその他の地域のMBAで学んだ後、アジアで活躍している人だってもちろんいる。MBAに興味があるなら、一度、自分のルーツや興味・関心、将来のビジョンにしっかりと目を向け、どこで学ぶ、どのようなネットワークを得るのがベストであるか考えてみるのもいいかもしれない。
(※1)チャイナMBAマネジメント協会(CMMA)の調査による
(※2)Financial Times Global MBA Ranking 2017
イベント主催:アゴス・ジャパン
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