【経営層に告ぐ】「その質問が、自走できない部下を生む!」
急成長ベンチャーを支えた組織コンサルタントが説く、PDCA式・若手人材育成術
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ビジネス界のトレンドに敏感な人は、とっくに知っているだろう。現代はVUCAの時代だ。Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)という4つの単語の頭文字から命名されたVUCAは、この時代の不透明感を表現したもの。
そして、そんな時代の処方箋としてもてはやされているフレームワークが「OODAループ」だ。不確実性を前提に、想定外の事態にも対応しながら勝利できるよう、米軍で生み出された思考と行動の枠組みがビジネス領域でも脚光を浴びている。そして、こうした流れから聞こえ始めたのが「PDCAはもう古い」「そんなことはもうやっている」というワケ知り顔の言説。
ところが今、PDCAにも新しい流れが生まれている。それが「質問PDCA xDrive」。提唱者であり、多くの企業へ導入を実施している荻野純子氏に、その中身と成果のほどを聞いた。荻野氏いわく「PDCAが徹底的に浸透すれば、急成長に耐えうる組織になる」とのことだ。
- TEXT BY NAOKI MORIKAWA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
誰もが知っているPDCA、「ちゃんと活用できている組織はほぼ無い」
「もっとしっかりPDCAを回せ」。そんな言い方で叱責された経験は、年代を問わず数多くのビジネスパーソンが持っているだろう。今さらではあるが、PDCAとは何かといえば、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という4つのフェーズからなるサイクルを繰り返し回していく手法。
これによって業務の精度や効率を上げていくアプローチは、昭和の時代、主に工場の品質管理部門などで広まっていったが、徐々に多くの企業のあらゆる部門に導入され、ビジネス活動の基本姿勢として定着した。
その結果、多くの上司が部下を叱る際にも「PDCA」が頻繁に登場するようになった。「計画(P)を遵守できていないから実行局面(D)でミスをするんだ」、「結果を正しく評価(C)できていないから改善(A)することができないんだ」と主張したい時、「ちゃんとPDCAを実行しろ」というカミナリが落ちてくる。
人材育成のための研修プログラムの提供や、それらを通じた組織改革のコンサルティングを実行していくFCEトレーニング・カンパニー(以下、FCE)を2010年に起ち上げた荻野純子氏は、このPDCA実践の実情について、こう口を開く。
荻野実は私たちが提供するような研修を一切受けていなくても、自然にPDCAサイクルをきちんと回して、着実にビジネスや業務を改善できてしまう人というのが存在します。それを才能と呼ぶのか、持って生まれた地頭の良さと呼ぶのかはさておき、「できる人は習わなくてもできてしまう」という現実はあります。
キャリアコンサルタント時代から私は無数のビジネスパーソンと向き合ってきましたが、やはり起業家のかたや、経営層・リーダーとしてばりばり実績を上げているかたの多くは、呼吸をするかのようにPDCAサイクルを高速回転させて働いているんです。
ところが、組織として見た場合、この「習わなくてもやれる人」というのはごく一部。「教わらなければできない人」、さらには「ちょっと教わった程度ではすぐに実践できない人」というのが多数混在しているのが企業の実態。
そしてこのことが問題を根深くさせる元凶でもあるのだと、私はFCEを起ち上げて間もない頃に気づかされたんです。
ある企業に呼び出された荻野氏は、経営者から相談を受けたのだという。「ウチの社員は会議で決まった計画をその通りにやり切ろうとしない」「現場でうまくいかなくなっても、誰もその原因を究明しようとしない」といった課題が次々に提示される。その多くが、荻野氏にとっては「PDCA上の問題点だった」のは言うまでもない。
荻野当時の私も即座に「PDCAが現場で徹底されていないんですね」と話したのですが、経営者からは「そんなことはわかっている。当社も研修でPDCAのフレームワークを全社員に教えているんだ。それでも実践できていないから困っている」と言われてしまいました。
今やどこの会社だってPDCAが重要な基本だということはわかっていて、きちんと教えているんです。
問題は「教えているのに実践できない人が多い」ということ。そしてもう1つ、この会社の経営者がそうだったように「教えられなくてもできてしまう人にとっては、できない社員が多数いる理由が理解できない」ことにあると直感したんです。
そんな問題解決へ向けてトライ&エラーの日々が続いた。「こうすればビジネスはうまくいく」というセオリーやメソドロジーを解説するものならば、書店にもWebサイトにも無数にあるが、「そのセオリーやフレームワークについての本や記事を読んでもPDCAが身につかなかった人は、どうすれば良いのか」を懇切丁寧に教えてくれるような情報は見つからない。
ひたすら経営陣や現場社員とのコミュニケーションを重ねていく中で活路を見いだそうとした荻野氏。そうしてたどり着いたのが「質問」というシンプルな鍵だった。
「こうすべき」とは言うな。「どうすればいい?」の問いかけで主体性を呼びおこす
荻野当時から一貫して、私は研修の場などで参加者に積極的に問いかけをしています。単なる座学の場として一方通行の情報提供で終わらせるのではなく、「目標達成のためにどうPDCAを回すか?」について、タイミングを見ながら聴衆である参加者に質問を投げていく。
そうすることで参加者は教わってインプットして終わりではなく、その場で自分ごとに置き換えて考えることができますし、「自問自答しながら1人でPDCAを回せるようになれる」からです。
すると、あるとき研修で必死にメモをとっているかたがいました。あまりに熱心だったので、どんな内容をメモしていたのかうかがったら、「荻野さんの質問は鋭すぎてすぐ答えられないから」という理由で、私が研修中皆さんに投げかけていた質問を中心に書き留めていたというんです。
その時、「そうか、最適な質問を投げかけることが重要なんだ。これをそのままフレームにできれば、問題は解決するかもしれない」というアイデアが浮かんできました。
当の参加者がメモしていた質問を見ながら荻野氏が改めて注目したのは、質問がもたらす思考の“スイッチ”を押す効果。この「質問を起点にしたコミュニケーション」が企業内に定着し、自ら考え行動する人が増えれば、「どうしてPDCAを実践できないんだ」という「できる人たち」の苛立ちも解消出来る。
さらに、「うまくできずに困っている人たち」の脳内に少しずつPDCAをどのように考え・実行すればいいのか、その基礎が浸透していくはずだと思い立ったとのこと。事実、先の企業のみならず、その後携わった多くの企業での人材育成・組織変革プロジェクトで「質問によってPDCAを加速する」アプローチは効果を上げていったという。
荻野私たちとしても、「誰が・どういう場面で・どんな質問を・誰に投げかけ、その返答にどうリアクションすれば良いのか」などなど、様々なケーススタディを試行錯誤しながら重ねていきました。そうして1つのフレームワークとして形にしたのが「質問PDCA xDrive(ドライブ)」です。
意外にハード?適切な質問は、メンバーのタイプを把握してこそ見いだせる
著書である『xDrive 質問でPDCAは加速する』でも荻野氏は図式を多用して解説しているが、このフレームワークでは当事者である社員たちを4つの成長フェーズで分類。
相手がルーキー(新人)、ウォーリー(不安)、シーソー(変動)、ハイパフォーマー(安定)のいずれの成長フェーズにいるのかを判断した上で、それぞれに適切な質問を用意することで、彼らそれぞれのPDCAを加速していけるのだと示している。
事実、このフレームワークの導入によって売上を半年で20%アップしたベンチャー企業が現れるなど、実績が評判を呼び、これまでに200社以上におよぶ企業が導入を実行。荻野氏が登壇するセミナーイベントも毎回満席となっていった。全社員に行き渡ることを望む企業がリピーターとなって導入プログラムを継続的に実施するところや、業界内で「質問PDCA xDrive」の効果が話題を呼び、同業の主立った企業が次々に導入を決定していく現象まで起きている。
ここまで実績を数々挙げてしまうと、「そんな簡単なのか?」と疑ってしまいそうになるが、事実は事実だ。はたしてこの反響の要因を、荻野氏はどう分析しているのだろうか?
荻野実践した企業やその経営陣、あるいは現場社員のかたがたからのクチコミで支持が広がっていることを、私たちは喜んでいますし、それによって自信を深めてもいます。中には「PDCAをちゃんとやるように命令するのではなく、質問に変えればいいんだな? だったら教わらなくてもできるよ」とおっしゃる起業家や経営者もいます。
でも、実はそう容易くはないんですよ。人はどうしても「自分を基準にした質問」をしてしまいがちですから、“ウォーリー”のフェーズにいる若手社員に“ハイパフォーマー”向けの質問をしてしまったりする。それでは、効果はあがりません。それだけでなく、質問の仕方を間違えた結果、メンバーの可能性を潰すことさえある、ということを経営に関わるかたがたには認識いただきたい。
実際、私も自分の会社のメンバーに質問をする時は、うっかり失敗したりもしますけれど(笑)。
導入の結果として業績が上がることにより起業家や経営層が満足することは想像しやすいが、研修に参加する現場社員たちにも支持されている要因はどこにあるのか?
荻野「こうしなさい」という命令に従って仕事をする時間が大半だった場合、たいていの人は面白くありませんよね。モチベーションも長続きしませんし、もしも成果が上がらなかった時には「言われた通りにやって成果が出なかったのだから、責任は上にある」となりがち。少々の問題点を発見したとしても、工夫して改善するのではなく「言われてないことをやっても非難される」とあきらめてしまうかもしれません。
ところが業務の進捗に応じて質問されることが習慣化した職場では、誰もがその返答を用意するために自分の頭で考えるようになります。つまり、質問と応答が浸透した環境では、人は主体者の自覚を持ちやすくなるんです。
自分で考え、行動するようになれば、1つひとつの仕事への責任感も膨らんでいきますし、コミットも増します。急成長ベンチャーにありがちな「ぼくPDCAばっちりです」的な「ナンチャッテできてる若手社員」さんも、質問中心のコミュニケーションがあれば、「自分も甘かったな」と勘違いに気づきやすくなっていくんです。
PDCAの浸透を通じて、荻野氏が人材育成ばかりでなく組織変革というバリューにつなげようとしていることも、以上の話から十分伝わってくる。「できなかった人」が「できるようになる」ばかりでなく、「できる人材を育てるように指導できなかった人」が「できる人材を育てる手がかりをつかむ」ことにより、組織全体の成長スピードとカルチャーの質が上がっていくというわけだ。
最終目標は「メンバー全員が自問自答し続ける組織」
最後に冒頭で掲げた「PDCA不要論」の風潮について荻野氏に質問をすると、至極もっともな答えが返ってきた。
荻野私も今という時代が不確実で不透明だと実感をしています。そしてそんなVUCAの時代には、OODAループというフレームワークが有効だということも理解しているつもりですし、共感してもいるんです。物事が計画通りに進まなかった場合のことを想定しているという点でOODAにはPDCAにはない特性があります。
ただし、そもそもPDCAの概念や発想というものを正面からダイナミックに捉えれば、ビジネスの基本中の基本がそこにあることは明らかです。
しっかり考え抜いて計画を練り、それに基づいて行動を起こし、結果を真摯に受け止めて冷静に評価・分析した上で、改善を図っていく。
このサイクルをしっかり回せていない組織が、いたずらに「PDCAはもう要らない。これからはOODAだ」、「PDCAなんて初歩的すぎる」と宣言だけしていても、決してリアルなビジネスは加速していきません。
こう持論を語った荻野氏は、好きな言葉として松下幸之助氏が示した「成功とは成功するまでやり続けることで、失敗とは成功するまでやり続けないことです」を挙げる。PDCAサイクルにせよOODAループにせよ、企業活動の中で繰り返し実行を続けることで初めて成果を上げていくというのである。
荻野私たちFCEがこだわっているのも、「企業に入り込んでずっと伴走し続ける」のではなく、「その企業にPDCA実践のノウハウと価値が根づき、社内の皆さんだけで自走できるようにサポートする」ことなんです。大切なのは挑戦し続け、実践し続けること。それができるようになれば、組織に筋肉が育ち成長も加速していく。
ぜひ多くのビジネスパーソンの皆さんに「わかったつもり」になるのではなく実践をしてほしいと思いますし、起業家や経営層のみなさんにも「教えなければわからないようでは駄目」などと考えず、ともに課題解決に取り組んでいただければと願っています。
大切なのは方法論の是非ではなく、改善と課題解決に取り組み続けること。新旧フレームワークの要不要を語りたがる前に、まず自ら実践への挑戦を開始すべきだろう。荻野氏は言う。
「まるで呼吸をするかのように、教わらなくても自然にPDCAをきちんと回せている人は、おそらく常に自分に的確な質問をして、その答えから次のアクションを決定しているんだと思います」と。
さて、自問自答の結果はどうだろう? 「私は、あるいは私の組織はすでにPDCAを回せています」と自信を持って答えられるだろうか?その答えに疑問があるならば、一度荻野氏が説く「適切な質問手法」に触れてみてもいいかもしれない。
こちらの記事は2019年08月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
森川 直樹
写真
藤田 慎一郎
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