秘訣は性善説。
ガイアックス上田が語る、経営者人材輩出の仕組みとは?
上場経験者を含め、数々の著名起業家や事業家を輩出するガイアックス。 あまり世間に知られていない、一般企業ではタブーとされる仕組みの数々に迫った。
- TEXT BY FastGrow Editorial
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「起業家を輩出しようと思ったことは一度もない」
ガイアックスと聞いて、起業家輩出企業、と連想する人も多いのではないだろうか。上場したApp Bank、LITALICO、Pixtaにはじまり、クールジャパンを代表するTokyo Otaku Mode、DeNAに買収されたFind Travel、アカツキに買収されたそとあそび、スマートロックというIoT領域で挑戦するフォトシンス。
「ガイアックスマフィア」と呼ばれる同社の卒業生には、上場経験者も含め、数多くの起業家が存在する。新卒者、退職者のうち7割が起業するという同社は、相当に起業家輩出にこだわっているに違いない。そう思っている人もいるのではないだろうか。しかし、ガイアックス代表執行役社長の上田は、「起業家を輩出しようと思ったことなど一度もない」と否定する。たしかに上田の話を聞いていると、同社の運営方針は、起業家輩出を狙ったものではなく、個人が持つ力を信じて任せるという、「徹底された性善説経営」であることに気づかされる。
人と人をつないで世界を変えるというミッション、「育成」はせず「邪魔しない」という育成方針、どんな事業部も無条件で適用可能な子会社化制度、当たり前のハードルを上げる起業家卒業生との交流会ー
ガイアックスには、通常の企業では社員の離職やマネジメント不全を危惧しタブーとされる、驚くような制度が数多く採用されているのだ。このような制度を採用している理由は、「雇われている感覚を無くすため」「社内の誰と話しているときも、投資先の経営陣と話している感覚。私から、がんばれ!、とかいう必要はまったくない」
嬉しそうにそう語る上田の「性善説経営」は、一体なぜ生まれたのか?そして、どのような仕組みになっているのであろうか?
社会の悩みに共感し、世の中を変えられる人を増やす
上田起業家を輩出したいとは思っていません。ただ、世の中の人々全員がつながることで、世の中を変えられる人を創出することにはこだわっています。
世界中の人々がつながり、全員が協力して世界を変えていく。それがガイアックスのビジョンだ。格好が良いこのフレーズの後には、上田の熱い想いが続く。
上田こだわる、というのは、我欲を捨て、徹底的にやり抜くことを言います。例えば起業するなら、お金がないからとか、人が足りないからとか、自分が持っているリソースだけを考慮してコツコツやるなんて愚の骨頂。あえて小さく考えるメリットなんてありません。
本当に世のためになる、と信じているのであれば、自分の目標を世界に提示して、一気に、最短で世を変えるべく進むべき。自分がいま見えているリソースにこだわっている時点で相当おこがましいですよ。世界を変えるのに、自分たちだけでリソースを独占する必要、あります?
世界のために良い変革を起こすなら、最初から世界を巻き込んで協力を仰ぐべき。今の自分の力量で目標達成できるかどうかなど関係ない。その想いを体現するかのごとく、シェアリングエコノミーの実現に注力する同社は、日本でのシェアリングエコノミー定着や法律改正を促進すべく、複数の起業家に声をかけ、シェアリングエコノミー協会を発足させた。「日本にシェアリングエコノミーを根付かせるためには、やるしかなかった」
現在も上田自身が代表理事を務めるが、「新オフィスが永田町にあるということもあり、国会議員の方がガイアックス本社に視察やヒアリングに訪れることが増えている」
自らが高々と声を上げ、国を動かしている実例だ。このような上田自身の動きも、社内にいるメンバーの起業家マインドを刺激していることは間違いない。トップ自らお手本となっているのである。
上田近年、『とりあえず起業しました』という人が増えている気がしますが、ビジョンはないけどとりあえず起業するパターンは、私はおすすめしません。
過去の仕事で得たスキルで個人事業主のように運営すれば、短期的に収入は増えるかもしれませんが、3年後、5年後に振り返った時、結果的に何もスキルアップしておらず、キャリアダウンしてしまうパターンが多い。起業するのであれば、想いとビジョンを、まず最初に固めるべきです。
そんな上田に、世界を変える起業家に必要な素質を聞いてみると、「社会の悩みに共感できるかどうか?」だという。自分のエゴではなく、世の中の多くの人が感じている悩みに共感し、その解消のため、人々を巻き込みながら世を変革する。そんな大事を成し遂げるためには、社会の負への共感力が重要だというのだ。さらに上田は、もう一言、「自分にもできるかもな、と信じられるかどうかも大事ですけどね」と付け加えた。
育成方針不要。「育てる」のではなく「邪魔しない」
上田ガイアックスにいると、卒業生や社内のメンバーなど、身近な仲間が起業したり、マスコミに登場したり、億万長者になったり、というのが“当たり前”になってきます。そうなると、自分にも同じことができる気がしてくるんですよね。
みんなが海外旅行行ってるし、とりあえず俺も行ってみようかな、むしろ行かないとまずいのかな、みたいな。みんなが簡単に行き過ぎるから、海外のガイドブック買おうとか、危険はあるかな、とか、全く気にならなくなっちゃうんです。
ひょうひょうとそう語る上田だが、世間一般の企業の多くは、“当たり前”の意識を高め、“自分もやればできる”という感覚を社内メンバーに持たせることに相当苦労しているはずだ。上田はそれを、必然だと言ってのける。
上田世間一般の会社は、年次が若いメンバーに対して、あれができない・これができない、と言うことによって、本人の“できると信じる力”をダメにしていきます。小学生のときはみんな、野球選手になりたいとか、女優さんになりたいとか、できるかどうかを気にせず発信しますよね。
ビジネススキルは時代とともに劣化していきますが、マインドはいつの時代にも等しく重要なものです。普通の会社はこれを“育成しているんだからしょうがない”と言うでしょう。しかし、人を育ててスキルを上げることは相当難しいし、誰かが誰かを育てるという上からの発想で、人はそう簡単に変わりません。
そうであるなら、育てるのではなく、優秀な人の想いを削がない、邪魔をしない仕組み作りが大切である、というのが私の持論です。
そう、ガイアックスの「性善説経営」の源泉はここにある。社会や企業で一般に規定されている理屈やマニュアルを万人に適用し、個人の可能性を押さえ込んでしまうこと。これこそ最もやってはいけないことだと、上田は信じているのだ。
そんな同社では、定期的に卒業生起業家による勉強会を開催したり、社外関係者を巻き込んだイベントを開催したりすることで、“当たり前”のレベルを引き上げている。さらに17年1月、誰でも使えるシェアオフィスやカフェスペース、貸出可能なイベントスペースを併設した新オフィス、Nagatacho GRIDを完成させた。自社内だけに完結せず、社会に対しても“シェア”の精神を体現した取り組みである。そのような交流の場において大切なことは、夢語りを邪魔しないことだと言う。
上田全員で踊っている感覚が大切なんです。全員で、私達にはなんでもできると信じ、夢を語り合うこと。B/SやP/Lには現れませんが、気持ちは上にも下にも無尽蔵なもの。だから私は、マインドを高く保つことが一番大事だとメンバーにも言っています。
さらに、個人の可能性や想いのポテンシャルを信じるがゆえの、“邪魔をしない”社内制度にも、驚くものばかりが並ぶ。
「年度末の営業利益予想額が目標を下回っていますが、どうするつもりですか?」
全社会議の冒頭で、新卒1年目のメンバーから飛び出した発言である。これこそガイアックス流、“邪魔をしない仕組み”が機能した結果であった。
こちらの記事は2017年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
FastGrow編集部
写真
藤田 慎一郎
連載新卒者、退職者のうち7割が起業する “起業家輩出企業”ガイアックス徹底解剖
2記事 | 最終更新 2017.05.10おすすめの関連記事
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