若手社員は放任で伸ばす。
ガイアックス上田の性善説経営の秘密。
上場経験者を含め、数々の著名起業家や事業家を輩出するガイアックス。 あまり世間に知られていない、一般企業ではタブーとされる仕組みの数々に迫った。
- TEXT BY FastGrow Editorial
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
年齢が若い人の方がイノベーションを起こす可能性が高い
前回の記事:起業家人材を育てる秘訣は、「会社が邪魔をしないこと」
“世の中を変えられる人を創出することにこだわっている”と代表の上田が語るガイアックスでは、フリー・フラット・オープンの3つをキーワードとして掲げ、“社員を邪魔しない経営”を実現している。この3つを形骸化させず、仕組みや制度に落とし込み、カルチャーと言えるまでに浸透させているのが同社の凄さだ。
例えば前述のとおり、新卒1年目社員が全社会議で、代表の上田に対し、「年度末の営業利益予想額が目標を下回っていますが、どうするつもりですか?」などと質問できることも、同キーワードが経営に生かされている一例である。ガラス張り経営とは良く言うが、ガイアックスの場合は徹底度合いが半端ではない。
上田全事業部が年度初めに設定した予算と実績、そして日々更新され続ける月次・年次の着地予測を、どの社員でも見られるようにしています。また、役員会議の議事録も全社員が見られます。もちろん監査上見せられないほんの一握りの情報はありますけど、それは議事録全体のほんの数%に過ぎません。
誰でも全事業部の予算や達成状況、役員会議の内容が全て閲覧可能。そんなことが可能な上場企業は、他にあまりあるまい。
「新卒1年目のメンバーに、目標未達分はどうするんですか?、と聞かれたときは正直に、『それ、俺もさっき見た!』と答えてしまいました。予算管理シートには100人以上のメンバーが日々最新数値を入力していくので、私にも追いつけないスピードで業績の予測値が更新されていきます」
このような、経営情報の社員への開示に対し異を唱える意見の1つに、マネジメント不全への恐れがあるであろう。多くの会社では、意図的に役職や階層別に情報の非対称性を存在させていることが多い。年次が浅い社員、多くの場合20代の若い社員には、30代~50代のマネジメント層が持つ経営や採用、人事に関する情報をなるべく与えないほうが、若手メンバーの人材管理が容易となり、結果として事業がうまくいく、という理屈である。その状況を、「ある真実を受け入れられておらずもったいない」と上田は言う。
上田今の世の中を見渡すと、どう考えても若い人の方が社会を変える確率は高いでしょう。多くの企業がその事実から目を背け、年功序列に近い階層を作ってしまうことによって、20代の若手を企業成長のために活かしきれていません。
特に今の時代、多少の資金さえあれば簡単に起業できますよね。日本ではいわゆる優秀な人が起業しない傾向がありますが、自分を優秀であると信じるなら、ボラティリティが高い選択肢を取ったほうが、期待リターンは大きくなるはず。別の言い方をすると、本当に優秀な人は、雇用する企業側が努力しないと、組織を離れ、起業するのが自然。
そうであるならば、“あなたはまだ若いから”という理由で経営からメンバーを遠ざけるのは、優秀なメンバーの放出に繋がり、理にかないません。そのためガイアックスでは、“起業しても成功してしまうような若者に、起業同等の環境を用意して、いかに長く企業内で活躍してもらうか?”を考え続け、仕組み化しているんです。
起業できる人材に社内で活躍し続けてもらう秘訣
例えば同社では、どんな事業部も稟議や承認一切なしに、無条件で子会社化できる。50%まで新株予約権も発行可能だ。これは、社内で一事業に関わるメンバーも、いつでも起業家に様変わりできる仕組み、社員に経営者マインドをもってもらう仕組みの一例である。 他にも、新規事業案を公募する制度もある。地域に根ざした観光ツアーを、地域の人がホストとして提供してくれるCtoCマーケットプレイスのTABICAは、この制度から注力事業に育った代表例だ。
上田ガイアックスは、メンバーが“起業しても成功できる”ようにお膳立てする組織でありたいんです。自分で新規事業や子会社をやりたい、自分で起業したい、と本気で考えたのであれば、それを全力で応援するまで。事業を0から創り上げる際には、仲間集めや資金集め、管理系の仕事など、創業メンバーだけでは手が回らない、苦しい場面がたくさんあります。そんな苦境に対峙したとき、ガイアックスという組織に在籍していることをうまく利用してもらうイメージです。
創業期の苦しいフェーズをガイアックスが支援する。そうすることで、良い評判やキャピタルゲインなど、「おすそわけ」をもらえることも増えてきている。先日Forbesが、特定の10分野で「30歳以下の重要人物」を30名ずつ選出した「30 Under 30」のアジア版において、コンシューマーテクノロジー部門の1人としてノミネートされた注目の“ガイアックスマフィア”、河瀬が率いるフォトシンスからも「おすそわけ」をもらった。ガイアックスよりも好条件の出資オファーもあったというが、「『ガイアックスにはお世話になったので』と、半ばしょうがなく出資させてくれた」のだという。
そうは言うものの、フォトシンス設立の舞台裏を知れば、ガイアックスのサポートがどれだけスピーディかつ手厚いものであるかがわかる。創業メンバーのうち3名は、社内でも重要なポジションを担っていた。河瀬は注力事業ソーシャルリスニングの事業リーダー、齋藤・本間の2名は上田直下、代表肝いり事業のエンジニアであった。そこから会社設立までの意思決定や人事異動のスピード感は圧巻だ。わずか5日の間に、今をときめく有望スタートアップが誕生した。2014年7月27日の日曜日に試作品に関する記事が新聞に掲載され、3日後水曜日の経営会議でフォトシンス設立の承認が降りた。その翌日から齋藤・本間のエンジニア2名は、前日まで担っていた社長直下事業の責務を離れ、フォトシンスの製品開発にフルコミットしている。社内でも重要な事業を担うメンバーを離職させスタートアップを始めさせることに、上田の迷いはなかったのか。
上田最初に新聞記事を読んだとき、Akerun(フォトシンスが開発するスマートロックデバイス)はガイアックスのビジョンとは少し遠いかな、自社で事業化するものではないかな、と思いました。しかし、もし自分がガイアックスの代表じゃなかったら、絶対応援する事業だと思ったんです。それで河瀬を始めとしたメンバーに、会社にして本気で取り組む覚悟があるのか決断を迫りました。
当時を振り返る上田自身のこの言葉からも、自社を成長させることよりも、世界中の人が協力して世界を変えていく未来を創りたいという強烈な意志が伝わってくる。
フォトシンスの例以外にも、“想いのこもったことに取り組むことが大事”というガイアックスでは、人事異動が確定するプロセスが非常に簡易的だ。異動を願うメンバーが異動先の責任者と面談し、了承を得れば、元々所属していた事業部には拒否権がなく、そのメンバーは翌日から事業部を異動できる。「社内人事も、責任者を中心にミッション・ビジョンをお互いに発信しあい、優秀なメンバーを取り合っている。起業時と同等の環境にするためには、世の中の市場原理と同様に、社内でも良い人材の取り合いが起こるべきだから」だという。
社内にいても起業家同等の環境で働くことができ、実際に起業しようとしたときもガイアックスから様々な支援が受けられること。これが、起業しても成功してしまうような優秀な人材を、社内に引き止める秘訣であった。実際、ガイアックスで複数の新規事業立ち上げに成功させているメンバーの1人は、「ガイアックスにいれば起業する必要が特にない」と言っている。
自分が社長だったらいくらもらう?起業家と同じ給与決定方法
経営関連情報の全社員への開示や、いつでも事業部を子会社化できる制度に加え、起業家的マインドをメンバーにセットする仕組みとして、給与と連動した“ガイアックス流 目標設定”があげられる。3ヶ月毎に各自が複数の目標シナリオを描き、「どの目標まで到達したらいくら給与がほしい」、と事前に確定しておく仕組みだ。要望する給与には上限も下限もない。「自分が経営者だったら将来の自分にいくら払うか?」を考えて各自が算出する。安易に自分を高給取りにできそうな仕組みではないのか。
上田もちろん、容易に達成できそうな低めの目標設定にも関わらず、達成時に大幅な昇給を設定する人も稀にいます。しかし、我々も上場し、100人以上の社員を雇っている企業です。1人や2人そのようなことを考える社員がいても経営に支障はありません。むしろ、20代の大切な時期に、そのような低い目標を定めて過ごそうと思うマインドセットの方が心配になります。ただし、ガイアックスが優秀で夢を持つ人を採用できなくなったら、すぐ潰れるでしょうね(笑)。
目標設定制度は3ヶ月という短期間にフォーカスを当てたものだが、全社員が最低1年に1回、上長と一緒にライフプランを作成する機会も持っている。「信念を強化するために絶対に必要なもの」だと上田が指摘するライフプランの見直しによって、“人生のベストシナリオ”を描き、それに向かって今の自分に何ができるのか、見つめ直すのである。
キャリアを振り返ったり、将来を見つめ直すというと、一般的には独立や転職など、企業を離れるきっかけになりやすいように思える。実際に上場前、とあるベンチャーキャピタルから派遣された役員がライフプランをガイアックス経営陣と一緒に作成した数週間後、「私が本当にやりたいことはベンチャーキャピタリストではない」と言い辞職していったという笑い話も起きたという。しかし、「人生にミッションと責任をもっている人」以外採用しない方針であるガイアックスでは、むしろこのような仕組みを積極的に取り入れることで、メンバーが本当にやりたいことを見つけるチャンスを増やし、他人や企業に与えられたミッションではなく、自分の人生のミッション達成に向けて、日々最高のパフォーマンスで過ごせるように環境をセットしている。
もちろん、このような世間一般の企業と真逆をいくような社内制度の導入は、いい面ばかりあるわけではない。
上田マネジメント、チームビルディングの問題は多発します。入社1年目や2年目のメンバーが10人、20人のインターン生をまとめるチームリーダーだったりしますから。上司のマネジメントに問題があると私に直訴してくるメンバーもいますが、『あなたも若いうちからリーダーやったりマネジメントしたりしたいでしょ?今の上司もまだまだ成長過程にいるんだから我慢しなさい』と、半ば言いくるめるように伝えています(笑)。
今の時代だからこそ“ガイアックス流”が必要になる
「本当に世の中のためになることであれば、世界中の人にミッションを発信し、万人に手伝ってもらわなければいけない」と創業当時から言い続けている上田。そしていま、「人と人をつなげる - Empowering the people to connect」をミッションとする同社の世界観が、SNSの普及により急速に実現に向けて進んでいるという事実は、世界中のあらゆる企業も見過ごすことはできないであろう。
上田SNSの普及によって、他人の喜びや悲しみに共感したり、誰かが成し遂げたいことを支援したりすることが身近になりました。ガイアックスが思う世界を実現するために、今以上にベストなタイミングはありません。
これからの時代に世界を変えるような事を成し遂げる人であるためには、誰よりも早く世界の人々にミッションを発信し、ファンを集め、人々を巻き込めるかどうかがカギになると思います。そのためにも、社員をルールで縛るのではなく、社員の自由を確保することによって、イノベーションが起こる可能性を高く保つ工夫をすることが、企業に求められているのではないでしょうか。
徹底的に人の可能性を信じ、自社の成長だけを追求せず、人々が協力し合う世界が築かれるための仕組み創りを行うガイアックス。その背後には、「優秀な人の可能性を企業が邪魔しない」という1つのポリシーに則った、いくつもの注目すべき仕掛けが存在した。
次世代を担う経営幹部や起業家人材の輩出に悩む企業があるならば、一度ガイアックスを訪問し、直接メンバーに課題を相談してみてはどうだろうか。忙しい中、他社にアドバイスなどしてくれるはずはないだろう、と不安になることなんてない。あなたが本当に困っているのであれば、彼らはどんなことでも力を貸してくれるはずだ。それが“性善説経営”を謳う、ガイアックスという企業のカルチャーなのだから。
こちらの記事は2017年05月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
FastGrow編集部
写真
藤田 慎一郎
連載新卒者、退職者のうち7割が起業する “起業家輩出企業”ガイアックス徹底解剖
2記事 | 最終更新 2017.05.10おすすめの関連記事
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