「起業家輩出企業?それって本当ですかね」
若手エースが語る、いまのリクルートが本気で求めているもの

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インタビュイー
柴田 直幸
  • 株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 データエンジニアユニット データソリューショングループ  

学生時代、インターン先の企業で自らオンライン家庭教師サービスを立ち上げる。その後、新卒でリクルートへ入社。店舗向け決済サービス「Airペイ」に関する施策立案、実行を担う。業務プロセスを改善する取り組みが大きく評価され、史上最年少でネットビジネス組織全体の通期VPを受賞。

根目沢 俊樹
  • 株式会社リクルート住まいカンパニー 事業推進部 戸建・流通事業推進グループ 

不動産サイト「SUUMO」の営業を半年、その後企画統括で事業計画策定を経験。リクルート社内の新規事業提案制度「Ring」で事業案が通過し、事業開発や事業推進を担う。入社5年目にしてマネージャーを務める。

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「起業家輩出企業」として、多くのビジネスパーソンに想起される企業のひとつが、リクルートだ。FastGrowで、リクルート出身のトップ経営者たちを紹介したこともある。

参考記事:平成のスタートアップは、リクルートから生まれてきた──マフィアのDNAを受け継ぐ、10名の起業家たち(前編)

しかし、近年、「起業家輩出」はリクルートだけの武器ではなくなっている印象も受ける。では、気鋭のスタートアップでも、若手育成に注力する大企業でも、自ら起業することでもなく、リクルートで「しか」得ることができない経験とは、一体何なのか–––。

リクルート独自の「価値」を探るべく、同社が誇る若手のエース2名にインタビュー。リクルートライフスタイルでペイメント事業のチームリーダーを務める入社4年目の柴田直幸氏と、リクルート住まいカンパニーで事業推進を担い、グループマネージャーを務める入社5年目の根目沢俊樹氏だ。

「『SUUMO』『ホットペッパー』に続く新しい事業が生まれなければ、ここ数年で先細りしていく」との課題感を全社員が共有しているというリクルート。いま、このタイミングで起業家を目指す若手人材が、新卒でリクルートに飛び込むべき理由とは?

  • TEXT BY MONTARO HANZO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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リクルートは、今もなお、起業家輩出企業なのか?

「いまも一概に『起業家輩出企業』と呼ばれていることに、違和感を感じます」

そう語るのは、リクルートで若手エースとして期待される2人の社員だ。同社で活躍しながら独立せず、会社に残り続ける若手人材に、同社の「現在地」を赤裸々に語ってもらった。

4年目にしてチームリーダーを務めている柴田氏は、店舗向け決済サービス「Airペイ」に関する施策立案、実行を担っている。昨年には、業務プロセスを改善する取り組みが大きく評価され、史上最年少でネットビジネス組織全体の通期VPを受賞。また、社内新規事業立案制度でも頭角を現し、いま、リクルート社内でも注目を集める1人だ。

リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 データエンジニアユニット データソリューショングループ 柴田直幸氏

柴田氏は学生時代、「地方や経済格差によって生じる教育格差を解決したい」との想いから、インターン先の企業で自らオンライン家庭教師サービスを立ち上げ、運営にもコミットしていた。リクルートを「普通」と形容する柴田氏は、このまま起業家としてのキャリアを選ぶこともできたはずだが、なぜ新卒でリクルートへ入社することを選んだのだろうか。

柴田いきなり起業を考えたこともありましたが、事業のスケーラビリティや自分の能力を勘案すると、このままだと売上100億円ないし1,000億円級の事業をつくることは難しいと感じていました。成長するためには、現状の自分からは想像し得ない大規模な事業を経験することが大切だと感じ、一度はどこかで「修行」をしたいと思ったんです。

柴田氏は、数々の有名企業のインターンに参加し、OB訪問も実施。ただし、単に就職を目指すのではなく、納得して働ける環境に身を置くために、社会人相手に自身の「スタンス」を表明していった。多くの会社員が柴田氏の意見を一蹴するなか、最も尊重してくれたのがリクルートの社員だった。

柴田訪問先の企業では必ず「『成長のためになんでもする』ような働き方はしたくない」「楽しくなくなったらすぐに辞める」と、会社に求めるものを伝えていました。それでどこからも受け入れてもらえなかったら、自分で起業すればいいと思っていましたから。

こんなこと言うと、たいていの企業の社員は苦笑いするんですよね。そんななか、平然と「成果出してくれたらいいよ」と言ってくれたのがリクルートだったんです。

もう1人の「若手のホープ」である根目沢氏は、入社5年目にしてマネージャーを務める。 不動産サイト「SUUMO」の営業を半年、その後企画統括室で経営管理業務に従事。2年目に、リクルート社内の新規事業提案制度「Ring」で事業案が通過し事業化。以降、事業開発や事業推進を担い、現在は数百億円事業の成長戦略を中心で描いている。

リクルート住まいカンパニー 事業推進部 戸建・流通事業推進グループ 根目沢俊樹氏

柴田氏とは対照的に、「就活時に明確な起業への意識はなかった」と語る根目沢氏。

そんな根目沢氏の入社を決定づけたのは、インターンシップでのリクルート社員との対話だった。

根目沢リクルートの社員全員が「健全な課題意識」を抱いていたのが印象的でした。楽しそうに仕事の話をしながらも、「まだマーケットに対して、やり切れていないことがある」「まだ解決できていない大きな『不』があるんだよね」など、学生の前でも自分または自社の弱み、課題をオープンに出してくれたんです。常に現状に満足することなく、ポジティブに前へ進める環境があると思いました。

また、「合理と情理のバランス」を兼ね備えている人が多かったのも印象に残っています。僕のリクルートに対する漠然としたイメージは「理想家、青臭い人が多い」でした。しかし、いざ社員と話してみると「世の中のこういう役に立ちたいんだよね。その結果として、これぐらいの売上を狙いたいんだよ。」と事業としての”効果と数字まで語り切る”人ばかりでした。

この会社は、本気で世の中の課題に真摯に向き合いつつ、数字で事業の価値を語れる起業家・事業家みたいな人が多い、面白い会社だなと感じ、入社の意向を固めていきました。

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「0→1」はセンス。「1→100」は経験がモノを言う世界だ。

学生時代に教育分野での起業を経験し、「事業を生みだす『0→1』の最低限の素養は身につけた」と語る柴田氏。同年代に比べて突出した経験を積んだ柴田氏が、いまでもリクルートの「会社員」として働き続けるのはなぜなのだろうか。

そんな疑問をぶつけると、「事業をスケールさせる『1→100』は、大企業での経験が大きな糧になる」と持論を展開する。柴田氏は、事業を拡大させる中で、サービスの質だけでなく、「多種多様なチームメンバーを動かすコミュニケーションスキル」の必要性に気付いたという。

柴田入社後、事業をつくっていくなかで、さまざまなタイプの人びとを動かしていく必要があることに気付きました。リクルートには、ビジョンを掲げどんどん新しいことに挑戦していく「0→1タイプ」のメンバーも、色んな人とのバランスを保ち丁寧に工夫を施し事業を育てていく「1→100」タイプのメンバーも存在しています。

僕は学生時代から前者のような人に囲まれて過ごし、僕自身はもはや“一匹狼”のようなタイプだったのですが、それだけでは大きな事業成長には結びつかないと実感しました。

まずは、自分が変わらなきゃと宣言し、「自分の下の子たちからどう見られているかもっと意識した方がいい」などと周りから常に厳しいフィードバックをもらうことで、さまざまなタイプのメンバーを理解し、同じ目標に走ってもらうためのコミュニケーションを身につけていったんです。

自らビジネスを立ち上げる「0→ 1」は、ある意味でセンスの世界。しかし、事業を拡大させる「1→100」はセンスよりも、人を巻き込む力ややり続ける精神力など、総合的な能力が求められます。特に大企業ではひとつの事業に介在する利害関係者が多数いますから、事業家としての素養を磨くのにはもってこいの環境です。

根目沢氏は、リクルートに存在する成長環境を「実行力を大切にするカルチャー」と形容する。

根目沢リクルートの特徴として、「戦略の筋が良ければ、あとは実行力の差で決まる」というカルチャーがあると思っています。

そして、「実行力」の基盤となるのは、本人のパッション。だからこそ、実行する当人たちがパッションを持てるよう、「お前はどう思うんだ?」と、自分で決めることを促してくるんです。この「自分で決める」というのは、責任もストレスも大きいですが、こういった経験を日常的に繰り返す中で、擬似的に経営者としての経験を重ねた結果、実際に経営者となっていく人が多いのではないでしょうか。

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リクルートをリクルートたらしめるのは、投資の『規模』と『判断スピード』

起業家志向の強い柴田氏を惹きつけるのは、「リクルートにしか実現し得ない」という大規模でスピード感のある投資にもある。

柴田『勝ちパターン』が見えた事業モデルに対しては、自ら会社を立ち上げるより、遥かに大規模な投資を受けられ、戦略面や人員などのリソース面でもバックアップしてもらえるがリクルート。将来的に起業を見据えていたとしても、これ以上豪華な「踏み台」となる環境はないはずです。

ただ、大規模な投資であれば他の大企業であっても実現できるはず。事業家、起業家として、リクルートでしかできない経験とはなにか。根目沢氏は、「投資の決断の速さ」をリクルートの独自性として挙げる。

根目沢同感です。「本当に勝てるのか?」を判断する際は、ミニマムコストとスピード感重視で検証サイクルを回しますが、「見込みがある」となった際の決断の早さと大胆さは、リクルートならでは。金銭的リソースだけでなく、人的リソースも惜しみなく投下します。形式的な上長承認の「スタンプラリー」によって決裁されるのではなく、事業の「実行力」が決断の軸となるリクルートでは、企画の確度だけではなく、社内メンバーの「巻き込み」もポイントになってきます。

利害関係者が多い大企業で関係各者の目線を揃えて協力を引き出し、実現へ向けて動いていく…。事業家としての「実行力」が鍛えられる環境だと感じていますね。

柴田よくある大手企業への批判に「社内承認が大変、スピードが遅い」というものがありますが、社会に大きな影響を与えたいのなら、利害関係者が多くなるのは当たり前。どんなにソリが合わない上司や部署であろうと、巻き込めないのであれば、社会に影響を与えることなんてできないと感じています。

また、リクルートは、事業家や起業家の素養がある人材にこそ、楽しんでもらえるフィールドだと思います。自身で起業する場合にはなかなか構築しえない全国規模の顧客接点のアセットやキャッシュフローの余力がありますから。

こうした背景には、リクルートが重ねてきた「失敗」の数々があると根目沢氏は語る。

根目沢成功した事業の裏で、多くの事業が失敗してきました。失敗すればするほど、形にするための「実行力」の強度が上がっていく。事業の数が多い分、「0→1」「1→100」の失敗を、『会社全体』で積み重ねているんです。その圧倒的経験量こそが、投資判断のスピード感に繋がっているのだと思います。

また、リクルートがアントレプレナーを惹きつける理由のひとつに、鍛えた「実行力」を実践する場を自由に設けられる点にある。

柴田社員のなかには、会社員の傍らでプロジェクトを立ち上げ、自分の実現したい世界を目指している人もいます。企業にいると、社内事業からかけ離れたアイデアを実現することを諦めてしまう人も多いです。そんなアイデアを肯定し、社内における実現や社外も含めた新たなチャレンジを応援してくれるのも、リクルートの特徴ですね。

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リクルートの環境を「踏み台」にできる、“気概ある若手”を待っている

結婚情報誌としてスタートした『ゼクシィ』、学習支援サービス『スタディサプリ』など、これまでも時代を先取りした事業をつくり出してきたリクルート。世の中の潮流が大きく変化していく中で、どんな人材を求めているのだろうか?

この問いに対して、二人は「前に出続けられる『0→1タイプ』が活躍できる状況にある」と、若手からの「突き上げ」を待っている心情を明かす。

根目沢いまリクルートがほしいのは、100億円から1,000億円規模の事業を生み出し、推進する気概のある人材。学生時代これを経験したという経歴の優秀さよりも、その経験のプロセスの中で何を大事に、考え、行動したかそのプロセスに圧倒的にコミットした熱量を大事にしてほしい。これから一緒にリクルートの「転換期」を作っていける人材に訪れてほしいと思っています。

そしてリクルートで活躍した人が他の場所に熱量を持ち込み、別の場所でイケてるチームを作り、インパクトのある仕事をしていく。そのチームも解散して、また別の場所に熱量を持ち込んでいく…こうした連鎖が起きたら、世の中は少しずつ元気になる気がしています。その出発点としてのリクルートであれたらと感じていますね。

柴田単に、「学生時代に起業した俺イケてるでしょ?」みたいな人には来てほしくないですね(笑)。求めているのは「自分で事業をやっているので、買い取ってください」くらい言える人材。本当に「業界を変える大きいことを成し遂げたい」と思うのであれば、リクルートの環境や、人に触れない理由がないと感じています。この環境を「踏み台」にするくらい、気概のある若者に来てほしいです。

キャリアの選択肢が広がり、なかには社会人顔負けの実績を残す学生も登場してきた。しかし、多くの人びとを巻き込み、世の中に大きなインパクトを与えたいと考えている学生がいるのなら、大企業で「1 → 100」のプロセスを経験することは、大きな糧となるはずだ。

年齢、経験に関係なく、市場を奪える事業には惜しみなく投資し、手を挙げた社員を荒野に放ち、「実行力」を鍛えさせる。

今後のリクルートを担うであろう2名は、最後に一言「熱量とスキルがある君に任せたい。リクルートは合理的で、いい意味で不平等な会社。世の中に影響を与えたいような人にとっては、起業よりも良いかもしれない」と残した。

この環境こそが、リクルートが日本で「起業家輩出企業」と呼ばれるゆえんなのだろう。

こちらの記事は2019年09月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

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藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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