連載PMI成功論──株式会社リジョブ

2年強で20億の回収に成功した、リジョブ鈴木流「オペレーション洗練型」事業グロース術

Sponsored
インタビュイー
鈴木 一平

東大起業サークルTNK所属。20歳で起業。ファッション通販ベンチャー、Webマーケティングベンチャーの創業メンバーを経験。ファッション通販ベンチャーの倒産を経験後、株式会社じげんに入社。経営企画・事業開発を経て、株式会社リジョブ代表取締役/株式会社じげん執行役員に就任。事業拡大のみに留まらず、事業を通して社会課題の解決、そして心の豊かさあふれる社会の実現を目指す。

荒巻 遵

大学時代から、中小企業や BtoBのスタートアップにて営業を経験後、IT業界への理解を深めることを目的として、リジョブにてエンジニアインターンを開始。1ヶ月の研修後、新規事業部のエンジニアリングと マーケティングの兼務を半年間行い、新規事業推進者に抜擢される。現在は求人メディアリジョブのマーケティング部門にて、 SEO責任者を務める。

関連タグ

「仕組み化が大事」──スタートアップ界隈ではよく耳にするフレーズである。

しかし、場当たり的なオペレーションから抜け出せないケースも少なくないはずだ。まさに「言うは易く行うは難し」である。

そんなジレンマをものともせず、3期連続130%以上の成長を実現し、買収にかかった19.8億円の投資額を、わずか2年強で回収した経営者がいる──株式会社リジョブの代表取締役社長を務める、鈴木一平氏だ。

この連載企画では、鈴木氏の珠玉の知見を深掘りしていく。第1回では、20代で起業から倒産、買収企業の社長まで経験した半生と、そこから導き出された本質的な組織哲学に迫った。とはいえ、組織づくりだけでは、事業成長は実現できない。リジョブ躍進の裏には「事業と組織は車の両輪」と語る鈴木氏の、卓越した事業ノウハウがあった。

連載第2回では、継続的な事業成長を見据える、リジョブの徹底したオペレーション・エクセレンスに迫る。なお今回は、鈴木氏のみならず、現場で実際に事業を動かしているメンバーにも話を伺った。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
SECTION
/

アルバイト業務を実体験。「隠れた変数」を見つけ出す

売上を因数分解し、ボトルネックを見つけ出す──。事業のグロースを試みる際、「定石」として推奨されることが多いプロセスだ。

しかし、「売上=客数×客単価」といったロジック上の要素を追っているだけで、本当に「ボトルネック」が見つかるのだろうか?

事業は「数学」ではない。現場の手触り感を知ることなくして、真の課題は見つけられないはずだ。

そうした疑問は、リジョブを3期連続130%以上の成長に導いた「名・経営者」鈴木一平氏の事業ストーリーを振り返ると解が見えてくる。

連載第1回で詳述したように、鈴木氏はリジョブの社長就任を打診された当初、引き受けるつもりはなかった。それゆえデューデリジェンスにも関与しておらず、社長就任の直前に初めて中期経営計画書を目にしたとき、困惑した──繁忙期や閑散期といった季節要因があまり考慮されていない、右肩上がりの収支計画が記されていたからだ。

事業計画に当惑するまま、初月は目標未達に終わる。当初は「自分が作ったわけでもない無謀な計画に、なぜ振り回されなければいけないんだ」という気持ちもあった。しかし、「連続的な収益増を前提に買収した」と語る株式会社じげん代表取締役・平尾氏からの強い意志を受け、「社長としての責任も負った以上、言い訳している場合ではない」と覚悟を決めたのだった。

そして、ここではじめて、鈴木氏の経営者としての卓越した手腕が発揮されることになる。「報告データを見ているだけでは目標達成できない」と考え、「とにかく現場に入り、報告書に現れない、隠れた変数を見つけ出す」ことに専心したのだ。売上に関する要素を徹底的に因数分解したうえ、実業務を追体験することで、事業計画書には記されていない「現場でしか見えない変数」を見つけ出す。この施策は功を奏し、時には、アルバイトしか把握していなかった変数が、利益に数億円規模の影響を及ぼすこともあった。

株式会社リジョブ代表取締役・鈴木一平氏

鈴木僕も含め、マネジメント層が現場の業務を実際にやってみて、あらゆる変数を洗い出していきました。アルバイトさんレベルの業務まで、手を動かしながら「そのExcelシートはなぜ使っているのか?」「その数字は何のために入力しているのか?」と細かく金脈となる変数を探したんです。すると、クライアントサイドでは見込顧客へのアプローチ方法の拡張と接触頻度の適正化、1日当たりの訪問数増加に向けた商圏最適化、ユーザーサイドにおいてはサイトへの初来訪から応募に至るまでの期間や間接効果を計測した上でのマーケティング実施など、事業計画書からは見えづらいけれど、売上に大きなインパクトを及ぼす変数が、次々と見つかりました。

SECTION
/

戦略面での差別化は難しい時代。勝負を分ける「オペレーション」

とはいえ、変数を見つけることは、あくまでも下準備に過ぎない。 経営者・鈴木一平の真価が発揮されるのは、「見つけた課題を解決する」フェーズである。

現場の業務を追体験して重要な変数を見つけ出したのち、数値を改善するため、オペレーション・エクセレンスを徹底していった。前提として、「現代は戦略面で差別化を図るのが難しいので、オペレーションの秀逸さが勝敗を分ける」と鈴木氏は語る。

鈴木Web上であらゆる情報が手に入るいま、サービスの戦略自体は簡単に模倣されてしまいます。「美容・ヘルスケア業界の求人サイト」というリジョブのビジネス形態も、決して目新しいものではありません。

しかし、戦略論はコピーできても、内部のオペレーションは簡単には模倣できない。だからこそ、オペレーション・エクセレンスが勝負を分けることになります。外部から見ていると「なぜあの会社は伸びているのか全くわからない」──そんな企業が勝つ時代なんです。

鈴木氏がそう思うようになったのは、キュレーションメディアがブームになっていた時期だ。参入障壁が低く、模倣が比較的容易な事業領域においてシェアを伸ばす企業の経営陣の話を聞いているうちに、「伸びている企業は、オペレーションが徹底的に磨き込まれている」と気づいたのだ。

そんなリジョブのオペレーション・エクセレンスの秀逸さは、バックオフィス組織に端的に現れている。一般的には、セールスなど直接的な売上を生み出す部門を「プロフィットセンター」、バックオフィスなど直接は売上に寄与しない部門を「コストセンター」と呼んで区分することが多いだろう。しかし、そのような区分ゆえに、後者のメンバーに「今の業務を無難にこなして、無駄な追加コストさえかからないようにすれば良い」という守りの意識が芽生え、「一緒に利益を生み出す」ためにオペレーション・エクセレンスを追求する姿勢が不十分になってしまう。

この問題を鈴木氏は、秀逸なコンセプト設計で見事に乗り越えた。リジョブでは、「全員プロフィットセンター」を掲げるじげんの思想を受け継ぎ、生産部門を「セールス型プロフィットセンター」、非生産部門を「プロダクティブ型プロフィットセンター」と捉えるようにしたのだ。人事制度にも生産性の観点が反映されており、管理部門の各セクションで使用されているExcelシート間の互換性の低さを解決するため、一気通貫で使える基幹システムを開発し、生産性を4倍にアップさせた事例もあった。

鈴木非生産部門であっても、「プロフィットセンター」と名付けることで、「生産性を上げて利益を生み出す」という意識を持ってもらいやすくなるんです。実際、メンバーが自発的に「請求書の封入業務にかかる時間をもっと短縮できないか?」といった議論をしてくれるようになり、“書類折りたたみ機”なるものを購入したこともあります(笑)。この思想は、株式会社サイバーエージェントの藤田晋さんのネーミングへのこだわりに影響を受けているのですが、できるだけ経営層の意図が現場に浸透するよう、部門でも、施策でも、一つひとつの言葉選びには相当こだわっていますね。

また、アルバイトでもオペレーションの改善を図れるよう、現場のユニットが追うKPIを最小単位に分割することも意識されている。「採用決定人数」のような、大きなKPIを掲げてしまうと、影響する変数が多いため、現場のメンバーが「結局何を頑張ればいいのか」分からなくなってしまうからだ。もちろん社内には、連載第1回で詳述したように、複数のミッションを同時に担う「幹部候補生制度」も存在する。しかし基本的には、最小単位までKPIを分割し、たたき台となる業務フローも作成した状態で業務を任せることで、現場のメンバーが極めるべきオペレーションを認識しやすいようにしているのだ。

SECTION
/

「あの作業、どうやるんだっけ?」がない。現場から見たオペレーション・エクセレンス

しかし、いくら経営陣がオペレーション・エクセレンスを志向しても、現場のメンバーは、目の前の業務に忙殺されるあまり、場当たり的な対応を余儀なくされてしまうこともベンチャー企業なら多いはずだ。

鈴木氏が経営者として秀でているのは、こうしたジレンマに陥ることなく、現場のメンバーにオペレーション・エクセレンスを深く徹底させることに成功している点であろう。マーケティング部門に所属する“若手のエース”こと荒巻遵氏は、「個々のメンバーが長期的な展望を持っているからこそ徹底できる」と語る。

株式会社リジョブ求人メディア事業部WebマーケティングDiv・荒巻遵氏

荒巻氏は、エンジニアのインターンからリジョブに新卒入社。現在は求人メディアのSEO責任者を務める。もともとリジョブの事業ドメインである美容・ヘルスケア領域に関心があったわけではなく、「成果報酬と掲載課金の二段構えで安定した収益を確保する、リジョブのビジネスモデルに惹かれた」と語る。

しかし、実際に入社してみると、秀逸なのはビジネスモデルだけではないと気付かされる。セールスチームのとあるセクションが、クライアント企業の属性ごとにパターンを振り分けてオペレーションのレールに乗せ改善を繰り返していくことで、メンバーが半分に減ったにも関わらず、売上が2倍に増加したケースも目の当たりにした。

荒巻日頃のあらゆる取り組みにおいて、「オペレーションをいかにして磨き込めるか」についての議論が飛び交っています。メールのテンプレートの文末の1行にまでこだわっていますし、あらゆる観点で検討され尽くしてオペレーションがつくられているんです。「あれってどうやるんだっけ?」といった会話がほとんど見られないんですよ。

リジョブで現場レベルまでオペレーション・エクセレンスが徹底できているのは、「小手先の努力ではどうにもならないレベルのミッションを課せられているから」だと荒巻氏は推察した。

荒巻僕が所属しているマーケティング部門では特にそうなのですが、「単純に行動量を増やすだけでは目標を達成できない」と、みんなが認識しはじめていて。すると必然的に非属人的な解決策を探るようになり、長期的な展望を持ち、根本的なオペレーションや仕組み自体の改善に強制的に頭を使うようになるんです。

SECTION
/

スピードが全てではない。継続的な事業成長に向けた投資の重要性

高いレベルのミッションを達成するために、個々のメンバーが必然的に未来志向になっている裏には、鈴木氏の強い想いがある。「継続的な事業成長は、経営において必須のファクターなんです」

じげん在籍時に、社長の平尾氏から「事業は非連続的に成長させ続けなければいけない」と教わった直後には、事業数字を追い続けるプレッシャーに押しつぶされそうになったときも多々あった。しかし、リジョブで新卒採用をはじめるようになり、平尾氏の言葉の意味が、鈴木氏なりに理解できるようになる。

鈴木リジョブが押し出している「社会をこういう風に良くしたい」というメッセージに共感して入社してくれたメンバーに最大限に報いるためにも、挑戦の機会を作りあげ、ライフステージにあわせた報酬を提供することが絶対必要なんです。採用時にスキルを問う要素が特に薄い新卒採用を行うようになり、初めて気がつきました。

読者の中には「そういうことを言う社長って多いですよね」と、半信半疑な方もいることだろう。しかし、鈴木氏はどうやら本気のようだ。マインドセットの転換は事業展開に如実に反映された。「短期でみるとROIは合いませんよ」と自身も笑って話すような、潜在ユーザーへのアプローチにかける投資を積極的に行うようになったのだ。

2018年7月に発表された、Dream Ami氏のCheer Ambassador(応援団長)就任もそのひとつ。短期的に見ると投資金額を回収できない可能性もあるが、認知効果の高いタレントを活用して潜在的な転職希望者にアプローチすることで、たとえ当期のP/L上では何も効果がないように見えても、来期、再来期以降のユーザーが増え回収できる可能性が大きく高まる。

また、リジョブというサービスを届ける対象にも気を配る。リジョブがリーチしたいのは、表参道や原宿で活躍している若手のカリスマ美容師だけではない。労働時間が長く、過酷な職場と言われる美容業界において、「主婦と兼業で週3日だけ働く」というような働き方改革を実現すべく、「細く長い」働き方にチャレンジしている美容師をフィーチャーする取り組みもはじめている。美容師が長く働けるような社会環境を醸成していくことで、美容業界を志したり、長くこの業界で活躍したりする方々が増えれば、長期的にはリジョブのユーザー数増加につながるというわけだ。

鈴木もちろん、掛け捨てにならないよう、基本的には1年以内での投資回収を目指しています。しかし、「回収が数年後になる投資もあっていいじゃないか」と思っているんです。未来に対する事業投資をしっかりと行えば、中長期的に見ても、継続的に事業を伸ばしていけるはずですから。

ベンチャー企業において、「言うは易く行うは難し」な「仕組み化」。鈴木氏の話を聞いていると、リジョブがそのジレンマに陥ることなく、徹底したオペレーション・エクセレンスを実現できているのは、「小手先の努力ではどうにもならない」高い視座を掲げているからだと気付かされる。短期的な売上確保に走らず、壮大なビジョンを描き、未来を見据え「継続的な事業成長」を目指すことが、結果的に、愚直で、泥臭く見える「オペレーションの磨き込み」につながるのには驚きだ。

一方、こうしたリジョブの「未来志向」を維持するためには、事業成長のことだけを考えているといつか限界が来るのではないだろうか。連載第3回では、リジョブの根幹にある「社会性志向」を紐解いていく。継続的な事業成長に欠かせない社会性の本質と、事業性との両立という難題に、鈴木氏がいかにして取り組んでいるのかを聞いていこう。

こちらの記事は2018年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

次の記事

連載PMI成功論──株式会社リジョブ
記事を共有する
記事をいいねする

執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

花井 智子

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン