連載0→1創世記
徒歩5分以内の見つからないをなくす?
tritrueの超ズボラ社長が目指す検索の新しいカタチ
オンラインでなんでも買える世の中になったことで、ほしい物やサービスを探す手間は減ったと言われている。
本当にそうなのか。
必要なものが近所にあるのに商品があるかどうかわからない...。
それでも買い物に行くなら、確実に在庫のあるオンラインで商品を購入してしまおうというのがユーザーの本音だ。
tritrueは、いままだ見えていないオフラインの店舗情報を可視化して最短の購買体験の提供を目指している。
求めているものはすぐそこだ。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
構想ゼロでサムライから資金調達
アプリを開発したのは、2012年設立の株式会社tritrue(トライトゥルー)。代表を務める寺田真介は、博士(情報理工)、東京大学CSIS客員研究員の肩書ももつ根っからの研究者だ。
日立製作所の研究所に入社。研究や学会発表を続けていたが、いつも当たり前に利用してる検索サービスGoogleのようなユーザにとって便利でなくてはならないテクノロジーをベースとしたインフラのようなサービスを開発できないか、そして本当に自分の心が求めるものに挑戦したい。そんな想いから、環境を変える決意をした。
寺田周りには自分より優秀な先輩がたくさんいたので刺激はありました。ただもっと自由に新しいもの、ユーザーが使い続けてくれるものを作っていたいと漠然と思ったんです。
それなら、自分で環境を作り出せばいい。その環境で自由にモノつくりをしたい。もっと言えば、モノづくりをする人たちが思いっきり楽しめる環境にしたい。そう考えて日立製作所を退社したものの、具体的な構想はゼロ。
当時はFacebookが日本でも旋風を巻き起こし、ベンチャーキャピタルの存在が知られ始めた時代であったことから、サービスがないのにサムライインキュベートにコンタクトを取って少額ではあるが、出資に漕ぎつけた。
寺田簡単な話だけというか、自分が面白いと思うことを話しただけで出資が決まったので、本当にお金が振り込まれているのかを心配になったぐらいです。まずは、会社を設立しないと、と思い急いで登記をしたんです。
のちに事業のコアになる「Pathee」の開発がスタートしたのはそこから1年後、サービスがローンチしたのはさらにそこから1年を経てのこと。それまでの間の寺田は、絵に描いたような貧乏生活を強いられた。電気が止められるのは当たり前のような貧乏生活を過ごしていたと言う。
超ズボラが見つけた「検索」という解決策
寺田が「困っていること」は、ほしいものを探すために外を途方もなく歩かなければならないことだった。とにかく面倒くさい。しかも、自他ともに認める面倒くさがりやな寺田は、寄り道など好まない。目的地までストレートにたどり着きたいタイプである。そうすれば、寄り道やスマートフォンで検索している無駄な時間を目的地での活動に充てることができるからだ。
これらの課題を、検索エンジンのシステムによって解決出来るのではないかと思い、開発をはじめた。
寺田たとえばクリーニング屋が近所にあることはわかっても、それぞれの店舗の値段がわからない。それがデジタル化されていたらすごく便利。ポストがどこにあるかわかれば封筒をカバンに入れたまま3日間も放置することもなくなる。
また、ソファー席があるカフェや、赤色のネクタイが買える所など、情報がデジタル化されておらず検索でヒットしないスポットがまだまだ多いのです。でも、僕が求めているのはまさにそういう情報だった。そうした空間情報を整理して、誰でも自由にアクセスできるようにして世の中を便利にしていきたかったんです。
やっと見つけた、本当に自分が作るべきプロダクト。早速、自分が求める検索エンジンの開発がスタート。1年後にβ版としてリリースするやすぐに世間の注目を集め、2014年4月には株式会社オプトから1.3億円の資金を調達した。
そしてさらに2017年には、Fidelity系投資ファンドのEight Roads Ventures Japanなどから総額3億円の資金調達に漕ぎつけている。
3年間を振り返りながら、「売り上げが1円もないのにここまで来れたのは奇跡」と寺田は話すが、マーケティングジェネラルマネージャーの原嶋宏明は、「マネタイズはもちろんしないといけないことだが、純粋に作りたい気持ちで開発に取り組んでいたことが、逆に会社の魅力に繋がったかもしれない」と話す。
原嶋寺田以外のメンバーもモノを作ることをなにより楽しんでる。技術力も高いし、『この人たちならなにか面白いものを作り上げてくれるのでは』と思ってもらえてるんでしょうね。
事実、3億円を調達するまではエンジニア以外の人材は社内にひとりもおらず、寺田が理想とする「研究者が楽しめる会社」を作るという目標に向かって突き進んできた。
しかし、研究開発したものをより多くの人に知ってもらうためには、PR・マーケティングが不可欠。そこで寺田がまず会社に呼び込んだのが原嶋だった。
ネットイヤーやCrevoなど多彩な業界を経験してきた中で、様々な媒体でインタビューを受けることも多かった原嶋。他にも数社からオファーを受けていている中で、tritrueに入社を決めた。
実は、大好きな漫画「宇宙兄弟」のセリフの「迷ったら面白い方を」選んだ結果だった。
原嶋寺田さんは研究者。初めて会ったとき、もっと純粋に研究に専念させてあげたいと思いました。本人が思いっきり楽しんで研究をさせてあげたかったんです。
僕がやることと代表がやるべき仕事の領域は全く違うので、補完しあえることも理想的でした。
Crevoでは創業メンバーとして、その拡大期を牽引した経験を持つ自分だからこそ活かせる知見。それを活かし、これまで経験していない環境で再びチャレンジしたいという想いもあった。
そんな原嶋も、入社を決めてからはtritrueのさらなる成長の可能性について考えている。
原嶋Amazon Primeに頼めばすぐ来てくれるとはいえ、歩いて1分の店に同じものがあるならどう考えてもそれが最速。商品が小さなもので値段に差がなければ、ニーズも大きく、多くの人にとって有益なサービスになるはずです。
そう考え、現在では、在庫状況をはじめとする情報を店側にスムーズに入力してもらう方法も模索中だ。
創業期からのビジョン「ラボ構想」を現実に
そんなふたりが共通して抱いている構想は、自社内に研究所、いわゆる「ラボ」をつくること。ものづくりを純粋に楽しめる環境を作り出し、そこから生まれた新しい発想を社会に発信していくのである。
寺田自身も「研究者は、あくまでも研究をすることがミッションです。だからこそ、世の中の技術的課題をテクノロジーで解決していきたい。」と信条を話す。
原嶋も、「直近で無理やりにでも作りたいですね。0からモノを作れるメンバーが揃っていることがこの会社の良いところ。世界に視点を移すと、Googleが1.5兆円を開発費に注いでいるんです。そこまでの道のりは長いですが、まずはラボチームを。そしてラボができたら、寺田さんにはまた思いっきり研究をしてもらえたらいいなと思います。“代表がラボを兼務” ってtritrueの創業期のエンジニファーストな考え方を世に広めるには良い施策ですし」と笑顔を見せる。
「ネット検索はGoogle、人検索ならFacebook、外歩き検索ならPatheeというイメージにしたい」と最後に寺田は今後のビジョンについて教えてくれた。純然たる研究者である寺田と、創業期をビジネスサイドから経験した原嶋とタッグを組んだ今、かつて寺田が心を動かされたgoogleのように、世界に通用する開発主導のスタートアップが日の目を見る日も近いかもしれない。
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