連載Andreessen Horowitz投資先スタートアップ
電動スクーターからフードロスまで。Andreessen Horowitzの2018年7月の投資先スタートアップ9社
FacebookやTwitter、Skypeといった大手テック企業に投資を行い、2009年の創業後数年で全米トップクラスのVCに登り詰めたAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)。“Software Is Eating the World.”の理念のもと、最先端のテクノロジーを駆使したスタートアップへの投資を行っている。
彼らの投資先企業をウォッチすれば、海外スタートアップの最新トレンドを見極められるはずだ。本記事では、2018年7月に投資した9社のスタートアップを紹介したい。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
全米トップクラスのベンチャーキャピタル「Andreessen Horowitz」
Andreessen Horowitzは、シリアルアントレプレナーでエンジェル投資家のMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン) とBen Horowitz(ベン・ホロウィッツ)により、2009年に創業されたVCだ。通称「a16z」と呼ばれており、カリフォルニアのシリコンバレーに本拠を構えている。
最先端テクノロジーを活用するソフトウェア企業を中心に、シードからレイトステージまで幅広いフェーズのスタートアップに投資をしている。投資総額は、2018年7月時点で総額6.6ビリオンドル(8,000億円近く)にのぼる。
創業後3年足らずで、1972年に設立された老舗VC・Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)の運用ファンド総額を抜き、アメリカを代表するVCに成長した。FacebookやTwitter、Skypeの他にも、 Coinbase、Lyft、Oculus VR、Buzzfeed、Box、GitHub、Slackなど、幅広いジャンルのテクノロジー企業に投資。Entrepreneur ASIA PACIFICが2014年に発表した、アメリカのアーリーステージVCランキングトップ100では、1位の座を獲得した。
Andreessen Horowitzの投資先企業を知ることで、最新のテクノロジートレンドが見えてくるはずだ。本記事では、2018年7月に投資した9社の企業を紹介していく。
1.電動スクーターのシェアリングサービス「Lime」
調達金額 |
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総額約371億円(3.35億ドル) ※リードインベスターはGV |
ラウンド |
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シリーズC |
概要
Limeは、電動スクーターのシェアリングサービスを提供するスタートアップ。次世代のスマートでエコフレンドリーなモビリティを実現しようとしている。今回のラウンドにはUberも加わり、Uberと連携したスクーターレンタルサービスを開始予定だ。
アメリカでは電動スクーターのスタートアップが急速な成長を見せている。創業15ヶ月後という史上最短期間でユニコーン企業の仲間入りを果たした競合のBirdも、ほぼ同時期に約330億円(3億ドル)の資金調達を発表。「ラストワンマイル」(公共交通機関を降りたあと、最終目的地までの短い距離)の移動に使われる超小型モビリティとして期待される。
2.旅行事業者向け顧客行動データプラットフォームを提供「Journera」
調達金額 |
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総額約10億円(900万ドル) ※リードインベスターはBキャピタルグループ |
ラウンド |
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シリーズA |
概要
Journeraは、旅行事業者向けに、顧客行動を可視化・管理するプラットフォームを提供している。メインサービスの「GXR (GLOBAL EXPERIENCE RECORD)」は、交通機関や宿泊事業者など、「旅」に関わる企業がターゲットだ。旅行のあらゆるフェーズ(空路、陸上交通、宿泊など)の行動データをAPIで提供する。
また、セキュリティにも力を入れており、情報提供事業者の許可なしにはデータを統合できず、個人情報はJourneraの社員ですら特定不可能な形で暗号化される。顧客行動のデータをもとに、事業者がシームレスで快適な旅行体験の創出ができるよう後押ししている。
資金調達と同時に、American Airlines、Hilton、InterContinental Hotels Groupなど大手旅行事業会社6社との業務提携も発表し、ますますサービス拡大の兆しを見せる。旅行市場は、日本でもスタートアップが相次いで参入しており、今後も注目の領域となりそうだ。
3.IoT時代のサイバーセキュリティに取り組む「Toka」
調達金額 |
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総額約14億円(1,250万ドル) |
ラウンド |
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シード |
概要
Tokaは、イスラエルのテルアビブに本社を置き、政府機関向けに、サイバーセキュリティの強化支援を行うスタートアップ。IoT時代の新しいセキュリティの形を模索している。5Gの本格導入によりIoTがますます普及していくと見られる今後、セキュリティ対策は避けては通れない問題となるはずだ。事業の詳細はまだ非公表だが、続報に期待したい。
4.クラウドベースのビジネス用電話・ビデオ会議システムを提供「Dialpad」
調達金額 |
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総額約55億円(5,000万ドル) ※リードインベスターはアイコニック・キャピタル |
ラウンド |
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シリーズD |
概要
Dialpadは、クラウドベースのビジネス用電話・ビデオ会議システムを提供するスタートアップ。「仕事は "する" ことであって、職場に "行く" ことではない」という理念のもと事業を拡大し、日本にも既に上陸している。今後は、質問への受け答え、電話相手の感情判断、自動での議事録作成などを行える会話型AIを開発していくという。ヨーロッパや日本を含むアジア諸国での採用強化にも、調達資金が使われる予定だ。
リモートワークが普及していくにつれ、こうしたビデオ会議システムは必須のインフラになっていくだろう。引き続き動向を注視していきたい。
5.“DaaS(Data as a Service)”で企業のビッグデータ解析を支援「Cazena」
調達金額 |
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総額約11億円(1,000万ドル) ※リードインベスターは、アンドリーセン・ホロウィッツ他3社 |
ラウンド |
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コーポレートラウンド |
概要
Cazenaは、DaaS(Data as a Service)のクラウドデータプラットフォームを提供するスタートアップだ。企業のビッグデータ解析をシンプルにするとしており、これが普及することで使用するツールやセキュリティなどの問題に頭を悩ませる必要がなくなるという。
今後も、ビッグデータ解析は領域を問わず必須のプロセスになるだろう。そうした潮流に伴い、Cazenaのようにインフラ部分をカバーする企業の存在感も高まっていくはずだ。
6.個人の医療・健康履歴統合プラットフォームを提供「Ciitizen」
調達金額 |
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総額約3.3億円(300万ドル) ※リードインベスターはアンドリーセン・ホロウィッツ |
ラウンド |
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非公開 |
概要
Ciitizenは、各所に散らばっている健康に関する履歴を、安全に統合するためのプラットフォームを提供している。データを統合することで、より効果的な治療が行えるようになり、他の患者へもデータを還元できる。
GDPR(EU一般データ保護規則)にも、個人が複数サービス間でデータを移行できる「データポータビリティ権」が定められている。データ活用がますます進展するにつれ、こうしたデータ統合へのニーズは高まっていくはずだ。
7.関心のある社会問題に応じた投資ポートフォリオを組成「OpenInvest」
調達金額 |
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総額約11.5億円(1,040万ドル) ※リードインベスターはQEDインベスターズ |
ラウンド |
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シリーズA |
概要
OpenInvestは、関心のある社会問題に応じた投資ができるサービスを、個人に向けて提供している。同サービスでは、二酸化炭素削減や銃暴力阻止、女性の職場進出など、各々が関心のある社会問題をヒアリングしたうえで、それに応じたポートフォリオを組成してくれる。約33万円(3,000ドル)から投資可能だ。
「ソーシャルグッド」を重視する世界的なトレンドにも符号するサービスである。今後もこうした社会貢献につながるサービスの動向は注視していきたい。
8.データに基づいた意思決定を支援するソフトウェアを開発「Sisu」
調達金額 |
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総額約15.7億円(1,420万ドル) ※リードインベスターはアンドリーセン・ホロウィッツ |
ラウンド |
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シリーズA |
概要
Sisuは、人々がデータに基づいたより良い意思決定をできるための、新しいタイプのソフトウェアを開発しているスタートアップ。CEOはもともとスタンフォード大学で、データ解析や機械学習の研究プロジェクトに携わっていた経歴を持つ。
詳細はまだ明かされていないが、データ量が加速度的に増えていく時代、こうしたデータの活用方法の模索は決定的に重要だ。Andreessen Horowitz創業者のベン・ホロウィッツもボードメンバーに加わっており、期待は高まる。
9.フードロス問題に取り組むアグリテック・スタートアップ「Apeel Sciences」
調達金額 |
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総額約77.6億円(7,000万ドル) ※リードインベスターは、ヴァイキング・グローバル・インベスターズ |
ラウンド |
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シリーズC |
概要
Apeel Sciencesは、農産物の鮮度を維持し、腐敗速度を遅くするための物質を開発している。遺伝子組み換えではなく、植物由来の物質で、農産物にスプレーをして使用する。これにより食料廃棄を減らし、フードロスの問題を解決しようとしているのだ。
フードロスは、世界規模で取り組まなければいけない問題のひとつ。日本でもこの領域に挑戦するスタートアップが現れはじめており、注目の領域だ。
今回は、Andreessen Horowitzが2018年7月に投資を行った計9社を紹介した。今後もFastGrowでは、定期的に海外の主要VC / CVCの投資先情報を発信していく。
こちらの記事は2018年09月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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