「Visional」は連続起業家である
─創業からビズリーチを支えたCTO竹内真氏が初めて明かす、逆張りの経営戦略
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「世の中に大きなインパクトを与える事業を創り続ける」
という意志のもとHR領域をはじめ複数の事業を立ち上げ、いまやHRTech領域においてその名を知らぬ人はいないほどの成長企業となった、株式会社ビズリーチ。
わずか創業10年で、売上高214.9億円、営業利益5.23億円(※2019年7月期)──そして、1,400人を超える従業員を擁する同社。
彼らはここ数年で次々と新規事業を立ち上げ、知見のあるHR以外の業界にも進出し始めた。そして2020年2月には、ホールディングカンパニーの「ビジョナル株式会社」を新設し、グループ経営体制へと移行。各事業会社に権限が委譲され、迅速かつ柔軟な経営判断が可能となる新体制をスタートさせた。
なぜ、慣れ親しんでいるはずのHR領域を離れてまで、新規事業の開発に注力するのだろうか。その裏側にある真意と、新しい挑戦を続けられる“組織としての強さ”を探るべく、創業以来同社にてCTOを務めてきた竹内真氏にお話を伺った。
- TEXT BY TAKESHI NISHIYAMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY JUNYA MORI
課題解決型の起業家集団は、意志をもって産業を越境する
竹内これまで、HR領域を中心としたサービスを多く手掛けてきました。それは「働く」という行為は人の人生の大半を占めていて、「働く」にまつわる課題を解決したときの社会的影響が大きいから。
ただ、これはあくまで取捨選択の結果であって、HR領域自体に固執しているわけではありません。
Visionalとは“何の会社”なのか。CMで有名な転職サービスを展開している印象から、「人材サービス会社」だと認識している人は多いだろう。しかし、冒頭に挙げたように、竹内氏はそれを否定する。
「我々は基本的にノンジャンル、縦割りの産業構造に縛られない」と語る背景には、「社会に対する課題解決」への明確な意志が宿っていた。
竹内世の中が時の流れと共に便利になっていくことも多い一方で、その便利さの裏側には、今までなかった陰や窪みができたりするものです。
我々は、時代の変化によって発生している社会の課題をビジネスの種として捉え、そこで何を生み出すことができるのかと、常に考え続けています。
本気で社会の課題解決にコミットしようとしたら、規模の大小にかかわらず、そこには大きなリソースや熱量が必要です。だから、多くの人を動かす組織としては、できるだけ「これを解決できれば社会に与えるインパクトが大きい」と思えるものを事業化しているんですね。
2017年にリリースした事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」や、2019年に始めたオープンソース脆弱性管理ツール「yamory(ヤモリー)」は、まさに“ジャンルにとらわれない事業づくり”を体現している好例だろう。
社会全体を見渡し、根深い課題と紐づくマーケットがある場所に、彼らは領域を横断してコミットする。その勢いは破竹のごとく、ここ数年は年に2つほどのペースで新規事業を創出し続けている。
竹内創業メンバーが集まると、話すたびにやりたい事業のアイデアが出てきます。その領域はHR以外も含めてさまざまです。なにせ、今の社会は課題だらけなので。出てきた事業案に対して、熱意を持ってトップを張れそうな人がいれば、どんどん任せています。
新規事業を立ち上げても、それが十分にスケールするより前に、すでに別の事業をつくり始めている。Visionalという組織自体が、連続起業家なんです。
組織が“連続起業家”であるための力と創業以来のDNA
なぜ、Visionalは産業の枠を越えて、勝ち筋の見える事業を創出し続ける“連続起業家”でいられるのだろうか。この問いに対して竹内氏は「自分たちが何者であるか、何が強みなのかを知っていることだ」と答え、自社の強みを2つ挙げた。
竹内1つ目は、プロダクト開発の力です。組織として、ITの文脈におけるプロダクトデザインやエンジニアリングなどに精通しており、「0から1を生み出し、つくり込んでいく力」があります。
ユーザー目線で課題を発見し、既存のシステムをよりよく変えていく視座も、常に持ち合わせていますね。
2つ目は、マーケティング力です。弊社はマーケティングを代理店などの外部に委託していません。あらゆる手段を用いて、効率的なマーケティングを実践しています。これは、「0から1を生み出したあと、それを広げていく力」と言ってもいいでしょう。
Visionalには、セールスがエンジニアに要望を伝える際、WhyやWhatを伝え、Howは任せる文化があるという。セールスが要望を伝えたら、エンジニアはWhyやWhatを理解しながらHowを考える。
そうすることで、エンジニアは創造性を発揮でき、社内受託のような関係性もなくなる。創業期からこの文化が浸透していたそうだ。「Visionalではエンジニアがセールス側に歩み寄ることも多いんですよ」と竹内氏は語る。
強みをさらに高めるのが、会社全体で事業を向く組織構造だ。自分たちでプロダクトをつくり、自分たちでユーザーに届ける。セールスやエンジニア、デザイナーにとどまらず、経理や総務も含めて組織の全員が同じ事業、同じ方向を向いている状態を、竹内氏は「モノリシック(一枚岩として統制された)」な構造と呼んだ。
竹内できるだけインハウスで完結させたいんですよね。「どこにたどり着きたいのか」という目標が違う人たちと事業をつくると、ボタンの掛け違いが起こりやすくなりますから。事業に関わる人たち全員の目的意識が統一していないと、連続して事業を立ち上げていくのは難しい。
モノリシックな状態を目指して、弊社は創業時から「情報に壁をつくらないこと」を意識しています。たとえば、別の事業や職種に対して「何をしているかわからない」という声が上がってきたら、情報を届けるようにする。エンジニアも事業のことを知ろうとし、エンジニア以外も技術的なことを知ろうとするように、働きかけています。
事業・職種間で情報を越境させると、お互いの現在地や志向がわかり、目線がそろってくる。これが、連続起業を可能にする原動力に、結び付いていくんです。
社会の課題解決のために、連続して事業を立ち上げていく。その土台となっているのは、プロダクトをつくり、マーケティングする力であることは間違いない。そこに加えて、これまでの事業で培った法人営業の力が、Visionalの事業に厚みを持たせている。
竹内店舗ではなく、さまざまな産業の法人とつながりがあり、BtoBセールスの知見が貯まっています。社会の経済活動の大部分は法人が担っている。そこにアプローチできる営業力は、社会全体のフレームを変える力になり得ます。
BtoBセールスの経験値は、業界構造を理解し、適切なビジネスモデルやプロダクトの機能に落とし込むためにも有効だろう。つまり、法人営業の情報が、プロダクト開発自体を強くするのだ。事業を加速させるため、どんなに手間がかかろうとも、彼らは垣根のない情報のシェアに努め続ける。
また、情報のシェアは推奨する一方で「ナレッジのシェアは行なわない」という。別事業におけるナレッジを有効に活用するのは、複数の事業をしかける際の定石のようにも感じられる。Visionalがナレッジシェアをしないのは、一体どうしてだろうか。
竹内これだけ変化の激しい時代に、多様な業界で0から1を生み出し続けるためには、「アンラーニング」が重要です。
学習で蓄積したナレッジは、しばしば昔のルールを引きずります。小手先のテクニックや5年前の必勝法などがナレッジ化されると、新たな事業創出の妨げになる。
普遍的なものを除いて、事業を越えたナレッジの定着をさせないようにしています。
過去の成功体験に依存せず、無理やり既存のビジネスモデルを持ち込まない。現状の社会や産業の構造と真摯に向き合い、必要な情報は垣根なく共有して、新たなソリューションを描き出す。決して楽な道を選ばない彼らだからこそ、連続起業家たり得るのだ。
会社文化が支える「成長せずにはいられない環境」
2020年4月には創業11周年を迎える。10年の節目を越え、グループ経営体制にシフトするという大きな決断をもって、変化を厭わない“連続起業家”的な組織であり続けることを、高らかに宣言した。ここから先の10年、20年に向けての展望を聞いてみると、竹内氏は落ち着いた声で「やること自体は変わりませんよ」と言った。
竹内先に話した通り、社会から課題がなくなることはありません。生まれ続ける課題をテクノロジーとBtoBのビジネス力で解決していくのが、我々のミッションです。会社としての規模やフェーズは変わっていったとしても、その方針がブレることはないでしょう。
10年後には「創業事業ってHRだったんだ」と言われるくらい、さまざまな事業を展開していることが、ひとつの目標ですね。
「成長のために挑戦し続けたい」とは誰もが思うこと。しかしそれは、並大抵のことではない。個人においても、組織においても、変化には必ず痛みが伴うものである。
竹内新しいものをつくれる人は、たとえ現時点で携わっている事業が上手くいっていても、構わず新しい事業に動かします。1つの事業にコミットしている状態では、なかなか次の事業づくりにリソースが割けませんから。
そうすると、既存事業で上のポジションが空きます。少しでも見込みがあれば、すぐに上のポジションに引き抜かれるので、部下からすれば心許ないリーダーが多いかもしれない。でも、最初から完璧にできる人なんていませんから。
失敗するのは前提として受け入れ、みんな苦労しつつ、楽しみながら日々ストレッチしています。これは制度でフォローしているわけではなく、文化として根付いている気質です。
成長事業から優秀な人を外してリソースを分散させることは、組織として大きなリスクにならないのか。抱いた疑問は、続く竹内氏の言葉にすくい取られた。
竹内営利組織としては非合理的な判断なんですよ。事業の成長スピードだけで考えれば、勝ち筋の見えている1つの事業にリソースを集中させて、高速で伸ばしていく方が正しい戦略です。
それでも我々は、常に中長期的な視点に立って、リスクのある新規事業の創出にプライオリティを置いています。これは創業時から変わらない、弊社のDNAですからね。
ビジネスは真剣にやっているけれど、それ以上に遊んでいるという感覚です。新しいものづくりを、真剣に楽しんでいるんです。
成功したフレームや短期的な利潤に囚われず、新たな挑戦に嬉々として飛び込んでいくDNAが、彼らの組織に刻み込まれている。それは一般的な、もとい、従来的な企業論理で言えばある意味で脆弱性かもしれないが、だからこそ他社の追随を許さない優位性にもなり得るのだろう。
「変化せずにはいられない環境」とは、すなわち「成長せずにはいられない環境」と言い換えられる。成長痛を厭わず、楽しんで受け入れていく風土が、Visionalには培われている。一朝一夕では到底培われない会社文化が、組織の、そして個人の飽くなき成長を支えているのだ。
社内事業の多様性が、無数のキャリアパスを生み出す
「Visionalなら業界を問わず、新しい挑戦ができる」という認識は、少しずつ外に広まってきている。直近の新入社員には「新規事業に携わりたい、いつか自分でも立ち上げたい」と希望する人が増えてきているそうだ。
竹内弊社の中には、立ち上げ準備から拡大路線まで、さまざまな事業のグラデーションがあります。
あらゆる事業フェーズのあらゆるポジションが社内に内在しているから、普通なら転職しないと難しいようなキャリアチェンジも、社内でできる余地があるんです。
自分の希望する成長に合わせたキャリアパスを、ひとつの会社の中でここまで描ける環境は、なかなか他にはないと思います。
ジェネラリストが活躍する場もあれば、スペシャリストが活躍する場もある。それぞれの次のステップも社内で見つかるし、知りたいことは聞けば誰かしらが教えてくれる。挑戦の意志と学び続ける胆力さえあれば、何者でもない若手が一端の事業家になるまでのステップを、一気通貫で駆け上がれるのだ。
竹内部署間の越境性が高いことも、我々の組織の特性です。エンジニアやデザイナー、営業などの異職種同士の距離感を近づけて、架橋していくようなマネジメントをしています。
これも、普通の会社ならやらないことです。縦割りで情報を閉じて狭く共有した方が、個別は高速に成長しますからね。しかし、それでは新しい創造は起こらないし、挑戦する土壌も育ちません。
他社に比べれば洗練されていない組織形態かもしれませんが、それゆえの伸びしろ、ポテンシャルの高さがある。短期的に見れば、合理的ではないかもしれないし、苦労もしています(笑)。
けれども最後に勝つのは、同じフレームの事業を再生産し続ける会社より、変化し続ける社会に適応しながら、0から1に挑戦し続けられる我々だと思っていますよ。
【22卒・23卒限定】ビズリーチ急拡大を支えた取締役2名が登壇。いま入社すべき「事業家輩出企業」とは?
こちらの記事は2020年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
西山 武志
story/writer。writerという分母でstoryを丁重に取り扱う生業です。「よい文章を綴る作業は、過去と未来をしっかりと結び合わせる仕事にほかならない」という井上ひさし氏の言葉を足がかりに、私は一つひとつ書き残すことで、歴史に参加していきます。
写真
藤田 慎一郎
1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
校閲
佐々木 将史
1983年生まれ。保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。フリーの編集者、Webマーケターとして活動を開始。保育・福祉をベースにしつつ、さまざまな領域での情報発信や、社会の課題を解決するためのテクノロジーの導入に取り組んでいる。関心のあるキーワードは、PR(Public Relations)、ストーリーテリング、家族。
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