見えるファンとの対話で「究極のマーケットイン」。ライブコマースでビジネスを成長させる方法論
メルカリからSHOWROOMまで、メガベンチャーもスタートアップも続々参入するライブコーマス市場。しかし、「toCユーザーが物販する事例が目立つ」、「自社ビジネスには関係ない」と感じてしまうスタートアップ界隈の読者も多いのではないだろうか。
そんな中、アパレル業界では、ライブコマースへの注目度は日に日に高まっている。
ソーシャルライブコマース「Live Shop!(ライブショップ)」を運営するCandeeでは、ライブコマースによるファンとのコミュニケーションを活かしたD2Cブランドを昨年続々とローンチ。そこから見えてきたライブコマースをビジネス活かす可能性と、ライブコーマスが紡ぐファッションの可能性について迫った。
- TEXT BY TAKAHIRO SUMITA
- PHOTO BY SHUNSUKE IMAI
Candeeはライブ配信のためのプラットフォーム「ライブショップ!」の運営に加えて、配信素材の制作やインフルエンサーのマネジメントなど、ライブコマースに関わるあらゆる業務を包括して提供している。
ここ数年は自社ブランド(PB)に注力しており、すでにインスタグラマーの佐野真依子が手掛ける「TRUNC 88(トランクエイティーエイト)」やAKB48グループ公認ファッションブランド「UNEEDNOW(ユーニードナウ)」、インスタグラマーrinaによる「CHERISH ME(チェリッシュミー)」、そして世界観重視の「BROWN&STREET(ブラウン アンド ストリート)」などのブランドを展開している。
鍛治ライブコマースにはさまざまな意味がありますが、最大の目的は販促でしょう。これまでECにおいてリリースや広告、SNSなど“プル型”の訴求しかなかったところに、ライブコマースという“プッシュ”型の商品訴求が生まれたわけです。加えて、配信ごとに一つのアイテムを紹介するなど、プロダクトの深掘りも可能です
“動画元年”はもう来ている!
アパレルECやSNSにおいて“動画元年”が来るという予見は数年前からあった。鍛治氏いわく「動画元年はすでに訪れている」と言うが、たしかにSNSでも動画広告を見ることは増えたし、動画メディアも急増している。消費者が動画慣れしてきた今こそ、アパレル企業も動画クリエイティブに力を入れるべきだと鍛治氏は考える。たしかに洋服の素材感を見せるという点でもアパレルと動画の相性は確実に良い。
鍛治リッチに魅せる必要のあるブランディングやPRという目的以外で動画制作にカロリーをかけるのはナンセンスだと思っていて、販促としての動画制作にコストも時間もかけるのは採算が合わないんです。お金がないという理由でライブコマースをやらない企業が多いんですが、会社のプレスルームで販売員やPRが商品説明の配信をする。これって一切お金はかからないんですよね。
鍛治氏は「とにかく始めること」を強調する。曰く、意気込まずにやってみて、フィードバックを得てゆくべきだ。まずは週1回、3ヶ月続けるだけでも効果は見えるという。配信した動画を切り取れば、ECサイトに使用するイメージ動画としても活用できるわけで、お金をかけずに生み出した動画によってECサイトの滞在時間が5倍に伸びるなど、思わぬ成果が出たブランドもあるそうだ。
一つだけ重要なのは「誰が演者になるか」。ライブ配信といえば影響のあるインフルエンサーなどを想像するが、鍛治氏は“アンバサダー”の起用を薦める。重要なことは「なぜ動画でこの人が語っているのか」を理由づけるすること。だからブランドのアンバサダーを立てることで見ているファンも納得がゆく。もちろん、慣れてくれば販売員やPRが演者になることもできる。
Candeeはなぜ自社ブランドを数々生み出すのか?
CandeeがいくつものPBを展開するのは、自社でもアパレルの新しい売り方を模索するためだ。
鍛治見える顧客に対して顧客の欲しいものを、ライブコマースというテクノロジーを使って販売をするんです。要は”究極のマーケットイン”ですよね。ここ数年はアンバサダーを立てたり、アイドルと組んだり、演者に合わせて、あえていろんな業態で売り方を試してきました。ようやく勝ちパターンというか目的別のチャネルの売り方が見えてきました。
具体的には、ライブ配信だけの先行販売やフラッシュセールをしたり、商品開発のためのアイデアや意見をもらうライブ配信を行ったり、手法はさまざまだ。D2Cブランドだからこそ、見えているファンに対して本当に欲しいものをつくり、テクノロジーにより買うきっかけとなるコミュニケーションを仕掛ける。
特に、同社5番目のブランド「BROWN&STREET」ではプロダクトに重点を置き、あえてブランドプロデューサーを起用していない。着こなしを提案してくれる“ブランドアンバサダー”としてインフルエンサーを起用しているだけだ。人が立っていないにもかかわらず、配信ごとの売り上げは上々だ。単に人が立つブランドが売れるという固定概念を壊すことにも成功したのだ。
2019年は消化率100%に挑戦
こうしたノウハウを蓄積してきたCandeeは今年も複数のブランドをローンチする。
鍛治今年も新しいチャレンジを仕掛けていきます。これまでどのブランドもセールをしないという方針でしたが、そうするとどうしても余剰在庫が出ます。それをどうD2Cで解決できるか、つまり消化率100%に挑戦したいんです。 これまでも『UNEEDNOW』は受注生産という体制をとっていましたが、消化率100%とはいえ、購入のタイミングを逃したお客さんが買えないなど、ユーザーにとってのデメリットがありました。こうした会社都合の仕組みではなく、消費者にメリットのある形での新しいプロダクトの作り方をしてみようと思います。
詳細は明かせないまでも、このような非常に興味深い概要を語ってくれた。ローンチは3月を予定しているそうだ。
鍛治ライブコマース市場に関しては、今年プラットフォームをアパレル以外にも開放し、どんどんプレイヤーを増やすフェーズに入ります。今年はプレイヤーが出そろう一年になるでしょう。その他のブランドが来年くらいにどんどん後を追ってくる形でライブコマース市場は醸成していくと思います。今年始めるブランドは間違いなくアドバンテージがあるはずですよ。
転載元:ファッションを軸として、デザイン・ビジネス・テクノロジーなどをテーマに、インスピレーションやスペシャルイベントを展開するWeareはこちらから
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こちらの記事は2019年03月15日に公開しており、
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執筆
角田 貴広
写真
今井 俊介
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14記事 | 最終更新 2021.04.20おすすめの関連記事
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