社長はあくまで「アドバイザー」──テックドリブンで主体的なプロダクト開発を、構造改革中のCROOZ SHOPLISTに学ぶ
「若手エンジニアが成長できる環境」とはなにか。
最先端技術を扱っている事業?ベテランエンジニアが多い組織?それとも技術研修が充実している企業?──どれも間違いではないだろうが、これらと同等、いやそれ以上にエンジニアの成長度合いに大きくかかわるのが「変化の大きさ」だ。
大きく変化している渦中の企業でエンジニアとして働くことは、技術水準の高さや研修制度の充実度だけでは得がたい、唯一無二の経験となるだろう。本記事で紹介する、『SHOPLIST.com by CROOZ』を展開するCROOZ SHOPLIST(以下、SHOPLIST)も、まさしく急激な変貌を遂げている企業の一つである。
以前、FastGrowでも取り上げたように、SHOPLISTは現在、親会社クルーズのトップである小渕宏二氏が陣頭指揮を執って全社的な構造改革に取り組んでいる。エンジニア組織もまさに改革のさなかにあり、CTOの鈴木優一氏は“日本一テックドリブンなECカンパニー”へと変貌を遂げつつあると語っていた。
ただ、CTOの見解だけで「変わった」と判断を下すのは早計だろう。本記事ではSHOPLISTのエンジニア組織の実状を、開発現場で活躍する2人の社員に聞く。話を伺うのは、サーバーサイドエンジニアの平石匡氏と、SEO統括及び「MEGASALE(※)」開発担当プランナーの竹田小里氏。どちらも入社3年目で、構造改革が始まる前から同社に在籍しているメンバーだ。(※SHOPLIST最大級のセールイベント)
最前線で奮闘する2人の目に、現在のSHOPLISTのエンジニア組織はどのように映っているのか?変わろうとしている会社の姿勢を好意的に受け止めているように感じられる両氏に、変化の過程にある組織で働く魅力を聞くと、「社長と同等の権限」を持ち、“意思決定者”として開発を進める現場メンバーたちの姿が浮かび上がってきた──。
- TEXT BY ICHIMOTO MAI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「社長と同等の権限」を持つエンジニアたち
まず聞いたのは、意思決定権の大きさについて。
別記事で詳しく紹介したが、SHOPLISTの構造改革は、現場メンバーから徹底的に課題を吸い上げ、その解決を小渕氏と二人三脚で推進していく「重要プロジェクト」という仕組みに則って進められている。そうした体制について、開発現場で働くメンバーはどのように感じているのだろうか?
平石現場メンバーでも、重要プロジェクトオーナーになれば、社長と同等の意思決定権を持てるようになりました。ただ、全員でゆっくり合意を取っているというわけではなく、あくまでもオーナーがスピーディーに意思決定しています。納得できないような判断や指示をするオーナーはいないですし、オーナーとプロジェクトメンバーの距離感もかなり近いので、不満ややりづらさはないですね。
そう語る平石氏は、大学卒業後、Webサイトの受託開発に1年間従事していた。オフラインのモノと連動して構築されるECサイトの技術に関心を持ち、2019年2月、SHOPLISTに転職。面接で出会ったエンジニアのレベルの高さに感銘を受け、「自分もこんな風に成長したい」と思ったことが、入社の決め手となった。
現在はサーバーサイドエンジニアとして、SHOPLISTの在庫管理や商品登録機能などの開発を手がけている。並行して、重要プロジェクトのタスクも遂行。システム面の改革に貢献している。
平石自分が関わっている重要プロジェクトの一つが、商品の配送遅延に対応する業務の効率化に取り組むものです。配送遅延にはさまざまな原因があるのですが、今まではそれを明らかにするために、ブランド側に毎回確認を取らなければなりませんでした。このプロジェクトでは一つの画面で配送状況を確認し、原因を突き止められるシステムを開発しています。
基本的にはエンジニアである自分がどのように作業するのかを判断し、プロジェクトオーナーに確認を取って進めています。単に「言われたものをつくる」というスタイルでは全くありません。
オーナーシップを持った働き方をしているのは、SHOPLISTのSEOを統括する竹田氏も同じだ。Web広告代理店、大手人材・広告代理店などの複数の企業でプロモーションや開発ディレクション、SEOなどを手広く手がけてきた竹田氏は、平石氏と同じ2019年2月、SHOPLISTに入社した。
竹田たとえば、目標を上から押し付けられるようなことはありません。SEOのKPIから私が作り、社長に報告しています。そのときに「もっと短期間で達成できるんじゃない?」と発破をかけられることはありますが、基本的には自分で目標を決め、数字に責任を持って業務を進めています。
ちなみに社長は、私が報告した問題の中でも、部署を横断して解決が必要なものがあれば、すぐに動いてくれるんです。部長会で共有したり、各部のキーパーソンに直接連絡したり。経営層がどういった動きをすれば、現場の我々が一日でも早く問題解決に動けるかを、日々あらゆる方向から考え、サポートいただいていると感じます。
“技術的負債の返済”こそ、成長して市場価値を高めるチャンス
ただ、いくら意思決定権を持っていても、技術水準が高くなければ、成長機会とはなりづらいだろう。この点に関しても実態を聞くと、すでに組織的な対策が講じられていた。
平石重要プロジェクトの一つとして、「レガシーシステム刷新プロジェクト」が進んでいます。SHOPLISTには2つのサイトが統合して作られた背景があり、その際に一時的に作られたけれども、今は使われていないプログラムが存在するんです。これらはサービス提供上のデメリットはありませんが、どのコードがどういう意味を持つのかわかりづらくなり、開発効率を押し下げてしまいます。
今まで具体的に解決に向けて動けていなかったのですが、このプロジェクトの施策の一つとして、その不要なコードを取り除くために、作業にあたっています。
技術的負債の返済は、その必要性は感じられるものの、一見あまりクリエイティブな作業には思えない。そうした取り組みにコミットすることに、はっきり言って不満はないのだろうか?
竹田技術の古さによる問題を解決する作業は、自分のスキルアップにつながると思っています。会社にレガシーな部分が残っているからこそ、それを新しくする経験ができます。SHOPLISTでは、問題を見つけて声をあげれば、それが重要プロジェクトになる体制ができていますから。そして、どの会社も、課題を見つけて解決できる人を求めているはずだと思います。
平石ネガティブな気持ちだけではなく、結局どんなシステムも年数が経てばレガシーになるわけです。現在会社としてレガシーな環境を脱却するという方針であり、この規模のサービスでそのような経験を積めるのは貴重だと思います。
また、変わりつつあるのは、技術水準だけではない。給与水準に関しても、2人は会社の姿勢の変化を感じているようだ。
平石構造改革によって評価制度も変化しました。今までは360度評価がベースだったのが、重要プロジェクトの成果に応じて評価される仕組みに変わりました。僕自身、明確な成果さえ出れば、きちんと評価されるようになった感覚がありますし、全エンジニア(社員)に対して再度給与の見直しが入り、それぞれ適正な給与になったと聞いています。
竹田つい最近、全社会議の場で社員アンケートが行われたんです。「素敵なオフィスに行きたいですか? それとも、オフィスはちょっと古くても給与が上がった方が良いですか?」と。会社が給与についてちゃんと考えている姿勢を感じて、これからどんどん変わっていくんだろうなと期待を抱きました。
社長は「指示をくれる人」ではなく「アドバイザー」
竹田氏はそうした社長の言葉に加え、自身の担当するSEOが重要プロジェクトの一つとなって以降、会社や自分自身の変化を如実に感じるようになったという。
竹田実はSEOを目的とした開発って、私が仕様書を作ってエンジニアさんに開発してもらうことで解決できるのはほんの一部なんです。大半は他部署の業務フローや施策に関わるため、問題が見えても思うように対策を進められず、もどかしい状況が続いていました。
SEOが重要プロジェクトになった際、こうした胸の内を社長に話すと、「いま分かっている問題を全部教えて。いろんな人に協力してもらいながら前に進めていこう。自分も協力する」と言ってくださいました。実際、社長にSEOの問題点とその解決策を報告すると、「いま視点が狭まっているから、知見のあるあの人にも聞いてみようか」と、その場でグループ会社の役員に電話をしてくれたんです。
そんな社長の行動に影響を受けて、私も「どんなに難しい課題でも解決しよう」と思い、解決するまで何度もいろんな人に相談するようになりました。その結果、SEOの数字は大幅に改善。2020年度3Qは、SEO経由の流入数は昨対比167%となりました。それを機に、以前よりもいろんな部署から「これはSEOに影響ありますか?」という相談をもらうことがが増えました。たった数カ月でSEOの重要性が社内に浸透したのは、すごく嬉しかったですね。
社長の積極的なサポートにより、竹田氏のマインドは大きく変化した。会社の課題を丁寧にすくい取り、全てを解決しようとする小渕氏の姿勢は、メンバーのモチベーションにも大きな影響を及ぼしているようだ。「会社の変化を感じたのはこのときだけではありません」と、竹田氏は続ける。
竹田SEOの業務とは別に、セール機能の開発ディレクションを担当した際、歴代の担当者から代々引き継がれてきたテスト項目が1,300箇所ほどあったんです。「さすがに多すぎるのでは?」と思ったのですが、必要性を検討するほどのスケジュールの余裕はなく、一つひとつ地道にチェックしていました。
すると、たまたま通りかかった社長が、「最近どう?」って声をかけて下さったんです。「テストが大変過ぎる」と話すと、社長がこの問題をすぐに重要プロジェクト化し、CTOの鈴木がプロジェクトオーナーとして動いてくれました。結果、テスト項目は約2ヶ月で500項目にまで削減されました。次回のセールではさらに減り、将来的には一部のテストが自動化される予定です。
小渕氏のリーダーシップが、構造改革において大きな役割を果たしていることが伺い知れる。竹田氏にとって、小渕氏は「指示を与えてくれる人」ではなく、「アドバイザー」だという。「社長のアドバイスは、自分がプロジェクトを進めていく上で非常に役に立っている」と、竹田氏は実感を込めて話す。
竹田社長に提案するのは、より成功確率を上げるためのアドバイスをもらうためです。「こういう懸念を考慮しないといけない」「こういう人に話を聞いたり、相談をしておかないと」といった、リアルな感覚に基づいた指摘は全部、本当におっしゃる通りだなと納得する内容ばかり。さまざまな気づきを得る場になっています。
目標は「ECナンバーワン」──徹底的な「変化」の先に描く未来
構造改革による変化は、二人の目にポジティブなものとして映っているようだ。しかし、会社が大きく変わっているからこその「嬉しい悲鳴」はある。
竹田約半年前に構造改革が始まってから、より一層スピードを求められるようになったので、ついていくのは正直大変です。私は自分のSEOの施策だけでなく、他の人の業務がSEOに及ぼす影響もウォッチしないといけないですしね。それから、課題の解決はほとんどが開発を伴うので、エンジニアの方はかなり大変だと思います。
平石たしかにそうですね。開発部のメンバーはこの半年で45人から75人に増えました。
改革が大きく進んでいるからこその人手不足を解消するため、採用活動の加速は必須だ。構造改革の前後を知る2人は、今のSHOPLISTにフィットする人物像について以下のように語る。
竹田変えるのが好きな人です。課題が見えたときに会社のせいにしてしまう人は、合わないかもしれません。今は会社が変化する姿を見れる貴重なタイミング。変革が好きな人に対しては、「このタイミングで入ったほうがいいですよ」とおすすめしたいです。
平石「こういう風にしたい」と言える人が合っていると僕も思います。それを会社も求めていますし、思っていることを言えないとままだと、ストレスを抱えてしまうだけでしょう。
変化する組織に所属していることを、肯定的に捉えている二人。変わる会社とともに自分自身も成長を遂げている手応えがあるのだろう。そんな二人が、SHOPLISTで実現したい未来とは?
平石まずはエンジニアとしてのスキルをさらに磨きたい。セール時の大量のアクセス処理など、日々増えていくデータを扱うスキルを高めていきたいです。サーバーサイドエンジニアとして、SHOPLISTの中長期の目標である「売上1,000億円」を達成できるシステムの基盤づくりに貢献したいですね。
竹田私のモチベーションは、とにかくSHOPLISTを大きくすることですSHOPLISTに来たのは、「大好きな服にかかわる会社で働きたい」とずっと思っていたという理由もあるんです。私の目標は、SHOPLISTをECにおいてナンバーワンにすること。ただそれだけです。
2人の明るい表情は、今のSHOPLISTがいかに成長できる環境であるかを物語っている。「大きく変化する組織」に身を置くことは、エンジニアとしていきいきと働き、成長していくために、有力な選択肢の一つだといえるだろう。
こちらの記事は2021年04月15日に公開しており、
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フリーライター。1987年生まれ。東京都在住。一橋大学社会学部卒業後、メガバンク、総合PR会社などを経て2019年3月よりフリーランス。関心はビジネス全般、キャリア、ジェンダー、多様性、生きづらさ、サステナビリティなど。
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藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
特別連載上場企業の社長から “課題解決”を学べる 事業家集団
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