連載FastGrow Conference 2022

「カルチャードリブン」が、いまのマネーフォワードを生んだ──事業戦略と組織づくりの根底にある想いを、COO竹田・CSO山田が語る

登壇者
竹田 正信

2001年インターネット広告代理店にて企画営業職に従事。2003年株式会社マクロミルに入社し、2008年取締役就任。同社の経営企画部門を主に管掌し、事業戦略、人事戦略、企業統合、新規事業開発を主導。2012年株式会社イオレに転じ、取締役経営企画室長に従事。2016年株式会社クラビス取締役・CFOを経て、2017年より、当社グループに参画。

山田 一也

2006年に公認会計士試験に合格し監査法人トーマツに入所。その後、株式会社パンカクにて執行役員CFO、株式会社Bridgeにて執行役員ベンチャーサポート事業担当を経て、2014年に当社入社。社長室長、『マネーフォワード クラウド』開発本部長を経て、現在はビジネスカンパニーCSOとして戦略全体を統括。

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2021年、マネーフォワードが運営するSaaS事業のARRは112億円に達した。また、2021年には人事・労務AIを搭載したHRチャットボット『HiTTO』を運営するHiTTOがM&Aにより、グループの5社目としてジョイン。得ている評価は国内に留まらず、2021年には海外公募増資により315億円を新たに調達し、さらなる事業成長に向けた投資を続ける。

そんな事業と組織を順調に成長させているように思えるマネーフォワードだが、失敗も少なくない。代表取締役社長CEO辻庸介氏の著書が『失敗を語ろう』というタイトルであることから、そういうイメージを持つ読者も少なくないかもしれないが、実態を正確に記すなら、失敗談も社長自ら公開するような、オープンな社風があるということになる。

2022年2月に開催したFastGrow Conference 2022のセッション『成長のカギは「カルチャー」だ。マネーフォワードが考える勝ち筋』では、ほかの経営メンバーからも成功の裏にある、ここでしか聞けないような失敗談も赤裸々に語られた。登壇したのは、取締役執行役員ビジネスカンパニーCOOの竹田正信氏と、執行役員ビジネスカンパニーCSO山田一也氏。

セッションでは、過去の失敗談を基に、MVCCをはじめとしたカルチャー施策がどのように事業と組織を成長させていったのか、また、マネーフォワードがこの先どのような未来を描いているかを詳しく聞いた。

  • TEXT BY YUI TSUJINO
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壁を乗り越え続けたから、いまの事業・組織拡大がある

代表の辻氏に対して、「トップとして新たな挑戦を続けている」というイメージを持つ読者は少なくないだろう。だがもちろん、辻氏一人の力で今のマネーフォワードがあるわけでは決してない。むしろ権限移譲が力強く進んでいる。今回話を聞くのは、主要ビジネスを現場近くで牽引する、竹田氏と山田氏だ。

約20年間にわたり、複数のスタートアップで経験を積んだ竹田氏は、2016年にクラウド記帳サービス『STREAMED』を提供しているクラビスの取締役CFOに就任。その後、2017年にM&Aでマネーフォワードにグループジョインを果たした。

イベントで使用された自己紹介スライド

一方の山田氏は、公認会計士として監査法人トーマツに入所し、その後、ベンチャー企業でCFOを務めていた。その後、2014年にマネーフォワードにジョインし、CSOとして戦略全体を統括している。

イベントで使用された自己紹介スライド

セッション冒頭、まず竹田氏がマネーフォワードの現状を共有した。

竹田マネーフォワードは、「お金を前へ。人生を前へ。」というミッションを掲げています。お金と人生は切り離せず、お金がないことで挑戦できない人が、日本にまだまだいると考えています。そんな課題を解決したいという想いが、このミッションに込められています。

売上状況は、連結売上で約150億円ほどになります。創業当時は、BtoCサービスの『マネーフォワードME』がメイン事業でしたが、現在はBtoBサービスが全社売上の約7割を占めています。それにともない、全社の人的リソースのうちおよそ半分を、BtoBサービスの開発や運営に割いている状況です。

このセッションを通じて最も伝えたいことは、マネーフォワードの社会に対するスタンスや眼差しです。SaaSで、ドメインが金融となると、どうしても「お堅い会社」というイメージを持たれてしまうのですが、そんなことはありません。こういう社外からの勘違いを払拭したいんです。

目指しているのは、お金の問題を解決したり、働き方が豊かになったりしていくこと。そういう熱意を持って、BtoCもBtoBも取り組んでいます。SaaSというのは手段でしかありません。エモーショナルに事業を進めている企業だと感じてもらいたいですね。

2012年に設立したマネーフォワードは、個人向けにはお金の見える化サービス『マネーフォワード ME』、法人・個人事業者向けにはバックオフィス向けSaaSなどを含んだ『マネーフォワード クラウド』の提供をはじめ、SaaSマーケティング支援やファイナンスサービス、Fintech支援サービスを展開している。また、5社がM&Aでグループジョインを果たした。

事業領域の図を見れば、幅広い事業やプロダクトを展開していることがわかる。

また、2017年に約200人だった従業員数も、2021年には約1,300人まで増加している。

創業以来、サービスの数を増やし、組織も拡大し続けているマネーフォワード。そんな企業が持つ大きな特徴が、「失敗を糧に、状況に合わせてアップデートし続けている」ことだ。そこでまずはあえて「非常に順調に見えるが、失敗はなかったのか?」という純粋な疑問を、セッションでモデレーターからぶつけた。

竹田代表辻の著書『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』にある通り、これまで数々の失敗を経験しました。

もちろん、今でもうまくいかないことはあります。そのたびに、新しい学びを得ています。

「BtoB事業をロジカルに冷静に進めてきたばかりではない」という雰囲気が早速感じられる。特に、2017年9月に上場した前後のタイミングでは特に苦難も多かったようだと語る。

竹田2017年は組織崩壊の危機に直面していて、毎週報告される退職者が多かった時期でした。

その原因の1つが、事業がどんどん拡大しているのに、組織としての目標・KPIの立て方をアップデートできていなかったことです。

拡大期のIT企業ならどこの企業でもぶつかりそうな壁に、マネーフォワードもしっかりぶつかっていたのだ。そしてこの歪みは、開発サイドとビジネスサイドにおける関係性ににじみ出ていたという。

山田当時は、開発サイドとビジネスサイドで別々のKPIを追いかけており、それらをうまく連動させるような仕組みもロールも存在しませんでした。そうしたことも影響し、チームの中で摩擦が生じやすくなっていました。

たとえば、ビジネスサイドからの「KPIを達成するためには、こんな追加機能が必要」というリクエストに対し、開発サイドは「リソースが不足していて対応が難しい」と返答する。このように協働がうまくいかないシーンが少なくなかったんですね。

竹田印象深かったのは、「機能の進化がない」とお客様に言われて、ビジネスサイドのメンバーが苦しんでいたことですね。

お客様の一人ひとりは、必ずしも何か大きな進化を望んでいるわけではなく、小さくても良いからプロダクトが進化を続けることを望んでいただけなんです。それでも、価値を感じてもらえていない状況が当時はありました。継続的なアップデートのスピードが落ちてしまうほど、うまくいかない状況になってしまっていたんです。

他方で、そうした苦難に直面し、乗り越えられたからこそ得られたことも数多くあったと竹田氏は続ける。

竹田いま振り返れば、この頃のマネーフォワードは、壊れるぎりぎりを保ちながら、事業や組織を拡大し続けることに挑戦していたというわけです。かなりのカオスな状況も訪れましたが、それでも歩みを止めなかったからこそ、事業拡大を実現してこれたのだなと思います。

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“MVVC”を競争戦略として活用できているか

ピンチについて具体的に語られたが、そうはいってもズルズルと下降線をたどってしまう企業だってあるだろう。マネーフォワードは、どのように踏みとどまったのだろうか。

その背景にあるのは、“MVVC”の存在だと二人が語り出す。同社は2016年に、ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー(通称MVVC)を策定した。

もともと「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションは創業時から掲げられていたが、従業員の増加や事業拡大を踏まえて、改めて組織に合うものをつくり上げたのだ(こちらのnoteを参照)。

現在、約1,300人いる組織で、なおかつ、現在も従業員が続々と増えている中で、どのようにMVVCを活用しているのだろうか。

竹田1つは、「Culture Hero」という制度があります。端的に言うと、「Speed」「Pride」「Teamwork」「Respect」「Fun」の5つをそれぞれ最も体現した人が表彰される制度です。

受賞が決まったら、単に表彰されるだけでなく、5つのカルチャーをどうやったら体現できるのか、実体験や考え方を共有してもらうようにしています。

また、新しくジョインするメンバーが常に多いマネーフォワードだからこそとも言える、採用活動におけるカルチャー発信の重要性も語られた。

山田採用面接で、「Speed」や「Respect」などを体現したエピソードを伝えるようにしています。

最近、ある候補者さんが面接時に、MVVCをスラっと言ってくれて、逆に私が驚く場面もありました。なぜ覚えてるのかを聞くと、「一次面接や二次面接で、SpeedやRespectなどカルチャーの話が多くて覚えてしまった」と。

このように、面接からバリューやカルチャーなどを伝えることで、入社後にギャップを感じにくくできていると思います。

他にも、新型コロナウイルス流行の影響でオフラインで会う機会が少なくなったことを受け、オンラインで事業の方針を赤裸々に話す「Park Session」を実施している。

竹田ウェビナー形式で「Park Session」を月1〜2回やっています。これは、「なぜこのタイミングでプロダクトをリリースしたか?」「なぜプライスの変更をするのか?」など、判断に至った背景や経緯を紐解きながら、事業部の責任者などの思いや考えを従業員に伝える機会です。

事業部責任者が“ぶっちゃけ”を話すことで、従業員一人ひとりが会社の戦略を自らの頭で考えてほしいという思いも込めています。また、Park Sessionが派生すれば、事業部それぞれにおいてもディスカッションの場が増えるのではないかと思っています。

現在、ビジネスカンパニー*の社員のうち半分くらいが常時リアルタイムで視聴してくれているので、成功した事例だと思います。

*……マネーフォワードの法人向け事業ドメインを所掌する組織

従業員増加や働き方の変化に合わせて、MVVC浸透の制度を策定してきたマネーフォワード。「従業員が同じ方向に向かうためだけではなく、競争戦略としてミッションやビジョン、バリューなどを活用すべきだ」と山田氏は語る。

山田ミッションやビジョンを大事にしている企業は多いですが、それは本当にワークしているのか、難しい問題ですよね。私たちとしては、それを「競争戦略として活用できているのか?」を確認するのが良いと考えています。

最近感じるのは、SaaSに適したMVVCがあるのでは、ということ。たとえば、営業効率を最大化するThe Model型の仕組みを構築した後、インサイドセールスやカスタマーサクセスなどに部署が分かれて分業制になりやすいですよね。そうなると、部署同士での衝突が発生する可能性が生まれます。

しかし、もともと「Teamwork」や「Respect」が仕事をするうえで大事だという共通意識を持てていれば、衝突が生じにくくなるでしょう。

事業の種類やビジネスモデルの特徴を踏襲したミッションやビジョン、バリューを早期に構築できれば、中長期的な競争優位性になると思っています。

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ミッション達成のため仲間を増やしていく。
マネーフォワードが見据える未来

上場後の新たな資金調達も積極的に行い、「先行投資しながら事業展開を継続して、さらなる成長を目指していきたい」(2021年11月期決算説明会より)としている同社。プロダクトをマルチに展開し、TAMの拡大を図る中で、どのような勝ち筋を描いているのか、改めて聞いてみた。

山田SaaSの利点は、色々なサービスや機能を連携させて、お客様に価値を提供できることです。

また、SaaS事業を成長させるためには、インサイドセールスやカスタマーサクセスなど、とにかく人手が必要になります。マネーフォワードには、ユーザー基盤やノウハウもあり、またグループジョインしてくださった会社には、人材交流により人的なサポートをすることもできます。

今後もM&Aを含めた新規事業を積極的にやっていくことで、マネーフォワードとグループ会社とでWin-Winな関係をたくさん築いていくことが、プロダクトのマルチ展開にもっとも重要なのだと思います。

そして最後に、今後の事業拡大に向け、組織拡大もまだまだ続ける中での今後の採用について、アピールも込めて意気込みが語られた。

山田正直、採用は“やるしかない”という感じです。でも、採用も分業ですよね。採用責任者や人事だけでは達成できません。

そこで、マネーフォワードでは事業責任者だけでなく、従業員含めた部署全体で採用にコミットしています。

竹田採用全体の方針は人事が示しますが、具体的な実行段階になると、「みんなでやろう!」と言って各所でオーナーシップをもつ人が現れます。そして、1つの場所で成功すると、他の部署に横展開していくことが多いです。このように採用は一人ひとりが担当するものだ、という意識のもとで行動することを通して、社内全体で良い雰囲気がつくれているのだと感じますね。

こちらの記事は2022年04月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

辻野 結衣

1997年生まれ、東京都在住。関西大学政策創造学部卒業し、2020年4月からinquireに所属。関心はビジネス全般、生きづらさ、サステナビレイティ、政治哲学など。

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