「ミッションを創ればプレイヤーから脱皮できる」
FMHR小林が説く、新人マネジャーにとってのミッションの重要性
- TEXT BY KYOZO HIBINO
- PHOTO BY YUKI IKEDA
マネジャーに昇進したらまずミッションを創れ
若くしてリーダーを志す人たちの指針となるべく始まった本連載、第2回のテーマは何でしょうか?
小林今回は「ミッションをつくる」ことの重要性について触れたいと思っています。 小林ミッションやビジョン、あるいはバリューなどと聞くと、企業単位で設けられているものというイメージが強いかもしれませんが、一部門、一部署としても、きちんとそれらを持っておくことはとても大切なことだと考えています。 要するに、「部署として何を目指すのか」という“姿”ですね。提供価値は何なのか、どこに存在理由があるのか。そうしたことを可視化して共有しておくことは、マネジメント上、非常に意義のあることだと言えます。特に、20代でベンチャーのマネジャーになったような人たちにとっては。
それはなぜでしょう?
小林たとえば、営業系の部署のマネジャーで考えてみましょう。ベンチャーに就職して、プレイヤーとして結果を数字で出して、その勢いでいっきにマネジャーを任されるパターンは少なくありません。 ただ、十分な教育を受ける機会がないことも多く、プレイヤーとしての意識が抜け切れていない。結果として何が起こるかというと、メンバー一人ひとりの営業先に同行したりしながら、各メンバーが抱える数値目標の達成をサポートしようとするんです。それ自体はよいことなのですが、本来マネジャーがやるべきことは、部署の目標を達成するために、限られたリソースをどう配分してどう活用すれば成果を最大化できるか考えるべきなのに、なかなかそういう発想を持てないわけです。 部署に属している人数が少ないうちはまだいいんです。マネジャーは一人ひとりのメンバーに目が届いてなんとかサポートできますし、何のためにやっているのかという根本の部分を見失いにくい。 ところが、規模が大きくなってきてから問題にぶつかることになります。マネジャーがメンバーを個別にサポートすることは物理的に不可能になり、部署の存在価値などについて深く考えたことのない新たな人員も増えてくる。 そうした中で数字上の目標だけを追いかけ続けていると、必ず疲弊してきて、「これって何のためにやってるんだっけ?」「ぼくらのやってることにはどういう価値があるんだ?」という疑問がふと浮かぶタイミングがやってきます。 そういう時にみんなで立ち返って確認できる原点があるかどうか。もちろん会社全体のミッションはあると思うのですが、それだと抽象度が高すぎて現場のメンバーからすると遠すぎて実感がわかない。だから部署としてミッションをきちんと定義できているかいないかの差は大きい。もしそれがないのだとしたら、メンバーを束ねてリードすることは極めて難しくなるでしょう。だから、そういうものを最初につくっておくことは部署のリーダーになるために重要なステップになるんです。
なるほど。
小林いまは「VUCAの時代」などという言われ方もしますよね。 Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってつくられた言葉ですが、一言で言えば、変化が大きく先を予測するのが困難な時代になったということ。そういう時代だからこそ、ミッションを持つことはますます重要になっていると思います。 そう考える理由は4つあります。 このように、時代の不確実性が高まるほど、しっかりとしたミッションを立てておくことの重要性は増してくるはずです。
困ったときは「ミッションコーン」
ではミッションはどのように考えればいいのでしょうか?
小林聞こえのよい言葉だけを思いつきでミッションだと言っても、絵に描いた餅になってしまい、メンバーの心に響くものには当然なりません。
小林そこで、私は「ミッションコーン」を活用することを提案したいと思います。これは、下から「エビデンス」「ベネフィット」「ミッション」の3つの層からなるピラミッド型の概念図です。
小林わかりやすくするために、イチロー選手個人のミッションコーンを例にとりましょう。もちろんこれはイチロー選手が考えたものではなく、私たちが勝手に考えてみたものです。
小林まず、下のエビデンスには強みとなるファクト(事実)を書き込みます。イチロー選手なら、「メジャーで10年連続200安打」「メジャー在籍17年間で通算打率3割超」といった記録や「日本で長年にわたってCMに起用され続けている」といった野球以外の実績もエビデンスになり得ます。
次に、ベネフィットは利益と訳されるように、「(組織や個人が)もたらし得るもの」を書く場所です。エビデンスを土台とした時、「誰に」「どんな価値」を提供できるか。ポイントは「機能的ベネフィット」と「感情的ベネフィット」の2つに分けて整理することです。
機能的ベネフィットは「実利」という言葉に置き換えるとわかりやすいかもしれません。イチロー選手は「世界トップクラスの確率で出塁できる」という実利を備えた選手であり、同時に「日本に向けた絶大なマーケティング価値」という実利を備えた選手でもあります。これらは機能的ベネフィットに該当します。
一方、感情的ベネフィットは「心理的なメリット」と考えましょう。「どんなポジティブな気持ちにさせるか」です。イチロー選手の感情的ベネフィットは、たとえば「チームにいるだけで試合に勝てそうな気がする」ことや、「努力家という好感が持てる」ことなどです。
ベネフィットをわざわざ2つに分けるのは、どういう意味があるのでしょうか。
小林私たちは何をもたらし得るのだろうかと考える時、数字で測れるものや目に見えるもの、要は機能的ベネフィットに偏ってしまいがちですが、それだけだと人は動かないものなんです。
せっかくミッションをつくっても、自分や周囲の人たちのモチベーションにつながらなければ意味がありません。何が人を動かすかといえば、やっぱりワクワク感。感情的ベネフィットを入れておく意味はそこにあります。
ビジネスの場面でも、「あのチームがいるおかげで部門全体がいい雰囲気になる」とか、「あのチームと一緒に取り組むと新しいものができそう」とかって大事な価値ですよね。
小林ここまでの作業で、エビデンス(=強みとなるファクト)を土台として、どんなベネフィット(=利益・価値)を提供できるかが視覚化できました。
残るはいちばん上の「ミッション」だけです。エビデンス、ベネフィットと積み上げてきたものを材料に、「目指す姿」や「提供する価値」をわかりやすい一言にまとめてみましょう。
ふわっとしたキャッチフレーズ的な言葉でも構いません。下に書かれたベネフィットやエビデンスがありさえすれば、それらがミッションの根拠となり、なぜそうした表現に至ったのかを解説する役割を担ってくれるからです。
やはり、下のエビデンスのところから書き始めるものですか?
小林特に決まりがあるわけではないので、手をつけやすいところから始めるのがいいと思います。
「こういう組織にしたい!」「ぼくらの提供価値はこれだ」ということがすでにイメージできている人は、ミッションに言葉を書いて、そこから具体化させつつ上から下に落とし込んでいく方がやりやすいと思います。
ただ、ミッションをいきなり言葉にできる人は少数派だと思いますので、どこから手をつければいいかわからないという場合はボトムアップで進めていくのがいいと思います。
もう一つ、ミッションコーンをつくるうえでポイントとなるのは、エビデンスやベネフィットについて、「いま」と「これから」の両方を意識しながら考えること。
エビデンスには「いま、すでに持っている強み」だけではなく「これから、強みとすべきもの」を、ベネフィットには「いま、すでに提供している価値」だけではなく「これから、提供していきたい価値」を書いていく。そうすると奥行きのあるミッションコーンがつくられていくはずです。
ここでは個人のミッションコーンで説明しましたが、部署のミッションを作るときも全く同じなので、ぜひ一度自分の部署のミッションコーンを作ってみてもらいたいですね。
ミッションが無ければゴールも描けない
ちょっと大変な作業かもしれませんが、最初につくってさえおけば、後で必ず役に立つ時が来るわけですね。
小林実際、弊社にもミッションコーンがあります。会社としてだけでなく、各メンバーが個人のミッションコーンも持っていたりします。
やっぱり役に立ちますよ。経営をしていくうえで悩んだ時に見返すと「そうそう、自分たちはこういう価値を提供する会社にしたいんだ」って改めて感じることができますから。
小林最初にもお話ししたように、20代などの若いマネジャーはどうしてもプレイヤーの延長線上で物事を考えがちです。本当はマネジャーになった瞬間に会社側からの視点に切り替えなければならないんですが、その視界のチェンジが非常に難しいところなんです。
でもミッションコーンをつくろうと考えをめぐらせることで、自然と会社側の視点まで自分を引き上げることになります。別に独りで考える必要はありません。部長や役員など上司にも意見を求めたり、部下となるメンバーたちとも擦り合わせたりしながらつくっていけばいい。
そういうプロセスを踏むことによって、私たちが考えるリーダーの条件の一つ、「ゴールを描くことができる」という要素を満たしていくことになるんだと思います。
こちらの記事は2018年01月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
日比野 恭三
写真
池田 有輝
連載20代リーダーの教科書
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