連載20代リーダーの教科書

プロが解明。
なぜ「目標」を立ててもメンバーが動かないのか?

インタビュイー

1997年 早稲田大学理工学部卒業。総合商社、外資系ソフトウェアベンダーのSE経験を経て、2003年リンクアンドモチベーション入社。2007年組織人事コンサルティング部門責任者。2009年退社。同年人材育成を軸とした組織人事コンサルティング会社 (株)トゥルーワードを設立。2015年よりフィールドマネージメント・ヒューマンリソース参画。

関連タグ
  • TEXT BY KYOZO HIBINO
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
SECTION
/

組織と個人の紐付けが「目標達成」のスタートライン

前回は、リーダーには戦略を描く力が求められることをテーマにしました。その次のステップとして重要なこととは何なのでしょうか?

和田メンバーが行動に入る前に、組織目標と個人目標をきちんと紐づけておくことが大切だと考えています。

私がこれまで会ってきたマネジャーの多くは、全体会議で大きな方針を説明するだけで、個別面談を行ってチームの目標をメンバー個々人の目標と紐づけるところまでできている人は少なかったように思います。

期初の段階で、チームの目標とメンバーの目標をすり合わせることで、チームの目標に対するメンバーのコミットメントは飛躍的に高まるのですが、そのステップが欠けてしまっているわけです。

大きな方針だけではどこか遠く感じてしまいがちですし、「個人として何をすべきか」を明確に意識しづらくなる可能性もありますね。

和田そのとおりです。そういう組織で何が起こるかというと、評価面談や期中の進捗確認面談の時になって、チームと個人の間の“溝”が浮き彫りになるんです。

マネジャーとしては妥当な評価をしているつもりでも、メンバーにしてみれば納得がいかず、両者の間に軋轢が生じてしまう。

もちろん、面談の際にマネジャーの説明が不十分であったり、マネジャーが忙しいあまり面談に十分な時間を割けていなかったり、といった理由もあるでしょう。

しかし、さまざまな会社でインタビューを重ねていくと、「期初の段階での目標のすり合わせがあいまいである」ことが、評価等の面談時の軋轢を引き起こす大きな要因になっていることが見えてきます。

メンバー個々人に対して設定された目標が明確になっていないがゆえに、マネジャーとメンバーそれぞれから見た評価に食い違いが生じてしまうんです。

期初の段階で、きっちりと目標のすり合わせをする。そのステップが抜け落ちてしまうのはなぜなのでしょうか。

和田まずマネジャーの側からすると、大きな目標をそのままメンバーに丸投げしたほうが楽だから、という理由はあるのだと思います。

時間の節約になりますし、「あとは任せるよ」「自分もメンバーの時はそういうふうに言われてやってきたから」と、そんなふうにメンバーの自主性に託すのがベンチャーらしいやり方だと思われている節もあります。

期初に目標を固めてしまっても、事業環境の変化に伴って目標の修正をすることになるかもしれない。営業などの部署を除けば、そもそも目標が立てづらい。

そういったことも、目標設定をあいまいなまま放置する大義名分になりうるでしょう。

一方、メンバーにとっては、抽象的な目標にしておいたほうが好都合だという心理がはたらきます。目標が抽象的であればあるほど、成果が出なかった時の言い訳がしやすく、成果が出た時には自分の貢献度をアピールしやすいからです。

明確な目標が与えられるということは、メンバーにとっては評価が厳密になるというリスクにつながるので、できることなら漠然とした目標のままであるほうが望ましいというわけです。

チームの目標に対するメンバーのコミットメントを高めること、そして面談の段階において互いの納得感を醸成すること。そうした意味で、チームの目標と個人の目標を紐づけておくことは重要なんです。

SECTION
/

ロジックツリーでマネジャーの頭の中を可視化

その“紐づけ”の作業というのは、具体的にはどうすればよいのでしょうか。

和田弊社では“ロジックツリー”を使うことを勧めています。自部門の目標を達成するためにはどんな要素が必要なのかをツリー状の図に落とし込み、その中から実際に取り組むべきことを選び出し、メンバーに割り振ります。実際に見てもらったほうがわかりやすいと思いますので、下の図をご参照ください。

和田弊社では“ロジックツリー”を使うことを勧めています。自部門の目標を達成するためにはどんな要素が必要なのかをツリー状の図に落とし込み、その中から実際に取り組むべきことを選び出し、メンバーに割り振ります。実際に見てもらったほうがわかりやすいと思いますので、下の図をご参照ください。

図では「顧客数の増加」が部門の最終ゴールになっていますが、そこから次々に枝分かれしていき、最終的には部門で取り組む施策を明確にすることに役立っていることがおわかりいただけるかと思います。

最終ゴールは数値化できる目標に限らず、「顧客満足度の向上」や「生産性の向上」といったものでもツリーは成立します。

ツリーを一つに絞る必要はありませんが、メンバーを混乱させてしまうので、複雑になり過ぎないように注意する必要があります。

なるほど。ここまで可視化されているとたしかにわかりやすいですね。

和田ロジックツリーを使うメリットは3つあると考えています。1つ目は、ご指摘のとおりひと目で全体を把握できるので、メンバーが目標から施策までの流れを共有しやすいことです。

過去の連載でも触れてきたように、ベンチャーなどでは、プレイヤーとして優れた結果を残してきた人がマネジメント能力を問われることなくマネジャーの地位に就いているケースが多く、自分の頭の中を整理して共有することが苦手だという人が思いのほか多いものです。

そういう人に限って「あいつらはわかってない」「こちらの思いどおりに動いてくれない」と言ったりする。でも、自分の考えを論理的に説明し、メンバーに共有させることはチームリーダーとして必要なスキル。

ロジックツリーは頭の中にある考えを整理して可視化するために最適なツールですし、いいトレーニングになると思います。

和田2つ目は、施策の仮説検証ができることです。仮にマネジャーの思いついたアイデアだけでいろいろな施策を実行した場合、そのうちの何が目標達成に効果的で、何が効果的でなかったかを的確に把握することは困難です。

それではチームの取り組みが財産として蓄積していかないことになるので、もったいないですよね。ロジックツリーでは各要素の関係性が明確に示されていますから、どの施策が、どの程度、部門の目標達成に役立ったかをしっかりと検証することができます。

そして3つ目が、「やるべきこと」と同時に「やらないこと」を明確にできる点です。マネジャーになったばかりの人が陥りがちなのが、やる気のあまり、すべてのことをがんばろうとし過ぎて、結局はどれも中途半端に終わってしまうというパターン。

ロジックツリーに自分がやろうとしていることを書き出すことで、いかに無謀なことをしようとしていたかが事前にわかり、「やるべきこと」と「(いまは)やらないこと」の取捨選択をするきっかけとなります。

SECTION
/

カギは「網羅性」ではなく「責任範囲の明確化」

ロジックツリーはどういう手順でつくっていくのがよいのでしょうか。

和田最終的には自分に合ったやり方を見つけていただければと思いますが、ここでは基本のステップをお示ししたいと思います。

  • ①部門の最終ゴール(KGI:重要目標達成指標)を分解する。
  • ②今期、部門として注力することと注力しないことを明確にする。
  • ③KPI(重要業績評価指標)を設定する。
  • ④部門で取り組む施策を決定する。
  • ⑤KPIや施策ごとに役割や責任を明確にする。

和田順を追って説明しましょう。まずは自部門の最終ゴールを分解する作業からです。マネジャーは「この要素を達成するには何が必要か」と自分に問いかけ、その答えを下に書いていきます。

この時、付箋やメモ帳を活用すると、動かすことができるので便利です。しっくりくる形になるまで、いろいろな分解を試してみましょう。

和田そして、それぞれに対して、注力すべきか否かを判断し、今期は注力しないと決めたものには「×」をつけます。「×」をつけた要素の先は考えません(図の中でいうと「既存(リピート)顧客の減少食い止め」や「提案機会獲得率の増加 」の箇所)。

ロジックツリーの一番の目的は網羅的に要素を洗い出すことではなく、あくまで組織の目標と個人の行動を結びつけることだからです。

最終ゴールの下の階層には、それぞれKPIを設定します。最終ゴールの達成には、ここでどれだけの成果をあげる必要があるのか。

逆にいえば、そのKPIを達成しさえすれば最終ゴールも達成できるという定量的な指標です。

最後に、各々のKPIに対して具体的な施策を決定し、その部分については誰に責任者・担当者となってもらうのかを明確にしていきます。ここまでやって初めて、組織の目標と個人の目標が紐づくのです。

SECTION
/

目標の粒度は「メンバーの能力」で使い分ける

分解の仕方次第では、簡易的すぎたり、逆に複雑になりすぎたりしそうですね。

和田そこはマネジャーの個性が出るところです。直感だけに頼りがちだと極端にシンプルなツリーになってしまいますし、あれもこれもやらなければと考えるマネジャーの描くツリーは要素の数が多くなりすぎてしまいます。

地図を思い浮かべていただくとわかりやすいと思いますが、ラフすぎてはどこで曲がればよいのかわからず、目的地にたどり着けません。

一方で、写真のように精密でも道順がわかりにくくなってしまう。メンバーをスムーズに目的地まで導けるような、適度な精度で地図(ツリー)を描くことが重要です。

和田この「適度な精度」のレベルを見極めることが、リーダーに求められる重要なスキルとなります。目標を細かく砕きすぎてしまうと、メンバーが受け身になってしまい、いつまで経っても自立的に動けるようにならないリスクがあります。

じゃあ丸投げでいいかというと、そういうわけでもない。どれくらいの“粒度”まで砕いた目標であれば、メンバーが自立的に動けるようになるのか。

それを見極めるには、メンバーの能力を正確に把握しておくことが前提となります。

最初から上手にロジックツリーを描き出すことは簡単ではないかもしれません。まずは大きめの目標を与えて、どんな成果が表れるかを見る。

思ったような成果が得られなかったなら、次はツリーをもう一段階分解して、より細かく砕いた目標を与え、それがクリアできたら一段階大きな目標を与える。

それを繰り返すうちに、目標の落とし込みの感覚がつかめてくるのではないかと思います。

また、ツリーを描く時にメンバーにも見てもらい、意見を反映させながらブラッシュアップしていくのもいいでしょう。

マネジャーが一人で抱え込むのではなく、メンバー全体を巻き込むことで目標達成に対する組織の意識も高まることでしょう。

こちらの記事は2018年02月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

日比野 恭三

写真

池田 有輝

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン