連載20代リーダーの教科書

フィールドマネージメントが明かす
“20代リーダーの条件”

インタビュイー

2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。JTBを経て、2003年にリンクアンドモチベーション入社。執行役員として大手企業を中心に組織人事コンサルティングに従事した後、2011年、新機軸の経営コンサルティングファームであるフィールドマネージメントに参画し、ディレクターを務める。航空、Eコマース、食品等、多業界においてマーケティング/ブランド/組織開発/人材育成プロジェクトに従事した後、2015年、HR領域を主軸とするグループ会社として、フィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立し代表を兼任。

並木 裕太
  • 株式会社フィールドマネージメント 代表取締役 

慶応義塾大学経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得。
2000年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、09年に独立、フィールドマネージメントを設立。
エレクトロニクス、航空、インターネット、自動車、エンターテインメントなどの日本を代表する企業の戦略コンサルタントを務める。2015年に、MBA母校のウォートン校より、
40歳以下の卒業生で最も注目すべき40人として日本人で唯一ウォートン40アンダー40に選出される。

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日本人はリーダーに向いているのか。企業はリーダーを育成できているのか。

そしてリーダーになるためには何が必要なのか。

マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て起業したフィールドマネージメント代表取締役の並木氏と、同社子会社で、リーダーの育成に強みを持つフィールドマネージメント・ヒューマンリソース代表取締役の小林氏が語った。

  • TEXT BY KYOZO HIBINO
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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「日本はなんてアントレプレナーシップにあふれた国なんだ」

小林さんが代表を務めているフィールドマネージメント・ヒューマンリソースは、リーダーの育成に重点を置いているという理解でよろしいですか。

小林そうですね。いわゆる組織・人事コンサルティングを事業領域としていますが、リーダーの育成という部分は強みだと考えています。

研修して終わりではなく、そこで学んだことが実際の事業や実務の中でどう生かせるのか、継続的にフィードバックしながらPDCAのサイクルを回していく。いわば家庭教師のようにリーダーの育成を支援することが弊社の重要な提供価値の一つです。

日本人はリーダーシップを発揮するのが苦手というイメージもありますが、実際のところはどうなのでしょう。

並木アンダーアーマーの日本総代理店、ドームの安田秀一社長のお話を聞いていて、ハッとさせられたことがあります。

アンダーアーマー本社のケビン・プランクCEOが来日した時、文房具店や和菓子屋さんなんかがずらりと並んでいる日本の商店街を目にして、こう驚いたそうです。

並木「個人経営の店がこんなに密集しているなんて、アメリカのモールとは比べものにならない。日本はなんてアントレプレナーシップにあふれた国なんだ」と。

外国人経営者の目に映ったものと日本人の自意識とはだいぶ違ったのですね。

並木しかも第一線で活躍している現役のリーダーにそう見えたという事実に大きな意味があると思います。

考えてみれば、サラリーマンたちだって、海外進出するメーカーが増えたバブルの頃からいきなり現地法人の社長を任されたりして、言葉も通じない国で必死になって務めを果たしてきた。

「日本人だからリーダーシップが足りない」というのはむしろ逆で、リーダーの素質は十分にある。あとは、その才能が開花するきっかけがあるかどうか。

小林私もそう思いますね。

まず「自分がリーダーになるのは無理だ」と考えている人が多くいる。そういう発想になってしまう原因の一つとして、企業の社内教育がリーダーの育成を見据えたものになっていないことが挙げられると思います。

これだけ世の中がダイバーシティとかOne to Oneマーケティングの時代に変化してきているのに、大手企業ではいまだに横並びの階層別教育が中心です。

現場でも、新人に対して「自分で考えて行動できるようになれ」とは言いながら、まずは“言われたことがきちんとできる人”をつくろうとする。

企業人として実績を出せるようになって管理職に就いたところでいきなり「リーダーシップを発揮しろ」「新しいものを生み出せ」「成長できる戦略を考えろ」と、これまでの延長線上にはないことを求められるのは、ちょっとかわいそうだなと感じることさえあります。

ベンチャー企業のほうがリーダーは育ちやすい環境ですか?

小林ベンチャー企業の場合、社の業績に貢献したことがストレートに評価され、若くしてマネジャーに昇進するケースが多くあります。

でも、勢いでマネジャーになったものの、リーダーシップをどう発揮するべきかということをあまり考えたこともなければ、そういう教育を受ける機会もない場合が多い。

役職が先に与えられてしまうことで、実はリーダーシップを発揮できていないということになかなか気づけない危険性もあると思います。

並木個人商店なら親が、大手企業なら会社の上司や先輩が教えてくれるものだと思いますけど、ベンチャー企業ではそういう存在が見つけにくいのかもしれません。

教えられなくてもできている人、生まれながらにリーダーシップを発揮できる人は別として、リーダーが育つような仕組みが考えられていない組織では、それ以外の大多数の人たちが目覚めにくい面がある。

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ゴールを描いて、周囲を巻き込み、実現まで導く

リーダーの育成という視点で見ると、大手もベンチャーもそれぞれに問題を抱えている、と。

並木そうですね。ただ大手企業の場合は仕組み上、部分的に鍛えられていくことはあるかもしれません。

たとえば40歳で北米支社に異動になり、部長の肩書をもらう。ビジネスの相手もおのずと部長や取締役になってくる。キャリアパスの中で、ワンランク上のステージに飛び込まざるを得ない仕組みになっている。

それから評価の仕組みですね。「これとこれをやれば昇進できますよ」というチェックボックス式になっている場合が多く、その項目を埋めようとしているうちに自動的に一定のリーダーシップがとれるようになっていく。

並木さんのいたマッキンゼーでも同じことが言えますか。多くのリーダーを輩出しているイメージがありますが。

並木マッキンゼーもチェックボックス式の評価方法でした。その項目の中には「一定数の部下を率いて仕事をした経験があるか」「一緒に仕事をした部下からポジティブな評価を得られているか」といったものがあったと記憶しています。

昇進しようと思えば、部下の自己実現を助けるためにはどうすべきかということを自然と考えるようになります。マッキンゼーは世界に数千人規模のコンサルタントを抱えているわけで、そういう意味では大企業型のリーダー育成システムを採用していると言えます。

ベンチャー企業の場合だと、たとえば評価項目が3つあったとしたら、極端に言えば「90点・30点・30点」でもいい。何か一つ突出した能力を持っている人たちがリーダーになり、補完し合いながら集合体として機能する。それがベンチャー企業で働く醍醐味でもあるわけですから。

大企業型はたとえば「70点・70点・70点」で昇進する。すべての項目で平均点以上をとれる人材がつくられていくシステムになっているんですね。

小林そういうシステムでマネジャーをつくることはできるかもしれないけど、リーダーをつくることができるとは限らない、とも私は思います。マネジャーというのはあくまで“管理する人”に与えられる役職であって、リーダーはまた別物なのかなと。

小林弊社では「ゴールを描いて、周囲を巻き込み、実現まで導く」人材がリーダーだと定義しています。言い換えれば、年齢や勤続年数、役職は関係なくて、リーダーシップを発揮できる人がリーダーであり、誰でもリーダーになり得る、という考え方です。

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定義を決める。それがリーダー育成の原点

なるほど。それでは、マネジャーではなくリーダーを育てていくにはどうすればいいのでしょうか。

小林コンサルティングの仕事をしていると、「リーダーが育たないんだよね」という声を聞くことが本当に多いですし、組織・人事領域で重視する課題についてアンケートを実施しても「次世代リーダーの育成」という回答は常に上位に入ってきます。

でも、「どんなリーダーを育てたいんですか」と尋ねても明確な答えを持っていないことがほとんどです。育てたいリーダー像が不明確なままでは、そういう人材を育てることは不可能に近いですよね。まずは企業として自社のリーダーの定義を明確にすることがすごく大切です。

リーダーの定義を言葉にするのは個人としても必要なことですか?

小林必要だと思います。歴史を遡ってみても、時代によって様々なリーダーシップ論が唱えられてきました。

「そういう素質のある人がリーダーになれる」という“特性論”で語られていた時代もあれば、「どういう行動を取るかによってリーダーはつくられる」という“行動論”が出てきたり、先の読めない時代にあっては“変革型リーダーシップ”が重要だとされるようになったり……。

要は正解がないんです。正解がないからこそ、自分なりの定義をしっかりと持つことが重要なのではないでしょうか。

「ある特定分野で突き抜けたスキルを持つことで影響力を発揮していくんだ」というリーダーシップもあるでしょうし、「平均的なスキルを備えつつ、高いコミュニケーション能力によって全体の調和を図っていくんだ」というリーダーシップでもいい。

企業の求めるリーダーと自分自身が考えるリーダーの姿に違いが出てくる可能性もある、ということになりますね。

小林十分に起こり得ることだと思います。特に転職することを考え始めた時などは、その視点を持っておくべきでしょう。自分の考えるリーダーの定義に合う企業を探すことが大事になってくると思います。

並木たしかに、ベンチャー企業ではマネジャーとしてうまく切り盛りできていたとしても、大手に転職した途端、通用しなくなる可能性はありますね。

「再現性のあるスキル」としてリーダーシップを身につけておく必要性はあるのかもしれない。

小林ベンチャー企業は比較的フラットな組織であることが多いので、マネジャーは部門の壁を越えてでも仕事を前に進めていくことが許容される面がありますが、組織の壁が厚い大手ではそう簡単にはいかない。

だけど、大手の壁すらも乗り越えていける人こそが、その会社を変えることのできる本当のリーダーになれるのではないかと思います。敵もつくるし、左遷されてしまうリスクもある。ベンチャー企業でのやり方と同じようにはいかないことをきちんと理解したうえで、うまく影響力を発揮していくことが求められます。

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リーダーもトレーニングで輩出できる

なかなかハードルは高そうです。そういうリーダーには、なりたいという思いがあればなれるものですか。

並木トレーニングすることによって開花する人は多いと思います。

並木リーダーの素質がありながらも組織の壁に阻まれているような人は、そこでの泳ぎ方さえわかれば、新しい職場でもリーダーシップを発揮できるようになるはずです。

小林私もそうだと考えています。実際、大手企業の中で、与えられた権限に縛られることなくリーダーを志し、行動を変えることでリーダーシップを発揮できるようになったケースを目の当たりにしてきました。

その方の言葉を借りれば、「こんなに仕事がおもしろいと思ったことはなかった。人生が変わった」と言っていました。的確なトレーニングによって、それぐらい変わることはできる。もちろん、そうなりたいというパッションを強く持ち続けることが大前提になります。

並木 ちょっと例え話をすると、NBAでは昔から「ポイントガードはつくられるものではない。生まれてくるものだ」と言われていたのに、最近の潮流では、シューティングガードのポジションがポイントガードの役割も担わなければならないようになってきている。

つまり「ポイントガードはつくられるものではない」という昔の定説は覆されて、トレーニングによってつくることができると考えられるようになってきたということです。これって、そのままリーダーにも当てはまるのかなと思います。その結果、個性がなくなりつつあるという側面もあるんですけど。

小林 いまの話を聞きながらふと思ったんですが、ベンチャーから大手に転職した人のほうが本当の意味でリーダーシップを発揮できるようになるのかもしれませんね。

ずっと大手企業の中にいると、部門の壁に行く手を阻まれるのが当たり前になってしまって、そこを乗り越えて何かをしようという発想が生まれてきにくい。

フラットな組織の中で自由に動き回ってきた人こそ、常識にとらわれず、大手の壁を突破するポテンシャルの持ち主なのかもしれない。

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真の答えは個人の中に

起業という選択をするうえでも、自らがトップに立つわけですから、リーダーシップという視点で自分自身を見つめ直す作業は必要ですよね。

並木人がついてこないようでは何も始まりません(笑)。じゃあ自分はどうなのかというと、マッキンゼーを退社することを決めたのは29歳の時でしたが、リーダーシップのとり方をすごく勉強したということはなくて、“天然”でここまでなんとかやってこれたという感じがします。

ただ、私のところに集まってくれたコンサルタントたちに対して、リーダーとして、数年後を見越して成長に導いているかと言われると、あまり自信はありません。

スタイルと言ってしまえばそれまでですが、その都度、ベストメンバーを組成してプロジェクトに当たっていくような形になっています。

小林でも、それがフィールドマネージメントという企業が必要としているリーダーなのだとも言える。

小林何百年も議論されてきながら結論が出ていないわけですから、何が真のリーダーなのかという正解はない。だからこそ、自分の中に答えを持っておくことが大切なんだと思います。

こちらの記事は2018年01月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

日比野 恭三

写真

池田 有輝

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