「withコロナ」では「オンラインで爪痕を残すスキル」が重要だ!──自称「元・熱血営業マン」な社長が考える、これからの人材に求められる要件

インタビュイー
加藤 裕之
  • アイビーシー株式会社 代表取締役社長 

大学卒業後、大手化学素材メーカーに入社。技術開発に携わった後、ネットワーク機器メーカーのアライドテレシスで営業職に就き、高い実績を上げて最年少でマネージャーに就任。ネットワーク系ベンチャーで取締役を務めた後、2002年に独立、アイビーシーを設立した。自社開発によるマルチベンダー対応の企業向けネットワーク監視システム「System Answer」シリーズを軸に急成長を果たし、2015年マザーズ上場、2016年には東証一部へ市場変更を果たしている。近年は次世代MSP(Managed Service Provider)サービスの「SAMS」やIoTセキュリティ基盤の「kusabi™」で注目を集める他、グループ企業であるiChainではブロックチェーン技術を導入したインシュアテック事業の「iChain保険ウォレット」等を展開している。

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2000年代初頭からネットワークインフラの爆発的普及を見通し、監視システムの開発提供およびコンサルティングによって独自のエンティティを築いて東証一部上場も果たしたアイビーシー。

近年ではIoTセキュリティや次世代MSP、インシュアテックなど先進デジタル技術でも注目を浴びる同社を率いる加藤裕之氏は、「コロナショックによって本当の意味でのデジタル変革がむしろ加速するだろう」と予見する。

そこで新型コロナウイルスの影響が収束した後の変化と、その時ビジネスパーソンが問われる姿勢や能力について語ってもらった。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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新型コロナウィルスを発端に露呈した、日本企業のセキュリティ脆弱性

アイビーシー(以下、IBC)は2000年代初頭のタイミングからマルチベンダー対応のネットワーク監視システム「System Answer」シリーズをリリースし、独立系でありながらネットワークとセキュリティの領域で独自の価値を提供して成長を果たしてきた。

東証一部上場後もIoTセキュリティ基盤の「kusabi™」や次世代MSP(Managed Service Provider)サービスの「SAMS」等で脚光を浴び続けているわけだが、同社を率いる創業社長・加藤裕之氏は今回のコロナショックの足音を1月の時点で体感していたという。

加藤ちょうどIRがらみの仕事でシンガポールへ出張していたのですが、当地では早くも外国人をシャットアウトして感染増大を抑えようという動きが始まっていたんです。

日本はまだのんびり構えたムードでしかありませんでしたが、アジアで感じた切迫した空気が尋常ではなかったので、2月ごろから社内ではリモートワークの推奨や時差通勤へのシフトなどを進めていました。

そのため、日本でも緊迫した情勢となり始めた3月後半時点で、IBCはすでにコロナ対策モードへ突入。多くの社員がテレワークへシフトしていったという。

加藤IBCに限らずIT系企業の場合は他の業種よりもテレワークなどが日常化していましたから、対応の早さは他所でも同じだったのではないかと思います。

むしろ緊急事態宣言が出る前後あたりに心がけたのは、社員の心の部分への対応でした。平時にエンジニアが在宅でプログラミングをしたりするのとは、まるで社会の状況が違います。

なにより「これからの生活は大丈夫か?」とか「うちの会社はどうなる?」という不安が膨らんでいくだろうと思いましたので、皆には「うちには資金が潤沢にある。だから安心をして欲しいし、ご家族にもそう伝えてください」と直接私から、全社員に伝えたんです。

そもそもネットワークのエキスパート集団であるIBCだけに、クラウド経由によるテレワーク等への移行はスムーズだったわけだが、何より社員のメンタルに気持ちが動いたあたりは、昨年『デジタル時代を生き抜くエモーショナル経営』の著書を発表した加藤氏ならでは。

ともあれ、おかげでIBCでは大きな混乱もなく4月を迎えたとのことだが、そんな加藤氏でさえも日本中の企業がこれほどまでダイナミックにテレワークへ移行するとは考えていなかったようだ。

加藤テレワークへ移行しようにも、例えばシンクライアントのハードウエアやソフトウエア環境が整っていない企業が多かったとか、VPN環境が未整備で発注が殺到したとか、というニュースを聞くたびに苦笑いをしていました。

立場上、日本企業のリモート環境の未整備ぶりは知っていただけに「だから言ったじゃないか」みたいな気分にもなりましたし、「コロナショックをきっかけにこれから、基幹システム以外のセキュリティ強化というニーズが、一気に膨れ上がるだろう」とも思いました。

もちろん、これほど深刻なパンデミックが発生することなど、誰一人予測してはいなかったわけだが、日本政府が「働き方改革」を叫ぶ中、本気で在宅勤務やフレックス導入を検討し、そこで必要となるコンピュータシステムやネットワークインフラ、さらにはハードウエアやソフトウエアを着実に整えていった企業と、そうではなかった企業との大きな差が、期せずして露わになった。

しかも、新型コロナウイルスは感染爆発が一旦収束したとしても、ウイルス自体の根絶には相当の年月を要すると言われている。それゆえに「withコロナ」「afterコロナ」といった表現も用いられているわけだ。

今ほどの強度で移動や接触が制限されなくなったとしても、働き方に起きた大きな変化は今後も続くことになる。万全のセキュリティと利便性を兼ね備えたリモート環境の構築は、企業経営の恒常的テーマとなる。

加藤単に大規模なシステムを導入して、太い回線を用意し、クラウド活用を進めるだけでは、withコロナを生きる企業はやっていけません。

クラウド活用にどんなルールを設け、そこにどのような監視システムを入れてサイバーアタックなどに備え、秘匿性の高いデータの処理をどういう基準で分類し、どういう外部サービスを通じてセキュリティを確保すればいいのか等々の対応が、未整備だった企業では至急問われることになるでしょう。

新型コロナウイルスの影響を受ける直前にも、大手企業もこぞってDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むムーブメントは起きていましたが、正直なところ多くの企業が足元のインフラ環境や基幹システムがらみのところで課題を抱えていると感じていました。

ですから、誤解を恐れず言いますと、今回の騒動が、かなり多くの企業経営陣に、自社のネットワーク整備の遅れや脆弱性という、ITインフラの本質的課題に気づかせてくれたのではないかと思っています。

ともすればDXやデータ活用による変革は、新規サービス開拓の可能性や、業務効率の飛躍的向上など、華々しい話題優先で語られてきた。

しかし、IBCのように企業のネットワークをインフラ部分から守り、支えていくレイヤーに携わってきたプロフェッショナルからすれば、「その前に、かんじんの足元がふらついていますよ」という危機意識は「beforeコロナ」のときからずっと、強かったわけだ。

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オンラインコミュニケーションが前提だからこそ問われるのが「オンラインで爪痕を残す力」

コロナショックが期せずして企業経営陣に自社のシステムやネットワークの脆弱ぶりを突きつけた、と指摘した加藤氏だが、今後大きな変化は他の分野にも起きてくるだろう、と話す。

加藤なにはともあれ、驚くほど多くのビジネスパーソンがテレビ会議システム等を用いたコミュニケーションや、クラウド経由での在宅ワーク経験をすることになりましたよね。

もちろん、勤務する会社のIT環境にもよりますが、私の直感ではかなり多くのかたが「想像していたほど悪くないじゃないか。慣れてしまえばこれでもいける」と受け止めているような気がしています。そこで思ったんですよ。オフィスってなんだろう、と。

誰もが羨む地価の高い都市に建つ高層ビルに、デザイナーが腕によりをかけたようなオフィスを構えるのが一種のステータスとなり、企業ブランディングにもつながっていたのが、ついこの前までの日本のビジネスシーン。

だが多くの現場社員がテレワークに馴染み、場所を選ばずに働ける環境が整っていった場合、「広々した綺麗なオフィスは必要なのか?」という気持ちがわいてくるのだと加藤氏は言う。

加藤僕の持論では、「人の移動が止まると、業界そのもののあり方を変えざるを得ない」領域は、これからものすごいスピードで変化していくはずなんです。それはもしかしたら、飲食業、宿泊・旅行業、法人向け不動産領域等かもしれません。

ともあれ1人の経営者として感じているのは、先のオフィスのことだけではなく「人があまり移動しなくなった時代に、何に、どれだけの投資をしていくのが正解なのか」という面も変わっていくだろうということです。

オンラインによるコミュニケーションが増え、各メンバーの動きや成果をデータで確認する機会が増えれば増えるほど、従来よりも「誰が何をした結果、どうなったのか」がオープンになっていきます。対面での関係性とは違いウヤムヤにはしづらいわけです(笑)。

言い方は悪いけれども、「できるヤツとそうじゃないヤツの違い」がハッキリしてしまうのもwithコロナの特徴になりそうですから、ヒトに対する投資もまたスタンスが変わってくる気がしています。

「デジタル時代だからこそエモーショナル経営を」という持論の加藤氏らしからぬ観測のようにも感じるが、「そうではない」のだという。

加藤デジタル技術が急速に浸透し、オンラインを通じたコミュニケーションの範囲が広がっていった場合、何が起こるかと言えば「人間関係の希薄化」だと考えています。

私自身も今回のことで今まで以上にテレビ会議システムを利用するようになりましたが、たしかに便利です。必要な情報や意見の受け渡しをする上では何の問題もストレスも感じません。

ただ、1対1のコミュニケーションならばさほど違いは感じませんが、1対N、つまり多数の相手と同時にコミュニケーションをはかっていくケースなどでは、温度感と言いますか、熱量・エネルギーと呼ばれるようなものは、どうしても伝わりにくくなると感じています。

「そうは言っても便利だし、移動の手間も省けるし効率的だ」という判断で、きっと利用頻度は上がっていくでしょう。そこですよ、ポイントは。

「熱が伝わりにくいオンラインでもしっかり爪痕を残すコミュニケーションができる人、できない人」の違いが現れてくる。言うまでもなく、問われるのは人間力。つまり今まで以上にエモーショナルな面の違いをデジタルがあぶり出すということです。

自らを「昔気質な熱血営業マン」だと笑いながら評する加藤氏だが、営業現場における「正攻法」もまた変化するはずだと言う。

対面による営業活動の範囲は新規開拓など、限られた場面に縮小され、クロスセルやアップセルといった持続的関係性の中での営業活動には多くのデジタルツールやオンラインコミュニケーションが用いられるようになるはずだと指摘。

利便性は高まっても情熱や想いの強さなどは伝わりにくい状況では、かつてのアナログな手法だけでは通用しない。「さて、どうすればメールやオンラインミーティングでも相手に爪痕を残せるか」。そこを極めていく人材が成果と成長を手にしていく時代になるはずだというわけだ。

加藤ですから、これまで通り私の主張は「デジタルな時代だからこそ、エモーショナルな魅力を持つ者が勝利する」ということです。

IBCのように先端技術やそれに基づくサービスを売っていく立場であっても、単に技術に精通していたり、巧みに最新のツールを使いこなせたりするだけでは、人の心は動きません。

ですから私としては、社員の皆とまずその認識を共有し、新しい時代に相応しい「コミュニケーションのあり方」を一緒に考え、実行していこうと話しているんです。

おそらくこれは、他の企業でも課題として上がっていくでしょうし、個人のパフォーマンスが明快に可視化できてしまう時代がくれば、新型コロナウィルスというものが、人材評価や採用活動にも大きな影響を与えていくはずだと考えています。

ネットワーク監視システムの領域で圧倒的強みを発揮するIBCではあるが、近年注力しているのはIoTセキュリティ基盤の「kusabi™」や次世代MSP(Managed Service Provider)サービスの「SAMS」、さらにはグループ会社であるiChainがブロックチェーン技術を導入してリリースしたインシュアテック事業の「iChain保険ウォレット」等々だ。

いずれも最先端の技術を盛り込み、付加価値の高いものだと自負してはいるものの「どんな時代でも、すごいテクノロジーでしょ、だけでは人は振り向いてくれない」と加藤氏は言う。

会社のあり方や個人の働き方が大きく変わるこれからの時代にもいち早く適応し、「オンライン上で、いかにして爪痕を残していくか」が課題であり、その際に何よりもポイントとなるのが「エモーショナルな人間力」というわけだ。

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Stay Homeを活用し「興味あるものに没頭せよ」

ではいったい、何をどうすれば人間力を高めていけるのか? 「明快な答えは私にもわからない」という加藤氏ではあるが、「例えば今この時期をどう過ごすのかで、違いは出てくると思います」という。

混沌と不安と恐怖が渦巻く中で誰もが外出を自粛している“ステイホーム”の期間は、これから世界中の社会にやってくるパラダイムシフトの前夜のようなもの。新型コロナウイルスの影響が一旦収束をしたならば、世界中の企業と人々が新たな世界観や価値観をつかみ取るためにいっせいに動き出すだろうと、加藤氏は予測している。

今とは質の異なる混乱や不安が次々に発生するのは間違いないのだから、そういう意味でも「今をどうすごすのか」が大切だという。

加藤仕事の先行きを不安に思っていても、今できることをこなす他ありませんし、家族とすごす時間を大切にすることも重要です。それでも、平常時とは比べものにならないくらい時間は潤沢にあるはずですから、前向きな気分で自分を高めるために費やす時間帯を持ってもいいのではないかと思います。

例えば技術志向の人であれば、どこか趣味感覚でも良いのでGitHubなどを通じて開発プロジェクトに参加してみたり、OSS(オープンソースソフトウェア)を試してみたり、Goなどの比較的新しい言語を勉強してみてもいい。

営業志向の人であれば、例えば海外で流行しているクラウドベースの営業ツールやサービスを触ってみたり、営業戦略に関する書籍を読んだりしながら、自社の活動にどう反映させれば成果につながるか構想を描いてみてもいいでしょう。

就活に不安を覚えている学生のかたも、同様にいろいろ試してみればいいと思います。大事なのは、変に正解を求めて「何を勉強すれば得をするのか」と、「いかにもわかっていそうな大人」に聞かないこと。どこか遊び感覚でいいからとにかくやってみる。

なぜなら、withコロナ・afterコロナで何が正解かなんて、誰にもわからないからです。学ぶこと、試すこと、考えることをどうか楽しんでほしい。

それが単なる「言われてやるお勉強」では身につかない熱量とか情熱の種になるはずですし、「自発的に何かに没頭でき、人にそれを熱く語ることができる」という、いつの時代でも人を動かすことにつながる、人間的な魅力にもつながるはずだと思います。

何が正解かはわからない今だからこそ、将来を案じて塞ぎ込むのではなく、何か自分を高めてくれるものを見つけて、それを吸収したり、試したりする。知識や技術をブラッシュアップする、というよりもこうしたトライを楽しめるようになることが人間力につながるはずだ、と加藤氏。

「afterコロナが始まったら、必ず世界の枠組み自体が変わり、国の位置づけも変わり、経営もビジネスも働き方も変わるし、デキる人とそうではない人との違いも明らかになる」と予見した上で「でも、だからこそ恐怖で縮こまっているのではなく、むしろ混乱を楽しむくらいのメンタリティを持った人が新しい時代をリードするようになるはずだと思っています。特に若い人たちには、チャンスが目前にまで来ているのだと捉えてほしい。歴史を学べばおわかりのとおり、いつの時代も混乱の後には、大きな進化と変化が待ち構えています」とのこと。

さあまずは、この状況下でも楽しんでしまえる「何か」を、探してみてはいかがだろうか。

こちらの記事は2020年05月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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