たばこも、ウォーターフォールからアジャイルへ。
JTが挑む、ものづくりのアップデート
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「“たばこは味が命”と考えていた我々の常識は、この数年でことごとく覆された──」
日本たばこ産業(以下、JT)のたばこ事業本部で、R&D統括部長兼企画部長を務める石川恒氏は、近年の変化をこう語る。参入障壁が高く、“先が一定程度見通せる”安定的な状況から、増税による値上げや健康志向の高まり、加熱式たばこの登場によって10年ほどで世界的にも市場環境が激変したのだ。
その波は、ここ日本で、大きくなっている。今やたばこ市場の四分の一が加熱式たばこに変わった。市場が変化する中、日本の紙巻きたばこでトップシェアを誇るJTはどう戦うのか。技術面を統括する石川氏の観点から伺った。
- TEXT BY RIKA FUJIWARA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY JUNYA MORI
ゲームチェンジで見えた、顧客の真のニーズ
健康意識の高まり、周囲への配慮といった、たばこを取り巻く目は年々厳しくなっている。もちろん、JTもこの変化を予期していなかったわけではない。長年、こうした時代を先取りした研究や開発は続けていた。
1997年には煙を出さない「エアーズ」を、2010年にはパイプ状のホルダーにたばこ葉を詰めた無煙たばこ「ゼロスタイル」を発売。2011年にはアメリカのプルーム社と資本業務提携を結び「リスク低減製品(Rsduced-Risk Products、以下RRP)」として、加熱式たばこも開発してきた。
だが、いずれも「紙巻きたばこの補完」と捉えていたゆえに、2014年に他社からRRPが発売されても、そこから劇的な変化が始まるとは考えていなかった。
石川当時は「新しいタイプの商品が出てきた」としか捉えていませんでした。長年支持されてきた紙巻きたばこと比べて、味や香りもまったく別物。あくまでも、“一部の人のための限定的な商品”だと考えていたんです。
石川氏がこう語る背景には、「ゼロスタイル」シリーズでの経験があった。副流煙を出さず、周囲に配慮した次世代のたばことして発売したものの、消費者からは「紙巻きたばことは別物」という声が多く、広く受け入れられることはなかった。

日本たばこ産業 たばこ事業本部 R&D統括部長兼企画部長 石川恒氏
しかし、大方の予想を裏切り、RRPの注目度は一気に高まる。この変化に、紙巻きたばこを戦略の中枢に据えていたJTは、大きな衝撃を受けた。
石川自分たちは真のお客様ニーズを捉えられていなかったのだと気づきました。お客様が望んでいたのは、味や香りといった嗜好品としての完成度だけではなく、「周囲への配慮」や「喫煙によるリスクの低減」などとの両立だった。
そこから、これからのお客様が望む「ひととき」のカタチを再考すべく、体制から意思決定まであらゆるプロセスを見直していきました。
過去の延長線上では勝てない。危機感から生まれた新体制
まず手を付けたのはプロダクト開発体制だ。以前のJTは、製品設計後に生産工程を作り、部材を調達して製造する……といったウォーターフォール型で進めていた。
同じものを安定的に生産し続ける場合には確実なアプローチだが、顧客ニーズが変化する中で、試行錯誤を重ねながら、スピーディにプロダクト開発を進めるには、最適解とはいえなかった。
そこで、設計から、生産技術、部材調達、製造、品質保証、マーケティングなど、プロダクト開発に携わるあらゆる人財を集結。全員が肩を並べ、迅速かつ柔軟にプロダクト開発を推進するアジャイルな体制を構築した。
石川とにかく、あらゆるメンバーがお互い議論をしながら進めるようになりました。
例えば、設計担当が「こんな製品特長は、どう思う?」と問いかけると、マーケティング担当は市場の動向やお客様のニーズを踏まえてフィードバックするとともに、生産技術担当が生産設備を検討し、調達担当は部材調達プランをすぐに出してくれる。
共通の目的に向かって、部署を問わずに入り乱れながら形にしていくイメージです。当初は、迷いや戸惑いもありましたが、徐々にこうした体制の良さを生かせるようになってきました。
こうして生まれてきたのが、においの少なさが特徴の「プルーム・テック」、これに吸い応えをプラスした「プルーム・テック・プラス」、さらに、加熱温度を高くしてたばこらしさに力点を置いた「プルーム・エス」だ。
喫煙体験の異なるデバイスをいくつも展開。加えて、多い時には数カ月に一度のペースで新しいフレーバーを拡充するなど、多様なアイデアを素早く形にし、世に届けている。
石川まだまだトライアル・アンド・エラーを繰り返す中ですが、少しずつ一人ひとりがお客様のことをより深く感じるようになってきました。
例えば、「車の中で吸ってもにおいが気にならなかった」といった反応からは、生活の中での利用シーンとそこで望まれる商品の形が見えてくる。日々、その積み重ねから学んでいます。

プロダクト開発に携わるメンバーも拡充した。以前は、農学や化学、生物学などのバックグラウンドをもつ面々が多かったが、現在では、電気や機械、システム系などのメンバーも参画。組織全体としての専門性の幅も拡がってきた。
石川今は過去のやり方と決別して、新しい価値を生み出す流れを作っていくフェーズ。多様なバックグラウンドをもつメンバー一人ひとりの力が活きている、と強く感じています。
幸い、会社としても海外事業を長年手掛けてきたことで、JTには多様な人財がコラボレーションしていくのが当たり前の文化が根付いてる。バックグラウンドの違いが生かしやすい土壌があるんです。
変化は国内にとどまらない。この1年ほどでグローバルでのR&D体制も変革。世界を巻き込んで、これからの時代に相応しい一貫したバリューチェーンの土台の構築を進めている。
石川日本市場で起きているRRPの台頭は、いずれ世界でも起こりうる。総力をかけて戦わない理由はありません。お客様が心から望む「ひととき」をお届けするためにも、それぞれがもつアセットを最大限生かせるよう、組織運営体制も抜本的に変化させました。
ラグビー日本代表のように、国籍やバックグラウンドにとらわれず、ONE TEAMで取り組んでいます。
今こそONE TEAMで。グローバルで変化を乗り越え、新たな価値を生み出す

体制は整いつつある。顧客と向き合い、迅速にプロダクトへ落とし込む意思もある。
ただ、「それだけでは不十分だ」と石川氏は考える。技術的に突き詰めるべき部分も存在する。直近ではRRPの根幹ともいえる「喫煙リスクの低減」を、いかに科学的に捉えられるかにも力を入れている。
石川RRPは世界でもまだ新しい領域で、リスク低減に関する明確な基準も世界的に確立されていません。我々はその素地作りにも研究面から取り組まなければと考えています。安全性やリスク、人間への影響はより科学的に検証を重ねなければいけません。
こうした科学的な情報を発信していくことも、きっとこれからのお客様が求める「ひととき」につながると考えるからです。
培ってきたアセットは生かしながらも、常にお客様と向き合い、技術的な挑戦を重ねていく。以前と比べると圧倒的に変数が多くなりましたが、それを乗り越え、新しい価値を生み出していくことがいま求められている。
チャレンジングな環境だからこそ、より大胆に挑戦していきたいですね。
守ることが価値だった時代から、変わることが価値になる時代へ。JTは組織から体制、マインドセットを含め、ものづくりに向き合う姿勢を大幅にアップデートした。結果が出るのは先かも知れないが、その道筋は徐々に見えはじめている。
こちらの記事は2020年04月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
藤原 梨香
ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。
写真
藤田 慎一郎
1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
特別連載SENSE MAKER 変革期のたばこ産業、未来の嗜好品のかたち
7記事 | 最終更新 2021.02.26おすすめの関連記事
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